雪の残響 ～エラリア帝国の終焉～

回帰１

《白の祈祷書》より

むかし、神は雪の声を持っていた。  

風が吹けば、その中にささやきがあり、 鐘が鳴れば、その余韻に神の返事が宿った。 

人々は耳を澄ませ、 子どもたちは雪の結晶を掌にのせて、 「神さま、今日はどこにいますか」と問いかけた。 

神は、答えた。  

「ここにいるよ。 おまえの息の白さのなかに、 おまえの涙のぬくもりのなかに」 

ある日、ひとりの少女が祈った。  

「神さま、わたしの声は届いていますか」 

神は、雪の光を通して微笑んだ。  

「届いているよ。 おまえの声は、わたしの耳のなかで いちばんやさしく響く」 

その夜、少女は夢のなかで 雪の森を歩き、 神の泉にたどり着いた。 

泉の水面に映ったのは、 彼女自身の瞳だった。 

神は言った。  

「おまえのなかに、わたしはいる。 だから、祈りを忘れないで。 声を持ちつづけなさい」 

これは、まだ神が全ての人に語っていた頃のこと。  

沈黙が訪れる、はるか前のこと。