真夜中の恋人

chatetlune

文字の大きさ
19 / 42

真夜中の恋人 19

しおりを挟む
「携帯、鳴ってるで」
「ほっとけ」
「教授のお呼び出しとちゃうか?」
 ちっと舌打ちして京助は携帯をポケットから取り出した。
「……はい、わかりました」
 緊急ですぐ来るようにという教授のお達しである。
「それ、食ったら、ちゃんと帰れよ」
 のんびりと、クレーム・ブリュレを口に持っていく千雪にそう言うと、コーヒーを一口飲んでから京助は慌てて席を立つ。
 と思いきや、千雪に覆いかぶさるようにすばやくキスをした。
「アホ! 人が見てるやろ!」
「わかりゃしねぇよ」
 笑いながら京助はレジに向かう。
「気ぃつけや」
 店を出ていく京助の後ろ姿を見送った千雪は、京助の唇の名残にほんの少し寂しくなった。
 何日ぶりかで言葉を交わした京助はいつもの京助だったし、何となくほっとしたからか、朝からの鬱々とした気分もいつの間にか消えていた。
 相変わらずストーカーまがいに待ち伏せとか、呆れるのだが。
 ちょっと笑みを浮かべて、千雪はコーヒーを飲む。
「いやあ、ようやく会えたな」
 いきなり現れた影が、京助の座っていた椅子に腰を降ろした。
 驚いて千雪は目を見張る。
「京助のやつ、君を紹介もしてくれないし、部屋も使わせない、出て行けだからな」
 どうしてここに速水が現れたのかと、千雪は考えを巡らせる。
「ガキの頃からの親友にだぜ? いくら何でもそれはないと思わないか?」
 速水はギャルソンを捕まえてコーヒーをオーダーする。
「君は? 何か飲む?」
 口を閉ざしている千雪に、速水は尋ねる。
「こう見えて俺も割りと資産家の生まれなんだ。HCCコーヒーって知ってる? 社長が俺のオヤジで、俺は三男坊。今はね、拠点をボストンにしているが、そろそろ東京に部屋でも買おうとは思ってるんだ」
 何が言いたいんや? こいつ。
 千雪は怪訝な表情を隠すこともなく、速水を睨みつける。
「株主だし、あのくらいの部屋ならすぐにも買える」
 速水はじっと千雪を見つめながらうっすらと笑う。
「何なら君の好きな部屋を選んでくれていい。部屋は君の自由に使っていいし、小遣いも好きなだけやるし、どうだ? 俺と付き合わないか?」
 何を言い出すかと思ったら、一体全体どういうつもりや?
「OKなんて言うと思うのんか?」
 スパッと切り返されたものの、速水は怯まない。
「どうして? そんなに京助はよくしてくれるわけ? あいつ、タラシだから、いつ捨てられるかわかったもんじゃないぜ? そこ行くと俺はマジになったら絶対大事にしてやるぜ?」
「あんた、日本語もわかれへん? 誰があんたなんかて言うてるんやで?」
 千雪はじっと速水を見据えて言うと、ヘルメットを持って立ち上がる。
 ところが、その腕を速水ががしっと掴む。
「まあまあ、あの京助をその美貌と一体どんな手練手管でたらしこんだか知らないが、京助といえば東洋グループ会長の御曹司だ、なかなかすごいの捕まえたよな? だが、どうせ援助目的だろ? 京助なんかより俺の方がずっといい目を見させてやるぜ?」
 思わずぶん殴ってやりたいところを、深呼吸して千雪は何とか堪えた。
「あんた、自分で言うてて、ようも恥ずかしないな?」
 侮蔑の視線を向けながら千雪は速水を椅子に突き飛ばして腕を離す。
「ほんまに、京助のダチだけのことはあるわ」
 ひと睨みすると、千雪はそのまま店を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

過去のやらかしと野営飯

琉斗六
BL
◎あらすじ かつて「指導官ランスロット」は、冒険者見習いだった少年に言った。 「一級になったら、また一緒に冒険しような」 ──その約束を、九年後に本当に果たしに来るやつがいるとは思わなかった。 美形・高スペック・最強格の一級冒険者ユーリイは、かつて教えを受けたランスに執着し、今や完全に「推しのために人生を捧げるモード」突入済み。 それなのに、肝心のランスは四十目前のとほほおっさん。 昔より体力も腰もガタガタで、今は新人指導や野営飯を作る生活に満足していたのに──。 「討伐依頼? サポート指名? 俺、三級なんだが??」 寝床、飯、パンツ、ついでに心まで脱がされる、 執着わんこ攻め × おっさん受けの野営BLファンタジー! ◎その他 この物語は、複数のサイトに投稿されています。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...