皇太子の魔法教師になったら、執着が重すぎました

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第七話

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 イリヤは策士である。
 昨日、しれっと転移魔法用の簡易ポータルを我が家に置いて帰って行った。
 普段の私なら即座に気付けるが、熱が出ていて気づけず、今朝目覚めてから、自分以外の魔力の気配にやっと気づいた。
 とはいえ、イリヤが我が家に来るのを許可したのは私だ。簡易ポータルが我が家の中になければ、誰かにイリヤがうちに来るのを見られる可能性がある。
 大きな邸宅が並ぶ別荘エリアに、急に現れる極小一軒家に私は住んでいる。別荘エリアに貴族学院の教員や、生徒も一部住んでいる。
 そのため生徒であるイリスがうちに入ってくるのを見られるのもまずいし、皇子であるイリヤが入ってくるのを見られるのはもっともっとまずい。
 そうすると、家の中にポータル置いて、家の中にいきなり登場!してもらうしか選択肢はないだろう。とはいえ一言言ってください、皇子……。
 そうしていると、ポータルが光る。皇子側のポータルを起動したのだろう。朝早いなあ。まだ日が出たばかりなのに。

「おはようございます。」
 イリスは、水の入った瓶を2本と、大きなピクニックバスケットを持って現れた。朝早いのに髪をしっかり巻いてカチューシャも決まっている。いつもと違い制服の下にパニエが仕込んであり、さらに可愛い。
「朝からありがとう……」
「あれ、まだ寝てました?ポータルから気配を感じたんで、もう起きてるのかと思いました」
「うん……まさか黙ってポータルを置いていくと思わなくて、びっくりして見つめてたの……」
「す、すみません……」
 本人的には来訪許可で済んでると思っていたのか、一応は謝ってくれたので、許すことにした。

「次からは一言言ってね。」
「はい……ちなみにご飯食べられそうですか?食べられそうなものありますか?」

 イリスはバスケットの中を見せてくれる。
 柔らかそうな白パン3つ。サンドイッチも3つ。全て卵サンドのようだ。バナナとりんごに、おろし金。牛乳の小さな瓶が2つ入っていた。
「わざわざありがとう。シェフの方に作ってもらったの?」
「はい。貴族学院に行く日は、皇宮からゴルダ子爵の別荘に行って、そこから馬車で向かってるので朝早くて。軽食を馬車の中で食べてるんです。そのついでに。」
「身分を明かさないって、大変ですねえ」
 キッチンの棚から皿を2枚取り出す。狭い家だが一応小さな2人掛けのダイニングテーブルがあり、そこに並べた。
「時間があるなら、少しうちで食べて行きます?」
「はい、ぜひ」
 イリスは待ってましたとばかりに椅子に腰掛けた。時間には余裕がありそうだ。ただ、その分、私のせいでいつもより早く皇宮を出させてしまったのだろう。申し訳なくなる。
「お言葉に甘えて、卵サンドひとついただいてもいい?」
「どうぞ。私も食べます」
 ふたりでたまごサンドを頬張る。卵の柔らかい甘さが病み上がりにはちょうどよい。パンも柔らかくて甘い。私が噛みやすいように、あえてトーストせず持ってきてくれたのかな。
「食事取れそうで、安心しました」
「イリスさんこそ気を使って食べやすいもの、持ってきてくれてありがとうね。実はお腹空いてたから助かったよ。」
 えへ、と柔らかくイリスさんは笑った。りんごに、急におろし金が入ってるのも、きっと私が食事をとれないくらい状態が悪かったら、りんごのすりおろしを作るパターンも想定してくれてたんだろう。
 皇子さまって、こんなに細かいことまで気が回るものなのかな?誰かアドバイスしてくれたのかな。
「……気を悪くしたら申し訳ないんだけど、ひとつ確認したいことがあるんだ」
 イリスはキョトンとしていた。
「呼び方に悩んでいて。
 女性の姿をしている時は、イリスさん、って呼び続けて、男性の姿の時はイリヤさん、って呼ぶのがいいかな?それともどちらかに統一する?
 学院ではイリスさんと呼ばざるを得ないけど、他の時はなるべく本人の希望に合わせたくて。」
 なぜイリス・ゴルダとして――変装するなら男性のままでもいいはず――貴族学院に通っているのかはわからない。
 なので、イリスさんと呼ばれたくないかもしれないし、ここは早めに整理しておきたかった。
「今みたいに、イリスの姿の時はイリス、イリヤの姿の時はイリヤ、と呼んでください。
 イリスの姿は、僕の、理想、なりたかった姿なんです。
 学院でイリスの姿をしてるのは、身分を隠す目的が1番ですが、せっかく変身魔法を使うならと、自分の夢を叶えたくてやってるので。
 先生からイリスって呼んでもらえると、この世に本当にイリスとして生きてるような気持ちになって……とても嬉しいんです。」
「わかったよ。イリスさん。
 ……今日の制服の着こなしもすごく可愛いよ。」
「ありがとうございます。」
 心底嬉しそうに微笑む。そういうことなら遠慮なく呼ばせてもらおう。ポジティブな気持ちでイリス・ゴルダをやっているならよかった。
「先生といると、自分が自分のままでいいのかも、って少し思えるんですよね。」
「少しじゃなくて、とっても思ってほしいけど……少しでも力になれてるなら嬉しいよ。イリスさんには助けてもらってばかりだから。」
「私は先生のためなら、本当に、なんでもしたいんです……
 で、でも、重荷に感じないでくださいね。いっぱい助けていただいたし!したくてしてるだけなんで……!
 あっ!時間なんで皇宮に戻ります!明日の朝またきます!」
 急に我に返ったのか、顔を真っ赤にしてイリスは慌てて転移魔法で立ち去ってしまった。
 バスケットは置いて行ってよかったのかしら。
 でも、イリスがすぐに帰ってくれてよかった。あのまま家にいられたら、私の顔が赤いのも、バレてしまっただろう。
 
 
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