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真夜中の恋人 12
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京都で、研二がほんまに俺のところにはもう戻ってけえへんて思たら、ひとりでおれんようになって、ちょうど京助がいてくれたから甘えてしもたけど………、なあ………
ああ、我ながら、そないなこと考えとる自分がメンドイ!
昼休みにはひとりカフェテリアの端の方で、惣菜パンで昼を済ませた千雪は、グタグタと考えながらコーヒーを飲んでいた。
「それより、桜木ちゆき、て気になるし、小田和義、て弁護士先生、工藤も名前を出してたし、今も交流があるんやと………あった。半蔵門か。ちょっとあたってみるかな……」
携帯で検索をかけたら、小田和義弁護士事務所というのがすぐヒットした。
午後は講義が一つだけなので、早速アポを取ろうとしたのだが。
「あ、先輩! こんなとこにいた!」
お前は猛禽類か。
千雪は眼鏡の奥からよく見知った男を睨み付けた。
今日は天気もいいので南側のテラスへ続く扉が開かれ、オープンカフェになっていた。
できればこのうるさい後輩とは顔を合わせたくないし、ちょうど隅の木陰のテーブルが空いていたので、隠れるようにこんな端の方までやってきたのに。
「おや、名探偵、なるほど、ここは静かで原稿を書くにはよさそうだ」
さらにウザい連中まで佐久間の後ろからぞろぞろとやってきた。
勘弁してくれ。
思い切り眉を顰めて千雪が顔を上げると、速水の横で文子と何やら話していた京助と目があった。
と、京助はたったか千雪の横に座る。
「いいか、別に彼女とはただ心理学の話をしていただけだからな」
座りしな、言い訳のように千雪の耳元でこそっと囁く。
やから、そんなことイチイチ弁解せんかてええ!
速水は文子の椅子を引いてやり、佐久間はトレーに載せていた四人分のコーヒーをそれぞれの前に置くと、自分も座る。
「ひょっとしてお邪魔でしたかな? 名探偵」
「そうですね」
名探偵、などといかにもバカにしたように付け加える速水の挑発には極力乗らないようにとは思うものの、つい考えるより言葉が先に出てしまう。
「ごめんなさい、お邪魔してしまって」
申し訳なさそうに言う文子に対しても、あえて取り繕ったりおもねるような言葉を口にする気はない。
「すみませんね、先輩、ウソつけへんタイプやから」
「結構じゃないか。日本人の悪い癖は妙なおためごかしで、なかなか本音を言わないとこだ。その点、名探偵ははっきりしていて、わかりやすい」
佐久間が千雪を代弁すると、速水は皮肉っぽい言いまわしでジロジロと千雪を見つめる。
「そういえば、君の小説が映画化されるってことだが、佐久間くんの話だと、何やらうさんくさいプロダクションらしいじゃないか?」
今度は何やね?
千雪は怪訝な顔で速水を見た。
「聞けばその社長の工藤とやらはヤクザの組長の甥とかで、業界じゃ評判の男らしいじゃないか。そんないい加減な男の口車に乗って、映画化なんて喜んでると、後で泣きを見ることになるぞ?」
この男、どういうつもりや?
千雪は怒りで熱くなるより段々冷えていく。
探偵小説が映画化されることが面白ろないから俺のこと荒捜しして、今度は工藤のことをこき下ろす、いうわけか?
「聞けば、に、らしい、ですか? 速水さん、工藤さんのことどのくらい知ってはります?」
「ああ?」
警視庁で事情聴取を受けたとき、工藤をヤクザ呼ばわりした所轄の刑事のことを千雪は思い出していた。
頭から工藤をヤクザと見下しているその正義感面にはかなりムカついたが、千雪のことを見下したいが故に工藤のことを持ち出している速水に対して、反吐が出る思いがして、千雪は立ち上がる。
「根拠のない噂話なんかに踊らされて、仮にも心理学者ともあろう人が、そう知らん他人を貶めるような不用意な発言はされん方がええ思いますけど?」
口調は穏やかだったが、これにはさすがに速水も気色ばむ。
「せっかくの先輩の忠告を無視するわけか? 京助もお前さんは騙されてるんだとか言ってるぜ?」
「あんな、何考えてるかわからねぇヤツだぞ? お前、わかってんのか?」
京助はこの際速水に便乗しても、千雪に工藤から手を引かせたいのだ。
「京助こそ、わかってないやろ? これは俺と工藤さんの問題や。先輩方には関係あれへん」
「千雪、てめぇ、まさかあのやろうに……」
「京助!」
カッカきている京助が今にも下手なことを口走りそうだと、千雪は声を上げた。
京助は千雪を睨みつける。
「先輩、俺も心配ですわ。ほんまに話進めるんでっか? 彼女の話、かなり信憑性があるみたいでっせ?」
工藤が悪徳業者だとか、ヤクザだとかは、そもそもが出版社に勤める彼女からの話をそのまま鵜呑みにしてくれた佐久間こそが発端だった。
京助の頭ごなしなのは今に始まったことではないし、京助の場合はただ工藤に敵対心を持っているだけだろうとはわかっているのだが。
「余計なお世話や。俺の仕事やから、俺が決める」
「先輩ぃ~」
佐久間が情けない声を上げて、大仰に溜息をつく。
「あのぉ、お取り込み中のところ大変申し訳ないのだが……………小林くん………」
声の方を見ると、そこにはまた新たな厄介ごとが立っていた。
ああ、我ながら、そないなこと考えとる自分がメンドイ!
昼休みにはひとりカフェテリアの端の方で、惣菜パンで昼を済ませた千雪は、グタグタと考えながらコーヒーを飲んでいた。
「それより、桜木ちゆき、て気になるし、小田和義、て弁護士先生、工藤も名前を出してたし、今も交流があるんやと………あった。半蔵門か。ちょっとあたってみるかな……」
携帯で検索をかけたら、小田和義弁護士事務所というのがすぐヒットした。
午後は講義が一つだけなので、早速アポを取ろうとしたのだが。
「あ、先輩! こんなとこにいた!」
お前は猛禽類か。
千雪は眼鏡の奥からよく見知った男を睨み付けた。
今日は天気もいいので南側のテラスへ続く扉が開かれ、オープンカフェになっていた。
できればこのうるさい後輩とは顔を合わせたくないし、ちょうど隅の木陰のテーブルが空いていたので、隠れるようにこんな端の方までやってきたのに。
「おや、名探偵、なるほど、ここは静かで原稿を書くにはよさそうだ」
さらにウザい連中まで佐久間の後ろからぞろぞろとやってきた。
勘弁してくれ。
思い切り眉を顰めて千雪が顔を上げると、速水の横で文子と何やら話していた京助と目があった。
と、京助はたったか千雪の横に座る。
「いいか、別に彼女とはただ心理学の話をしていただけだからな」
座りしな、言い訳のように千雪の耳元でこそっと囁く。
やから、そんなことイチイチ弁解せんかてええ!
速水は文子の椅子を引いてやり、佐久間はトレーに載せていた四人分のコーヒーをそれぞれの前に置くと、自分も座る。
「ひょっとしてお邪魔でしたかな? 名探偵」
「そうですね」
名探偵、などといかにもバカにしたように付け加える速水の挑発には極力乗らないようにとは思うものの、つい考えるより言葉が先に出てしまう。
「ごめんなさい、お邪魔してしまって」
申し訳なさそうに言う文子に対しても、あえて取り繕ったりおもねるような言葉を口にする気はない。
「すみませんね、先輩、ウソつけへんタイプやから」
「結構じゃないか。日本人の悪い癖は妙なおためごかしで、なかなか本音を言わないとこだ。その点、名探偵ははっきりしていて、わかりやすい」
佐久間が千雪を代弁すると、速水は皮肉っぽい言いまわしでジロジロと千雪を見つめる。
「そういえば、君の小説が映画化されるってことだが、佐久間くんの話だと、何やらうさんくさいプロダクションらしいじゃないか?」
今度は何やね?
千雪は怪訝な顔で速水を見た。
「聞けばその社長の工藤とやらはヤクザの組長の甥とかで、業界じゃ評判の男らしいじゃないか。そんないい加減な男の口車に乗って、映画化なんて喜んでると、後で泣きを見ることになるぞ?」
この男、どういうつもりや?
千雪は怒りで熱くなるより段々冷えていく。
探偵小説が映画化されることが面白ろないから俺のこと荒捜しして、今度は工藤のことをこき下ろす、いうわけか?
「聞けば、に、らしい、ですか? 速水さん、工藤さんのことどのくらい知ってはります?」
「ああ?」
警視庁で事情聴取を受けたとき、工藤をヤクザ呼ばわりした所轄の刑事のことを千雪は思い出していた。
頭から工藤をヤクザと見下しているその正義感面にはかなりムカついたが、千雪のことを見下したいが故に工藤のことを持ち出している速水に対して、反吐が出る思いがして、千雪は立ち上がる。
「根拠のない噂話なんかに踊らされて、仮にも心理学者ともあろう人が、そう知らん他人を貶めるような不用意な発言はされん方がええ思いますけど?」
口調は穏やかだったが、これにはさすがに速水も気色ばむ。
「せっかくの先輩の忠告を無視するわけか? 京助もお前さんは騙されてるんだとか言ってるぜ?」
「あんな、何考えてるかわからねぇヤツだぞ? お前、わかってんのか?」
京助はこの際速水に便乗しても、千雪に工藤から手を引かせたいのだ。
「京助こそ、わかってないやろ? これは俺と工藤さんの問題や。先輩方には関係あれへん」
「千雪、てめぇ、まさかあのやろうに……」
「京助!」
カッカきている京助が今にも下手なことを口走りそうだと、千雪は声を上げた。
京助は千雪を睨みつける。
「先輩、俺も心配ですわ。ほんまに話進めるんでっか? 彼女の話、かなり信憑性があるみたいでっせ?」
工藤が悪徳業者だとか、ヤクザだとかは、そもそもが出版社に勤める彼女からの話をそのまま鵜呑みにしてくれた佐久間こそが発端だった。
京助の頭ごなしなのは今に始まったことではないし、京助の場合はただ工藤に敵対心を持っているだけだろうとはわかっているのだが。
「余計なお世話や。俺の仕事やから、俺が決める」
「先輩ぃ~」
佐久間が情けない声を上げて、大仰に溜息をつく。
「あのぉ、お取り込み中のところ大変申し訳ないのだが……………小林くん………」
声の方を見ると、そこにはまた新たな厄介ごとが立っていた。
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