バレンタインバトル

chatetlune

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バレンタインバトル 13

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 工藤はまだじたばたと小さく抵抗する良太に覆い被さった。
 キスというより、しつこく口腔を侵されて、良太の身体から力が抜けていく。
 工藤の厚い胸板から熱を感じながら、与えられる刺激に従順になっていくその間にも、工藤が施す愛撫によって良太はゆっくりとほころび始める。
 工藤を知る身体は工藤が押し入ってきた時にはもう甘く溶けていた。
「くど…! …んっ! はあっ……あっ……」
 言葉にはならず、ただ良太は喘がされる。
 幾度も強く揺さぶられ追い上げられると、尚も工藤を離したくないと良太の腰が勝手に揺れる。
「……やっ」
「正直じゃないか。まだ……欲しいのか?」
 色を含んだ低い声は良太の身体の芯までも奮わせる。
「……足りな……」
 工藤は笑い、弾力のある若い竹のような良太の身体をまた責め始めた。
「……あ……んん……っ!」
 一層深く身体を繋げながら、甘くなった良太の声が迸るのを工藤はじっくりと堪能する。
「……工藤…くど……!」
 良太の全てを工藤で一杯にして、良太は工藤を呼んだ。
 工藤に抱きしめられて大きなその背中にしがみついていられるのなら、もうどうなっても構わないなんて思いながら、良太は意識を手放した。
 
 
 
 
 明け方、ぼんやり目を開けた良太は工藤に擦り寄って眠っているのに気づいて、夢うつつにも安堵感を覚えながらまた目を閉じた。
 再び目を覚ました時には、もう工藤の姿はなく、既に十時を回っていた。
 良太はベッドに起き上り、胸に覚えのある切ない痛みを感じながら少しの間ぼおっと宙を見つめていた。
 工藤とつきあうのは、足音だけを頼りに宛てのない道を手探りで歩いているようなものだと思ったりする。
 やりたいだけやってさっさと消えやがって! あのエロオヤジ!
 まあ、そんな工藤に触れられると簡単に陥落してしまう自分が情けなくもあるのだが。
 どころか、工藤にすがって泣いていた己の痴態が断片的にフラッシュバックして、良太は思わず頭を振ってそれを振り切った。
「しょーがないじゃん……そんなオヤジがいいんだから」
 一人言い訳をしてみた良太は、気だるい身体を動かすのも億劫なところを何とかベッドを降りてバスルームに行った。
 歩きかけてまたベッドに戻ると、シーツを引き抜き、絨毯の上に落ちているスエットや下着を拾い上げて洗濯機に放り込んだ。
「あ……しまった……」
 シャワーを浴びながら良太はさっきから気になっていた重要なことを思い出した。
「ちぇ、工藤にやろうと思ってたやつ……渡しそびれたじゃん……」
 がっかりしながら良太はタオルで頭をごしごし擦った。
 チェストから洗濯済みのスエットの上下を出して着ると、猫たちがわらわらと擦り寄ってきた。
「よしよし、今あげるからな」
 良太は大人用と子猫用のドライフードを二つの器にカラカラと分け入れ、猫たち用のトレーに乗せた。
「うまいか?」
 はぐはぐと食べる猫たちの頭を撫でてしばし和んだ良太は立ち上がり、夕べのままになっている炬燵の上の弁当の殻を片付けて袋にまとめ、コーヒーでも淹れようとキッチンに立った。
 その時、いきなりガチャとドアが開いた。
「うわ!」
「起きたのか?」
 ほとんど同時に言葉を口にする。
「な……んだよ、出かけたのかと思ったじゃん」
 セーターにコーデュロイのパンツと最近では滅多に見ないカジュアルな工藤だ。
「メシ、食いに行くぞ」
 命令口調の工藤にちょっとムッとするものの、一緒に出掛けるのも久しぶりだから嬉しくないわけがない。
「ちょ、待ってくれよ……支度するから」
 はたと今度こそ忘れないうちにと、良太はチェストの上に置いた小さめの紙袋を掴むと、「あ、これ、母さんから、チョコレートケーキ焼いたって送ってきたから、社長にもって」
 工藤は押し付けられた紙袋を開いてみる。
「と、一応、部屋とか家具とかの礼、だからっ!」
 良太は工藤に背を向けたまま、チェストからジーンズとセーターを引っ張り出して着替え始めたが、恥ずかしさに顔が熱くなる。
 チョコレートケーキらしい包みの下に、良太が意を決して買ってきたサングラスのラッピングを見つけて、工藤は苦笑する。
「じゃあ、こいつをちょっと食べてからにするか」
 言いながら工藤は靴を脱いで部屋の中に入ってきた。
「え……」
 セーターを被りかけで良太は振り返った。
 工藤はベッドに座り、炬燵の上に置いたケーキの包みを開いている。
「あ、じゃあ、コーヒー、淹れる」
 良太は慌ててキッチンに立ち、湯を沸かす。
 家具がガラリと変貌した日、キッチンに備え付けの戸棚には、それまでマグカップやコンビニでもらったような不揃いな皿くらいしかなかったのが、コーヒーカップが数客、それにいくつかの皿やカトラリーが増えていた。
 おそらく平造がそんなところまで気を利かせてくれたのだろう、ようやくその食器が役に立ったようだ。
 どうせ料理などはしないだろうと鍋の類はなかったが、必要であれば工藤の部屋に真っ新な鍋があるのだ。
 良太が皿とナイフやフォークを持って行くと、工藤がチョコレートケーキをナイフで切り分け、皿に乗せる。
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