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Tea Time 7
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「やだー、堺くん、ミニなんだ?」
「かっわいい! 堺くんにピッタシって感じ~」
先輩に借りたのだという勝浩の説明などなんのその、一人二年生の勝浩はゼミの女子学生の間ではマスコット扱いされていて、軽井沢の合宿所となっているホテルのログコテージに着く早々、先輩方はわいのわいのとかしましい。
東京とはうって変わって木々は鮮やかに色を変え、空は高く澄んでいる。
ホテルは実は教授の兄が経営しているため、学生にとってはありがたいかなりリーズナブルな費用でリッチな気分を満喫できる。
それぞれがホテルかホテルが持っているコテージに宿泊したのだが、勝浩の他にも一人暮らしで愛犬を二匹も引き連れてきている者もいて、参加したのは勝浩を除いて三、四年総勢十二名ほどだが、なかなか賑やかなものになった。
真面目な上物怖じしない意思の強さを持つ勝浩は、割りとおっとりした教授の海江田や先輩たちにも少々生意気に見られがちなところまでも気に入られていて、教授はもうすっかり勝浩が院生であるかのように扱っている。
ホテルの宴会場での宴会が終わると、ほろ酔い加減の勝浩はカラオケの誘いをパスしてコテージに戻ってきた。
「ただいま、ユウ」
やっと帰ってきたとばかりに出迎えるユウを撫でてやると、安心したのか、ユウは自分の居場所に戻ってうずくまる。
『動物愛護研究会』の活動も続けるつもりでいるので、いっそ武人の好意に甘えてミニを譲ってもらおうかなどと思いながら、風呂につかってベッドに腰を降ろした途端、携帯が鳴った。
「…あ、こんばんは……」
『発表、終わったのか?』
もしかしたらと思った相手、幸也の声に、未だにドキドキしてしまう。
無事終えて、あとはあちこちユウと歩いたりしてのんびり過ごしていると勝浩が言うと、
『軽井沢かあ、いいなー俺も一緒に行きたかったなっと』
「ゼミ合宿ですから一応」
勝浩はクスっと笑う。
『勝浩くんてば相変わらず真面目くんだからなー。な、な、今度、山中湖あたり行かないか? 都会の喧騒を離れて、一週間くらい、どうよ? 二人で。ああ、もちろんユウも一緒な』
二人で。
そんな言葉に勝浩の心臓はまたぞろ飛び跳ねる。
「いいですね。でも猫ちゃんたちどうすんです?」
極力声がうわずらないように、勝浩は聞き返す。
『やつらはタケにでも世話頼んでおくさ』
「またそんな~」
笑っている顔が電話越しに伝わってきそうだ。
『そういや、誰かに乗っけてもらったのか? ユウも一緒だし』
「あ、車、借りたんですよ、タケさんに」
一瞬間があった。
『タケに?』
「ええ、幸也さんにもらった車ばっか乗り回してるから、たまには動かしてやってくれって、ミニ貸してもらって」
『ああ、あの水色のやつね。俺に一言言ってくれればよかったのに。アウディでもポルシェでも喜んで貸したぜ』
「ポルシェなんて、俺には荷が勝ちすぎですよ。実は、ユウだけじゃなく、犬や猫運ぶのにそろそろ自分の車が欲しくて、中古かなんか探すつもりでいたら、タケさんが、ほとんど使わないから譲ってくれるって言うし………」
勝浩は文字通り遠慮してそう言った。
『だから何で、俺に言わないんだよ。ミニなんか、ユウだけでいっぱいになっちまうぞ。わかった、アウディだったらいいだろ? お前、運転したことあるし。わざわざ買うことなんかない』
なんとなく幸也の声に険が混じっている。
「あ、ちょ、待ってくださいよ、だってタケさんが……」
『タケのことなんか、気にすんなって。あの大家んち、駐車場はあるのか?』
「でも、あれ4WDのセダンでしょ、俺、いくらバイト増やしてもとてもあんなの買う余裕はないです」
『お前から金なんか取るかよ、駐車場も……』
「そういうわけにはいきません。簡単にアウディなんか後輩にぽんとくれようなんて言わないでください。キャットフードとはわけが違います。ほんとに金銭感覚ないんだから」
『いや、俺はだな………』
「だいたいもし仮に長谷川さんから車譲ってもらうにしても、最初に申し出てくれたタケさんに話を通すのがスジってもんです」
きっぱりと言い切った勝浩に、電話の向こうからしばし沈黙が返される。
『……タケさん、タケさんって、お前タケがそんなに気になるのかよ?』
躊躇いがちに幸也が放った言葉は勝浩の心をざらりと撫でる。
『実はタケのことが好きなわけ?』
「……! …そんなこと、言ってないでしょう!」
幸也の皮肉めいた問いかけに息が詰まりそうになる。
『タケはさ、昔から面倒見いいし、頼れるやつだしな。俺みたいに自分勝手で最低なやろうとは違うだろうさ……』
「何、言ってんですか…… 俺は……」
『いや、よくわかった……疲れてるとこ、悪かったな……』
慌てて言葉をつなげようとした勝浩の耳に、無機質な電子音が繰り返される。
「………んなこと、誰が言ったよ! バッカじゃないのか、あの人!!!」
勝浩はしばらく握り締めていた携帯をようやく切ると、幸也への苛立ちと一緒にベッドに投げつける。
「何がよくわかっただ! 全然、何にもわかってないんだ、俺のことなんか………ずっと、ずっと見てきたのは長谷川さんだけなのに……!」
ベッドに大の字にひっくり返り、勝浩は天井を睨みつける。
『俺みたいな自分勝手で最低なやろう』
電話ごしの幸也の台詞を思い出し、心がきりきりと締めつけられる。
ああ、昔、そんなひどい言葉をぶつけたのは俺だ。
「かっわいい! 堺くんにピッタシって感じ~」
先輩に借りたのだという勝浩の説明などなんのその、一人二年生の勝浩はゼミの女子学生の間ではマスコット扱いされていて、軽井沢の合宿所となっているホテルのログコテージに着く早々、先輩方はわいのわいのとかしましい。
東京とはうって変わって木々は鮮やかに色を変え、空は高く澄んでいる。
ホテルは実は教授の兄が経営しているため、学生にとってはありがたいかなりリーズナブルな費用でリッチな気分を満喫できる。
それぞれがホテルかホテルが持っているコテージに宿泊したのだが、勝浩の他にも一人暮らしで愛犬を二匹も引き連れてきている者もいて、参加したのは勝浩を除いて三、四年総勢十二名ほどだが、なかなか賑やかなものになった。
真面目な上物怖じしない意思の強さを持つ勝浩は、割りとおっとりした教授の海江田や先輩たちにも少々生意気に見られがちなところまでも気に入られていて、教授はもうすっかり勝浩が院生であるかのように扱っている。
ホテルの宴会場での宴会が終わると、ほろ酔い加減の勝浩はカラオケの誘いをパスしてコテージに戻ってきた。
「ただいま、ユウ」
やっと帰ってきたとばかりに出迎えるユウを撫でてやると、安心したのか、ユウは自分の居場所に戻ってうずくまる。
『動物愛護研究会』の活動も続けるつもりでいるので、いっそ武人の好意に甘えてミニを譲ってもらおうかなどと思いながら、風呂につかってベッドに腰を降ろした途端、携帯が鳴った。
「…あ、こんばんは……」
『発表、終わったのか?』
もしかしたらと思った相手、幸也の声に、未だにドキドキしてしまう。
無事終えて、あとはあちこちユウと歩いたりしてのんびり過ごしていると勝浩が言うと、
『軽井沢かあ、いいなー俺も一緒に行きたかったなっと』
「ゼミ合宿ですから一応」
勝浩はクスっと笑う。
『勝浩くんてば相変わらず真面目くんだからなー。な、な、今度、山中湖あたり行かないか? 都会の喧騒を離れて、一週間くらい、どうよ? 二人で。ああ、もちろんユウも一緒な』
二人で。
そんな言葉に勝浩の心臓はまたぞろ飛び跳ねる。
「いいですね。でも猫ちゃんたちどうすんです?」
極力声がうわずらないように、勝浩は聞き返す。
『やつらはタケにでも世話頼んでおくさ』
「またそんな~」
笑っている顔が電話越しに伝わってきそうだ。
『そういや、誰かに乗っけてもらったのか? ユウも一緒だし』
「あ、車、借りたんですよ、タケさんに」
一瞬間があった。
『タケに?』
「ええ、幸也さんにもらった車ばっか乗り回してるから、たまには動かしてやってくれって、ミニ貸してもらって」
『ああ、あの水色のやつね。俺に一言言ってくれればよかったのに。アウディでもポルシェでも喜んで貸したぜ』
「ポルシェなんて、俺には荷が勝ちすぎですよ。実は、ユウだけじゃなく、犬や猫運ぶのにそろそろ自分の車が欲しくて、中古かなんか探すつもりでいたら、タケさんが、ほとんど使わないから譲ってくれるって言うし………」
勝浩は文字通り遠慮してそう言った。
『だから何で、俺に言わないんだよ。ミニなんか、ユウだけでいっぱいになっちまうぞ。わかった、アウディだったらいいだろ? お前、運転したことあるし。わざわざ買うことなんかない』
なんとなく幸也の声に険が混じっている。
「あ、ちょ、待ってくださいよ、だってタケさんが……」
『タケのことなんか、気にすんなって。あの大家んち、駐車場はあるのか?』
「でも、あれ4WDのセダンでしょ、俺、いくらバイト増やしてもとてもあんなの買う余裕はないです」
『お前から金なんか取るかよ、駐車場も……』
「そういうわけにはいきません。簡単にアウディなんか後輩にぽんとくれようなんて言わないでください。キャットフードとはわけが違います。ほんとに金銭感覚ないんだから」
『いや、俺はだな………』
「だいたいもし仮に長谷川さんから車譲ってもらうにしても、最初に申し出てくれたタケさんに話を通すのがスジってもんです」
きっぱりと言い切った勝浩に、電話の向こうからしばし沈黙が返される。
『……タケさん、タケさんって、お前タケがそんなに気になるのかよ?』
躊躇いがちに幸也が放った言葉は勝浩の心をざらりと撫でる。
『実はタケのことが好きなわけ?』
「……! …そんなこと、言ってないでしょう!」
幸也の皮肉めいた問いかけに息が詰まりそうになる。
『タケはさ、昔から面倒見いいし、頼れるやつだしな。俺みたいに自分勝手で最低なやろうとは違うだろうさ……』
「何、言ってんですか…… 俺は……」
『いや、よくわかった……疲れてるとこ、悪かったな……』
慌てて言葉をつなげようとした勝浩の耳に、無機質な電子音が繰り返される。
「………んなこと、誰が言ったよ! バッカじゃないのか、あの人!!!」
勝浩はしばらく握り締めていた携帯をようやく切ると、幸也への苛立ちと一緒にベッドに投げつける。
「何がよくわかっただ! 全然、何にもわかってないんだ、俺のことなんか………ずっと、ずっと見てきたのは長谷川さんだけなのに……!」
ベッドに大の字にひっくり返り、勝浩は天井を睨みつける。
『俺みたいな自分勝手で最低なやろう』
電話ごしの幸也の台詞を思い出し、心がきりきりと締めつけられる。
ああ、昔、そんなひどい言葉をぶつけたのは俺だ。
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