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戻りたいあの頃
彼女との出会い
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「…雪…菜…」
「秀…?」
俺のことを雪菜はいつも秀と呼んでいた。きっかけは、大学の新入生歓迎会で隣で呑んでいたときのことだった──
七年前───
「小松さん、ちゃんと食べてる?」
「あっ、はい。ありがとうございます。えっと…」
ウーロン茶のグラスを持って心細そうに俺を見つめていた。名前が分からないのだと気づき、俺が名前を教えたのが「秀」と呼ぶきっかけになったのだ。
「俺は、桜井秀樹」
「さ…ひでき…先輩。どういう漢字を書くんですか?」
「ん~?秀才の秀に大樹の樹」
「ふふ。先輩、秀才なんですか?」
口元に手を当ててクスクスと笑っている彼女がとても可愛らしく見えた(付き合ってから後悔したけど)。
「そう。本当は国内最難関の大学でも行けたんだけど」
「本当ですか?じゃあ、秀先輩って呼んでもいいですか?」
「いいよ」
忘れていたはずの記憶と、蓋をして閉じ込めていたはずの想いが激流のように押し寄せてくる。
「ごめんなさい!」
雪菜はあの頃と同じ栗色の長い髪を振り乱して俺に頭を下げた。俺は、何に対して謝られているのか分からなくて戸惑いを隠せない。店の隅にいる伊藤に視線をやると携帯を持ったまま、こちらを見ている。「どうして?」と言った顔だ。俺は、肩をすくめるしかなかった。
ブブッ
〖伊藤〗【これから麻由と会ってくる。雪菜とどうなったかあとで教えて】
素早く返信を打つ。
〖桜井〗【了解】
いそいそと店を出ていく伊藤を見送ってから席に座るよう促す。
「えーっと、とりあえず…ここ。座りなよ」
「う、うん」
手で髪を整えながら遠慮気味に俺が椅子を引いた席に座る。てっきり、新しくできた彼氏と一緒にきたのかと思ったけれど一人できたみたいだ。お互い何を話せばいいのか分からなくて、気まずい空気が流れる。
「どういう意味?その…ごめんって…」
そう聞きながら、スーツのズボンをギュッと握りしめる。本当はもっと強く言っても良かった。「今さら謝られても困る」って。それをしてしまうと雪菜がまた泣いてしまうのではないかと心配で言えなかった。
「…桜井さんが私が浮気をしているって知って問い詰められたとき、私…謝らなかったでしょ?それどころか、「こんなに小さい人だとは思わなかった」って言っちゃったし…」
そう言ってまっすぐに俺の目を見つめてくる雪菜。俺は、この目が好きだった。いや、大好きだったんだ。
「本当にごめんなさい」
軽く頭を下げられる。
「もういいよ。それより、この時間にここにいるってことはこの後空いているんでしょ?呑もうよ」
「うん。少しだけなら…明日も用事はあるから」
直感で「彼氏と会うのだろう」と思った。俺と付き合っているときからの男ではないだろうけど。
店主はなにも頼んではいないのにビールを出してくれた。
「「乾杯」」
カチンとジョッキとジョッキをぶつけ、軽やかな音を静かな店内に響かせる。俺は、かなり酔いが回ってきたのだろう。伊藤の前では隠していた本心が漏れてしまった。
「雪菜…俺の何がダメだったんだ…?」
木目の硬いカウンターに突っ伏したまま俺の左に座る雪菜に向けて放つ。
「…秀はなにも悪くないよ。全部私の責任だから」
と、耳元で彼女と同じように囁いた。シトラス系の爽やかですっきりとした香りに包まれる。店を出ていくヒールの音を聴きながらウトウトと意識を手放した。
(俺は…やっぱり…彼女のことが…)
「好きだ…」
「秀…?」
俺のことを雪菜はいつも秀と呼んでいた。きっかけは、大学の新入生歓迎会で隣で呑んでいたときのことだった──
七年前───
「小松さん、ちゃんと食べてる?」
「あっ、はい。ありがとうございます。えっと…」
ウーロン茶のグラスを持って心細そうに俺を見つめていた。名前が分からないのだと気づき、俺が名前を教えたのが「秀」と呼ぶきっかけになったのだ。
「俺は、桜井秀樹」
「さ…ひでき…先輩。どういう漢字を書くんですか?」
「ん~?秀才の秀に大樹の樹」
「ふふ。先輩、秀才なんですか?」
口元に手を当ててクスクスと笑っている彼女がとても可愛らしく見えた(付き合ってから後悔したけど)。
「そう。本当は国内最難関の大学でも行けたんだけど」
「本当ですか?じゃあ、秀先輩って呼んでもいいですか?」
「いいよ」
忘れていたはずの記憶と、蓋をして閉じ込めていたはずの想いが激流のように押し寄せてくる。
「ごめんなさい!」
雪菜はあの頃と同じ栗色の長い髪を振り乱して俺に頭を下げた。俺は、何に対して謝られているのか分からなくて戸惑いを隠せない。店の隅にいる伊藤に視線をやると携帯を持ったまま、こちらを見ている。「どうして?」と言った顔だ。俺は、肩をすくめるしかなかった。
ブブッ
〖伊藤〗【これから麻由と会ってくる。雪菜とどうなったかあとで教えて】
素早く返信を打つ。
〖桜井〗【了解】
いそいそと店を出ていく伊藤を見送ってから席に座るよう促す。
「えーっと、とりあえず…ここ。座りなよ」
「う、うん」
手で髪を整えながら遠慮気味に俺が椅子を引いた席に座る。てっきり、新しくできた彼氏と一緒にきたのかと思ったけれど一人できたみたいだ。お互い何を話せばいいのか分からなくて、気まずい空気が流れる。
「どういう意味?その…ごめんって…」
そう聞きながら、スーツのズボンをギュッと握りしめる。本当はもっと強く言っても良かった。「今さら謝られても困る」って。それをしてしまうと雪菜がまた泣いてしまうのではないかと心配で言えなかった。
「…桜井さんが私が浮気をしているって知って問い詰められたとき、私…謝らなかったでしょ?それどころか、「こんなに小さい人だとは思わなかった」って言っちゃったし…」
そう言ってまっすぐに俺の目を見つめてくる雪菜。俺は、この目が好きだった。いや、大好きだったんだ。
「本当にごめんなさい」
軽く頭を下げられる。
「もういいよ。それより、この時間にここにいるってことはこの後空いているんでしょ?呑もうよ」
「うん。少しだけなら…明日も用事はあるから」
直感で「彼氏と会うのだろう」と思った。俺と付き合っているときからの男ではないだろうけど。
店主はなにも頼んではいないのにビールを出してくれた。
「「乾杯」」
カチンとジョッキとジョッキをぶつけ、軽やかな音を静かな店内に響かせる。俺は、かなり酔いが回ってきたのだろう。伊藤の前では隠していた本心が漏れてしまった。
「雪菜…俺の何がダメだったんだ…?」
木目の硬いカウンターに突っ伏したまま俺の左に座る雪菜に向けて放つ。
「…秀はなにも悪くないよ。全部私の責任だから」
と、耳元で彼女と同じように囁いた。シトラス系の爽やかですっきりとした香りに包まれる。店を出ていくヒールの音を聴きながらウトウトと意識を手放した。
(俺は…やっぱり…彼女のことが…)
「好きだ…」
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