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戻りたいあの頃
彼女との再会
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「はぁ…」
雪菜と偶然の再開を果たしてから三日が経っていた。伊藤とはスカメで連絡をしているけれど、お互いに忙しく、会えていない。週末にまた呑みに誘ってみようか。
「どうしたんだよ、ため息なんて。桜井らしくないぞ~?」
そう言いながら俺の右肩に腕を乗せ、缶コーヒーを差し出してきたのは同期の谷口だ。
「あぁ…色々あるんだよ」
頭が雪菜のことでいっぱいでまともに返事もできない。俺はあいつのことはもう好きではないのに。それに、彼女に口紅を返すという口実をつけてアエテルヌムに行かなくてはいけない。会えるかも分からないのに。
「ふぅん…」
気づかってくれているのか、それ以上は深入りせずに自分もコーヒーを飲んでいる。
「ま、頑張れよ。何かあったら相談乗るから」
空いている手で俺の肩をポンポンと叩く。こいつがこうしてくるのは心配している証拠だ。今までに何度かされたことがある。
「ん…サンキュ」
まだ開けていないコーヒー缶を傾け礼を言う。谷口は目尻を下げ、優しく微笑み「あ…誰にも言いふらさない保証はないけどな?」と言いながら俺のもとを去っていった。そんな冗談を言ってもらえる仲間がいることに感謝しなくてはいけない。よし。今日はアエテルヌムに行ってみよう。会えるわけないかもしれないけど、俺が本当に好きなのは彼女だと確信を持ちたかった。
四時間後───
腕時計の針は七時前を指していた。俺の部署には何人か残っていたけれど近くの人に挨拶をしてからビルの出口を目指す。エレベーターは一階、二階と俺がいる十二階に近づいてくる。軽快な音が響き渡り、少し緊張して乗り込む。エレベーターから外の景色を眺める。タクシーや信号を待っている人たちがここからなら蟻のように小さく見え、泣きたくなるほど綺麗に見えた。彼女はこの景色をどう見るのだろう。五階に差し掛かったところでガラスが濡れていることに気がついた。
「雨か…」
今から三年前の雨の日。俺は交通事故を目撃した。確か、彼女と同い年くらいの女性と、小学五、六年生くらいの女の子だったと思う。女の子が泣き叫んでいる声が今でもよみがえってくる。
暗い気分のまま会社を出てタクシーを捕まえて、アエテルヌムへ向かった。少し硬いシートに体を預け、ポケットに手を突っ込み膝の上で口紅を弄ぶ。あの日の朝彼女は俺と出会うなんて思いもせずに家の鏡の前で口紅を塗ってあのバーに行ったのだろう。伊藤には話さなかったけれど彼女が出ていく音は聞こえていた。だけど、ドアに背を向けて寝たフリをしていた。どこかでまた会いたいと思っていたから。
アエテルヌムの焦げ茶色の扉の前でタクシーを降りる。金色のドアノブに手を掛ける。あの夜、彼女が付けていた香水の馬鹿みたいに甘い香りがよみがえってくる。
どれだけ彼女のことを想えばいいのだろう。自分にあきれながらドアを開くと目を疑う光景が広がっていた。ある人が俺のお気に入りのカウンター席に座っている。…甘い香りは気のせいじゃなかった。
雪菜と偶然の再開を果たしてから三日が経っていた。伊藤とはスカメで連絡をしているけれど、お互いに忙しく、会えていない。週末にまた呑みに誘ってみようか。
「どうしたんだよ、ため息なんて。桜井らしくないぞ~?」
そう言いながら俺の右肩に腕を乗せ、缶コーヒーを差し出してきたのは同期の谷口だ。
「あぁ…色々あるんだよ」
頭が雪菜のことでいっぱいでまともに返事もできない。俺はあいつのことはもう好きではないのに。それに、彼女に口紅を返すという口実をつけてアエテルヌムに行かなくてはいけない。会えるかも分からないのに。
「ふぅん…」
気づかってくれているのか、それ以上は深入りせずに自分もコーヒーを飲んでいる。
「ま、頑張れよ。何かあったら相談乗るから」
空いている手で俺の肩をポンポンと叩く。こいつがこうしてくるのは心配している証拠だ。今までに何度かされたことがある。
「ん…サンキュ」
まだ開けていないコーヒー缶を傾け礼を言う。谷口は目尻を下げ、優しく微笑み「あ…誰にも言いふらさない保証はないけどな?」と言いながら俺のもとを去っていった。そんな冗談を言ってもらえる仲間がいることに感謝しなくてはいけない。よし。今日はアエテルヌムに行ってみよう。会えるわけないかもしれないけど、俺が本当に好きなのは彼女だと確信を持ちたかった。
四時間後───
腕時計の針は七時前を指していた。俺の部署には何人か残っていたけれど近くの人に挨拶をしてからビルの出口を目指す。エレベーターは一階、二階と俺がいる十二階に近づいてくる。軽快な音が響き渡り、少し緊張して乗り込む。エレベーターから外の景色を眺める。タクシーや信号を待っている人たちがここからなら蟻のように小さく見え、泣きたくなるほど綺麗に見えた。彼女はこの景色をどう見るのだろう。五階に差し掛かったところでガラスが濡れていることに気がついた。
「雨か…」
今から三年前の雨の日。俺は交通事故を目撃した。確か、彼女と同い年くらいの女性と、小学五、六年生くらいの女の子だったと思う。女の子が泣き叫んでいる声が今でもよみがえってくる。
暗い気分のまま会社を出てタクシーを捕まえて、アエテルヌムへ向かった。少し硬いシートに体を預け、ポケットに手を突っ込み膝の上で口紅を弄ぶ。あの日の朝彼女は俺と出会うなんて思いもせずに家の鏡の前で口紅を塗ってあのバーに行ったのだろう。伊藤には話さなかったけれど彼女が出ていく音は聞こえていた。だけど、ドアに背を向けて寝たフリをしていた。どこかでまた会いたいと思っていたから。
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