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真夜中の恋人 40
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演目はドビュッシーとショパンで構成され、ショパンのよく知られたマズルカから始まり、ドビュッシーのプレリュードを挟んで最後はショパンのピアノソナタで締めくくられた。
アンコールの拍手が鳴り止まず、観客は大いに満足した様子だった。
「私、ドビュッシーがよかったわ。あのね…」
拍手が小さくなった頃、文子が演奏前の話を続けた。
「京助さんの大事な人って、わかった気がする」
こんなことを口にすると、また差別だ何だと非難されそうだが、女ってのは心理学者でも話がやっぱり飛躍するものなのかと新たに認識しつつ、速水は文子の整った横顔を眺めた。
「ほんとはちゃんと言葉で聞こうかと思ってたんだけど、京助さんて、一目瞭然なのね、行動パターンが。でも、桐島さんのピアノなのに、どうして彼は来てないのかしら?」
小首を傾げる文子に、速水は肩を落とした。
「君は優秀な心理学者だ。俺は見かけに騙される周りの連中と同レベルの目でしか見られないバカ学者だ」
「やあね、どうしちゃったの? いつも自信満々なのが速水くんなのに」
文子はふふふと笑う。
「楽屋に行く約束してるの。振られたからって行かないとか、ないわよね?」
立ち上がる文子を見上げて、速水は一つ溜息をつく。
「その残酷さは無邪気なのか冷静なのか……」
ブツブツと口にしながら文子に従う速水に、文子はまた笑った。
「文子さん、さっきの話の続きだが……」
楽屋に向かう廊下で速水は言った。
「京助って男はガキの頃から、見かけで誰かを判断するとか、ないやつだった。高校の時に付き合ってた子は、チャーミングだが別にすごい美人ではなかった。たまたま、その子の親が東洋グループの社員だったために、やつの身内が栄転と称してヨーロッパに飛ばしたんだ」
「まあ、どういうこと?」
急に京助の人となりのようなことを説明し始めた速水に、文子は怪訝な顔で聞いた。
「やつには不釣合いな身分だとかって」
「ひどいわ、それ!」
憤慨して文子の声が少し大きくなる。
「どこからかそのことがやつの耳に入っちまって……」
「ひょっとして、京助さん、その身内を殴っちゃったとか?」
速水は呆れて文子を見つめた。
「聞いたことあった?」
「いいえ、でもやりそうじゃない? 京助さんの行動パターンからすると」
速水は畏れ入ってただ頷いた。
「残念ながらそこでその子とは終わってしまったが……。そんな京助に相手がついていけなかったのかもな。いや、言いたいのは京助が粗暴なやつだってことじゃないんだ。つまり京助は見てくれで人を判断しないってことだ」
「それはわかるわ。でも小林さんて、近くで見ると可愛いのにね」
「可愛い……か。おそらく京助も付き合っててそう思ったんだろ」
速水は思わず大きな溜息をついた。
「そうよ。かっこ悪さを強調したようなあの妙な風貌が異質過ぎるものだから、誰かが臭いだのオヤジだのと噂して広まって定着してしまったんだと思うけど、臭くなんてないし、どちらかというといつも清潔でいい匂いよ、彼」
文子は断言した。
「参ったな……俺は益々通り一遍の見方しかできない役立たずな気がしてきた」
速水は一つ大きく溜息をついた。
「むしろ………あの極端な身なりには何か意図を感じるのよ。多分、理由があってわざとあんな身なりをしているんじゃないかしら?」
「脱帽だ。俺は名探偵に負けたが、君は勝てるかもな」
文子は笑った。
「私の周りにはすぐ勝ち負けで物を判断する人ばっかだわ」
しかし女はやっぱり強いなと改めて感心しつつ、颯爽と歩く文子の後姿を眺めながら速水は廊下を歩いていたが、やがて控え室が見えてきた。
中からは何人かの笑い声が漏れていた。
「それは多分高校二年の文化祭の時やと思います。うちと小林くんとでジャズの連弾やった時ですよね?」
「そうだったわ。その時にお目にかかったのよね?」
「あいつ、ピアノなんか弾けるのか?」
「ええ。そういえば、あの文化祭で千雪くん、クラスの出し物で無理やりお姫様やらされて」
「思い出したわ、白雪姫?」
「違います、千雪姫と七人のヤンキー」
「やだ、あれ、あの脚本、三田村くんが書いたんよね、ひどい脚本」
「それはないやろ、桐島」
そこへ文子と速水が顔を覗かせると、中にいた面々が振り向いた。
「文子さん、速水さん、お忙しいところ今日はありがとうございます」
桐島が笑顔で二人を迎え入れた。
「恵美さん、ほんとに素敵だったわ。こちらこそありがとうございます」
文子が言った。
「いい音楽を聴いて、狭い心が豊かになった気がしますよ」
速水も賛辞の言葉を口にした。
アンコールの拍手が鳴り止まず、観客は大いに満足した様子だった。
「私、ドビュッシーがよかったわ。あのね…」
拍手が小さくなった頃、文子が演奏前の話を続けた。
「京助さんの大事な人って、わかった気がする」
こんなことを口にすると、また差別だ何だと非難されそうだが、女ってのは心理学者でも話がやっぱり飛躍するものなのかと新たに認識しつつ、速水は文子の整った横顔を眺めた。
「ほんとはちゃんと言葉で聞こうかと思ってたんだけど、京助さんて、一目瞭然なのね、行動パターンが。でも、桐島さんのピアノなのに、どうして彼は来てないのかしら?」
小首を傾げる文子に、速水は肩を落とした。
「君は優秀な心理学者だ。俺は見かけに騙される周りの連中と同レベルの目でしか見られないバカ学者だ」
「やあね、どうしちゃったの? いつも自信満々なのが速水くんなのに」
文子はふふふと笑う。
「楽屋に行く約束してるの。振られたからって行かないとか、ないわよね?」
立ち上がる文子を見上げて、速水は一つ溜息をつく。
「その残酷さは無邪気なのか冷静なのか……」
ブツブツと口にしながら文子に従う速水に、文子はまた笑った。
「文子さん、さっきの話の続きだが……」
楽屋に向かう廊下で速水は言った。
「京助って男はガキの頃から、見かけで誰かを判断するとか、ないやつだった。高校の時に付き合ってた子は、チャーミングだが別にすごい美人ではなかった。たまたま、その子の親が東洋グループの社員だったために、やつの身内が栄転と称してヨーロッパに飛ばしたんだ」
「まあ、どういうこと?」
急に京助の人となりのようなことを説明し始めた速水に、文子は怪訝な顔で聞いた。
「やつには不釣合いな身分だとかって」
「ひどいわ、それ!」
憤慨して文子の声が少し大きくなる。
「どこからかそのことがやつの耳に入っちまって……」
「ひょっとして、京助さん、その身内を殴っちゃったとか?」
速水は呆れて文子を見つめた。
「聞いたことあった?」
「いいえ、でもやりそうじゃない? 京助さんの行動パターンからすると」
速水は畏れ入ってただ頷いた。
「残念ながらそこでその子とは終わってしまったが……。そんな京助に相手がついていけなかったのかもな。いや、言いたいのは京助が粗暴なやつだってことじゃないんだ。つまり京助は見てくれで人を判断しないってことだ」
「それはわかるわ。でも小林さんて、近くで見ると可愛いのにね」
「可愛い……か。おそらく京助も付き合っててそう思ったんだろ」
速水は思わず大きな溜息をついた。
「そうよ。かっこ悪さを強調したようなあの妙な風貌が異質過ぎるものだから、誰かが臭いだのオヤジだのと噂して広まって定着してしまったんだと思うけど、臭くなんてないし、どちらかというといつも清潔でいい匂いよ、彼」
文子は断言した。
「参ったな……俺は益々通り一遍の見方しかできない役立たずな気がしてきた」
速水は一つ大きく溜息をついた。
「むしろ………あの極端な身なりには何か意図を感じるのよ。多分、理由があってわざとあんな身なりをしているんじゃないかしら?」
「脱帽だ。俺は名探偵に負けたが、君は勝てるかもな」
文子は笑った。
「私の周りにはすぐ勝ち負けで物を判断する人ばっかだわ」
しかし女はやっぱり強いなと改めて感心しつつ、颯爽と歩く文子の後姿を眺めながら速水は廊下を歩いていたが、やがて控え室が見えてきた。
中からは何人かの笑い声が漏れていた。
「それは多分高校二年の文化祭の時やと思います。うちと小林くんとでジャズの連弾やった時ですよね?」
「そうだったわ。その時にお目にかかったのよね?」
「あいつ、ピアノなんか弾けるのか?」
「ええ。そういえば、あの文化祭で千雪くん、クラスの出し物で無理やりお姫様やらされて」
「思い出したわ、白雪姫?」
「違います、千雪姫と七人のヤンキー」
「やだ、あれ、あの脚本、三田村くんが書いたんよね、ひどい脚本」
「それはないやろ、桐島」
そこへ文子と速水が顔を覗かせると、中にいた面々が振り向いた。
「文子さん、速水さん、お忙しいところ今日はありがとうございます」
桐島が笑顔で二人を迎え入れた。
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速水も賛辞の言葉を口にした。
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