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真夜中の恋人 25
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「女子らの間でもう、大問題になってたんよ。いつの間にか小林くんの第二ボタンなくなってたて。それが不思議なことにてっきり江美子さんにあげたんやと思て聞いたら、江美子さんも知らん言うし。江美子さんやったら、小林くんとのこと誰もが認めてたし、もろたのに嘘つく理由ないでしょ?」
妙なところで妙なことを突っ込まれ、千雪はしばし躊躇した。
「あれは………ボタン欲しい女の子に襲われるぞとか脅かされて、あらかじめ自分で取ったんや。まさかとは思うとったけど、他のボタン二つもいきなり毟り取られたんやで?」
「ふうん。ほんまなん?」
桐島にまだ疑いの眼差しで見つめられて、千雪は思わず大きく頷いた。
本当のことはもう誰にも話すことはないだろう。
あいつのボタンを俺が一番欲しかったから交換したんやと。
引き出しの奥にある、あのボタンとともにもうこれからずっと大切に仕舞いこんでおくだけだ。
「そういえば、千雪、小説映画になるんやて? すごいやん」
話題を切り替えたのは三田村だ。
「あ、ああ、まだどないなるかわからんけど」
「誰が出るんや? もう決まったんか?」
ひとしきり映画の話で盛り上がったが、九時を過ぎた頃、桐島がリサイタルに備えて準備があるからそろそろ帰ると言うので、とりあえず店を出た。
「おやすみなさい、またね、小林くん」
「ああ、またな」
桐島をタクシーに乗せた後、三田村と千雪は少し歩いた。
「そういえば、映画のプロデューサの事務所、ここからすぐや」
乃木坂の駅へと続く道すじに、青山プロダクションがある。
「へえ」
「小野万里子と志村嘉人はそこの所属」
「ほんまか? ほな、行ってみよや」
唐突に三田村がそんなことを言い出した。
「何しに? 行ったかて、もう九時過ぎてるし」
「まあまあ、明日は土曜日、休みやし。あ、けど、お前、例の名探偵のなりせんとあかんのんか?」
嬉々として三田村が問う。
「社長の工藤さんは知ってはるからええんや」
千雪はフンとばかりに否定する。
「なんや、そうなん。まあ、ええやん、行ってみよや」
三田村は千雪の腕に腕を絡ませ、酔いもあってか浮き浮きと歩き出す。
空を見上げると、明るい月がぽっかりと浮かんでいる。
そのまま視線を下げると、青山プロダクションのビルが見え、二階のオフィスにはまだ煌々と灯りがついているのに千雪は気づいた。
「まだ、誰かいたはるみたいやな」
千雪がそう呟いた時、ちょうど傍らを滑るように走り込んできた車がビルの駐車場に入っていった。
「おう、やっぱりお前か。今度はその男に乗り換えたのか?」
ビルの前に差し掛かった時、そんな声がかかり、千雪は溜息を一つこぼす。
「高校の同級生です。ええ加減なこと言わんといてください。久しぶりに会うて、近くの店で飲んでたんです」
「ほう? 寄っていけよ。万里子もいるぜ」
「ほんまに? お邪魔します」
千雪より先に三田村がいそいそと工藤の後に続く。
「あ、俺、三田村といいます」
「工藤だ」
「おい、三田村、お前、そない芸能人好きやったか?」
千雪は浮かれまくりの三田村のあとから仕方なくオフィスへ続いた。
妙なところで妙なことを突っ込まれ、千雪はしばし躊躇した。
「あれは………ボタン欲しい女の子に襲われるぞとか脅かされて、あらかじめ自分で取ったんや。まさかとは思うとったけど、他のボタン二つもいきなり毟り取られたんやで?」
「ふうん。ほんまなん?」
桐島にまだ疑いの眼差しで見つめられて、千雪は思わず大きく頷いた。
本当のことはもう誰にも話すことはないだろう。
あいつのボタンを俺が一番欲しかったから交換したんやと。
引き出しの奥にある、あのボタンとともにもうこれからずっと大切に仕舞いこんでおくだけだ。
「そういえば、千雪、小説映画になるんやて? すごいやん」
話題を切り替えたのは三田村だ。
「あ、ああ、まだどないなるかわからんけど」
「誰が出るんや? もう決まったんか?」
ひとしきり映画の話で盛り上がったが、九時を過ぎた頃、桐島がリサイタルに備えて準備があるからそろそろ帰ると言うので、とりあえず店を出た。
「おやすみなさい、またね、小林くん」
「ああ、またな」
桐島をタクシーに乗せた後、三田村と千雪は少し歩いた。
「そういえば、映画のプロデューサの事務所、ここからすぐや」
乃木坂の駅へと続く道すじに、青山プロダクションがある。
「へえ」
「小野万里子と志村嘉人はそこの所属」
「ほんまか? ほな、行ってみよや」
唐突に三田村がそんなことを言い出した。
「何しに? 行ったかて、もう九時過ぎてるし」
「まあまあ、明日は土曜日、休みやし。あ、けど、お前、例の名探偵のなりせんとあかんのんか?」
嬉々として三田村が問う。
「社長の工藤さんは知ってはるからええんや」
千雪はフンとばかりに否定する。
「なんや、そうなん。まあ、ええやん、行ってみよや」
三田村は千雪の腕に腕を絡ませ、酔いもあってか浮き浮きと歩き出す。
空を見上げると、明るい月がぽっかりと浮かんでいる。
そのまま視線を下げると、青山プロダクションのビルが見え、二階のオフィスにはまだ煌々と灯りがついているのに千雪は気づいた。
「まだ、誰かいたはるみたいやな」
千雪がそう呟いた時、ちょうど傍らを滑るように走り込んできた車がビルの駐車場に入っていった。
「おう、やっぱりお前か。今度はその男に乗り換えたのか?」
ビルの前に差し掛かった時、そんな声がかかり、千雪は溜息を一つこぼす。
「高校の同級生です。ええ加減なこと言わんといてください。久しぶりに会うて、近くの店で飲んでたんです」
「ほう? 寄っていけよ。万里子もいるぜ」
「ほんまに? お邪魔します」
千雪より先に三田村がいそいそと工藤の後に続く。
「あ、俺、三田村といいます」
「工藤だ」
「おい、三田村、お前、そない芸能人好きやったか?」
千雪は浮かれまくりの三田村のあとから仕方なくオフィスへ続いた。
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