皇太子の魔法教師になったら、執着が重すぎました

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第十一話

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 いつも通りの時間に訓練場に向かう。
 するとイリヤの側近なのか?スーツ姿の男性がいた。
「私は皇太子殿下の側仕えをしております、オスカー・クロイツと申します。以後よろしくお願いします。」
「マナトと申します。よろしくお願いいたします。」
「マナト先生にお会いできることを、私自身大変楽しみにしておりました。」
「……殿下から何か、聞かれてるんですか?」
「先生に夢中なことは聞いております」
 それを聞いた瞬間から私は手汗が止まらなかった。なんて事言ってくれてるんだイリヤ……
 もちろんこの帝国では、イリヤの方がはるかに権力者だが、教師と生徒でもあり、年齢差も10歳近いことを踏まえると、悪い大人が思春期の青年を誑かしていると思われるのではないか。
「えっと……」
「私から他言する事はございませんのでご安心ください。
 これからも殿下のことを何卒よろしくお願いします」
 真剣な目線で、がっしりと握手された。本当に付き合ってないってわかってくれてるのかしら……
「では、私は準備がありますので、一度失礼します。講習が終わる頃また参ります。」
 準備?何のですか?と問う間もなく、オスカーさんは足早に皇宮に向かって行った。

 訓練場の中に入ると、いつもと違う緊張感が漂っていた。まだイリヤは来ていないが、とりあえず簡易結界装置を、少し魔力を込めながら配る。
 ちょうど配り終えたところで、数人の足音が近づいてくる。
「本日から講習に参加する、イリヤ・ハイルセンです。講習の間は、挨拶をはじめとして皇太子に対する対応は不要です。一参加者として扱ってください。」
 騎士2人を伴って現れたイリヤは正に皇子さま、という毅然とした態度と落ち着いた振る舞いだった。
「本日からよろしくお願いします。魔塔から派遣されているマナトです。殿下、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「イリヤと、呼び捨てで呼んでください」
 こっちが、あくまで皇太子殿下と講師として接しようとしているのに、イリヤは徒に距離を詰めようとしてくる。普段だって、イリスだって呼び捨てにしたことなんかないのに。困らせたいのか?
「流石にそれは恐れ多いので……
 では、講習内ではイリヤさん、とお呼びしても?」
「……わかりました。マナト先生、よろしくお願いします。」
 ちょっとだけ不機嫌を滲ませながらも、笑顔は崩さず、イリヤは答えた。
「結界の張り方は後程一緒に教えますので、お待ちください。」
 そこからはいつも通り講習を進めていく。イリヤは講習中は大人しかったので助かった。


「今日の講習は以上となります。来週木曜日も朝7:00~こちらの訓練場でよろしくお願いします。」
「……マナト先生、他の参加者の皆さん、少しよろしいでしょうか?」
 イリヤが前に出てきた。
「どうぞ」
「朝からの講習後、多くの方が勤務に向かわれるとマナト先生から伺いました。
 よろしければ、マフィンが2個入った紙袋を人数分用意したので、ぜひお持ちになってください。ミルザ茶の茶葉を練り込んでいるので、魔力の回復にも良いかと思います」
 オスカーをはじめ、数人の侍従さんたちがカゴいっぱいに小さな紙袋を詰めて持ってきた。
 訓練場を騎士団から時間借りしている関係で朝早くに集まらざるを得ない。朝食を取れていないメンバーも多いだろう。
 実際、受講生の顔を見るとみんなキラキラというか、よだれが今にも垂れそうな顔をしている。
「ありがとうございます!」
 明るく人懐っこいルカが、先陣を切って受け取ると、他のメンバーも我先にとマフィンを受け取る。
 もしかして策って……餌付け?!
「先生はこの後一緒に食堂に行きましょう」
 後ろからポン、と肩を叩かれ振り返ると、ニッコリ微笑んだイリヤが立っていた。
「……着替えてからでもよろしいでしょうか?」
「もちろん。私も着替えがありますから。30分後に。」
 急いでシャワールームに向かい、さっと着替える。
 普段ならまだしも皇宮で皇太子殿下、をお待たせするわけにはいかない。
 気に入っているいつものパンツスタイルに着替え、慌てて皇宮の職員食堂に向かった。

「お待ちしておりました」
「帝国の星、皇太子殿下に、ご挨拶申し上げます……」
「おかけになってください」
「失礼いたします……」
「オスカー、先生に水を。」
「すぐにお持ちします」
 ダッシュで食堂まで向かったので息も絶え絶えだった。気を遣って水を用意してもらう。
 暗い青を基調としたジャケットに身を包んだイリヤが食堂の、他の机とは明らかに隔離された席に座っていた。とはいえ、そもそも10時ごろでピークタイムを外れているからか、食堂に人はまばらだった。
 イリヤがティーポットから紅茶を注いで、差し出してくれる。
「すぐには飲めないと思いますが、落ち着いたらお飲みください。……先生、今日の講習どうでした?」
「ありがとうございます。殿下がかなり講習のスムーズな運営に心を砕いてくださりましたので、身のあるものとなりました。」
「……もう少しいつもの感じで話してくれませんか?」
「え、いいの?」
「距離を感じて辛いので、慇懃な感じをやめて欲しいです」
 皇太子としてのイリヤと、公に話すのは今日が初めてだ。どういう態度で臨むべきかわからず、私の最大出力の丁寧を発射したがやりすぎだったらしい。
 オスカーさんが食堂の厨房から水を持ってきてくれるのでありがたく飲む。
「マフィン、先生も食べてください」
 差し出されたマフィンを食べると、マフィンの甘みとミルザ茶の香りが広がっておいしい。おいしさに奥行きがあり、飽きが来ない味だ。
「美味しいです、ありがとう。
 これは元々準備してたんですか?」
「いや、先生の家から皇宮に戻ってから準備したんです」
「そんな短時間であの量のマフィンって作れるものなの……?」
「皇太子なので……」
 澄まして応えるイリヤの後ろに控えるオスカーさんは如何にも大変でした!という表情で私に訴えかけてくる。
 それはそうだろう。そもそも、ミルザ茶は高級茶葉で簡単に手に入るものではない。それを短時間で受講生全員、30名分準備するのは大変だっただろう。
「ヨアヒム・リヒターや、他の官僚たちも嬉しそうに受け取ってくれていたのでよかったです。」
「……まずは餌付けからってこと?」
 イリヤはニッコリ微笑む。
「マフィンがいいかはさておき、手土産を準備することで、このコミュニティの仲間になりたい、受け入れて欲しい、という意思を示すのが大事かなと思ったんです。
 先生に殿下と呼ばせなかったのもそういう理由です。きっと、ここ数年の魔塔からの派遣魔法使いより、明らかに先生の実力が抜きん出ていることは彼らも察していると思います。そんな先生に少しでも下から出てみせるのは大切かなと。
 これが成功したかは分かりませんけど。やれることはやってみました。」
 よくもまあ短い時間で対策を練ってくれたものだ。人心掌握に慣れているのかもしれない。
「この時間は先生と私の関係性を見せつけるためにあえて食堂にしたんですが、人が少ないのでそんなに噂にならないかもしれませんね。これは不発。
 来週からは私の執務室でブランチでもよいかもしれません。」
 心底ガッカリした表情でイリヤは言う。変身魔法を安定して使うには相当の訓練が必要で、イリヤはイリス・ゴルダの姿は安定して使えるが、他の姿は安定性に欠く。
 そのため皇太子の姿で講習に来るんだと思っていたが、牽制なので!とはっきり言っていた。
 自然と来週もブランチする流れになっているし、完全に囲い込みが始まっているのを感じつつ、気付かないふりをする。
「ちなみに受講した素直な感想を教えてもらえますか?」
「個別の練習に先生がアドバイスしていく形自体は良いと思いました。一方で、かなり魔法の力量に個人差があるので、力量の均一化を目的に一定レクチャーの時間があっても良いかと」
「イリヤさん……間違えた、殿下もそう思われますか?私もレクチャーの時間を設定したいんですが、魔法分野の長官がいらないとおっしゃってこのスタイルになっています。」
「私から話しておきますよ。他の受講生の意見も聞いてみて、よければレクチャーありにしましょう」
 あんなに悩んでたのに一瞬で解決してしまった……。権力者ってすごいな。長官なんて、私じゃ話す時間をもらうのも難しかったし、一度話した時もこちらの意見を聞こうとはせず、一方的な命令で話す余地なんてなさそうだったのに。
「ありがとうございます。本当に皇太子殿下なんですねえ」
「実はそうなんですよね……先生のためなら何でもやりますのでお気軽にどうぞ」
 なんかちょっと怖いんだよな。イリヤは私に差し出しすぎているので、今回のように本当に悩んでた案件以外は注意して話さないといけない。
「はあ、やっぱり先生の家に行って話したいです。皇太子として振る舞うの、疲れます。」
「……そうだ、予告なしに家に来るのは禁止ですからね。次やったら簡易ポータル撤去しますから。」
「じゃあ予告すれば毎日固定の時間に行ってもいいんですか?」
「ええ……毎日はちょっと……」
「……」
 イリヤはむくれた。
「学院でも会えるし、この講習でも会えるんですから……ね?」
「仕方ありません。週1で手を打ちましょう」
「結構来るじゃないですか……」
「掃除やら出迎えの準備は一切不要ですから!お望みなら家事も私がしますし」
「そういうことじゃないんだけどなあ~」
 面倒見の良さは知っている。私が寝込んでいる時かなり助けてもらった。
 皇子さまなのに、なぜ家事に妙に明るいのか。持ってきてくれた食事への気配りも効いていた。人に世話をされる立場の人がやれることではないだろう。軽い気持ちで聞こうとしたが、直感的にいい理由ではない気がして、口を閉じる。
「殿下、そろそろ会議のお時間です」
「オスカー、わかった。
 とりあえず月曜、学院で時間ください。
 俺ともカフェに絶対行ってほしいんで、その作戦会議しましょう。本当はイリスとして行きたいですが、イリヤとしてでもいいですから。
 ……あ、これはガードが緩いんじゃなくて意図的にガード下げてるんですからね。」
 イリスに以前カフェに誘われて断ったのをかなり根に持っているようだ。
「わかってますよ。会議頑張ってくださいね。」
「ありがとうございます」
 ふわっと笑って、イリヤは席を立った。美人の微笑み、破壊力すごいなあ。
 イリヤが席を立った後、残りのマフィンを食べながら紅茶を飲む。イリヤこそ朝食を食べられたのだろうか。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 


 

 
 



 
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