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Tea Time 10
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しかも勝浩も志央も何も話していないらしい。
「いや………やつ、とっくに夏に戻ってきて、この十月から復学してるぜ。幸也が俺の従兄弟ってことは知ってたっけ?」
『はああ???』
てんで考えても見なかったという反応だ。
「それも初耳? 参ったな~」
『いや、俺はタケさんと奈央先生は単なる出版社つながりだろうと…………………………でも長谷川さんの従兄弟のタケさんが、勝浩の研究会って、また随分な偶然ですよね~』
武人は思わずため息を吐いた。
これはどこまで話したものだろうかと。
「なあ、最近、勝っちゃんと会った?」
『いや、今月に入ってからは電話しただけで……』
「その時、勝っちゃんのようすどうだった?」
『別に、ゼミ合宿から戻ったばっかで疲れてるとか言ってたけど、勝浩のヤツどうかしたんですか?』
「うーーーーーーん……………な~んかさ、ゼミ合宿の時、俺も電話で話しただけなんだけど、勝っちゃん、気になるんだよな~」
見限るのは幸也さんのほうですよ、確かにそんなことを口にした。
『はっきり言ってくださいよ、勝浩と長谷川さん、何かあったんっすか?』
「おや、ナナちゃん、その口ぶりからすると勝っちゃんのこと何か知ってる?」
『いや……あいつは何も言わないんだけど………高校の時、ちょっとその………』
「ふーん、勝っちゃんが実は幸也のこと好きだったとか?」
『何で知ってるんですか?!』
怒ったように七海が問いただす。
「白状させたのさ、このタケちゃんにかかったらちょろいもんよ」
『あいつは真面目なんですから、茶化さないでください。でも相手が悪いっすよ、あの長谷川さんじゃ、遊び人だし、何よりあの人、志央さんのこと好きだったんだ』
「まあ、志央がお前に話してないってのは、そこいら辺の事情もあるんだろうけど、幸也が志央ってのはもう過去のこと。従兄弟の俺が勝っちゃんの研究会にいるなんて偶然じゃないのよ、これが」
『どういうことです?』
七海の声がさらに気色ばんでくると、武人はちょっと思案した。
「いや、どういうわけか面白い具合にいろいろ絡んでいるんだよな~。な、撮影前に明日か明後日、時間取れる?」
『明後日八時頃なら大丈夫っすよ』
武人の思わせぶりな発言に、七海は即答した。
「よっしゃ、わかった。まあ、ここはじっくり策を弄するとしましょ」
というわけで、昨日のうちに武人は七海と会ってとある策略を練っていた。
いるとややこしいことになりそうな志央は抜きで。
「とにかく、じれったいんだよな~、俺は」
「あら、何が?」
独りごちた武人に、向かいでチーズケーキを切り分けていた奈央が顔を上げる。
「いや、こっちの話、うう、うまそ~! 俺、そっちのおっきいやつね」
奈央の作るケーキやクッキーは、作り方がわかりやすく、しかもちゃんとおいしく作れると料理のみならずファンが急増中なのだ。
「大きくなっても食いしん坊なのはちっとも変わってないんだから」
「大きくって、奈央さん、俺、もう二十一ですよぉ、見てよこの無精ひげ」
さすがに恥ずかしげに武人は顎のあたりを手でさする。
「あ、そだ、撮影のあとのお茶会、大丈夫?」
「もちろん、懐かしいお客様だもの。滞りなく準備万端整ってるわ」
ちょっとレトロな雰囲気のシックな海老茶のワンピースにエプロン、ふんわり大きくカールした髪を垂らした奈央は、明るく笑う。
「よおし!」
拳を固めてうなずく武人に、「また何かいたずらを考えてるんじゃないでしょうね?」とすかさず奈央が突っ込みを入れる。
「とんでもない、いたずらどころか、ボランティア精神あふれきってるんです、ほんと」
「やだ、やっぱり怪しいわ」
奈央は怪訝そうに武人を軽く睨む。
「全然、怪しくないって。ガキの頃から、いたずらを決行する志央と幸也を止めるのが俺の役目ですから」
「そうね~あの二人、特に志央には手を焼いたわ、あのクソガキども!」
「奈央さん~~、気品に満ちた奈央先生の口から、クソガキって……」
「皿やカップ割るのなんて日常茶飯事。それもお気に入りのウエッジウッドやマイセンなんかやられてみなさい。ワンコと一緒になって雨上がりに外から裸足で入ってきて走り回って床はおろかソファやベッドは泥だらけ。洗濯物はめちゃくちゃ、もう思い出すだけでうんざり」
奈央は首を横に振りながら当時を思い起こしているようだ。
「奈央さん、もうそろそろ志央とちゃんと向き合えるでしょ」
ふいに優しい言葉で武人は奈央を見つめた。
「そうね」
奈央は微笑む。
「似過ぎていたのよ、志央と美央。今でも志央を見ると美央が帰ってきたのかと思うことがあるわ。でもいつまでも志央を避けていたら、美央が悲しむだけだって、ようやっとこの頃思えるようになったの」
「そう、よかったね」
穏やかな奈央の笑みを見て、武人も笑う。
やがてモデルを務めることになっている志央と七海がやってきた。
「お邪魔します。奈央さん、車、裏に置いといて平気です? まだスタッフさん、いらっしゃるんですよね」
「いらっしゃい、ナナちゃん」
大きな図体をかがめるようにして入ってきた七海を満面の笑みで奈央が迎えた。
「いや………やつ、とっくに夏に戻ってきて、この十月から復学してるぜ。幸也が俺の従兄弟ってことは知ってたっけ?」
『はああ???』
てんで考えても見なかったという反応だ。
「それも初耳? 参ったな~」
『いや、俺はタケさんと奈央先生は単なる出版社つながりだろうと…………………………でも長谷川さんの従兄弟のタケさんが、勝浩の研究会って、また随分な偶然ですよね~』
武人は思わずため息を吐いた。
これはどこまで話したものだろうかと。
「なあ、最近、勝っちゃんと会った?」
『いや、今月に入ってからは電話しただけで……』
「その時、勝っちゃんのようすどうだった?」
『別に、ゼミ合宿から戻ったばっかで疲れてるとか言ってたけど、勝浩のヤツどうかしたんですか?』
「うーーーーーーん……………な~んかさ、ゼミ合宿の時、俺も電話で話しただけなんだけど、勝っちゃん、気になるんだよな~」
見限るのは幸也さんのほうですよ、確かにそんなことを口にした。
『はっきり言ってくださいよ、勝浩と長谷川さん、何かあったんっすか?』
「おや、ナナちゃん、その口ぶりからすると勝っちゃんのこと何か知ってる?」
『いや……あいつは何も言わないんだけど………高校の時、ちょっとその………』
「ふーん、勝っちゃんが実は幸也のこと好きだったとか?」
『何で知ってるんですか?!』
怒ったように七海が問いただす。
「白状させたのさ、このタケちゃんにかかったらちょろいもんよ」
『あいつは真面目なんですから、茶化さないでください。でも相手が悪いっすよ、あの長谷川さんじゃ、遊び人だし、何よりあの人、志央さんのこと好きだったんだ』
「まあ、志央がお前に話してないってのは、そこいら辺の事情もあるんだろうけど、幸也が志央ってのはもう過去のこと。従兄弟の俺が勝っちゃんの研究会にいるなんて偶然じゃないのよ、これが」
『どういうことです?』
七海の声がさらに気色ばんでくると、武人はちょっと思案した。
「いや、どういうわけか面白い具合にいろいろ絡んでいるんだよな~。な、撮影前に明日か明後日、時間取れる?」
『明後日八時頃なら大丈夫っすよ』
武人の思わせぶりな発言に、七海は即答した。
「よっしゃ、わかった。まあ、ここはじっくり策を弄するとしましょ」
というわけで、昨日のうちに武人は七海と会ってとある策略を練っていた。
いるとややこしいことになりそうな志央は抜きで。
「とにかく、じれったいんだよな~、俺は」
「あら、何が?」
独りごちた武人に、向かいでチーズケーキを切り分けていた奈央が顔を上げる。
「いや、こっちの話、うう、うまそ~! 俺、そっちのおっきいやつね」
奈央の作るケーキやクッキーは、作り方がわかりやすく、しかもちゃんとおいしく作れると料理のみならずファンが急増中なのだ。
「大きくなっても食いしん坊なのはちっとも変わってないんだから」
「大きくって、奈央さん、俺、もう二十一ですよぉ、見てよこの無精ひげ」
さすがに恥ずかしげに武人は顎のあたりを手でさする。
「あ、そだ、撮影のあとのお茶会、大丈夫?」
「もちろん、懐かしいお客様だもの。滞りなく準備万端整ってるわ」
ちょっとレトロな雰囲気のシックな海老茶のワンピースにエプロン、ふんわり大きくカールした髪を垂らした奈央は、明るく笑う。
「よおし!」
拳を固めてうなずく武人に、「また何かいたずらを考えてるんじゃないでしょうね?」とすかさず奈央が突っ込みを入れる。
「とんでもない、いたずらどころか、ボランティア精神あふれきってるんです、ほんと」
「やだ、やっぱり怪しいわ」
奈央は怪訝そうに武人を軽く睨む。
「全然、怪しくないって。ガキの頃から、いたずらを決行する志央と幸也を止めるのが俺の役目ですから」
「そうね~あの二人、特に志央には手を焼いたわ、あのクソガキども!」
「奈央さん~~、気品に満ちた奈央先生の口から、クソガキって……」
「皿やカップ割るのなんて日常茶飯事。それもお気に入りのウエッジウッドやマイセンなんかやられてみなさい。ワンコと一緒になって雨上がりに外から裸足で入ってきて走り回って床はおろかソファやベッドは泥だらけ。洗濯物はめちゃくちゃ、もう思い出すだけでうんざり」
奈央は首を横に振りながら当時を思い起こしているようだ。
「奈央さん、もうそろそろ志央とちゃんと向き合えるでしょ」
ふいに優しい言葉で武人は奈央を見つめた。
「そうね」
奈央は微笑む。
「似過ぎていたのよ、志央と美央。今でも志央を見ると美央が帰ってきたのかと思うことがあるわ。でもいつまでも志央を避けていたら、美央が悲しむだけだって、ようやっとこの頃思えるようになったの」
「そう、よかったね」
穏やかな奈央の笑みを見て、武人も笑う。
やがてモデルを務めることになっている志央と七海がやってきた。
「お邪魔します。奈央さん、車、裏に置いといて平気です? まだスタッフさん、いらっしゃるんですよね」
「いらっしゃい、ナナちゃん」
大きな図体をかがめるようにして入ってきた七海を満面の笑みで奈央が迎えた。
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