魔法が使えない女の子

咲間 咲良

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友だち認定

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 ※

「だ!」
「きゃ!」

 ふたりして倒れこんだ。かたくて冷たい床の感触。よろよろと起き上がると、周りにはたくさんの本。ティンカーベル書房に戻ってきたんだわ。


「どけよ」
 わたしの体を押しのけてアレンが立ち上がった。頬まっかだわ。

「ねぇアレンはわたしと同じくらいの年齢よね。学校には通ってないの?」
「……行ってない」

 本を掲げてすたすたと歩き出すのでわたしもついていった。

「分かるわ。眠たい授業や宿題が終わってなくて行きたくない日もあるわよね。でも友だちや優しい先生がいるし、美味しい給食もでるからたまにはいいわよ。給食は揚げパンとクリームシチューが好き。どっちも月に一回しか出ないの。朝ごはん食べずに行くぐらい美味しいんだから」

「おれはいいんだ、このままで」

「どうして? そりゃあアレンは難しそうな本をたくさん読んでいるから学校の授業なんて必要ないかもしれないけれど」

 わたし、アレンが同じ教室にいたら楽しいなって思うの。
 勉強を教わりたいし、魔法のことも教えてほしい。だってマティアス先生が取り乱すような魔法が使えるのよ。なんだかワクワクするじゃない。

「エマちゃん、アレン。やっと見つけたよ」

 本棚と本棚の間からルシウスさんが顔を出した。

「どこに隠れていたんだい? お湯が沸いたからお茶にしようと思って探していたのに」
「すみません。本の中――じゃなくて、しりとりをして遊んでいたんです」

 あぶないあぶない。アレンがにらんでいなければ口を滑らせてしまうところだったわ。


 ルシウスさんに案内されて裏庭に向かうと、白いテーブルクロスがかかった机に、イスが三個用意されていた。

「レディーファースト。エマちゃん、どうぞこちらへ」

 促されるままイスに座ると、どこからともなく甘い匂いが漂ってきた。
 奥の扉が自然に開いて、お盆に乗ったティーセットと三色のマカロンがふわふわと浮いて飛んでくるところだった。わたしの目の前で見事にセッティングされる。

「すごい、これも魔法ですか?」

「そうだよ。『ティータイムの特別な魔法』さ」

「すごーい!」

「へへん」
 心の底から拍手するとルシウスさんは満更でもなさそうに胸をそらしている。

「エマちゃん、紅茶のダージリンは平気かい?」

「はい。おばあちゃんがよく入れてくれます」

「それは良かった。アレンはホットミルクだよね。一緒にお祝いしよう」

「お祝い? なにかの記念日ですか?」

「アレンの魔法はとても強いだろう。だからどこの学校に行ってもなじめなかったんだけど、この島で初めて友だちができたんだよ。エマちゃん、きみさ」

「わたし……ですか?」

「そうさ。これをお祝いせずにどうする? さあ、どんどん食べて。ね、アレン?」

「余計なこと言うなっ」
 アレンがタクトを揺らすとルシウスさんのイスがぐにゃぐにゃのタコに早変わり。

「アレン! 大人をからかうんじゃないよ! んぎゃあ、吸盤がとれないぃ」
「一生そうしてろ」
 とりすました顔でホットミルクを飲むアレンだったけれど、目が合うとムッとしたように眉をつりあげた。


「なんだよ」
「ううん……」


 初めての友だち? わたしが?


 そういえばわたし、夏至祭に出たことがないことや、女の子と手をつないだことがないことをからかってしまったけれど、もしかしたらアレンは傷ついたんじゃないかしら。

 本の中の冒険も楽しいけれど、この島にも楽しいことがあることを知ってほしい。


「アレン!」

 突然立ち上がったわたしをアレンがじっと見つめる。だからわたしもエメラルドの瞳をじっと見つめ返す。

「今度、わたしの家に遊びに来ない?」
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