皇太子の魔法教師になったら、執着が重すぎました

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第一話

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「初めまして。魔塔所属の魔法士、マナトです。魔塔とハイルセン帝国の人事交流の一環で、1年間この学院で講師をすることになりました。」

 逃げ回っていた仕事だった。
 どこの国にも所属しない、魔法士集団、通称魔塔は永世中立を謳い、公式な外交関係も基本的には結ばない。
 しかしながら、世界最大の帝国ハイルセン帝国はそれを是としなかった。
 多くの魔法士を抱える魔塔の戦力はかなりのもの。向かう所敵なしのハイルセン帝国にとっては唯一の脅威と言ってもいい存在だ。
 そのため、妥協として、人事交流という名目で毎年魔塔からハイルセン帝国の貴族学院に講師を派遣することになった。魔塔の最先端技術をハイルセン帝国で取り入れたい、というのが名目だが、要は人質である。
 常に監視の目もつき、魔塔との連絡も一定制限がある。ハイルセン帝国から出ることは当然不可能。帝国内でも首都から出るには事前申請が必要だ。

 魔塔を拠点に、様々な国で学び、好きな研究を好きなだけする日々を愛しているマナトにとっては、最悪の業務だった。
 しかし、マナトだけでなく魔塔メンバーみんな嫌がる業務を嫌々回してる状況で、とうとう順番が回ってきてしまったのであった。

「この1年間の授業のゴールは、生活魔法を使えるようになることです。
 みなさんの多くが、魔法に関して勉強経験がないと聞きました。生活魔法……例えば、火を起こすとか、水を出すとかね。こういう日常的に使える魔法なんて興味がないよ、とおっしゃる方もいるかもしれませんが、どんな偉大な魔法使いでも、最初に学ぶのは生活魔法です。大切な一歩目です。
 生活魔法を最初に学ぶメリットは、魔法士と言われる仕事に就かない方でも生活に活かせることはもちろんですが、様々なジャンルの初歩的な魔法を幅広く学べる点にあります。
 やっていくうちに、向いてる魔法の種類や、興味のある魔法がわかってくるでしょう。逆に、魔法興味ないな…というのもわかってくるかも。
 なので、まず生活魔法を1年生で学び、さらに魔法を極めたい方は2年生でも科目選択いただければと思います。また、本学の魔法クラブの顧問も私が務めますので、授業の内容じゃ物足りない方はぜひこちらでもお待ちしてます。」

 最悪の仕事ではあるが、せっかくの機会でもある。
 幼少期、魔塔主に拾われて以来、魔法に関しては天才しかいない環境で育ってきたため
 魔法初学者に魔法を教える機会は全くなかった。
 ある魔法の魔法理論を確立し、使い手を増やすことが目標の私にとっては、初学者が魔法を使えるようになるプロセスを見守ることでヒントが見つかるのではないかという期待があった。

「質問ありますか?」

 ……まだ緊張感があるクラスの雰囲気。なかなか手は上げづらいだろう。

「ひとつ言い忘れていました。成績のつけ方です。
 中間期末のテスト7割、小テスト2割、魔法の実施テストが1割です。
 授業2~3回ごとに、ひとつ魔法を勉強していきます。魔法実施テストの前には、その魔法の理論について必ず小テストを行います。
 これは、魔法にはまだまだ危険が伴うため、必ず知識を習得してから魔法の実施テストに進んでもらいたいからです。
 また、小テストと中間期末のテストだけで9割と、筆記テストの比重が非常に高いのは、その魔法が使えるか使えないかは、今の魔法理論だと生まれ持った属性や才能、魔力量に依存する部分が大きいためです。
 にも関わらずこのクラスは必修ですから、筆記テストさえ頑張れれば最高成績のAが取れるように設計しています。」

 貴族学院の成績はその後のキャリアにも影響があるそうだ。成績が優秀なら、男爵位の貴族や、爵位がない平民でも皇宮での勤務が可能だったり、逆に高い爵位の家に生まれた学生たちは一定の成績を収めないと約束されたはずのポストから外されたりもすると聞いた。
 身分制度が全くない魔塔で暮らしていたため貴族社会には疎いが、想像より実力主義のようだった。貴族学院と謳っているが、成績優秀だと爵位なしでも入学できる学校でもある。敢えて身分制度を安定させたくない意図があるのかもしれない。
 
「とはいえ、1年間のクラスを通じて魔法の面白さを届けられればと思ってます。一緒に楽しみましょうね。
 私は非常勤講師のため、月、火、水は貴族学院構内の魔法研究室にいますが、木金は皇宮で仕事をしてますので不在です。
 木金含め不在時も質問しやすいように、魔法研究室に質問ボックスを設置しておきます。可能なものは翌日中に、直接説明したいものは貴族学院出勤最短日に時間作って回答します。
 ぜひ私のこと、うまく使ってくださいね。
 まだ5分ありますので、質問あれば回答します。」
 質問なければ終わります、と言おうとしたタイミングで、金髪の男子生徒から手が上がった。
「白魔法は授業内で扱いますか?」
 一瞬ピリッとしてしまったが、普通の質問である。また、魔法のジャンルによる難易度の差など、ハイルセン帝国――魔法だけで言えば後進国と言える――の学生にはわかるまい。
「魔法にもいくつかカテゴライズがあり、白魔法――つまり回復魔法が学習カリキュラムに入っているか、という質問ですね。まず、興味を持って質問してくれてありがとう。
 まず結論から述べると、白魔法はカリキュラムに入っていません。
 理由は二つ。
 一つ目は、白魔法に適性のある人間は、世界でも0.1%以下と言われていて、非常に少ないこと。
 二つ目は、適性があったとしても、膨大な魔力が必要になると言うこと。
 例えば、ランプに小さな火を灯す魔法。これは、この小さな魔法石一つで1年ほど火を維持できます。
 指先を紙で切ってしまった、小さな傷。これを治すには、この魔法石が100個必要です。……ちょっと驚きますよね。かなり、効率の悪い魔法だと言えます。
 適性がある人も限られていて、適性があっても、生まれ持った魔力が相当量ないと結局使えない。私の考えとは異なりますが、“奇跡“と呼ばれるのも納得のレア魔法となります。
 そのため、確率論だけで言えば、この教室にいる30名で使える人はいない可能性が高いですね。そこに、全員必修プログラムの魔法入門の授業で時間を割くのは勿体無い、と言う判断で取り扱いません。
 ただ、もし興味がある生徒が多いようであれば、魔法理論自体を説明する時間を1コマ作ろうかなと思います。カリキュラムの進みが悪くなければ……ではありますが。先生も使えませんので、理論だけになっちゃいますが。回答になってます?」
「はい、ありがとうございます。」
 質問してくれた学生がしょんぼりしてしまった。寄り添った回答は難しい……
 ちょうど、終業の鐘が鳴った。
「今日の授業は以上です。ありがとうございました。」


「先生、マナト先生?」
 教室を出て、廊下を少し歩いたところで、後ろから声をかけられた。
 振り返ると、そこには茶髪の可愛い少女の姿があった。先ほどのクラスで後ろの方に座っていたイリス・ゴルダ子爵令嬢……だったかな、確か。栗色の緩くカールされた髪に、パッチリとした青い瞳。長身でスタイルも良く、正直かなり可愛くて目立っていた。まあ、名前を覚えていたのはそれが理由ではないけれど。
「ごめん、先生と呼ばれるのにまだ慣れてなくて。質問かな?」
「はい。……先生は、黒魔法は使えますか?」
 この国では白魔法と黒魔法がトレンドなの?こうも背筋が凍る質問2連投をされると警戒してしまう。
 黒魔法に関しては、ハイルセン帝国では偏見はないと聞いているが、他国では闇魔法と呼ばれ偏見に晒されていることもある。この美少女のバックグラウンドがわからない以上、慎重に回答しなくては。
「はい。先生は黒魔法使えますよ。」
 美少女の顔がぱっと華やいだ。期待した回答だったらしい。
「実は私、黒魔法を勉強しているのですが、帝国内にはなかなか指導してくれる方がいなくて……先生に教えてもらえないかなと……」
 そもそも魔法士が少ないハイルセン帝国で黒魔法の指導を受けるのは難しいだろう。黒魔法の使い手は、白魔法に比べたら圧倒的に多いが、水、火、など他の属性と比べると少ない。
「もちろんいいですよ。授業内では難しいですが、魔法倶楽部に入ってもらえれば、部員の皆さんがやりたい魔法の勉強を一緒に進めてますから、いやでなければ、倶楽部に入ってくれると指導しやすいです。」
 ちょっとだけ美少女の顔が曇る。倶楽部は嫌なのかな。
「わかりました。今日の倶楽部説明会聞いてみて、予定が合いそうであれば入ろうと思います。もし難しかったら、その時また相談しても良いですか?」
「もちろんです。私が貴族学院に出勤する日なら時間も相談の仕様があると思いますから。」
 そう言って微笑むと、ゴルダ子息令嬢はほっとしたように微笑んだ。個人的にも彼女……を、指導したいという気持ちがあり、少し前のめりな回答になってしまった。
 だって、こんな魔力量と魔法技術を持った子、指導してみたくなるのは魔法士の本能だろう。
「ありがとうございます。」
「こちらこそ、あなたほどの魔法使いと勉強できるチャンスをくれてありがとう」
「……それは、どういう意味ですか?」
 気が緩んで失敗したなと悟ったのは、ゴルダ子爵令嬢の表情が凍りついていたからだ。
 彼女が私の前で使ってる魔法は一つしかない。しかも使ってるとは、誰にもバレていないと踏んでいたのだろう。これは私が無神経だった。
 とは言え、ここから誤魔化す方が不誠実だろう。意を決して口を開いた。
「そこまで安定して、変身魔法が使える魔法使いは、魔塔でもそんなにいないからです。私も短時間ならできるけど、あなたより不安定です。相当な鍛錬の成果であることは一目瞭然です。そんな魔法使いと勉強できるなんて光栄だなと心から思ってます。」
「先生には……私の本当の姿が見えているんですか?」
「見えてません。1時間授業してると、僅かな揺らぎが一度だけ見えたので気づきましたが、魔法士でも本当の姿まで見えるのは相当な手練だけです。揺らぎも実力者でも気づくかどうかのわずかなものでしたよ。安心なさってください」
 ゴルダ子爵令嬢はほっとしてくれた。若干不誠実な対応――私の特殊能力を使えば本当の姿は簡単に見える――をしてしまったが、本当に見てないので、嘘では無い。
 内面的な事情が、周辺環境の事情かはわからないけれど、理由があって今の姿をしているのだろう。今の姿が、本当の彼女の姿なのだと思う。不躾に、魔法をかける前の見てはならない。
「ぜひ、倶楽部に入るにしても、別の方法になるにしても、一緒に勉強しましょう。」
 そう伝えると、コクリ、と頷いて、彼女は去っていった。
 き、緊張した……
 生徒と接するってこんなに気を使うのか……
 うーん、この仕事、向いてない気がする。1年間、生徒たちを問題なく導けるのだろうか。不安しかない。
 
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