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真夜中の恋人 11
しおりを挟むAct 4
一限目の講義のあと、千雪は図書館に出向いた。
飲み会の時の宮島教授の言葉が気になっていたのだが、ここ数日忙しくて時間が取れなかったので、いつの間にか週末になってしまった。
実は三羽じゃなかったんだ、ということはつまり、他にまだ誰かがいた?
荒木志郎、小田和義、工藤高広。
この三人の名前はすぐ見つかった。
名簿に四年の在学時にそろって司法試験に合格した三羽烏云々が記載されているわけではない。
確か、司法修習の時会うた敏腕検事いわれてる難しい顔の検事が荒木っていったけど、あの人かな……
そうか、ゼミのアルバムか何か探したら何かわかるかな。
そう思いながらページを捲った千雪は、ふとある名前に目を留めた。
「桜木……ちゆき……?」
男では珍しいかもしれないが、女性ならある名前だろう。
気になったのは法学部だとはあるが卒業という記載がないことだ。
ちゆきという名前と宮島ゼミだということ、そのことが千雪の中で一つの仮説を大きくさせた。
思い出したことがある。
春に工藤の別荘で、編集者に自分宛の宅配便を送ってもらった時のことだ。
「小林……千雪、ちゆき、と読むんですかい?」
受け取った平造が千雪に渡す際、少し戸惑い気味に尋ねた。
「ええ、おおきに。男やからもっと勇ましい名前にしとってくれたらて、昔はよう思いましたけど」
平造はそのことについてそれ以上何も言わなかった。
だが、工藤はまだ引きずっているという宮島教授の話からすると、桜木ちゆきという人物が工藤と何らかの関わりがある、そして教授はそんな工藤を心配しているというように思える。
宮島教授は他人の過去を掘り返すようなことを面白半分にやるような人ではない。
調べてみるといいと、あえて自分から話さなかったのは、教授自身それを話すことがいいのかどうか、迷いがあるのかも知れない。
だが、桜木ちゆきという人と工藤との関わり、そして今、同じちゆきという名前を持つ自分と工藤との奇妙な関わりに、教授は何か思うところがあるのだろう。
もし、工藤とそのちゆきさんと何らかの関わりがあるとしたら、工藤が小説の映画化を持ち出したその理由は、ただ、名前に興味があったというだけのことなのかもしれない。
何となくちょっと拍子抜けや。
いや、工藤に対して、結構えらそうにしてしもたけど、ほんまはそんな理由やったとか……
評論家の先生方には、こき下ろされたしな、………まあ、どうせたかが探偵小説や。
「おーや、名探偵、調べ物ですか? 次の小説のネタ探しとか?」
いや、こいつだけには好き勝手なこと言わせたままにはしておかない!
こっそり自嘲していた千雪だが、その声は聞いただけでついついカッときてしまう。
よりによって、顔を見たくもない相手とどうしてこんなところで出くわしてしまうのか。
「ええ、一応、雑誌で連載なんかやってるんで、色々忙しいんです」
振り返ると速水とその後ろには文子が立っていた。
「まあ、連載? 何ていう雑誌ですか?」
にこやかに尋ねられて、千雪は一瞬言葉を捜す。
「軽いミステリー雑誌です。失礼します」
「そりゃ、楽しみだな~、名探偵」
眼鏡越しにジロリと速水を睨みつけてその横を通り過ぎるが、あまり効果はなかったようだ。
それにしても、あの才色兼備な文子と京助をくっつけようという速水の判断は正しいのではないか、と千雪はぼんやり考える。
京助と言えば、今朝、狭いベッドの上で圧し掛かるようにして眠っていたので、千雪はその下から這い出し、そのまま蹴り落としてやったのを思い出して、また腹が立つ。
夕べは京助がワインや材料を持参して、夕食に作ってくれたビーフシチュウもワインも美味かったのはよかったのだが、結局ベッドに引っ張られ、お陰で身体はガタガタ、一限目からあった講義にもようやく間に合った。
でも、シャワーを浴びて出てくると、いつものように京助がスクランブルエッグとトマトのオープンサンドや、コーヒーを用意してくれていて。
きっと俺は、そんな風にこの先京助がかまってくれなくなることが嫌で、文子や京助の女とかいわれる存在がうっとおしい思うだけなんや。
文子を見るたびに、モヤモヤする自分の気持ちをあらためて考えてみる。
これは俺の我侭や。
京助とよう噂されてた華道家元の娘とかは見るからに遊びや思うけど、文子さんて、ほんまに非の打ち所がないやん。
第一、京助が何で俺にそこまで執着するんか、ちっともわからん。
俺なんかコスプレ脱いだら、我侭やしきついし、できるこというたら、お前のご学友の言うように探偵小説書くことくらいやで。
京都でも、京都から戻ってからも、京助のヤツ前よりべたべたしてきよって。
俺も京助のこと好きやし、京助も俺のこと好きやいうんはわかるけど、それってやっぱ馴れ合いの延長、友達の延長やろ?
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