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バレンタインバトル 4
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「ここが感情移入の大事なシーンだろう、そんなこともわからないでシナリオ書いてるなんざ信じられんな!」
「あんたの思い込みでせっかくのいいシナリオが間延びして台無しになるのを黙ってられるか」
うう、また始まった。
「相変わらずだな、あの二人」
今日は元恋人役の芽久との絡みのシーンがあり、主演の一人である志村嘉人も朝から顔を見せていた。
「志村さん、ほんと参っちゃいますよ」
小声でつい、良太は本音をこぼしてしまった。
「なかなか大変だな、良太くんも」
小杉も志村の横で苦笑いする。
良太は一呼吸置いてから監督と脚本家を振り返った。
年代もキャリアも似通っているこの二人は、まさしくああいえばこういうで、原作の解釈の違いとかの段階などではなく、ただ互いを貶しあっているだけなのだ。
一応双方の言い分を聞き、二人を宥めすかして数カットを撮り、もうここで出なければ打ち合わせに間に合わないというところで、あとはサブディレクターによろしくと挨拶して良太は現場を離れた。
テレビ局にようやく辿り着き、ギリギリ打ち合わせに間に合ったと思ったのもつかの間、案の定シナリオライターの大山の嫌味に出迎えられた。
朝から何度目かの宅配便に、鈴木さんが印鑑を持って立ち上がった。
ほとんどがバレンタインギフト便である。
「そうか、明日のバレンタインデーは土曜日ですもんね」
良太も鈴木さんからチョコレートをもらっている。
母親と妹からのプレゼントも早速届いていた。
手を休めてプレゼントを開いてみると、亜弓からはチョコレートと財布、そして母からは手編みのセーターと甘い匂いのする包みが二つ。
一緒に入っていた手紙には、ブランデー入りチョコレートケーキを焼いたので、一本は皆様で、一本は社長様に差し上げてと書いてある。
「鈴木さん、母がチョコケーキ焼いたって、おやつに食べましょうよ」
「あら、お母様の手作りなの?」
鈴木さんは、まあ、美味しそうと、良太が包みを開いたチョコレートケーキを見て喜んだ。
「うちの母、料理とかは結構得意なんで、昔はよく作ってくれたんですよ」
あのアパートに移ってからは、レンジはあったけどオーブンなんかなかったから、ずっとご無沙汰だったけど、じゃあ、オーブン買ったんだ。
だったらもっと早く俺、オーブンくらい買ってやればよかったな………。
バレンタインギフトはそれからもいくつか届いた。
例によって、加絵やルクレツィア、それにアメリカの佳乃からも工藤宛に大きめの小包が届いている。
大きさで競ってるのか?
バカなことを考えていると、「あら、良太ちゃん宛てよ」と鈴木さんが宅配業者から受け取った包みを見た。
「あ、どうも、すみません」
かおりからもさっきチョコレートが届いていたが、業者さんだろうか。
鈴木さんから、多分ボトルだろう包みを渡された良太は、差出人の名前を見て、鈴木さんがちょっと首を傾げたわけを瞬時に理解した。
「沢村ぁ~?」
梱包を解くと、中から現れたのは、しっかりバレンタイン用のラッピングが施された日本酒と有名ショコラティエのバレンタインチョコで、ご丁寧にも直筆でボトルにメッセージが書いてある。
「愛を込めて! 沢村智広」
ハートマークつきのボトルを良太はすぐにラッピングに戻した。
「ったく、こんなんで埋め合わせようたってそうはいかないんだよ!」
そんなことを良太が口にしてすぐ、デスクに置いた携帯がワルキューレを奏で始めたので、慌てて電話に出た。
「はい、お疲れ様です」
「ロケはどうだった?」
工藤は今札幌にいるはずだ。
「はい、何とか、例の二人がまた見解の相違とかで三十分ほど中断した程度です」
「フン、あんまり長引かせるなよ。これから釧路に移動して今夜はそっちに泊まる。何かあったら携帯に入れろ」
すぐに切りそうな気配に、良太は慌てて「あの!」と言った。
「何だ?」
「いろいろたくさん、プレゼントが届いてますけど」
「プレゼント?」
訝しげな工藤の返答に、「明日はバレンタインデーなので」と良太は答えた。
「んなもの、鈴木さんにやるとか、オフィスで食えばいいだろ」
「いや、チョコばかりじゃないし、工藤さん個人宛に届いたもの、お部屋に運んでおきますか?」
「運ぶ前に開けて、何が入っているか確かめろ。去年、クローゼットに押し込んだものの中に何か腐るものが入っていて、平造がそのあたり全部捨てたとか文句言っていたからな」
「え、でも加絵さんとかルクレツィアさんとかからのものもありますけど」
良太は今まで工藤といろいろあった名前をわざと口にする。
「とにかく全部開けて確認して、食い物が入っていたら食うか、分けろ! 食い物でなくても欲しいやつにやればいい!」
イライラと怒鳴り声を返すと、工藤は電話を切ってしまった。
「ちぇ、何だよ、その言い草。贈った人の気持ちもちょっとは考えてみろって」
切れた電話にブツブツ文句を言っていると、ドアが開いてすうっと冷たい風が吹き込んだ。
「こんにちはぁ」
明るい声がオフィスに響く。
「直ちゃん、いらっしゃい。今日は佐々木さんのおつかい?」
スキー合宿の時も和み系とかあちこちで言われていたが、確かに彼女の笑顔は気持ちを上昇させる摩訶不思議なところがある。
「あんたの思い込みでせっかくのいいシナリオが間延びして台無しになるのを黙ってられるか」
うう、また始まった。
「相変わらずだな、あの二人」
今日は元恋人役の芽久との絡みのシーンがあり、主演の一人である志村嘉人も朝から顔を見せていた。
「志村さん、ほんと参っちゃいますよ」
小声でつい、良太は本音をこぼしてしまった。
「なかなか大変だな、良太くんも」
小杉も志村の横で苦笑いする。
良太は一呼吸置いてから監督と脚本家を振り返った。
年代もキャリアも似通っているこの二人は、まさしくああいえばこういうで、原作の解釈の違いとかの段階などではなく、ただ互いを貶しあっているだけなのだ。
一応双方の言い分を聞き、二人を宥めすかして数カットを撮り、もうここで出なければ打ち合わせに間に合わないというところで、あとはサブディレクターによろしくと挨拶して良太は現場を離れた。
テレビ局にようやく辿り着き、ギリギリ打ち合わせに間に合ったと思ったのもつかの間、案の定シナリオライターの大山の嫌味に出迎えられた。
朝から何度目かの宅配便に、鈴木さんが印鑑を持って立ち上がった。
ほとんどがバレンタインギフト便である。
「そうか、明日のバレンタインデーは土曜日ですもんね」
良太も鈴木さんからチョコレートをもらっている。
母親と妹からのプレゼントも早速届いていた。
手を休めてプレゼントを開いてみると、亜弓からはチョコレートと財布、そして母からは手編みのセーターと甘い匂いのする包みが二つ。
一緒に入っていた手紙には、ブランデー入りチョコレートケーキを焼いたので、一本は皆様で、一本は社長様に差し上げてと書いてある。
「鈴木さん、母がチョコケーキ焼いたって、おやつに食べましょうよ」
「あら、お母様の手作りなの?」
鈴木さんは、まあ、美味しそうと、良太が包みを開いたチョコレートケーキを見て喜んだ。
「うちの母、料理とかは結構得意なんで、昔はよく作ってくれたんですよ」
あのアパートに移ってからは、レンジはあったけどオーブンなんかなかったから、ずっとご無沙汰だったけど、じゃあ、オーブン買ったんだ。
だったらもっと早く俺、オーブンくらい買ってやればよかったな………。
バレンタインギフトはそれからもいくつか届いた。
例によって、加絵やルクレツィア、それにアメリカの佳乃からも工藤宛に大きめの小包が届いている。
大きさで競ってるのか?
バカなことを考えていると、「あら、良太ちゃん宛てよ」と鈴木さんが宅配業者から受け取った包みを見た。
「あ、どうも、すみません」
かおりからもさっきチョコレートが届いていたが、業者さんだろうか。
鈴木さんから、多分ボトルだろう包みを渡された良太は、差出人の名前を見て、鈴木さんがちょっと首を傾げたわけを瞬時に理解した。
「沢村ぁ~?」
梱包を解くと、中から現れたのは、しっかりバレンタイン用のラッピングが施された日本酒と有名ショコラティエのバレンタインチョコで、ご丁寧にも直筆でボトルにメッセージが書いてある。
「愛を込めて! 沢村智広」
ハートマークつきのボトルを良太はすぐにラッピングに戻した。
「ったく、こんなんで埋め合わせようたってそうはいかないんだよ!」
そんなことを良太が口にしてすぐ、デスクに置いた携帯がワルキューレを奏で始めたので、慌てて電話に出た。
「はい、お疲れ様です」
「ロケはどうだった?」
工藤は今札幌にいるはずだ。
「はい、何とか、例の二人がまた見解の相違とかで三十分ほど中断した程度です」
「フン、あんまり長引かせるなよ。これから釧路に移動して今夜はそっちに泊まる。何かあったら携帯に入れろ」
すぐに切りそうな気配に、良太は慌てて「あの!」と言った。
「何だ?」
「いろいろたくさん、プレゼントが届いてますけど」
「プレゼント?」
訝しげな工藤の返答に、「明日はバレンタインデーなので」と良太は答えた。
「んなもの、鈴木さんにやるとか、オフィスで食えばいいだろ」
「いや、チョコばかりじゃないし、工藤さん個人宛に届いたもの、お部屋に運んでおきますか?」
「運ぶ前に開けて、何が入っているか確かめろ。去年、クローゼットに押し込んだものの中に何か腐るものが入っていて、平造がそのあたり全部捨てたとか文句言っていたからな」
「え、でも加絵さんとかルクレツィアさんとかからのものもありますけど」
良太は今まで工藤といろいろあった名前をわざと口にする。
「とにかく全部開けて確認して、食い物が入っていたら食うか、分けろ! 食い物でなくても欲しいやつにやればいい!」
イライラと怒鳴り声を返すと、工藤は電話を切ってしまった。
「ちぇ、何だよ、その言い草。贈った人の気持ちもちょっとは考えてみろって」
切れた電話にブツブツ文句を言っていると、ドアが開いてすうっと冷たい風が吹き込んだ。
「こんにちはぁ」
明るい声がオフィスに響く。
「直ちゃん、いらっしゃい。今日は佐々木さんのおつかい?」
スキー合宿の時も和み系とかあちこちで言われていたが、確かに彼女の笑顔は気持ちを上昇させる摩訶不思議なところがある。
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