真夜中の恋人

chatetlune

文字の大きさ
25 / 42

真夜中の恋人 25

しおりを挟む
「女子らの間でもう、大問題になってたんよ。いつの間にか小林くんの第二ボタンなくなってたて。それが不思議なことにてっきり江美子さんにあげたんやと思て聞いたら、江美子さんも知らん言うし。江美子さんやったら、小林くんとのこと誰もが認めてたし、もろたのに嘘つく理由ないでしょ?」
 妙なところで妙なことを突っ込まれ、千雪はしばし躊躇した。
「あれは………ボタン欲しい女の子に襲われるぞとか脅かされて、あらかじめ自分で取ったんや。まさかとは思うとったけど、他のボタン二つもいきなり毟り取られたんやで?」
「ふうん。ほんまなん?」
 桐島にまだ疑いの眼差しで見つめられて、千雪は思わず大きく頷いた。
 本当のことはもう誰にも話すことはないだろう。
 あいつのボタンを俺が一番欲しかったから交換したんやと。
 引き出しの奥にある、あのボタンとともにもうこれからずっと大切に仕舞いこんでおくだけだ。
「そういえば、千雪、小説映画になるんやて? すごいやん」
 話題を切り替えたのは三田村だ。
「あ、ああ、まだどないなるかわからんけど」
「誰が出るんや? もう決まったんか?」
 ひとしきり映画の話で盛り上がったが、九時を過ぎた頃、桐島がリサイタルに備えて準備があるからそろそろ帰ると言うので、とりあえず店を出た。
「おやすみなさい、またね、小林くん」
「ああ、またな」
 桐島をタクシーに乗せた後、三田村と千雪は少し歩いた。
「そういえば、映画のプロデューサの事務所、ここからすぐや」
 乃木坂の駅へと続く道すじに、青山プロダクションがある。
「へえ」
「小野万里子と志村嘉人はそこの所属」
「ほんまか? ほな、行ってみよや」
 唐突に三田村がそんなことを言い出した。
「何しに? 行ったかて、もう九時過ぎてるし」
「まあまあ、明日は土曜日、休みやし。あ、けど、お前、例の名探偵のなりせんとあかんのんか?」
 嬉々として三田村が問う。
「社長の工藤さんは知ってはるからええんや」
 千雪はフンとばかりに否定する。
「なんや、そうなん。まあ、ええやん、行ってみよや」
 三田村は千雪の腕に腕を絡ませ、酔いもあってか浮き浮きと歩き出す。
 空を見上げると、明るい月がぽっかりと浮かんでいる。
 そのまま視線を下げると、青山プロダクションのビルが見え、二階のオフィスにはまだ煌々と灯りがついているのに千雪は気づいた。
「まだ、誰かいたはるみたいやな」
 千雪がそう呟いた時、ちょうど傍らを滑るように走り込んできた車がビルの駐車場に入っていった。
「おう、やっぱりお前か。今度はその男に乗り換えたのか?」
 ビルの前に差し掛かった時、そんな声がかかり、千雪は溜息を一つこぼす。
「高校の同級生です。ええ加減なこと言わんといてください。久しぶりに会うて、近くの店で飲んでたんです」
「ほう? 寄っていけよ。万里子もいるぜ」
「ほんまに? お邪魔します」
 千雪より先に三田村がいそいそと工藤の後に続く。
「あ、俺、三田村といいます」
「工藤だ」
「おい、三田村、お前、そない芸能人好きやったか?」
 千雪は浮かれまくりの三田村のあとから仕方なくオフィスへ続いた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...