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Tea Time 3
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かなり可愛い男の子だったという認識はあるのだが、顔は思い出せない。
ましてやそれを勝浩につなげようとしても、非常に無理がある。
ただ、そういわれてみれば、大きな目に涙をためてこっちを睨んでいたのが可愛くて、ついエスカレートしていじめた記憶なら、幸也にもあった。
「あれって………勝浩……?」
隣で二杯目に手をつけながら武人が大仰に首を横に振る。
「のび太がジャイアンなんか好きになるかよ、普通。ったくあの『勝気なプリティボーイ』ときた日には」
「それ、なんでお前が知ってる?」
また武人の言葉が引っかかって、幸也は聞き返す。
「『勝気なプリティボーイ』? って、新聞部の西本がつけた勝っちゃんのキャッチコピーだろ? なかなか的を得てるじゃない」
フン、と面白くない幸也は吸いかけの煙草を灰皿でもみ消すと、残りの酒を飲み干した。
いや、知らないんだ。
俺の方が―――――。
勝浩のことなのに、知らないことだらけだ。
いや、見ているはずなのにわかってなかったのだ。
ピアノ教室に志央と一緒に何度か行ったことは覚えている。
だが、先生の顔なんて覚えちゃいない。
それが、勝浩の母親だったなんて。
もうずっと志央しか見ていなかった。
勝浩を勝浩として認めたのは、いつだったろう。
あれは確か、ディズニーランドで出くわした時だ。
俺と志央が女を口説いているところを見て、勝浩はあからさまに侮蔑の視線を送ってきた。
それを周りに言いふらすようなことはしなかったが、表ではいかにもな優等生を気取りながら裏では悪さをしている俺たちのことを、面と向かってきっぱりと非難してくれた、可愛い顔に似合わないクソ生意気な下級生。
面白いヤツ。
そう思ったら、堺勝浩という存在が、志央だけしかいなかった俺の視界に飛び込んできた。
生徒会室で襲われたときも、翌日には何事もなかったような顔で勝浩は自分の仕事をしていた。
まあ、あの時は七海のやつがガードしてたみたいだが、俺も何となく勝浩が気になって目でヤツを追っていた―――――――。
「おい、幸也、ひとりでイっちゃってんなよ!」
武人に肩を揺すられて、幸也は我に帰る。
「だからぁ、志央と七海が勝っちゃんと会って、それでどうしたってよ?」
思い出したように、武人が呟く。
「七海と待ち合わせたところに勝浩がいたんで一緒に茶を飲んだんだと」
「それで?」
「志央は勝浩とは久しぶりに会ったみたいだが、お前が言うように、七海と勝浩はちょくちょく会ってるらしくて、妙に仲が良さそうで面白くなかったから、七海が便所に立った時に、つい、『七海にモーションかけても無駄だぜ、あいつは俺に夢中だからな』とか牽制したんだと」
幸也は面白くもなさそうに続ける。
「何だよ、勝っちゃん、じゃあ、まだ七海に話してないのか? お前と……」
「そしたら、勝浩のヤツが、志央の行い次第では七海を取り戻すから、とか何とか言ったらしい」
「ええ? 勝っちゃん、やっぱ七海とつき合ってたん?」
何気ない武人の言葉が、グサリと幸也の胸に突き刺さる。
「………としてもそう長くはなかったと思うが……あのあと七海は志央べったりだったし」
すったもんだあった高校時代のことを幸也はあらためて思い起こす。
「……………………………だが、やっぱり勝浩も七海のことを……」
それ以上は言葉にしたくなくて、幸也はグラスをもてあそんだ。
『ほんと、サイッテーだよ、あんたたちって』
ふいに高校の頃、勝浩に浴びせられた辛辣な言葉が蘇る。
それも当然かと自虐的な思いで幸也は受け取った。
志央と二人、人の心を賭けたりして弄ぶようなマネをして、勝浩はそれこそ自分を軽蔑しているのだと、そう幸也は思っていた。
志央の心は七海にあるのだとはっきり思い知らされた時、一時は絶望と虚無感に襲われたものの、七海を志央に取られた形でさぞや傷ついているはずなのにもかかわらず気丈に冷静に振舞う勝浩を見て、妙に肩の力が抜けたのを覚えている。
生真面目で負けん気が強い勝浩のことだから、健気に歯をくいしばって精一杯耐えていたのかもしれない。
いつの間にかそんな勝浩から目を離せなくなってたんだ―――。
「そっかぁ? 俺にはそうは思えないけどなあ」
武人はちょっと首を傾げる。
「そんな昔のこと持ち出してウザいよ、お前。第一、お前ら、こないだの山小屋以来、ラブラブ街道まっしぐら、じゃなかったのかよ?」
それに対して即答できないでいる幸也に、「まさかお前、また何かやらかしたのか?!」と武人が詰め寄った。
「何もやってねぇよ」
そう、山小屋ではちょっと強引だったにせよ、誠心誠意勝浩のことを思ってるし、山を降りてからもそれこそ勝浩のことを最優先に考えているつもりだったのだが。
「だったら、何ウダクサ、考え込んでんだよ? ピピッとワル知恵巡らしてスパッと動くのが良くも悪くもお前だろうが? 昔っから自信過剰の権化みたいなお前がさ? 俺なんかと顔突き合わせてるよか勝っちゃんと話せばいいだろ?」
「それができりゃ、お前の面なんか拝む必要はないんだよ」
吐き捨てるように言うと、幸也は追加オーダーをしたばかりの酒をぐいっと呷る。
ましてやそれを勝浩につなげようとしても、非常に無理がある。
ただ、そういわれてみれば、大きな目に涙をためてこっちを睨んでいたのが可愛くて、ついエスカレートしていじめた記憶なら、幸也にもあった。
「あれって………勝浩……?」
隣で二杯目に手をつけながら武人が大仰に首を横に振る。
「のび太がジャイアンなんか好きになるかよ、普通。ったくあの『勝気なプリティボーイ』ときた日には」
「それ、なんでお前が知ってる?」
また武人の言葉が引っかかって、幸也は聞き返す。
「『勝気なプリティボーイ』? って、新聞部の西本がつけた勝っちゃんのキャッチコピーだろ? なかなか的を得てるじゃない」
フン、と面白くない幸也は吸いかけの煙草を灰皿でもみ消すと、残りの酒を飲み干した。
いや、知らないんだ。
俺の方が―――――。
勝浩のことなのに、知らないことだらけだ。
いや、見ているはずなのにわかってなかったのだ。
ピアノ教室に志央と一緒に何度か行ったことは覚えている。
だが、先生の顔なんて覚えちゃいない。
それが、勝浩の母親だったなんて。
もうずっと志央しか見ていなかった。
勝浩を勝浩として認めたのは、いつだったろう。
あれは確か、ディズニーランドで出くわした時だ。
俺と志央が女を口説いているところを見て、勝浩はあからさまに侮蔑の視線を送ってきた。
それを周りに言いふらすようなことはしなかったが、表ではいかにもな優等生を気取りながら裏では悪さをしている俺たちのことを、面と向かってきっぱりと非難してくれた、可愛い顔に似合わないクソ生意気な下級生。
面白いヤツ。
そう思ったら、堺勝浩という存在が、志央だけしかいなかった俺の視界に飛び込んできた。
生徒会室で襲われたときも、翌日には何事もなかったような顔で勝浩は自分の仕事をしていた。
まあ、あの時は七海のやつがガードしてたみたいだが、俺も何となく勝浩が気になって目でヤツを追っていた―――――――。
「おい、幸也、ひとりでイっちゃってんなよ!」
武人に肩を揺すられて、幸也は我に帰る。
「だからぁ、志央と七海が勝っちゃんと会って、それでどうしたってよ?」
思い出したように、武人が呟く。
「七海と待ち合わせたところに勝浩がいたんで一緒に茶を飲んだんだと」
「それで?」
「志央は勝浩とは久しぶりに会ったみたいだが、お前が言うように、七海と勝浩はちょくちょく会ってるらしくて、妙に仲が良さそうで面白くなかったから、七海が便所に立った時に、つい、『七海にモーションかけても無駄だぜ、あいつは俺に夢中だからな』とか牽制したんだと」
幸也は面白くもなさそうに続ける。
「何だよ、勝っちゃん、じゃあ、まだ七海に話してないのか? お前と……」
「そしたら、勝浩のヤツが、志央の行い次第では七海を取り戻すから、とか何とか言ったらしい」
「ええ? 勝っちゃん、やっぱ七海とつき合ってたん?」
何気ない武人の言葉が、グサリと幸也の胸に突き刺さる。
「………としてもそう長くはなかったと思うが……あのあと七海は志央べったりだったし」
すったもんだあった高校時代のことを幸也はあらためて思い起こす。
「……………………………だが、やっぱり勝浩も七海のことを……」
それ以上は言葉にしたくなくて、幸也はグラスをもてあそんだ。
『ほんと、サイッテーだよ、あんたたちって』
ふいに高校の頃、勝浩に浴びせられた辛辣な言葉が蘇る。
それも当然かと自虐的な思いで幸也は受け取った。
志央と二人、人の心を賭けたりして弄ぶようなマネをして、勝浩はそれこそ自分を軽蔑しているのだと、そう幸也は思っていた。
志央の心は七海にあるのだとはっきり思い知らされた時、一時は絶望と虚無感に襲われたものの、七海を志央に取られた形でさぞや傷ついているはずなのにもかかわらず気丈に冷静に振舞う勝浩を見て、妙に肩の力が抜けたのを覚えている。
生真面目で負けん気が強い勝浩のことだから、健気に歯をくいしばって精一杯耐えていたのかもしれない。
いつの間にかそんな勝浩から目を離せなくなってたんだ―――。
「そっかぁ? 俺にはそうは思えないけどなあ」
武人はちょっと首を傾げる。
「そんな昔のこと持ち出してウザいよ、お前。第一、お前ら、こないだの山小屋以来、ラブラブ街道まっしぐら、じゃなかったのかよ?」
それに対して即答できないでいる幸也に、「まさかお前、また何かやらかしたのか?!」と武人が詰め寄った。
「何もやってねぇよ」
そう、山小屋ではちょっと強引だったにせよ、誠心誠意勝浩のことを思ってるし、山を降りてからもそれこそ勝浩のことを最優先に考えているつもりだったのだが。
「だったら、何ウダクサ、考え込んでんだよ? ピピッとワル知恵巡らしてスパッと動くのが良くも悪くもお前だろうが? 昔っから自信過剰の権化みたいなお前がさ? 俺なんかと顔突き合わせてるよか勝っちゃんと話せばいいだろ?」
「それができりゃ、お前の面なんか拝む必要はないんだよ」
吐き捨てるように言うと、幸也は追加オーダーをしたばかりの酒をぐいっと呷る。
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