真夜中の恋人

chatetlune

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真夜中の恋人 41

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 千雪が聞いたら即座にきつく反撃されそうだと速水は見回したが、姿がない。
「ありがとうございます。お二人からのお花も届きました。お心遣いありがとうございます」
 桐島が二人に礼を言った。
「あの、大和屋の原小夜子様でいらっしゃいますわね?」
 文子は三田村の横に立っていた小夜子に声をかけた。
「はい」
 小夜子が文子を見た。
「私、大原文子と申します」
「文子さん、彼女のこと知ってるのか?」
 京助が口を挟む。
「ええ、高校時代からきれいな方がいらっしゃるって評判でしたのよ。セントマドンナとかって、男子が崇め奉ってました。私、近くの慶應なんです。お目にかかれて光栄です」
「彼女、今、うちの大学の心理学研究室にいるんです。あ、同じくこっちは速水」
 京助が小夜子に紹介すると、小夜子は柔らかな笑顔を向けた。
「速水と申します」
「まあ、それでは千雪ちゃんもお世話になっておりますわね。今後ともよろしくお願いします」
 さすがの速水も思わず息を呑むほど、小夜子には自然な美しさがあった。
「千雪ちゃん………?」
 思わず速水と顔を合わせた文子は呟いた。
「私、ぼんやりしていて、席を立つ時に携帯を落としてしまったみたいで、今、探しにいってくれてるんです、千雪ちゃん」
 おっとりと口にする小夜子は、少しくせのある豊かな黒髪をふわりと垂らし、白いサテンのワンピースが清楚だが、白百合というよりゴージャスな白バラの雰囲気で本人は無意識のうちに周囲を圧倒していた。
「ああ、彼女、千雪の従姉。千雪の母親が小夜子さんの父親の妹で」
 文子と速水に京助が小夜子の説明が足りないところをフォロウした。
「あ、そうよ、原夏緒の恋人って確か名前が小林だったわ」
「小夜ねぇ、あったで、携帯」
 文子が思い出したことを口にしたのと、千雪が携帯を拾って戻ってきたのと同時だった。
 文子と速水を見てちょっと眉を顰めた千雪の不機嫌さを覆い隠してくれたのは小夜子だった。
「あら、原夏緒をご存知ですの?」
 小夜子は文子に聞いた。
「ええ、絵を見せていただいたのは回顧展の時、一度だけですけど、どれも温かくて素敵な作品ばかりでした」
「まあ、ありがとうございます」
 小夜子の笑顔は国宝級だ、とは速水の心の声だ。
「そういえば、昔千雪くんちの居間に飾ってあったひまわりの絵、こないだはなかったよね?」
 桐島が会話に割って入った。
 春に同級生が千雪の家に集まって飲み会をやった時に卒業以来ぶりに会ったのだ。
「ああ、俺、ほとんどこっちやし、母親が世話になっとった大学の先生とかに聞いて、親父が部屋を改造して絵を保存でける倉庫にしたよって、そこに置いてある」
 絵の保管方法とか、素人の千雪にはさっぱりわからない。
「そうなん」
「また展覧会はなさらないの?」
 まともに文子に見つめられて、千雪はちょっと戸惑う。
「いや、いつかまたやれたらとは思うてますけど、俺一人では」
「スポンサーが必要なら、兄貴に言えばホイホイ受けてくれるぜ? 九条の家にあるっていう絵も持って来いって言えばいい」
 京助はいとも容易そうに言った。
「企画は俺がやったるわ。今、会社の企画部にいてるんや。そうと決まったらプロジェクトチーム立ち上げや」
 三田村までが大乗り気で名乗りを上げる。
「お前ら、勝手に話進めんなや!」
 千雪は一応釘を刺す。
「あら、せっかく皆さん、ご親切におっしゃって下さってるんだし、父にも話してみるわ」
「小夜ねぇまで、んな、軽う………」
 ともすれば気まずい空気になりそうなところを、天然な小夜子が和やかなムードへと変え、やがて文子と速水が暇を告げると、京助が小夜子と千雪を車で送ることになった。
「小夜子さんって、昔からああなのか?」
 小夜子を原の家に送り届けて、京助は家から借りてきたベンツを麻布へと向けた。
「何がや?」
「だから、ドン臭いのかって」
 京助のストレートな言い草に、千雪はムッとする。
「ちょっとは、まあ、そや。けど猛さん亡くなってから、考え込むこと多いし」
「あれじゃ、男にすぐ騙されるんじゃねぇのか?」
「小夜ねえ、ぱっと見で判断するとはっきり言い返されるで? 告られてもその場でスパッと断ってまうねん。ただ、あの物言いやから、相手も申し訳なくなってまうみたいで」
 そんな小夜子が唯一好きになった相手はさっさとあの世に行ってしまった。
「旦那が亡くなってもう結構経つんだろ? 見合いでもして結婚した方がいいんじゃねぇ?」
「そう簡単に行くかいな。今は仕事に燃えてるみたいやで?」
 キャリアウーマンとは程遠いが、あの調子でそれこそ三田村じゃないが、大和屋の企画や広報担当としては、それなりに頑張っているようだ。
 そんな話をしながら千雪がふと気がつくと、京助のマンションの駐車場だった。
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