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第十話
しおりを挟む翌朝。今日はイリヤが講習に初めて参加する日だ。
イリス・ゴルダ子爵令嬢としてはすでに何度も魔法を教えているが、イリヤはあの完璧な変身魔法で、魔力をかなり奪われているだろう。
そのため、本気のイリヤと魔法を使うのは初めてだ。わくわくする。
顔を洗い、身支度をしていると、簡易ポータルが光った。
「予告なしってアリなの?!」
イリヤと私は通信石でのやり取りはしない。盗聴リスクがあるからだ。
とはいえ、今日1時間もしたら皇宮で顔を合わせられるのに。なぜ?
光って数分後、イリヤは身なりを完璧に整えて現れた。魔法使いが常用するローブを纏っているが、その下にはいかにも皇子様といったファーのついたジャケットに黒いシャツ、黒いスラックス姿で現れた。
しかし、顔はムスッとしている。なんか、イリスの姿でこんな顔してる時あったな。
「俺とカフェに行かないのに、ヨアヒム・リヒターとは行くんですね?」
急な来訪を咎める前に、先制パンチが飛んできた。
「え、ストーカー?」
「はい、もちろんストーカーです」
気品溢れる完璧な笑顔で宣言される。完全に開き直られてしまった。
「とはいえ、本気のストーキングしたら嫌われそうなので……そこまでじゃないですよ。カフェの中のことまでは把握してません。
この首都を飛んでる鳥って、半分くらい皇宮からの監視なんです。生活一つ一つを見ることはしていません。でも、例えば待ち合わせで頻用される時計塔周辺は情報が集まってますから、よく監視されてるんですよ。
先生はまんまとそこに入ってきてしまったので気づきました。」
「常に首都を監視してる術者がいるってこと?すごいですね。流石帝国……」
「交代制ですけどね。皇帝は常に反乱を恐れてますから。
その術者に金を握らせて、数人、俺が私的にマークしてもらってます。その1人がマナト先生なので。」
「ふーん……じゃあ、今後首都での行動は気をつけます」
「首都じゃなくても浮気はだめです!……そもそもヨアヒム・リヒターと何を話してたんですか?」
浮気?パートナーにはならない、で合意した気がするが、都合よくイリヤの脳内で書き換えられたのだろうか?深掘りすると面倒なことになるため、聞かなかったことにして話を進める。
「彼はイリヤさんを警戒してたの。それでそういう話をされた。」
「先生に余計なこと吹き込んだんですね……具体的に聞いてもいいですか?」
「あなたが第四皇子を殺したと思っていて、側近もどんどん解雇したり更迭したりする暴君だと思っているみたい」
「なるほど。俺の噂の代表作2つですね。
引っ掛かってくれてありがたいけど、講習中おびえられても困るなあ。邪魔したいわけではないですから。」
「私もそこは悩んでたんです。
一応ヨアヒムさんには、その噂が本当だとしても、講習中はみな対等なのでよほどのことがなければ解雇や更迭なんてないと思うとは伝えましたけど、私が伝えても限界があるから。」
「うーん……とりあえずそれは俺の方で手を打ってみます。
……ところで、先生は噂の真相が気にならないんですか?」
さらり、と問われたが、イリヤの目は少しおびえている。平気なフリしてるけど、まあ穏やかな噂ではないからな。
「気にはなるな。きっと噂と真相はズレてるんだろうから。そのうち、話したくなったら、言える範囲で教えて。」
「……先生は、本当に俺が第四皇子を殺していて、側近のクビも飛ばしまくる暴君だとしても、そばに置いてくれるんですか?」
そんなに試さなくてもいいのに。
「別にいいよ。きっと、生きるために仕方なかったんでしょう。
……もうこの話は終わりね。」
イリヤに正面からがばっと抱きつかれ、イリヤの頭が私の首に擦り寄せられる。
恐る恐る、私もイリヤの背に手を回すと、もっと強い力で抱きしめられた。
「い、いたいいたい」
「す、すみません、先生!」
イリヤが慌てて離してくれた。
「時間がある時に、聞いてくれますか?
俺のこれまでの話」
「もちろん」
「ありがとうございます。
……じゃあ、ヨアヒム・リヒター対策の準備があるので、先に皇宮に戻ります。」
さらっと皇太子の顔に戻って、皇宮に戻って行った。
対策って、何するつもりなのだろうか?
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