恋ってウソだろ?!

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恋ってウソだろ?! 60

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「佐々木ぃ、久しぶりじゃん。独立したって?」
 その時一杯機嫌のキョウヤが焼酎を片手にやってきて、佐々木の隣に座った。
「まあな」
 佐々木は曖昧な笑みを浮かべた。
「今度遊び行くし」
「来んな、仕事のオフィスなんやで」
「まあまあ、何、佐々木、今日は可愛いじゃん」
 キョウヤは遠慮なく佐々木のジャケットの裾を裏返したりする。
「相変わらず、髪、きれいだよな、佐々木って」
 佐々木の髪を引っ張って、キョウヤが呟いた。
 その手を直子がパシッと振り払う。
「キョウヤ、べたつき過ぎ! 佐々木ちゃんはナオだけのものなの!」
 声高に、佐々木の首に腕を回してしっかり張り付いた直子に、佐々木は何となく違和感を感じたが、キョウヤはへらへらと笑いながら、今度は直子の腕を佐々木からはがす。
「直子こそ、べたつき過ぎじゃね?!」
 佐々木にしてみれば、キョウヤと直子の他愛ないやり取りに、少しばかり心の強張りを解いた。
「どうぞ、沢村くんからいただいた『酒盗人』です」
 藤堂がマイセンの皿に盛りつけられた『酒盗人』をテーブルに置いて、皆を呼んだ。
 『越の寒梅』も栓が抜かれ、面白そう、とキョウヤは立ち上がる。
「行こ、佐々木ちゃん」
 動くつもりのなかった佐々木だが、直子に手を引かれてテーブルまで連れて行かれる。
「ちょ、直ちゃん………」
 直子は下柳やキョウヤに負けじと佐々木の腕を掴んだまま藤堂から皿を受け取った。
「コップ酒がうまいんですよ」
 頭の上から降ってきた声は、全身に電流が走ったように佐々木の身体を震えさせた。
 隣に立つ男の顔を見ることは到底出来ない。
 しかし同時に、この男が好きなのだと心から溢れるような感情が佐々木を満たした。
 恐ろしく好きなのだ。
 どんな理由も理屈も関係なく、ただ好きだと、心の奥深くから自分の声が聞こえた。
「佐々木ちゃん、フォークがいい? お箸もらう?」
 顔を見上げる直子に気づいて、「あ、ああ、お箸」と答える。
 それにしても、沢村は声こそかけてはこないが、自分の横に立ったのはわざとのような気がした。
 体温さえ伝わってきそうなその距離感に、佐々木は次第にそこにいるのが耐えられなくなる。
「おお、そこの可愛いおじょーちゃん、いける口だねぇ」
 直子が持っていたグラスを軽く空けてしまうと、下柳が嬉しそうに声をかけてきた。
 場は一気にオヤジたちの酒盛りの様相を呈してくる。
「美味いよ、これ」
 佐々木は『酒盗人』の載った皿を直子に差し出した。
「佐々木ちゃん、もういいの?」
「うん。一口もろたし」
 佐々木は直子に皿を渡すと、自分の定位置となっている壁際のソファに戻ったが、座った途端、膝がガクガクと小刻みに震えているのがわかり、ひそかに息をついた。
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