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そばにいたい 2
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わかってはいたけど、ああ、力は傍にいないんだ、と佑人は改めて思い知らされる。
中学で四面楚歌状態になって以来、佑人は一人で何でもやってこれたはずだった。
高校でも力や今の仲間たちとこんなに親密になるなんて思いもよらなかった。
坂本がいなかったら、おそらく佑人はまた一人でいたはずだ。
力や仲間が一緒じゃなければ、一人の方がいい。
でもなまじっか力という存在を知ってしまってからは、会えないでいるのがたまらなくてつい携帯を見てしまう。
少し遅れると力にメッセージを入れると、店に直接来い、と返ってきた。
それにしてもここのところ、いつも以上に坂本が何だかだと佑人をかまうのは、おそらく最近世間を騒がせている例の件のことがあるからだろう。
もう、自分では克服したつもりだが、家族も態度から佑人を気にかけていることがすぐわかる。
佑人の母、渡辺美月がもう大御所とさえいわれる人気俳優であるがゆえに、ことあるごとにマスコミは昔のことまで引っ張り出してくれる。
こうもいろんな媒体で情報が溢れかえっている昨今では、いくら佑人が耳を閉ざし目を背けていても、思いもかけないところから勝手に佑人を引き摺り込もうとするのだ。
「あれ、ひょっとして、渡辺? 渡辺佑人だろ?」
こんな風に。
「やっぱりな、さすが渡辺、T大生か。あれ、覚えてない? 俺、中学の時同じクラスだった川上」
近づいてきたのはどこにでもいそうなお坊ちゃん風の学生で、川上という名前には記憶があったが、佑人はその顔を覚えていない。
だがどうやら佑人が克服したはずの古い時間からやってきたその学生は、佑人のことをしっかり覚えているようだ。
「あ、俺は聖城大だけどね。サークルでさ、ここの」
克服したつもりだったが、聖城という言葉に佑人は反応した。
当時通っていた中学は聖城学園大の付属校だった。
「ちょっとぉ、川上くん、何やってるの?」
「こっちじゃないよ」
そこへ現れたお嬢様風女子大生二人。
「お前ら、誰だと思う?」
川上は女子大生たちに佑人を目で指し示した。
「え、まさか、渡辺くん?! びっくり! あたし、島崎明奈よ!」
「すんごくカッコよくなったってより、さすが超、超美形! あたし、佐藤なつみ、あたしのこと忘れちゃった?」
「もしかして、モデルとか俳優とかやってるの?」
「そうだよね、お母さん、大女優だもん!」
口々に勝手なことを言う三人に、さすがに佑人ももう怒りは感じないが呆れていた。
二人の女子大生のことは、その話し方から少し思い出した。
中三の時のクラスメイトで、トイレで佑人のことをクソミソに言って笑っていた。
「ねえ、渡辺くんもうちのサークル入らない?」
「ああ、そう、映研なんだ、名目上」
「何よ、名目上って、飲み会と女の子目当ては川上くんでしょ!」
「何だよ、お前らだって、T大で男見つけるとかだろ?」
そんなものか。
彼らにとっては既に昔々の出来事でしかないのだ。
というかそんなことはもう忘れているのだろう。
大抵イジメられた方は覚えていても、イジメた方は覚えていないものらしい。
「お待たせ、って、佑人、知り合い?」
戻ってきた坂本の言葉で佑人は我に返る。
「ああ、中学の時の……」
佑人の言葉を遮って、女子大生二人は今度は坂本に駆け寄った。
「あ、まさか、雑誌とかに出てません?」
「きゃあ、ウソ! ナマ、リュウセイ!?」
坂本は二人を見おろして、にっこり。
「感激だな、君らみたいな可愛い子に覚えてもらえて。俺、文一だけど、君らは? 佑人と同じ理二?」
え、と二人は一瞬固まった。
「い、いえいえ、あたしたち、ここの映研サークルで」
「大学は聖城大なんです」
聖城大の女子といえば、お嬢様で有名で私学では結構もてはやされることが多い。
T大の男子学生にももちろん人気が高いのだが。
「何だ、そうなんだ」
坂本にしては女の子に珍しく見下すような言い方をして、「そろそろ行こうぜ、佑人」と促した。
「完全に五時過ぎるよな、力の怒りの形相が目に見えるようだぜ」
足早にキャンパスを後にすると、坂本が笑った。
「面白がってるな」
「そりゃなぁ、ははっ!」
「でも坂本、雑誌にも出てるのか?」
改めて佑人は坂本にたずねた。
「ああ、バイト先のアパレルの社長つながりで、女の子雑誌にちょっとね」
「女の子に益々騒がれるわけだな」
佑人はそう口にしてから、思考は別のところに飛んだ。
坂本も女の子に人気はあったけど……
高校時代、教師の間では問題視されていたが、力は圧倒的な存在感で生徒の間では一目置かれ、自分に自信のありそうな女子が常に力に近づいていた。
それってきっと今も、だよな……
同じ空間にいたから、いつもそれを目の当たりにしていた佑人だが、佑人の知らないところで、佑人の知らない女の子がおそらく力に近づいているに違いない。
目の前でそういうシーンを展開されるよりはいいかもなどと思ってはみたものの、今度は勝手に想像して気になってしまう。
「やつら、結構無神経な連中だな」
電車に乗ってからも、力の周りには今どんな女の子がいるんだろうとか考えていた佑人は、坂本の言葉に、えっと見上げた。
中学で四面楚歌状態になって以来、佑人は一人で何でもやってこれたはずだった。
高校でも力や今の仲間たちとこんなに親密になるなんて思いもよらなかった。
坂本がいなかったら、おそらく佑人はまた一人でいたはずだ。
力や仲間が一緒じゃなければ、一人の方がいい。
でもなまじっか力という存在を知ってしまってからは、会えないでいるのがたまらなくてつい携帯を見てしまう。
少し遅れると力にメッセージを入れると、店に直接来い、と返ってきた。
それにしてもここのところ、いつも以上に坂本が何だかだと佑人をかまうのは、おそらく最近世間を騒がせている例の件のことがあるからだろう。
もう、自分では克服したつもりだが、家族も態度から佑人を気にかけていることがすぐわかる。
佑人の母、渡辺美月がもう大御所とさえいわれる人気俳優であるがゆえに、ことあるごとにマスコミは昔のことまで引っ張り出してくれる。
こうもいろんな媒体で情報が溢れかえっている昨今では、いくら佑人が耳を閉ざし目を背けていても、思いもかけないところから勝手に佑人を引き摺り込もうとするのだ。
「あれ、ひょっとして、渡辺? 渡辺佑人だろ?」
こんな風に。
「やっぱりな、さすが渡辺、T大生か。あれ、覚えてない? 俺、中学の時同じクラスだった川上」
近づいてきたのはどこにでもいそうなお坊ちゃん風の学生で、川上という名前には記憶があったが、佑人はその顔を覚えていない。
だがどうやら佑人が克服したはずの古い時間からやってきたその学生は、佑人のことをしっかり覚えているようだ。
「あ、俺は聖城大だけどね。サークルでさ、ここの」
克服したつもりだったが、聖城という言葉に佑人は反応した。
当時通っていた中学は聖城学園大の付属校だった。
「ちょっとぉ、川上くん、何やってるの?」
「こっちじゃないよ」
そこへ現れたお嬢様風女子大生二人。
「お前ら、誰だと思う?」
川上は女子大生たちに佑人を目で指し示した。
「え、まさか、渡辺くん?! びっくり! あたし、島崎明奈よ!」
「すんごくカッコよくなったってより、さすが超、超美形! あたし、佐藤なつみ、あたしのこと忘れちゃった?」
「もしかして、モデルとか俳優とかやってるの?」
「そうだよね、お母さん、大女優だもん!」
口々に勝手なことを言う三人に、さすがに佑人ももう怒りは感じないが呆れていた。
二人の女子大生のことは、その話し方から少し思い出した。
中三の時のクラスメイトで、トイレで佑人のことをクソミソに言って笑っていた。
「ねえ、渡辺くんもうちのサークル入らない?」
「ああ、そう、映研なんだ、名目上」
「何よ、名目上って、飲み会と女の子目当ては川上くんでしょ!」
「何だよ、お前らだって、T大で男見つけるとかだろ?」
そんなものか。
彼らにとっては既に昔々の出来事でしかないのだ。
というかそんなことはもう忘れているのだろう。
大抵イジメられた方は覚えていても、イジメた方は覚えていないものらしい。
「お待たせ、って、佑人、知り合い?」
戻ってきた坂本の言葉で佑人は我に返る。
「ああ、中学の時の……」
佑人の言葉を遮って、女子大生二人は今度は坂本に駆け寄った。
「あ、まさか、雑誌とかに出てません?」
「きゃあ、ウソ! ナマ、リュウセイ!?」
坂本は二人を見おろして、にっこり。
「感激だな、君らみたいな可愛い子に覚えてもらえて。俺、文一だけど、君らは? 佑人と同じ理二?」
え、と二人は一瞬固まった。
「い、いえいえ、あたしたち、ここの映研サークルで」
「大学は聖城大なんです」
聖城大の女子といえば、お嬢様で有名で私学では結構もてはやされることが多い。
T大の男子学生にももちろん人気が高いのだが。
「何だ、そうなんだ」
坂本にしては女の子に珍しく見下すような言い方をして、「そろそろ行こうぜ、佑人」と促した。
「完全に五時過ぎるよな、力の怒りの形相が目に見えるようだぜ」
足早にキャンパスを後にすると、坂本が笑った。
「面白がってるな」
「そりゃなぁ、ははっ!」
「でも坂本、雑誌にも出てるのか?」
改めて佑人は坂本にたずねた。
「ああ、バイト先のアパレルの社長つながりで、女の子雑誌にちょっとね」
「女の子に益々騒がれるわけだな」
佑人はそう口にしてから、思考は別のところに飛んだ。
坂本も女の子に人気はあったけど……
高校時代、教師の間では問題視されていたが、力は圧倒的な存在感で生徒の間では一目置かれ、自分に自信のありそうな女子が常に力に近づいていた。
それってきっと今も、だよな……
同じ空間にいたから、いつもそれを目の当たりにしていた佑人だが、佑人の知らないところで、佑人の知らない女の子がおそらく力に近づいているに違いない。
目の前でそういうシーンを展開されるよりはいいかもなどと思ってはみたものの、今度は勝手に想像して気になってしまう。
「やつら、結構無神経な連中だな」
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