恋ってウソだろ?!

chatetlune

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恋ってウソだろ?! 83

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「せやから、急用は急用や! ほんま、わからんやっちゃな!」
「ったく、あんた、どうしてそう強情なんだ!」
 自棄っぱちな言い草の佐々木を、沢村は怒鳴りつける。
「何でお前にそない言われなあかんね!」
「強情だから強情って言ったんだ! 俺が………俺があんな女とどうかなるわけないだろ? んなもの、マスコミのでっちあげだ!」
 沢村はテーブルの上にカップを置くと、じっと佐々木を見据えてその両肩を掴み揺さぶるように言い募る。
「俺はあんたしか見ちゃいない!」
 その眼差しがあまりに真剣すぎて、佐々木は身動きができない。
「……お前……」
 佐々木は目を閉じ、やっとの思いで言葉を紡ぐ。
「……お前、冷静になって考えてみろ。な? 三冠王の相手がこんなオッサンやなんて、人に言われへんやろ? ………お前ちょっと勘違いしてんのや」
 無理やり佐々木は沢村の手を離し、立ち上がる。
「勘違い? あんたがどうしても勘違いにしたいんなら、それでもいいさ。わかるまでここから帰さない」
 投げやりな沢村の台詞に、佐々木は眉を顰めた。
「何……言うて……」
「あーあ、こんな雪降ったら当分車動かないし。スタッドレスじゃないから」
 それを聞いて顔を上げた佐々木は、思わず窓の傍に歩み寄る。
 いつの間にか大きな窓一面に白い雪が降り注いでいる。
「……え……」
 雪は湿り気を含み、次第に殺風景な裸の枝枝や庭を白く覆っていく。
 携帯どころか、財布の入ったバッグまでスタジオに置いてきてしまった佐々木には、沢村の車しか今のところ、東京に戻る手段はないのだ。
 しかも沢村の言うとおり、この雪ではタイヤを換えるかチェーンでもつけなければ、箱根の道を下るのはかなり難しいだろう。
 今の沢村にはチェーンをつけろと言って、素直に聞きそうにない。
 きれいな雪がこんなに恨めしいと思ったことはなかった。
 まるで下界からこの空間を隔絶させようとでもいうように、見る間に雪は降り積もる。
 佐々木は呆然と、そして途方に暮れた。
「佐々木さん……」
 背後で沢村が呼んだ。
「あんたは怖いんだろ? 俺が人気商売だから、あんたの奥さんみたいに、あんたを置いてっちまうんじゃないかって」
「……な……!」
 いきなり図星をつかれて、佐々木は肩を震わせる。
 そうだ、ほんとはそれが怖かったのだ。
「俺はあんたを置いて行ったりしないし、あんたは誰の代わりでもない」
 すぐ後ろで沢村が言った。
「寄るな!………」
 佐々木はするどく言い放つ。
 躊躇いがちに沢村が手を伸ばす気配がした。
「触るな!…………これ以上、お前に近づいたら………もう、戻れなくなる………」
 怖かったのは、そう、トモに何もかもががんじがらめになって、身動きが取れなくなるからだ。
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