皇太子の魔法教師になったら、執着が重すぎました

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第八話

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「明日からの社会復帰、皇宮付き魔法使いへの指導についてご相談があるのですが、よろしいでしょうか?」
「も、もちろんです……?」
 今日も日の出からすぐ、イリヤがバスケットにご飯を詰めてやってきた。昨日と同じくダイニングテーブルで小さくなって食べていたところ、イリヤが急にかしこまって切り出してきた。
「まず、木曜日と金曜日に実施している皇宮付き魔法使いへの講習について、今後は俺も参加します」
「え?!明日だけじゃなくてずっとってことよね?」
「ダメですか……?」
「えっと……、以前皇太子が私がいない時いらしたらしいんだけど、魔法の実力の高さと美男子ぶりに、みんなメロメロになってしまって集中力を失ってしまったんですよね。
 イリヤさんも皇子さまで、かなり美男子で、魔法使いとして実力が高いから、同じことが起こらないか心配で……」
 言いかけて、ハッと気づく。
 人伝に聞いた皇太子の情報とイリヤの情報が、完全一致していることに。
 イリヤも人が悪い。ちょっとニヤリとしている。
「先生、気付きました?」
「……あなたなの?先週訓練場に来たのは」
「俺ですね」
「つまり、皇子は皇子でも、皇太子殿下、なんですね」
「そうなんですよね……」
 憂鬱そうにイリヤは答えた。皇太子の座を巡って争って勝ち得た、という雰囲気ではなさそうだ。
 そして、イリヤが皇太子だとすると、貴族学院に変身魔法で性別まで変えて通い、それでもなお命を狙われるのもある意味納得である。
「その話も今日したくて。
 あくまで、この帝国のルールで、本来先生には関係ないんですが、俺と先生が皇宮で会った時、皇子殿下ではなく皇太子殿下って呼んで頂かないといけなくて……
 いやほんとは全然イリヤでいいんですよ?!いいんですけど、知らずに先生が無礼者のような目で見られたり、悪く言われても申し訳なくて」
 バツが悪いのか、イリヤの言葉数が多くて焦っている。かわいい。
 確かに、自分を敬えと取れる内容だけど、言いづらいことでも先回りして教えてくれるのは優しさである。この国で私に何かを教えてくれる人はいない。気を配ってくれる人もいない。イリヤ以外。
「もちろん、帝国の星、皇太子殿下にご挨拶申し上げるようにするね。お気遣いありがとう。」
 意図が正しく伝わったことにイリヤは安堵したようだった。
「でも、皇宮での講習の継続的な参加については保留したい。さっき言った理由の他にも、イリヤさんと他のメンバーだと力量差があるし、
 皇宮魔法使いに今黒魔法を使う人がいないから合同でやるメリットが薄いと思います。」
 皇太子殿下に保留と言っても本当は意味がないだろう。多分、この帝国で3番目に偉いはずだから。だが、イリヤは魔法指導の生徒でもある。効率よく指導するには、大人数での講習に参加するのは得策とは思なかった。
「その点はご心配には及びません。皇宮での講習は黒魔法じゃなくて風魔法の習得にあてたいと思ってます。」
「なぜ?」
「黒魔法はもちろん引き続き個別に指導をお願いしたいですが、手札を増やしたいんです。
 黒魔法が使えることは皇帝・皇后、側近など近しい人は知っています。皇帝は攻撃力の高い黒魔法使いを増やしたい方針ですので、白い目で観る人も帝国の中心都市にはいません。
 しかし、戦争で帝国に併合された地域はいろんな価値観がありますので、どの段階でどう伝えるかは配慮が必要です。
 そのため、表向き使える魔法の専門がもう一つ欲しいです。」
「うーん……黒魔法で今取り組んでる課題が解決してから取り組んだ方が、黒魔法も風魔法も、習得は早いと思うんですよね。」
 黒魔法で範囲設定に苦心していたのを見ると、もう少し集中的に取り組んでいきたい。ここまでの進捗を見ると、1年かけても、黒魔法の回復魔法転用が使えるようになるかは怪しい。
 私は後10ヶ月も教えられないので、ここは黒魔法に時間を全て充てて欲しかった。
「……あと、もう一つ理由があるんです。
 黒魔法を大きな威力で使えることが大きな決め手となり、俺は皇太子にさせられました。本当は隠したかったんですが、使えることを誇示しないと殺さられそうだったので、開示する他なかったんです。
 なので、黒魔法が使えることを知ってる人が、俺を殺したい場合は、黒魔法の弱点をついてきます。そのためバリエーションが必要なんです。」
 遠回しに言っているが、皇帝か、皇后か、側近が、イリヤの命を狙ってる、と言うことだ。
 なんでも持ってそうな皇太子という肩書きだけど、そんな身近な人間から狙われてばかりいるなんて、さすがに可哀想だな……。
「確かに、それは別の魔法が必要でしょう。
 でも尚のこと、皇宮の講習の場で黒魔法以外の練習をやったら、他の魔法使いたちが悪意なくリークしてしまうかもしれませんよ。」
 論理破綻してることに、おそらくイリヤ自身も気づいているだろう。その上魔法のバリエーションが必要な理由は雄弁だが、皇宮での集団講習にわざわざ参加する理由は一つも述べていない。
「……先生、気づいてるでしょう」
「なんの話かな?」
 少しイリヤが私を睨みつける。本気じゃないとわかっていても美形の睨みは迫力があるなあ。イリヤは、一度躊躇ってから、口を開いた。
「そうですよ、お察しの通り、ただ俺は皇宮での講習に参加したいだけなんです!
 先生が俺の知らないところで色んな奴らに魔法教えてるのが嫌なんですよ……誰かにその優しさを向けてると想像しただけでおかしくなるんです。
 みんな先生の人柄と魔法使いとしての実力を知ったら、先生のこと好きになっちゃいますよ!先生も惹かれる相手がいるかもしれない。彼らは魔法使いとしてのスキルだけじゃなくて処世術もあってあの地位にいる、エリート揃いですよ。貴族出身じゃないメンバーもいます。そうなると先生は結婚もできます。」
 一文目の回答は予想できていた。でもそこから先は……なんの話をしているんだ?!私が結婚?!誰と?!
 完全に置いていかれる私を尻目にイリヤは止まらない。
「でも……俺には先生しかいないんですよ!
 俺を守るって言ってくれた人、イリスの俺も受け止めてくれて、こんなに尊重してくれた人、可愛いって言ってくれる人。そんな人、先生しかいないんです。盗られたくないんです!
 先生は俺なんかじゃ相手にしてくれないし、皇太子なんて皇子なんて、先生にとっては面倒なだけだし、魔女狩りを推進した皇帝の孫だし?最悪な存在ですよ。
 それに先生は仕方なく帝国に来てくれて、国外との連絡も遮断されてるだけで、魔塔かどっかの国かに恋人がいるのかもしれないってわかってます!
 でも、それでも帝国にいる間だけでも、少しでも一緒にいて欲しいんです。先生の邪魔にはなりたくないんで、何かするなとか何か追加でやってとか言わないから、せめて講習の場にいるだけでも許して欲しいんです」
「ちょ、ちょ、ちょって待って!」
 朝からとんでもないこと言われた。
 私が皇宮付きの魔法使いと結婚?イリヤを相手にしてない?帝国の外に恋人がいる?
「9割型妄想でしゃべってない?」
「わかってます……わかってるんですけど……愚かなことしか言ってないの……」
「まずこれ飲んで落ち着いて」
 イリヤは顔が真っ赤で涙目になっていた。完全に興奮状態だ。魔法を使ってささっとコーヒーを入れる。イリヤは冷蔵庫から牛乳と砂糖を出してきて、カップにドバドバ入れてからぐいっと飲んだ。
「先生、俺、先生のこと好きなんです……」
「流石にさっきの弁論でわかってますよ……」
「先生にその気がないのもわかってるし、万が一奇跡が起こって先生が恋人になってくれたとしても、魔塔の規則で結婚できないし、皇太子妃なんて面倒なことさせたくないし、でも他の人と結ばれてなんてほしくないし、」
「ほらだから落ち着いて」
 手でコーヒーを飲むように勧める。またぐいっとコーヒーを煽った。全然効果ないかもしれない。
「ここ数日お世話になりっぱなしで、家にも入れておいて、なんだけど、一応教師と生徒でもあるし、イリヤさんとパートナーになるのは、よくないと思ってる」
 イリヤはわかってます、という表情を作るが、それでもショックは隠せていない。先ほどから、あの自信ありげな皇子さま然とした態度はどこかにいなくなってしまい、ずっと泣きそうなままだ。
「でも、その気がなくは、ない」
 教師と生徒として、などと言っておいて、矛盾したことを言っているのはわかっている。でも、これだけ自分を晒してくれたイリヤに、泣きそうになってる子に、自分の気持ちを隠す方が不誠実だと思った。
「だから、相手にしてないとかは、違うよ。」
 イリヤは驚いた顔をして、少し固まった後、べしょべしょ泣き出した。タオルで拭ってやる。
「カフェ行くの断ったじゃないですか……」
「貴族学院の成績ってシビアで、将来にも響くって聞くし。贔屓を疑われるようなことは避けたい。見られたら面倒だよ。」
「講習だって参加するの嫌がるくせに……」
「だからそれは、イリヤさんが参加しても意味ないから」
「じゃあ、さっきの理由なら、参加してもいいですか……?」
 イリヤが本気で権力を行使すれば、講習に参加するなんて当然できて、例えば講習を潰したり、もっと私の時間を拘束したり、普通にできるんだと思う。
 でも、言っていたとおり、イリヤは私の負担が増えない形で少しでも一緒にいたいと考えて、健気に講習参加を望んでる。そして、それすら、私の承諾がないと出ないつもりなのだ。
「……いいですよ。」
「やった……」
 えへへ、と可愛く笑う。イリスの時のような甘やかな表情だ。
 こんなに可愛いひとが、人質同然の私にも許しを乞う人が、どうやって命を狙われながら、味方もおらず、この年まで生き抜いてきたんだろうか。
 一生一緒にいれるわけじゃない。お互いそんなことわかってる。でも、なんとか、彼の力になってあげられないのだろうか?
 
 


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