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バレンタインバトル 14
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湯が沸いたので、良太はマグカップにコーヒーを淹れて炬燵に運んだ。
工藤はベッドの上に座り、良太は炬燵に足を突っ込んで座るという、何ともスタイリッシュとは程遠いのだが、母親が焼いたケーキだと言ったからだろう、工藤が食べようとしてくれたのが良太は嬉しかった。
何せ、どんな高級チョコレートやケーキを差し出されようが、普段工藤は見向きもしないのだから。
「ガキの頃はいつもクッキーとかケーキとか作ってくれてたんだけど、今のアパートに移ってからレンジしかなくて、最近オーブンレンジ買って、喜んで作ったみたいで」
黙っているのも気詰まりで、良太はそんなことをボソボソ話した。
「そうか。大事にしてやれ」
「え? あ、はい」
時々、工藤はまともな大人のような台詞を口にする。
特に良太の家族に対してはそんな気がする。
ふと見ると、お腹をいっぱいにした猫たちは二匹くっついたまま小夜子にもらったペットベッドでいつの間にか眠っていた。
コーヒーを飲んでいる工藤に目を戻した良太は、こんな穏やかな時間が続けばいいと思うのだが。
昼近くになると、少し日差しが出てきた。
工藤の運転するジャガーでやってきたのは北鎌倉にある料亭だった。
出掛けに電話をしていたが、ここだったのか、と良太は風格のある門構えを見回した。
個室に案内されて、雪の残る庭を眺めながらの食事。
工藤です、空いてますか、なんて、電話で言ってたな。
てことは馴染みの店ってことで、接待とかで使うんだろうけど、でもなんか怪しいぞ。
きっと接待だけじゃない気がする。
だけどまあ、今回はそこんとこは流してやってもいっか。
運転する時、工藤がジャケットのポケットから出して、何気にかけたサングラス。
さっき俺がやったヤツじゃんて、フレームのロゴですぐわかった。
ナビシートで気づいて、えっと思ったけど、知らん振りしてしまった。
なーんかやっぱ、恥ずかしいだろ。
山之辺芽久や黒川真帆には、工藤は夜接待だとかウソ言って申し訳ないとは思ったが、バレンタインデーに工藤を占領していいのは俺だっ!
なーんて小笠原が言ったように主張してみたいところだが、たいして意味はないかもだけど。
それに義理のパーティがあるからまんざらウソでもない。
「わ、これ、美味い!」
椀盛りの海老しんじょうを口に入れた途端、良太は呟いた。
出てくる料理をパクパクと水菓子まで小気味よくきれいに平らげる良太を工藤は苦笑いして見ていた。
帰りは湾岸を通り、何だかデートみたいじゃん、なんて思っていた良太だが、途中、ドラマのロケ予定地である鵠沼海岸で工藤は車を停めた。
なーんだ、やっぱ仕事込みか。
ちょっとだけガッカリな良太に、この海は小説の中で東北とともに重要なポイントになるからと工藤は言った。
「監督たちによく言っておかないと。ここでは喧嘩しないようにって。ってより、工藤さん、たまには顔出して下さいよ、芽久さん、工藤さん来ないのって、もう耳タコですよ」
「ほっとけ」
そっけない返事をして工藤は車に戻る。
「ちょ、ほっとけって、何だよ、もう」
車に戻って腕時計の時間を見ると、既に三時を回っていた。
「あっ、そろそろ戻らないと。東洋グループのパーティ、行く準備しなけりゃ」
工藤はたちまち不機嫌そうな顔になる。
「んなもん、パスして、どっか行くか? な? 一泊で」
うっと、良太は言葉に詰まる。
そりゃ、行けるもんならな!
「ガキみたいな現実逃避、やめてください。パーティに行きたくないだけでしょ。とりあえず顔だけ出して来ないと。俺も行くことになってるし」
工藤はフン、と鼻で笑うと東京へとハンドルを切った。
短いデートで終わったけど、ま、いっか。
工藤の周りの女たちにほんの少しだけ勝った気がする良太だった。
工藤はベッドの上に座り、良太は炬燵に足を突っ込んで座るという、何ともスタイリッシュとは程遠いのだが、母親が焼いたケーキだと言ったからだろう、工藤が食べようとしてくれたのが良太は嬉しかった。
何せ、どんな高級チョコレートやケーキを差し出されようが、普段工藤は見向きもしないのだから。
「ガキの頃はいつもクッキーとかケーキとか作ってくれてたんだけど、今のアパートに移ってからレンジしかなくて、最近オーブンレンジ買って、喜んで作ったみたいで」
黙っているのも気詰まりで、良太はそんなことをボソボソ話した。
「そうか。大事にしてやれ」
「え? あ、はい」
時々、工藤はまともな大人のような台詞を口にする。
特に良太の家族に対してはそんな気がする。
ふと見ると、お腹をいっぱいにした猫たちは二匹くっついたまま小夜子にもらったペットベッドでいつの間にか眠っていた。
コーヒーを飲んでいる工藤に目を戻した良太は、こんな穏やかな時間が続けばいいと思うのだが。
昼近くになると、少し日差しが出てきた。
工藤の運転するジャガーでやってきたのは北鎌倉にある料亭だった。
出掛けに電話をしていたが、ここだったのか、と良太は風格のある門構えを見回した。
個室に案内されて、雪の残る庭を眺めながらの食事。
工藤です、空いてますか、なんて、電話で言ってたな。
てことは馴染みの店ってことで、接待とかで使うんだろうけど、でもなんか怪しいぞ。
きっと接待だけじゃない気がする。
だけどまあ、今回はそこんとこは流してやってもいっか。
運転する時、工藤がジャケットのポケットから出して、何気にかけたサングラス。
さっき俺がやったヤツじゃんて、フレームのロゴですぐわかった。
ナビシートで気づいて、えっと思ったけど、知らん振りしてしまった。
なーんかやっぱ、恥ずかしいだろ。
山之辺芽久や黒川真帆には、工藤は夜接待だとかウソ言って申し訳ないとは思ったが、バレンタインデーに工藤を占領していいのは俺だっ!
なーんて小笠原が言ったように主張してみたいところだが、たいして意味はないかもだけど。
それに義理のパーティがあるからまんざらウソでもない。
「わ、これ、美味い!」
椀盛りの海老しんじょうを口に入れた途端、良太は呟いた。
出てくる料理をパクパクと水菓子まで小気味よくきれいに平らげる良太を工藤は苦笑いして見ていた。
帰りは湾岸を通り、何だかデートみたいじゃん、なんて思っていた良太だが、途中、ドラマのロケ予定地である鵠沼海岸で工藤は車を停めた。
なーんだ、やっぱ仕事込みか。
ちょっとだけガッカリな良太に、この海は小説の中で東北とともに重要なポイントになるからと工藤は言った。
「監督たちによく言っておかないと。ここでは喧嘩しないようにって。ってより、工藤さん、たまには顔出して下さいよ、芽久さん、工藤さん来ないのって、もう耳タコですよ」
「ほっとけ」
そっけない返事をして工藤は車に戻る。
「ちょ、ほっとけって、何だよ、もう」
車に戻って腕時計の時間を見ると、既に三時を回っていた。
「あっ、そろそろ戻らないと。東洋グループのパーティ、行く準備しなけりゃ」
工藤はたちまち不機嫌そうな顔になる。
「んなもん、パスして、どっか行くか? な? 一泊で」
うっと、良太は言葉に詰まる。
そりゃ、行けるもんならな!
「ガキみたいな現実逃避、やめてください。パーティに行きたくないだけでしょ。とりあえず顔だけ出して来ないと。俺も行くことになってるし」
工藤はフン、と鼻で笑うと東京へとハンドルを切った。
短いデートで終わったけど、ま、いっか。
工藤の周りの女たちにほんの少しだけ勝った気がする良太だった。
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