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真夜中の恋人 31
しおりを挟むAct 8
朝から雲ひとつない青空が広がっていた。
時折、こんな日に部屋の中にいなければならない状況を嘆きたくなる。
パソコンの画面を睨みつけながら、思わずあくびが出てしまう。
仕方なく、缶コーヒーを買ってきた千雪は、椅子に座るとプルトップを引いた。
「随分お疲れのようだね」
助教と話し込んでいた宮島教授に声をかけられ、千雪は苦笑してコーヒーを飲む。
夕べは結局ファミレスで渋谷の話を聞きながら二人だけの作戦会議となり、今朝は今朝で一芝居うってきたところだった。
何やら一芝居、というキーワードが昨日からついて回っている。
下手くそな英語を使うよりはマシだったものの、何で俺が? という疑問も起きないではない。
事件の方は渋谷がひとりで調べまわっていたのだが、昨夜の渋谷の話では無罪を主張している被疑者真山には不利な状況が続いていた。
老女が殺害されたと推測される夜八時から九時の間、真山は渋谷をふらついていたと証言しているが、それを証明してくれる者はなく、唯一、真山がホテル街で知ってる女を見かけたというのだが、聞き込みに出向いた刑事によると、女は真っ向から否定した。
女は真山とは高校時代のクラスメイトだという話だが、今は上流家庭の主婦で幼稚園に通う子供がいる。
その時間は大学の友人とその友人の家で食事をしていたというのだ。
「真山が見たと主張している女友達は頑として知らないの一点張りで。でも否定するのも当然かなと。ダンナは衆議院議員の息子で秘書なんですよ、で、次期衆院選には父親の地盤を継いで立候補予定とかで。ホテル街にいたなんてね」
「口が裂けても言わへんやろな」
「浮気相手特定するのもちょっと時間がかかりますからね」
しかも、足が不自由な老女のところに通っていた介護士から、真山が老女の家近くの公園の植え込みに何かを押し込む姿を見たという証言が得られ、捜索したところ血のついたジャケットと包丁が発見され、それが老女のキッチンから持ち出されたもので、凶器であることに間違いはないのだった。
ジャケットは真山の物だと判明している。
包丁はふき取られていたせいで指紋は発見されなかった。
さらに聞き込みをしたところ、何人かが老女宅の周囲で真山を見たと証言している。
ただ、真山はちょくちょく老女宅に出入りしていたし、渋谷が再度聞き込みをすると、真山を見たという証言が必ずしも事件のあった日のことではないかも知れない可能性が出てきた。
「預金通帳とかには手をつけてないけど、最近バイト先の店が潰れて金に困っていたとかって知人の証言もあって、動機を考えると、真山しかいないってことになってしまうんだよな……」
老女が亡くなった場合、真山の両親も亡くなっている今、老女には他に子供もいないため、真山が土地家屋含めて約五千万相当という唯一の老女の遺産相続人であることで警察は真山の容疑を確信していた。
だが、真山が犯人ではないと仮定した場合、真山が何かを老女の家近くの公園の植え込みに何かを押し込む姿を見たという介護士の証言は嘘かあるいは見間違いだということになる。
それに真山が犯人なら、そんな人が見ているかもしれないような植え込みなどに証拠となる自分のジャケットや狂気を隠すだろうか。
もっと誰にもわからないようなところに隠滅するのではないかと思うのだが、警察は慌てていれば何をするかもわからないという見立てのようだ。
ともあれ、渋谷はこの老女の介護士の田辺という男を調べていた。
田辺は几帳面な性格で、仕事ぶりもまじめで評判もいい、何も問題は見当たらない。
さらにこの田辺が老女を殺す動機がないのだ。
だが、老女のかかりつけの病院に足を運ぶうち、待合室で集う老人たちの中に老女をよく知る者がいて、渋谷は気になる話を聞いた。
「そういえば、昔、まだあの人、歩いてここに通ってた頃、言ってたのよ。いざとなった時のために、ちゃんと手元にそこそこのものは持ってるんだからって」
「というと?」
渋谷は目を見開いた。
「現金、どこか手元に隠してたみたいよ」
「いくらくらいとかは?」
「さあ、そこまでは知らないわよ」
また、田辺が今働いている施設の中では、先頃田辺と婚約したフィアンセも働いているという話も耳にした。
「ほら、婚約指輪もらったって、うきうきしてる」
髪をまとめ、清楚な雰囲気の若い介護士が、明るい表情で、車椅子を押していくのを、渋谷は目で追った。
「彼女ですか?」
「そ、ねえ、あの指輪、安くはないわね」
「さり気なく、自慢してたもんね」
同僚の介護士仲間の話から聞き出したところによると、割と最近まで二人はぎくしゃくしていたのが、最近、婚約指輪をもらい、結婚の日取りも決めたようだという。
俄然、渋谷の中では、この田辺に対する疑惑が大きくなってきたのだが、いかんせん時間がない。
そこでいちかばちか、顔を知られていない千雪がまた下手くそな小芝居をうつことになったのだ。
「警視庁に知り合いがいてちょっと小耳に挟んだんですけど、あの殺された木本っておばあさん、ベッドの下かどこかに大枚のへそくりを隠していたって話ですよ。ヘルパーに行かれてたんですよね? そんな話聞きませんでした?」
淵無しの眼鏡をかけ、ラフなジャケットとパンツという、なるべく記者っぽい服装で朝早くから施設の田辺を訪ねた千雪は、適当な名刺を作って渡し、スポーツ誌のライターだと名乗ってちょっとかまをかけてみた。
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