そんなお前が好きだった

chatetlune

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そんなお前が好きだった 35

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「うーん、そんなことあったのか。江藤先生に挨拶にいったら、全然昔通り、明るかったぞ」
「まあ、それがさ、秀喜も実は割とすぐに離婚して、結局、秀喜家出てまた江藤先生と付き合い始めて」
 元気は笑った。
「秋に正式に結婚式するらしいけど、近々籍入れるってよ」
「何だそうなのか、めでたいじゃないかよ」
 井原は冷酒をぐいぐい空けてかなり酔っているので、声がでかい。
「そうなんだよ、でさ、仲間で先にウェディングパーティやろうって話になってるわけさ」
「なるほど。しかし何だって、そんな回り道になったんだ?」
 井原は納得がいかないと腕組みをする。
「そりゃ、家の格式だの、年がどうのと、両方の親がうるさかったからな」
「つまんねえこだわり」
 井原がすぱっと言い放つ。
「まあな、実際つまんないってわかってても、うるさいやつらがいるわけさ。秀喜の最初の結婚相手ってのがどっかの良家の子女って話だったのが、実は元カレと切れてないわ、遊び人だわってのがわかったし、姉が娘連れて戻ってきてさ、これがまたしっかりした子で、その子に女将をつがせるってことになって、秀喜は経営者に納まったっつう話」
 元気は鮎をつつきながら、「パーティは俺の店でやるんだが」と付け加えた。
「元気の店でか? またライブやる?」
「お前は! まあ、やる予定だけどまだ詳細は未定だ。今度みんなで話すことになってる」
「わかった、俺も混ぜろよ! いや、秀喜も苦労したんだな。しかし純愛貫いたか、いい話じゃん。うん」
 井原は一人悦に入っている。
「しかし、何? そんな話、この界隈じゃみんな知ってる話とか?」
 改めて井原が確認する。
「あたりまえだろ? この狭い街で、こそこそやってもどっかで誰かが見てるんだよ。で、あっという間に噂は広がる」
「そんなに? あっという間に? え、じゃ俺のことも?」
 それまで黙って二人の高校時代の話を聞いていた豪が、口を挟む。
「ああ、とっくだろ?」
 サラリと元気は答えた。
「ええ、そうなのか? 元気のお母さんも知ってるとか?」
 少し焦り気味に豪は言い募る。
「みたいだぜ?」
「みたいってそんな、無責任な」
 豪はふう、と大きな溜息をついた。
「お前、さっき姉貴から電話来た時、坂之上豪って知ってるかって聞いたら、芸能人並みに人気あるらしいじゃん、界隈どころか日本中知れ渡ってるんじゃないのかよ? イケメンカメラマンとかって」
「いや、それは、いんすけど…………」
 豪は井原に詰め寄られて、言動が尻すぼみになる。
「まあ、飲めよ。お前って元気とどこで知り合ったの?」
 俄かに機嫌がよくなった井原は豪のグラスに酒を注ぐ。
「俺は、元気の大学の後輩で、GENKIのファンで写真撮らせてもらってて」
「フーン、それ以来の付き合いってわけか。それで今はグローバルに仕事してるってわけかよ、クソ!」
 持ち上げているのかけなしているのかわからない言い回しで井原は自分のグラスにも酒を注ぐ。
「はあ……」
 豪は何と答えていいかわからず、曖昧な返事をした。
「そいつ今日はかなりハチャメチャだから、適当に聞き流しとけ」
 軽く言うと、元気はうまいな、と冷酒を空ける。
「どうしたんだよ、井原さん」
「ま、いろいろあるみたいだぜ」
 ごまかした元気を豪は怪訝な顔で見た。
 店を出ると、酒をがぶ飲みして酔いつぶれた井原を元気がタクシーで送って行った。
 爆睡している井原を担ぎ上げて、井原の部屋に運ぶと、両親は笑いながら済まないと言った。
「いつもはこんなに酔っぱらったりしないんだが」
「まあ、たまにはありますよ」
 ベッドに井原を放り投げると、元気は脱がせた上着をハンガーにかけてクローゼットに引っ掛けた。
 その時、上着のポケットから携帯が落ちた。
 元気が携帯を拾った時、画面が見えた。
 画面にちょっと触れると簡単にロックが外れた。
 元気はついアルバムを見てしまった。
「やっぱな………」
 呟いた元気は少し首を振り、画像を閉じると、携帯をポケットに戻した。
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