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真夜中の恋人 21
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千雪はふーっとひとつ溜息をつくと、人垣を掻き分けてつかつかと二人の前に立った。
「ええ加減にせぇよ! ええ年して、アホちゃうか」
はっと我に返ったように、京助は千雪を見た。
「千雪、お前!」
京助は千雪の顔を見た途端、いきなり今度は千雪の両肩を掴んだ。
「お前、夕べ、こいつについて行ったのか?」
耳元で唸るように京助は尋ねた。
「はあ?」
千雪は一瞬京助が言ったことを心の中で反芻した。
そしてすぐにそれがどういうことか、どうやら速水が京助にそれらしいことを言い、頭に血がのぼった京助がカッとなって速水を殴ったのだと察した。
「どアホ!」
千雪は京助を押し戻す。
「うわ、もう、昼休み終わってしまうやんか!」
腕時計を見て、千雪は焦って二人に背を向けた。
「ほんまに、くだらないことで大騒ぎして、ようも恥ずかしないな?! 先輩方!」
ちょっと振り返り、そう言い放つと、千雪はたったか次の講義のある教室へと足早に向かう。
やってられへん!
夕べのことと言い、千雪はますます怒りが収まらない。
あの速水ってヤツ、どこまで人をコケにすんのや!
京助も京助や! 俺があんな男に何でわざわざついて行かなんのや!
冗談もほどほどにせいや! 大体、何で俺がこない腹立てなあかんね!
やはり京助にかかわりあうとロクな目に合わないということだろう、とにかくとばっちりはゴメンだと、千雪は心の中で京助に対してまた悪態をついた。
講義が終わり、研究室に戻ってから、千雪はひたすらノートパソコンに向かってレポートを急がせていた。
電話が鳴ったのは六時近くになってからである。
「小林、電話だ」
先輩の助教岡村に言われて千雪は顔を上げた。
「よう、久しぶりやな」
その声には聞き覚えがあった。
「ひょっとして、三田村か?」
中学からの付き合いだが、声を聞くのは高校卒業以来である。
生徒会長をやった男で、高校二年の時は同じクラスだった。
「おう、久々会わへん? 俺、海外赴任ようやっと終わって、東京本社になったよって」
「ドイツやったか? こないだ桐島に会うた」
「やってな。どうせなら名探偵小林千雪のコスプレ、見たいし」
電話口で笑っているのが伝わってくる。
「何やね、それ。見せもんやないからな」
「いや、お前のコスプレ言うたら、二年の時の金髪のお姫様以来やしな」
思い出したくもない黒歴史を掘り出されて、千雪はうっと言葉に詰まる。
「無理やりやらせた本人が何言うてんねや」
「ほな、楽しみにしてるし。日にちまた連絡する」
三田村のやつ、今のコスプレ見て、絶対笑う気満々や。
二年の時、学園祭で寸劇をやることになり、みんなをうまく乗せて、千雪にドレスを着せた張本人だ。
相変わらず強引で勝手なヤツや。
それに昔から色々と三田村とは因縁があった。
どちらかというと三田村は千雪をからかうのを生きがいにしていたようなやつだが、ここのところ無意味にイラついている千雪にとっては楽しみな再会となった。
いい加減、ミステリー雑誌の原稿をあげなくてはならないと、夕方、千雪は研究室を後にして、あたふたとアパートへ向かっていた。
アパートの階段まできて、よく知っている顔が立っているのに気づいた。
「待てよ、千雪!」
無視して階段をあがろうとした千雪に、京助は声をかけた。
「あいつが帰るまで来るな、言うたはずや」
構わず階段を上がり、ドアの鍵を開けようとする千雪に追いすがり、京助は肩を掴む。
「あいつに話す」
「何を?」
千雪は振り返る。
「お前と俺のことだ」
唖然として千雪は京助を見上げた。
「何て? 第一、あんなしょうもないヤツとようダチでいられるな? 夕べ、お前の後をつけてたんか知らんけど、お前が帰った後、俺を誘ってきよったで? いかに自分が金持ちか力説して、金で釣るとか、呆れてぶん殴る気ぃもおきんかったわ」
それを聞くと京助の中にまた速水への怒りが沸々とこみ上げる。
もちろん、京助も速水が自分に言ったことを真に受けていたわけではない。
千雪が怒るのは当然だと思う。
「お前の素性を知らないから、あいつは誤解しているんだ」
「ふーん、素性を知らなければ、俺はお前に援交目的で近づいたタチの悪い援交ボーイってわけや?」
思い切り皮肉って千雪は京助を睨み付けた。
「そんなことは言ってねぇだろ?!」
「少なくともお前のご学友はそうとしか思われへんみたいやで?」
「俺はお前とは本気だと言った。だから、はっきり話す。俺が付き合っているのはお前だって」
千雪は一つ大きな溜息をついた。
「千歩譲って、お前がそんなことを言うたから、あいつは援交目的の男にイカレてるらしいお前のことを心配して、俺のことお前から引き離そうとして、呆れたことを言ってきたとする」
「俺は……」
京助が何かを言いかけたが、それを千雪は制して続けた。
「そこで、お前が実はと俺の素性を言うたとして、あいつが今度は何を言うか、大概予想はつくやろ? たかが探偵小説書きに、お前は騙されとるんや」
千雪は京助を見据えて断言した。
「一万歩譲って、男に騙されてるお前をまっとうにしたったろう、思て、あいつが寝ぼけたことを言うたんやとして、お前がご学友のために取るべき最良の手段は、文子さんとより戻すことやない?」
「お前、聞いてりゃいい加減にしろよ! 俺は彼女とはきっぱり何でもないといったはずだ! それ以前に、お前を……」
「でかい声出すなや!」
千雪に睨みつけられて、京助は苦々しい顔で口を噤む。
「ええ加減にせぇよ! ええ年して、アホちゃうか」
はっと我に返ったように、京助は千雪を見た。
「千雪、お前!」
京助は千雪の顔を見た途端、いきなり今度は千雪の両肩を掴んだ。
「お前、夕べ、こいつについて行ったのか?」
耳元で唸るように京助は尋ねた。
「はあ?」
千雪は一瞬京助が言ったことを心の中で反芻した。
そしてすぐにそれがどういうことか、どうやら速水が京助にそれらしいことを言い、頭に血がのぼった京助がカッとなって速水を殴ったのだと察した。
「どアホ!」
千雪は京助を押し戻す。
「うわ、もう、昼休み終わってしまうやんか!」
腕時計を見て、千雪は焦って二人に背を向けた。
「ほんまに、くだらないことで大騒ぎして、ようも恥ずかしないな?! 先輩方!」
ちょっと振り返り、そう言い放つと、千雪はたったか次の講義のある教室へと足早に向かう。
やってられへん!
夕べのことと言い、千雪はますます怒りが収まらない。
あの速水ってヤツ、どこまで人をコケにすんのや!
京助も京助や! 俺があんな男に何でわざわざついて行かなんのや!
冗談もほどほどにせいや! 大体、何で俺がこない腹立てなあかんね!
やはり京助にかかわりあうとロクな目に合わないということだろう、とにかくとばっちりはゴメンだと、千雪は心の中で京助に対してまた悪態をついた。
講義が終わり、研究室に戻ってから、千雪はひたすらノートパソコンに向かってレポートを急がせていた。
電話が鳴ったのは六時近くになってからである。
「小林、電話だ」
先輩の助教岡村に言われて千雪は顔を上げた。
「よう、久しぶりやな」
その声には聞き覚えがあった。
「ひょっとして、三田村か?」
中学からの付き合いだが、声を聞くのは高校卒業以来である。
生徒会長をやった男で、高校二年の時は同じクラスだった。
「おう、久々会わへん? 俺、海外赴任ようやっと終わって、東京本社になったよって」
「ドイツやったか? こないだ桐島に会うた」
「やってな。どうせなら名探偵小林千雪のコスプレ、見たいし」
電話口で笑っているのが伝わってくる。
「何やね、それ。見せもんやないからな」
「いや、お前のコスプレ言うたら、二年の時の金髪のお姫様以来やしな」
思い出したくもない黒歴史を掘り出されて、千雪はうっと言葉に詰まる。
「無理やりやらせた本人が何言うてんねや」
「ほな、楽しみにしてるし。日にちまた連絡する」
三田村のやつ、今のコスプレ見て、絶対笑う気満々や。
二年の時、学園祭で寸劇をやることになり、みんなをうまく乗せて、千雪にドレスを着せた張本人だ。
相変わらず強引で勝手なヤツや。
それに昔から色々と三田村とは因縁があった。
どちらかというと三田村は千雪をからかうのを生きがいにしていたようなやつだが、ここのところ無意味にイラついている千雪にとっては楽しみな再会となった。
いい加減、ミステリー雑誌の原稿をあげなくてはならないと、夕方、千雪は研究室を後にして、あたふたとアパートへ向かっていた。
アパートの階段まできて、よく知っている顔が立っているのに気づいた。
「待てよ、千雪!」
無視して階段をあがろうとした千雪に、京助は声をかけた。
「あいつが帰るまで来るな、言うたはずや」
構わず階段を上がり、ドアの鍵を開けようとする千雪に追いすがり、京助は肩を掴む。
「あいつに話す」
「何を?」
千雪は振り返る。
「お前と俺のことだ」
唖然として千雪は京助を見上げた。
「何て? 第一、あんなしょうもないヤツとようダチでいられるな? 夕べ、お前の後をつけてたんか知らんけど、お前が帰った後、俺を誘ってきよったで? いかに自分が金持ちか力説して、金で釣るとか、呆れてぶん殴る気ぃもおきんかったわ」
それを聞くと京助の中にまた速水への怒りが沸々とこみ上げる。
もちろん、京助も速水が自分に言ったことを真に受けていたわけではない。
千雪が怒るのは当然だと思う。
「お前の素性を知らないから、あいつは誤解しているんだ」
「ふーん、素性を知らなければ、俺はお前に援交目的で近づいたタチの悪い援交ボーイってわけや?」
思い切り皮肉って千雪は京助を睨み付けた。
「そんなことは言ってねぇだろ?!」
「少なくともお前のご学友はそうとしか思われへんみたいやで?」
「俺はお前とは本気だと言った。だから、はっきり話す。俺が付き合っているのはお前だって」
千雪は一つ大きな溜息をついた。
「千歩譲って、お前がそんなことを言うたから、あいつは援交目的の男にイカレてるらしいお前のことを心配して、俺のことお前から引き離そうとして、呆れたことを言ってきたとする」
「俺は……」
京助が何かを言いかけたが、それを千雪は制して続けた。
「そこで、お前が実はと俺の素性を言うたとして、あいつが今度は何を言うか、大概予想はつくやろ? たかが探偵小説書きに、お前は騙されとるんや」
千雪は京助を見据えて断言した。
「一万歩譲って、男に騙されてるお前をまっとうにしたったろう、思て、あいつが寝ぼけたことを言うたんやとして、お前がご学友のために取るべき最良の手段は、文子さんとより戻すことやない?」
「お前、聞いてりゃいい加減にしろよ! 俺は彼女とはきっぱり何でもないといったはずだ! それ以前に、お前を……」
「でかい声出すなや!」
千雪に睨みつけられて、京助は苦々しい顔で口を噤む。
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