魔法が使えない女の子

咲間 咲良

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謎解きのヒントは「キヲツケロ」

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「こういうところはトラップが付き物なんだよ。なにも考えずに進んで、あのまま飲み込まれていたらどうなったと思ってるんだ!」

 目を吊り上げて、顔を真っ赤にして怒っている。わたしが勝手なことをしたから。
 アレンの手足にこびりついた泥を見ていると申し訳ない気持ちになる。

「ごめんなさい……。スピンも、ごめんね」

『エマが無事でよかったわわんっ』

 膝に乗って頬をなめてくれた。ざらついた舌の感触がちょっとくすぐったい。

『この世界で命にかかわるような何かがあれば本の外に出されるわわんっ。それでもアレンはエマのことが心配だったわわんっ』

「心配? でも怒られたのよ、わたし?」

 スピンはぺろりと舌を出して笑った。

『ばふ、どうでもいい相手なら怒らないわわんっ』

「てきとうなこと言ってんじゃないぞ、イヌ」

『きゃふん! しっぽを握らないでほしいわわんっ』

 アレンとスピンがぎゃーぎゃー騒ぐ中で、わたし、なんだかポカンとしてしまった。
 心配してくれたの? わたしのこと。だからこんなに怒ったの?
 アレンって、ほんとうはとても優しいのかしら?


「ありがとう、アレン」

 スピンの頬をムニムニしていたアレンが、苦いものでも食べたような表情を浮かべた。

「エマが素直だと気色悪い……」
「もー、どうしてそうひどいことばっかり言うのー?」

 まったく、ひねくれているんだから!


 太陽の時計は8の数字を指している。急がないと。

「さっき、エマが五つ目のタイルに乗ったときに音がしたよな」

 アレンがタイルを見ながらあごに手を当てた。なんだか探偵みたい。

「うん、そこまではなんともなかったのに、タイルが急に赤くなったの」

「エマが踏んだタイルに書かれていた文字は……『ハ』・『ナ』・『ミ』・『ズ』だな」

「鼻水だなんて、ちょっと汚いわね……」

「五つ目の文字は『チ』。そこで音が鳴った。なにかを間違えたんだ。暗号か、数式か」

「間違えるってなにを?」

「それをいま考えてるんだろ。頼むから静かにしてろ」

「あら、そ。悪かったわねー。いこ、スピン」

 しっしと追い払われたので回れ右をして離れた。
 そりゃあね、わたしは頭が良くないけれど、ひとりで考えて分からないこともふたりで考えたらわかるかもしれないじゃない。かも、だけどね。

『エマ、元気出ないわわんっ?』
「平気よ。気をつかってくれてありがとうね」

 たるんだあご下を撫でると気持ち良さそうに目を閉じていた。アレンもこれくらい可愛げがあればいいのに。

「ん? かわいげ?」

 頭の中がフル回転でまわりはじめた。


「げ……げ……、そうよ、『キヲツケロ』!」

 ピン!とひらめいたの。頭の中でぱっと花が咲いたみたい。
 一刻も早く教えたくて目の前に回りこんだ。アレンはぎょっとして後ずさる。

「アレン、わかったわ! 『キ』をつければいいのよ!」
「……『キ』をつける? なにに?」
「見てて、試してみるから」

 わたしは散りばめられたタイルをじっと見つめた。まずは最初の『ハ』『ナ』『ミ』『ズ』を順に踏んで、次に踏むのは『キ』。

 なぜかって? ハナミズに『キ』をつけたらハナミズキになるからよ。

 でもさっきみたいに沈んだら怖いから、慎重に『キ』のタイルを踏んだの。そうしたら、ピンポーン!って音が鳴り響いて、淡く光っていたタイルがすっかり青く染まったの。大正解ってことね。


「ほらね、当たったでしょう?」

 自信満々にアレンを振り向くと驚いた顔をしていた。ふふん、わたしのこと見直したでしょう。でもまだ反対岸には遠いのよね。

「いま『キ』にいるからつぎは……、キンモクセイね。で、インチキ」

 その次は「キチヨウメン」っていけそうだけど最後が「ン」なのよね。だけど岸まではもう少し距離がある。どうしよう。

「それは外れのルートだな。ハナミズキ、キツツキ、キリギリス、スズカケノキ、キノミ、ミカン――が正解っぽいな」

 見上げると白いハトが横切っていった。あぁそうだわ、アレン、動物に変身できるんじゃない!

「もう、どうせならわたしを持ち上げて運んでくれればいいのにー!」
「やだよ。重そうだし」
「失礼ね、重くないもん!!」

 一足先に反対岸に到着して人間の姿に戻ったアレンは太陽時計を示して「早くしろ」と叫んだ。

「もうすぐ12になる。急げ」

 言われなくても急ぐわよ。
 一度ハナミズキまで戻り、アレンが言った通りにタイルを踏んだ。ピンポーン!って何度も音が鳴る。
 最後は『ミカン』。『ン』から岸まではちょっと離れている。だから爪先に力をこめて思いっきり跳ぶ。

「おい飛びすぎ!」

 アレンはびっくりしながらもわたしを受け止めるため手を広げている。
 いいのよ、このまま思いっきり抱きついて、恥ずかしそうにしているアレンを間近で見てやるんだから。

 飛びつく直前、スピンの声がした。

『ばふ、タイムアップだわわんっ。ブックマーカーのお仕事だわわんっ』
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