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月で逢おうよ 6
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「じゃあ、いいじゃん、話してみ? おにーさんが聞いてあげるから。君のつらい心のうちをさ」
検見崎が腕組みをして言った。
そうかもしれない。
前に進むために、あの人への思いを封じ込めたはずなのに、いつまでたっても後ろを振り返ってしまう自分がいやだ。
口にすることで、何かが変わるだろうか?
「面白い話じゃないですよ。高校の時の先輩で…」
「ほう?」
俄然、検見崎の目が輝き出す。
「いい加減しつこいですよね、俺。とっとと忘れればいいのに」
「告らなかったって?」
「だからその人には、もう好きな人がいて」
「それでもいいんじゃない? 当たって砕けても。そういうの、カッコ悪いとか思ってるでしょ? シツコイとかいうし」
茶目っけたっぷりの検見崎の科白に勝浩は笑う。
「そうかもしれませんね。でも…」
「でも?」
「結局、エゴなんですよ。俺じゃない、なんて言葉なんかいらない、って」
「うわ、情熱! そこまで勝っちゃんに言わせるその人に会ってみたいな。すんごい美人? やっぱし」
勝浩はまた頭を横に振る。
「人のことからかってばっかで、ムカツクこともされたし、ろくでもない人でしたよ」
そう、あれは二年生の春だっけ。
急に俺に甘いこと言って近づいてきて、妙だなとは思ったけど、ちょっとは嬉しかった。
優しかったから。
けどやっぱ嘘っぱちで、俺を落とせるかどうかで、賭けなんかしてたんだ。
そこで告ったりしてたら、いい面の皮だ。
どんなに俺が傷ついたかなんて、あの人はてんで知らないだろうけど。
本当に好きだったから。
「勝っちゃん?」
古い思い出に入り込んでいた勝浩は、はっとして顔をあげる。
「俺のこと? それ」
「え?」
訝しげに聞き返すと、検見崎は鼻の頭を指でこする。
「人のことからかってばっかで、ムカツクこともするし、ろくでもないやつって」
途端、勝浩は笑い出す。
「ほんと、条件ぴったり」
「そこまで笑うこたあないでしょ。よっしゃ、じゃ、帰るか。ビッグ、ヨーク、一緒に来るか? と、ロクもな」
検見崎の言葉がわかるらしい、ビッグとヨークは喜んで彼に従う。
ロクもそわそわしている。
「あ、勝っちゃん、明日の飲み会七時に新宿だから、六時半にここでね」
出て行こうとして、検見崎が振り返る。
「それ、お断りしましたよね?」
勝浩は聞き返す。
「だってな、二人のこと見ちゃったしな」
「ずるいですよ」
眉をひそめて勝浩は抗議するが、「ほら、俺ってろくでもないやつだし」とばかり、検見崎はとりあわない。
そうか、似てるんだ、この人。
勝浩はふとそのことに思いあたる。
最初から初めて会った気がしなくて、だから結構甘えてたのかもしれない。
「仕方ないなー、もー」
勝浩はムッとしながら承諾した。
「おう、それでいいのよ! じゃ、また明日な、ニャン子ちゃんたち」
そんな風に、みんなに声をかけたりする検見崎は憎めない男なのだが。
「灰皿! 火の始末してくこと! 大体、ここ禁煙なんですから!」
「へーい、すんませーん」
それでも先輩であろうがしっかり教育的指導は怠らない勝浩に、検見崎はせこせこと灰皿を片付ける。
裏門のところで検見崎と別れ、自分の部屋にたどり着いてドアを開ければ、ユウが尻尾を振ってお待ちかねだ。
「ちょっと待てな、荷物置いたら、散歩行くから」
腹は空いているが、ユウの嬉しそうなようすを見ると、散歩から帰るまでの我慢もたいしたことではない。
「さ、行くぞ」
バッグを部屋の中に放ると、勝浩はユウの首輪にリードを引っ掛け、散歩グッズを手に、今日何度目かの散歩へと外に出て行った。
検見崎が腕組みをして言った。
そうかもしれない。
前に進むために、あの人への思いを封じ込めたはずなのに、いつまでたっても後ろを振り返ってしまう自分がいやだ。
口にすることで、何かが変わるだろうか?
「面白い話じゃないですよ。高校の時の先輩で…」
「ほう?」
俄然、検見崎の目が輝き出す。
「いい加減しつこいですよね、俺。とっとと忘れればいいのに」
「告らなかったって?」
「だからその人には、もう好きな人がいて」
「それでもいいんじゃない? 当たって砕けても。そういうの、カッコ悪いとか思ってるでしょ? シツコイとかいうし」
茶目っけたっぷりの検見崎の科白に勝浩は笑う。
「そうかもしれませんね。でも…」
「でも?」
「結局、エゴなんですよ。俺じゃない、なんて言葉なんかいらない、って」
「うわ、情熱! そこまで勝っちゃんに言わせるその人に会ってみたいな。すんごい美人? やっぱし」
勝浩はまた頭を横に振る。
「人のことからかってばっかで、ムカツクこともされたし、ろくでもない人でしたよ」
そう、あれは二年生の春だっけ。
急に俺に甘いこと言って近づいてきて、妙だなとは思ったけど、ちょっとは嬉しかった。
優しかったから。
けどやっぱ嘘っぱちで、俺を落とせるかどうかで、賭けなんかしてたんだ。
そこで告ったりしてたら、いい面の皮だ。
どんなに俺が傷ついたかなんて、あの人はてんで知らないだろうけど。
本当に好きだったから。
「勝っちゃん?」
古い思い出に入り込んでいた勝浩は、はっとして顔をあげる。
「俺のこと? それ」
「え?」
訝しげに聞き返すと、検見崎は鼻の頭を指でこする。
「人のことからかってばっかで、ムカツクこともするし、ろくでもないやつって」
途端、勝浩は笑い出す。
「ほんと、条件ぴったり」
「そこまで笑うこたあないでしょ。よっしゃ、じゃ、帰るか。ビッグ、ヨーク、一緒に来るか? と、ロクもな」
検見崎の言葉がわかるらしい、ビッグとヨークは喜んで彼に従う。
ロクもそわそわしている。
「あ、勝っちゃん、明日の飲み会七時に新宿だから、六時半にここでね」
出て行こうとして、検見崎が振り返る。
「それ、お断りしましたよね?」
勝浩は聞き返す。
「だってな、二人のこと見ちゃったしな」
「ずるいですよ」
眉をひそめて勝浩は抗議するが、「ほら、俺ってろくでもないやつだし」とばかり、検見崎はとりあわない。
そうか、似てるんだ、この人。
勝浩はふとそのことに思いあたる。
最初から初めて会った気がしなくて、だから結構甘えてたのかもしれない。
「仕方ないなー、もー」
勝浩はムッとしながら承諾した。
「おう、それでいいのよ! じゃ、また明日な、ニャン子ちゃんたち」
そんな風に、みんなに声をかけたりする検見崎は憎めない男なのだが。
「灰皿! 火の始末してくこと! 大体、ここ禁煙なんですから!」
「へーい、すんませーん」
それでも先輩であろうがしっかり教育的指導は怠らない勝浩に、検見崎はせこせこと灰皿を片付ける。
裏門のところで検見崎と別れ、自分の部屋にたどり着いてドアを開ければ、ユウが尻尾を振ってお待ちかねだ。
「ちょっと待てな、荷物置いたら、散歩行くから」
腹は空いているが、ユウの嬉しそうなようすを見ると、散歩から帰るまでの我慢もたいしたことではない。
「さ、行くぞ」
バッグを部屋の中に放ると、勝浩はユウの首輪にリードを引っ掛け、散歩グッズを手に、今日何度目かの散歩へと外に出て行った。
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