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兄弟3

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 瞼を開けると、慧の寝顔。何日目だろう。まるで新婚夫婦のように毎日ベッドを共にしている。

 それでも昨日までとは全く違う気持ちで、まだ夢の中にいる寝顔を見つめた。
 シャッターに閉ざされた窓から朝日は入らないが、隙間から射し込む光が一筋、良いあんばいで慧の頬に当たっている。

――どっちが「可愛い寝顔」だよ。
 目を閉じていればまだ幼くも見える、少年の骨格だ。だが頬骨から顎までのラインに丸みはなくシャープに通り、天を向いた鼻筋まで完璧に整っている。長めの前髪が流れる額と薄く開いた唇が、何だか妙に色っぽい。

 自分と変わらない太さの腕に胸板。この少年から青年になりかけの身体が、あんな風に力ずくで和馬の自由を奪い、あまつさえ遠慮無く劣情を注ぎ込むのだ。

「なに……?寒い」
「――っ!」

 目を閉じたままの慧が瞼を震わせて抗議する。その身体に見惚れていたなどと思いたくない和馬は、自身の思考を断ち切るようにベッドを出た。出ようとした。
 長い腕が伸びて促されるまま布団の中に、慧の腕の中に大人しく戻ってしまう。
 背後から和馬を羽交い締めにする慧は機嫌が良さそうだ。

「おはよ、兄貴」

 和馬の方もどきどきするような、心地悪くも嫌な感じがしない変な気分でおはよ、と小さく返す。そして言った。

「あたる」

 尾骨に当たるのは和馬と同じく何も身につけていない慧のそれだ。

「だって、この布団兄貴の匂いがするんだもん」
「しねーよ」
「じゃあ、俺達の匂い?…青臭い、せーしの匂い」
「……洗濯する」

 高校に上がった時から家政婦には任せず洗濯も自分でしてきた。くすくすと笑う慧は、じゃあ俺は朝飯作るね。そう言いながら和馬を振り返らせる。

「その前に、兄貴の顔見ながら出していい?」
「――っ」

 言われた意味を理解して、咄嗟に背を向けてしまった。
 どう反応していいのか分からない和馬とは逆に、よほど恋愛慣れしているのかこういう性格なのか、慧の言葉には遠慮がない。

「えぇー。じゃ、兄貴のここ触らせて?」

 そして慧の手は躊躇なく和馬の秘部にも触れてくる。

「ふ…っ…」

 だがもう、その手は振り払わない。抗いもしない。心も身体も慧を特別な男、と認知してしまったから。

「一緒にイこ…?」

 後ろから被さるように身体を寄り添わせる慧の手に触れられることが「嬉しい」。

「ん、ぅ……いい」
「兄貴も硬くなってきたよ?」
「んん…っから、いい。シても、いい」
「――兄貴のナカ?」

 慧に向けた背を丸めて、赤面しているであろう顔を隠す。

「嬉しい」
「~~そーかよ」

 背後でごそごそと動く慧の手元が双丘に触れ、ジェルの冷たい感触を秘所に押し当てられる。

「あ…っ…ふ、はぁ……」

 呑み込む慧の指は動きを止めて、強張る肩に落とされる口付け。

「痛くない?…ヤリすぎだよね」
「う…ん……慧」
「薬、つけてあげるからね」

 再びみちを拓こうと深くまで挿れられた指の動きに、昨夜の熱が甦る。

「んん、はっ…あぅ」
「ごめん、イっちゃうよね。挿入るよ?兄貴」
「ん、はぁ、あ、あ―――っ!!」
「くぅっ…すご、キツい」

 はぁ、はぁ、と呼吸を落ち着けようとする和馬の身体を抱き直し、後背位でぴたりと密着する慧は子供ならぬことを口にする。

「後ろに咥えただけで感じちゃうなんて…イケナイ身体だよね?兄貴は淫乱だったのかな」

 先走りを零した鈴口をからかうように抓まれて、首を振るのが精一杯だ。

「分かる?兄貴の、奥まで……ナカが動いてるの。俺が嫌いだって、追い出そうとしてるんだよ」
「!?っちが、う」
「じゃあ、悦んでる?俺が挿入って、嬉しい?」
「も……慧」
「後ろ向きもいいよね。だって、兄貴とぴったり重なる。ひとつになってる気がする。…俺と、兄貴の身体」
「は、ぁ……もぅ、じんじん、する」

 下肢が震えるほど感じている。耳朶に触れる慧の声に。慧の口付けに。慧の身体で。

「膝、平気?」
「…う、ん」
「体重かけないでね」
「ん――けい…慧」

 気遣う声と動きに、愛されているのだと実感する。

「ほんとは俺も、限界なんだよ」
「ふはっ。――あっ!……あ、ん、あっ」

 清澄なる朝日を拒むように、閉じられた薄暗い空間で不埒な子供が二人、動けなくなるほど深く長く交じり合った。






「いい!ソレは、やだ」
「じゃあ俺の指でするから」
「いいよもう。あとで――トイレに行く」

 兄弟らしいようなどこかおかしい押し問答が響くのは浴室だ。

「駄目、今。大人しくして」
「いいよ!お前の体じゃないだろっ」
「俺のだよ。兄貴は俺のものなんだから、イイコにして」

 イイコ。子供に向けるような言葉は、慧が「好きだよ」と囁く相手は、幼い頃肉親に愛して貰えなかった「自分けい」なのではないだろうか?
 愛して欲しいから愛を叫ぶ。
 ならばその想いに応えてやりたいと思う。

――はじめまして、けいちゃん

 あの日確かに、自分たちは兄弟になったのだから。

「俺の、方が。年上だぞ」
「だから『兄貴』でしょ」

 抱き締められた腕の中、長い指に掻き回されて腰が浮く。
 憎らしいので昨夜から、いや一昨日から達し疲れているはずのペニスを押し付けてぴっちり抱き付き、今は反応していない慧のそれも刺激してやる。

「兄貴が俺の『兄貴』でよかった」
「はっ…はぁ、ふぅぅ…ん!」

 みっともない姿も、誰にも見せられないような痴態も、慧が望むなら全てさらけ出してやろうと思える。
 兄弟だから。

「よくできました」

 ご褒美。と手淫を受けて勃ち上がったものを、膝を付いた慧が口に含んだ。

「いい――よ、慧。んんっ……もう、でない。も…イけない。ぁ、あっ」

 昨夜から数えても何度達したか分からない。並の高校生にしてはありがちな回数かも知れないが、滅多に自慰もしない和馬には拷問にも近い回数だ。

「んん。……薄い」

 それでも慧が望むなら。慧のために。
 過剰な快楽に眩暈を起こしながら下腹を喘がせ達すれば、唇を舐めて悪戯っぽく笑う子供はどうやら満足したらしかった。






 のぼせたように動けない身体を、裸のままベッドに乗せられる。そのまま少し眠りたかったが、俯せに腰から下を引き上げられて膝を付き、枕を抱いて尻を高く突き出すという、屈辱的な格好をさせられた。
 相手が慧でなければ絶対誰にも見せたくない体勢だ。

「ごめんね兄貴。こんなに赤くなっちゃって…」

 今度は存分に窓から入る光の中、慧の視線で犯される。

「怒ってるのかな…泣いてるのかな」
「も、見る、な」
「健気に窄まって、震えてるんだよ。可愛い。可愛くてきれいだ」

 吐息すら届く距離で、声に犯されて。

「――慧!」
「ごめんね。もういじめない」

 次の瞬間ぴしゃ、と触れて挿入はいり込もうとするそれが慧の舌だと分かって、和馬はシーツを握り締める。

「っ慧!」

 強めの訴えに素直に舌を抜いた慧だが、かわりに白い軟膏を乗せた指先を二本、挿入させた。

「ふ、ぅっ」

 異物が挿入る感覚には、まだ慣れなくて息を詰めて身体を強張らせる。しかも予想外の質量で下肢が慄えた。

「痛い?……気持ちいい?ね。こんな風に、羞恥と快感を堪える兄貴の背中ってさ……す、っごく色っぽいんだよ」

 指を挿れたまま被さり、肩胛骨を食む慧の吐息が熱い。

「――んっ」
「息を呑み込むと、この辺が震える」

 痩せた脇腹を撫でる指先。ぬっ、ぬっといつの間にか断りもなく抽挿を始めるもう一方の意地悪な指。

「この腰のくびれも、最高…最高にエロくてきれいな身体。…世界一きれいだよ兄貴」

 軟膏を指先の熱で溶かして裡にも塗りつける慧は出て行く気配がない。悪戯に襞を拡げては捲り、ねっとりと指を出し挿れされるそこから、真珠のような雫が洩れた。

「ふ…うぅ……」

 それは宝石でも涙でもなく、欲に溺れる獣からしたたり落ちる唾液だ。開いた唇の端から零れたもので枕を濡らす和馬の脳内は、もはや容易く快楽に支配される。

――溺れる…それは俺の方だ。
 何だこれは。何だこの感情。この感覚。
 気持ちいい。コイツの言葉は麻薬だ。身体と同じ。癖になる。

「終わったよ」

 あっけなく唐突に指を抜かれ、横になる和馬にキスを与えて微笑む義弟の存在が、恐い。

「駄目じゃん、シーツ替えたんだから。我慢しないと」
「っあふ…――って、お前、が、あぅ」

 もう何も残っていないと思ったのに、撫で回される陰茎に強烈な射精感が迫り上がる。

「俺のせい?指かな――キスのせい?」
「んっ!んぁ、ん……む」

――あざとい犬。こいつは分かってる。犬じゃなくて猫だ。もうどっちでもいい。

「泣かないでよ。可愛いなぁもぉ。…可愛すぎだよ兄貴。凄く可愛い」

 舌を絡められて、目を閉じる和馬の脳が思考の中でトロリと桃色に甘く溶け崩れる。快楽を恐れる理性も年上というプライドも、何もかも淫楽に沈む。

「ね…そんなに好き?俺のキス。ここ、口でしてあげたいんだけど」

 羽毛が触れるようにふわりと唇に触れながら器用に喋り、手にした和馬の裏筋を親指でぐいぐい擦り上げる。

「うぁ、んっ」
「キスしながら手でスルのがいい?――どっちがいい?兄貴」
「はっ……はぁ…」
「どっちが欲しい?」

 意地の悪いきれいな笑顔が憎らしくて横を向いた。

「どっ、ちもいらねーよ!馬鹿」
「……そう」

 離れる身体。
 いとも簡単に引いていく熱。
 ちっぽけなプライドも捨て、目を見ひらいて見つめる和馬をベッドに置いて慧はドアを開ける。

 振り向かない背中が告げる。

「俺、学校行くね。内申良くしておきたいんだ」

 閉まるドアの向こうに、足音は遠ざかる。

「……ぅ……あ…っ」

――信じ、らんねー。信じらんねぇアイツ!
 クソ馬鹿野郎!と声に出さずに罵って萎えないものを扱いてみるも、自分の手ではなかなか達せない。
――何してんだ。何やってんだよ俺。誰かに何かを期待するな。誰も頼るな。分かってただろ。分かってたじゃねーか!
 それでも身体のそこかしこに慧が残した熱と感触が残っていた。

――好きだよ兄貴

「う……んぅ」

――大好き

「はぁっ……け、い…!」

 切なく求めても開かないドア。
 玄関から慧が出て行く音。
 うずくまるシーツに涙を滲ませながら、五分後にようやく薄くなったものを吐き出した。










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白慧「だってにぃたんのあながまっかっかになっててぷっくりはれちゃってカワイソウでかわいくておいしそぉで、けいちゃんのけいクンがガマンできないヨォってバッキバキのギンギンになってばくはつすんぜんであぶなくてパンツにちょっともらしちゃってほんとうにあぶなかったの」
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