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月鏡 3
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「あれ、でも、この仕事って、青山プロ関係やないんちゃう? なんで良太ちゃんが係りみたくなってんの?」
今思い当たったようで、佐々木が疑問を呈した。
「それが、アスカさんロケで代わりに、俺がドラマの撮り直しとかの会議に出席させられて、そん時、代役の候補を三名に絞って、そのうちの一人が大澤さんだったんだけど、プロデューサーが事務所に打診したら、初めはクスリで捕まった水波の代役なんかお断り、みたくけんもほろろだったんです」
「まあ、せやろな、普通の反応は」
「プロデューサー頭抱えちゃって、勝手に工藤のとこのプロデューサーってだけで、俺まで引っ張り込まれちゃったんですよ」
「なるほど、良太ちゃんいよいよ、プロデューサー単独デビューやん」
「もう、茶化さないでくださいよ、ただでさえ、うちの会社の仕事で手一杯なのに。まあそれがですね、先日、『からくれないに』ってその弁護士シリーズクランクアップしたんで打ち上げやった時に、大澤さんが、社長が断ったけど、自分としてはやってもいいかもとか言ったんで、CMが佐々木さん、って話したら、じゃ、やるって」
佐々木はハハハと笑った。
「さすが良太ちゃん、また株があがったやんか」
「あがらなくていいんですけどね、そんな株。まあプロデューサーは喜んでましたけど」
それからCMの打ち合わせの場所と日程を確認すると、佐々木はふう、と大きく息を吐いた。
「佐々木さん、やっぱお疲れみたいだし、今日はもう上がった方がいいんじゃないですか?」
「人を年寄り扱いせんといてぇな。ここでちょっと休ませてもろたし、もうバリバリやれるて」
「佐々木さん………」
良太はちょっと眉を顰めて佐々木を見た。
「ああ、でも、俺、ここのタイヤ、リピーターやから、この仕事、まあやりがいはあるねん」
「あ、そうですか? 俺も同じくです。やっぱ車はタイヤですよね」
佐々木の言葉に、良太は大きく頷いた。
「それやね。車はええ加減ボロやけど、タイヤだけはええもん履かんと」
佐々木はひとり頷いた。
「ですよね! てか、佐々木さんの車、カッコいいっすよ? 安定感あるし」
佐々木の車はボルボのステーションワゴンで、二月に軽井沢でスキー合宿をやった時も、良太は乗せてもらったのだ。
「いや、年式もう古いんやけど、まあ、愛着はあるなあ」
「俺も、まあ、俺の車じゃないんですけど結構乗りやすくて、ここんとこほぼ俺仕様になってるし」
しばらく車談義をした後、佐々木はオフィスを後にした。
佐々木が出て行くと、良太の顔から笑みが消えて、大きくため息をつき、少しばかり佐々木に申し訳ない気になった。
というのも、実はこの後、沢村が寄ることになっていたのだが、それを佐々木には知らせないでほしいという沢村の頼みだったからだ。
実は面倒なことになっていると、沢村から事情を聞いたのは昨日のことだ。
沢村智弘、プロ野球関西タイガースの四番を打つ人気スラッガーである。
そして沢村が付き合っている相手が、今出て行った佐々木なのである。
ほぼ一年前、沢村の一目惚れから始まった二人のつきあいだが、ここにきて沢村が厄介な問題を抱えてしまい、沢村が著名人であるために、ただでさえ何かあったらもう逢わないと佐々木に言われかねないという危惧が沢村にはあった。
そして佐々木に引導を渡されかねない問題を自ずから引き起こしてしまったため、沢村は良太に相談してきたというわけだ。
「こんにちは」
一時間ほど経った頃、ドアを開けて入ってきた、少しばかり額が後退した温厚な表情の男は、「今日は寒いね」と言いながら帽子を取った。
「お忙しいところわざわざありがとうございます、小田先生」
良太は立ち上がって小田を迎え、奥のソファーセットに案内した。
「ここまでお呼びたてして申し訳ありません。ちょっと複雑な事情がありまして」
「いや、こちらが動くことは一向に構わないから、お気遣いなく」
小田和義は工藤の大学の同期であり、検事の荒木とともに、当時は現役で司法試験に合格し、三羽烏と呼ばれていた。
現在は半蔵門に事務所を構え、青山プロダクションの顧問弁護士でもある。
それから間もなく、オフィスにやってきたのは沢村だった。
「おう、沢村、小田先生もういらしてるぞ」
「ああ」
いつになく神妙な顔をしている。
「さっき佐々木さんが打ち合わせに寄ったけど、お前が言うなってから、今日お前がここに来ることは言ってないけどな」
ちょっと睨むように言う良太に何も返さず、沢村は奥のソファに座っている小田に歩み寄った。
沢村が怒りとともに昨夜良太にぶちまけた内容は、複雑というより面倒な話だった。
実家とはほぼ縁を切っている沢村に、球団を通して兄嫁から電話が入り、ぜひ慈善パーティに出てほしい、母親もぜひにと言っている、と言われ、最近、少し距離を縮めた感がある母親の頼みならばと、沢村が珍しくパーティに顔を出したところ、実際は父親が沢村に取引先の娘を会わせようとしていたのだった。
今思い当たったようで、佐々木が疑問を呈した。
「それが、アスカさんロケで代わりに、俺がドラマの撮り直しとかの会議に出席させられて、そん時、代役の候補を三名に絞って、そのうちの一人が大澤さんだったんだけど、プロデューサーが事務所に打診したら、初めはクスリで捕まった水波の代役なんかお断り、みたくけんもほろろだったんです」
「まあ、せやろな、普通の反応は」
「プロデューサー頭抱えちゃって、勝手に工藤のとこのプロデューサーってだけで、俺まで引っ張り込まれちゃったんですよ」
「なるほど、良太ちゃんいよいよ、プロデューサー単独デビューやん」
「もう、茶化さないでくださいよ、ただでさえ、うちの会社の仕事で手一杯なのに。まあそれがですね、先日、『からくれないに』ってその弁護士シリーズクランクアップしたんで打ち上げやった時に、大澤さんが、社長が断ったけど、自分としてはやってもいいかもとか言ったんで、CMが佐々木さん、って話したら、じゃ、やるって」
佐々木はハハハと笑った。
「さすが良太ちゃん、また株があがったやんか」
「あがらなくていいんですけどね、そんな株。まあプロデューサーは喜んでましたけど」
それからCMの打ち合わせの場所と日程を確認すると、佐々木はふう、と大きく息を吐いた。
「佐々木さん、やっぱお疲れみたいだし、今日はもう上がった方がいいんじゃないですか?」
「人を年寄り扱いせんといてぇな。ここでちょっと休ませてもろたし、もうバリバリやれるて」
「佐々木さん………」
良太はちょっと眉を顰めて佐々木を見た。
「ああ、でも、俺、ここのタイヤ、リピーターやから、この仕事、まあやりがいはあるねん」
「あ、そうですか? 俺も同じくです。やっぱ車はタイヤですよね」
佐々木の言葉に、良太は大きく頷いた。
「それやね。車はええ加減ボロやけど、タイヤだけはええもん履かんと」
佐々木はひとり頷いた。
「ですよね! てか、佐々木さんの車、カッコいいっすよ? 安定感あるし」
佐々木の車はボルボのステーションワゴンで、二月に軽井沢でスキー合宿をやった時も、良太は乗せてもらったのだ。
「いや、年式もう古いんやけど、まあ、愛着はあるなあ」
「俺も、まあ、俺の車じゃないんですけど結構乗りやすくて、ここんとこほぼ俺仕様になってるし」
しばらく車談義をした後、佐々木はオフィスを後にした。
佐々木が出て行くと、良太の顔から笑みが消えて、大きくため息をつき、少しばかり佐々木に申し訳ない気になった。
というのも、実はこの後、沢村が寄ることになっていたのだが、それを佐々木には知らせないでほしいという沢村の頼みだったからだ。
実は面倒なことになっていると、沢村から事情を聞いたのは昨日のことだ。
沢村智弘、プロ野球関西タイガースの四番を打つ人気スラッガーである。
そして沢村が付き合っている相手が、今出て行った佐々木なのである。
ほぼ一年前、沢村の一目惚れから始まった二人のつきあいだが、ここにきて沢村が厄介な問題を抱えてしまい、沢村が著名人であるために、ただでさえ何かあったらもう逢わないと佐々木に言われかねないという危惧が沢村にはあった。
そして佐々木に引導を渡されかねない問題を自ずから引き起こしてしまったため、沢村は良太に相談してきたというわけだ。
「こんにちは」
一時間ほど経った頃、ドアを開けて入ってきた、少しばかり額が後退した温厚な表情の男は、「今日は寒いね」と言いながら帽子を取った。
「お忙しいところわざわざありがとうございます、小田先生」
良太は立ち上がって小田を迎え、奥のソファーセットに案内した。
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「いや、こちらが動くことは一向に構わないから、お気遣いなく」
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