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勝手にしやがれ 3
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「え、お前、自分のことその人に話してなかったのか?」
良太は訝し気に沢村を見る。
話さなくても、大抵テレビなどで知っている顔だろうと思うのだが。
「知らなかったんだよ、あの人、俺のことなんか。だから、俺は、それでいいと思ってた。野球選手の俺とかじゃなくて、素のままの俺を知ってほしいって……」
沢村は自嘲気味に笑った。
「でも……野球やってるからって、そんな嫌わなくてもいいだろ。だったら、野球なんかやめるって言ったのに……」
それを聞いた良太は優しく微笑んだ。
「自信家で傲慢な、天才スラッガーのお前にここまで言わせるって、どんなすごい人なんだよ」
「…スラッガー? フン、あの人にとっちゃ、俺なんか厄介なストーカーでしかないんだ!」
「くだらないジョークは置いといて、お前がそんなに一生懸命になってるんだ、彼女に伝わらないわけないだろ?」
「……てめ、いい加減なこと言いやがって、これでいい厄介払いができるとか思ってるんだろ? そうはいかねぇからな。そのうちお前も工藤のオヤジに放り出されたら、俺が拾ってやらなきゃならねぇんだ。ちゃんとわかってるから、安心しろ!」
ハハハと笑う沢村を呆れた顔で良太は見つめた。
「だぁから、そんなこと考えなくていい!」
「お前を好きなのは変わりはないんだ。……けど、あの人は、ひどく…滅茶苦茶……好きで……」
沢村の生一本なところは、自分と似通っているところがあって、その思いは本物なのだろうと良太は思う。
「…だったら、こんなとこで飲んだくれて、俺なんか呼び出すより、何で彼女のとこへ行かないんだ?」
「……彼女じゃないって……」
その時、良太の携帯が鳴った。
「あ、ヤギさん、すみません、……え? ええ、それはそっちの方がいいかと……」
下柳からの電話で、一瞬仕事の方に頭が切り替わった、その時だ。
「………だから、俺の話なんか聞こうともしてくれねぇんだよ、佐々木さん……」
まくしたてる下柳の話に混じって聞こえたキーワードに何やら違和感を覚えて、また仕事モードから沢村へと良太の意識が引き戻される。
「…え? 何て言った? 今? あ、いえ、こっちの話で、すぐ戻りますから、はい、大丈夫……だと、思うんですが……」
良太はボソリと口にした沢村の言葉が気になって、話しながら沢村を見た。
「悪かったな、仕事中、呼び出して。もういいから、行けよ」
沢村は携帯でまだ話している良太を立ち上がらせ、そのままドアへ良太を引っ張っていく。
「……おい、ちょ、待てよ、あ、一旦切ります!」
良太はドアまできて携帯を切ると、真剣な眼差しで沢村を見上げた。
「お前……」
「いいから、行けって」
「お前こそ明日、ちゃんとトークショー行けよ?」
「わかってる」
「話はまた今度聞くから」
「いいって……」
「……よくない! また連絡する」
ひどく心配そうな顔で、良太は言い切った。
「ああ……わかった」
苦笑いする沢村はドアを閉めたが、良太はしばしその場を動けずにいた。
「佐々木さん……とかって、あいつ言わなかったか? 俺の聞き違い………?」
混乱した頭を抱えながら車でスタジオに戻るなり、下柳の怒号が響き渡った。
「てめぇら、やる気ねぇなら、とっとと出て行け!」
スタジオの中は、どんよりと不穏な空気が漂っていた。
下柳がここまで、どこぞの社長のように怒鳴り散らすのは割りと珍しいことだ。
みんなとっくに疲労がピークを越えていたのだろう。
出て行く者はいなかったが、いつもは冗談ばかり言っているスタッフも、ムスッとした顔を隠さないでいる。
「ヤギさん、ちょっといいですか?」
下柳が良太を見た。
「ここいらで一息入れませんか? 確かに時間はないけど、みんな疲労が溜まりきってこのままじゃよくはならないですよ。ちょっと休んで少し角度変えて見てみるとか」
すると下柳はニヤリと笑った。
「いっぱしの台詞はくようになったもんだな、良太ちゃん」
下柳は、よし、と言って立ち上がった。
「今夜はとりあえずここまでってことで、みんな、明日はアタマすっきりさせて出てこいよ」
下柳の言葉で、スタッフ全員のそのそとスタジオを後にした。
午前一時になる前には良太も久々まともに部屋に戻ってこれた。
疲れきっているのはわかっているのだが、頭は沢村のことで妙に冴え渡っている。
他のスタッフのようにスタジオに缶詰というわけではないから、一日に一度は会社に戻るし、その時自分の部屋に上がってナータンにキャットフードをやったり、世話はしていたものの、何日もあまり相手をしてやっていないので、ナータンはいつも以上にスリスリして離れない。
「もちょっとで終わるからな」
撫でてやって、やっと炬燵の定位置にナータンがおさまると、良太は風呂に入ろうとバスルームのドアを開ける。
それにしても、ここは俺の部屋か? と日に一度は疑ってしまうくらい変貌してしまった部屋には未だに慣れていない。
部屋を勝手に模様替えした犯人、いや、お歳暮のお返しとか言ってはいたが、工藤とはクリスマスの朝別れて以来、ろくに顔も合わせていないのだ。
良太は訝し気に沢村を見る。
話さなくても、大抵テレビなどで知っている顔だろうと思うのだが。
「知らなかったんだよ、あの人、俺のことなんか。だから、俺は、それでいいと思ってた。野球選手の俺とかじゃなくて、素のままの俺を知ってほしいって……」
沢村は自嘲気味に笑った。
「でも……野球やってるからって、そんな嫌わなくてもいいだろ。だったら、野球なんかやめるって言ったのに……」
それを聞いた良太は優しく微笑んだ。
「自信家で傲慢な、天才スラッガーのお前にここまで言わせるって、どんなすごい人なんだよ」
「…スラッガー? フン、あの人にとっちゃ、俺なんか厄介なストーカーでしかないんだ!」
「くだらないジョークは置いといて、お前がそんなに一生懸命になってるんだ、彼女に伝わらないわけないだろ?」
「……てめ、いい加減なこと言いやがって、これでいい厄介払いができるとか思ってるんだろ? そうはいかねぇからな。そのうちお前も工藤のオヤジに放り出されたら、俺が拾ってやらなきゃならねぇんだ。ちゃんとわかってるから、安心しろ!」
ハハハと笑う沢村を呆れた顔で良太は見つめた。
「だぁから、そんなこと考えなくていい!」
「お前を好きなのは変わりはないんだ。……けど、あの人は、ひどく…滅茶苦茶……好きで……」
沢村の生一本なところは、自分と似通っているところがあって、その思いは本物なのだろうと良太は思う。
「…だったら、こんなとこで飲んだくれて、俺なんか呼び出すより、何で彼女のとこへ行かないんだ?」
「……彼女じゃないって……」
その時、良太の携帯が鳴った。
「あ、ヤギさん、すみません、……え? ええ、それはそっちの方がいいかと……」
下柳からの電話で、一瞬仕事の方に頭が切り替わった、その時だ。
「………だから、俺の話なんか聞こうともしてくれねぇんだよ、佐々木さん……」
まくしたてる下柳の話に混じって聞こえたキーワードに何やら違和感を覚えて、また仕事モードから沢村へと良太の意識が引き戻される。
「…え? 何て言った? 今? あ、いえ、こっちの話で、すぐ戻りますから、はい、大丈夫……だと、思うんですが……」
良太はボソリと口にした沢村の言葉が気になって、話しながら沢村を見た。
「悪かったな、仕事中、呼び出して。もういいから、行けよ」
沢村は携帯でまだ話している良太を立ち上がらせ、そのままドアへ良太を引っ張っていく。
「……おい、ちょ、待てよ、あ、一旦切ります!」
良太はドアまできて携帯を切ると、真剣な眼差しで沢村を見上げた。
「お前……」
「いいから、行けって」
「お前こそ明日、ちゃんとトークショー行けよ?」
「わかってる」
「話はまた今度聞くから」
「いいって……」
「……よくない! また連絡する」
ひどく心配そうな顔で、良太は言い切った。
「ああ……わかった」
苦笑いする沢村はドアを閉めたが、良太はしばしその場を動けずにいた。
「佐々木さん……とかって、あいつ言わなかったか? 俺の聞き違い………?」
混乱した頭を抱えながら車でスタジオに戻るなり、下柳の怒号が響き渡った。
「てめぇら、やる気ねぇなら、とっとと出て行け!」
スタジオの中は、どんよりと不穏な空気が漂っていた。
下柳がここまで、どこぞの社長のように怒鳴り散らすのは割りと珍しいことだ。
みんなとっくに疲労がピークを越えていたのだろう。
出て行く者はいなかったが、いつもは冗談ばかり言っているスタッフも、ムスッとした顔を隠さないでいる。
「ヤギさん、ちょっといいですか?」
下柳が良太を見た。
「ここいらで一息入れませんか? 確かに時間はないけど、みんな疲労が溜まりきってこのままじゃよくはならないですよ。ちょっと休んで少し角度変えて見てみるとか」
すると下柳はニヤリと笑った。
「いっぱしの台詞はくようになったもんだな、良太ちゃん」
下柳は、よし、と言って立ち上がった。
「今夜はとりあえずここまでってことで、みんな、明日はアタマすっきりさせて出てこいよ」
下柳の言葉で、スタッフ全員のそのそとスタジオを後にした。
午前一時になる前には良太も久々まともに部屋に戻ってこれた。
疲れきっているのはわかっているのだが、頭は沢村のことで妙に冴え渡っている。
他のスタッフのようにスタジオに缶詰というわけではないから、一日に一度は会社に戻るし、その時自分の部屋に上がってナータンにキャットフードをやったり、世話はしていたものの、何日もあまり相手をしてやっていないので、ナータンはいつも以上にスリスリして離れない。
「もちょっとで終わるからな」
撫でてやって、やっと炬燵の定位置にナータンがおさまると、良太は風呂に入ろうとバスルームのドアを開ける。
それにしても、ここは俺の部屋か? と日に一度は疑ってしまうくらい変貌してしまった部屋には未だに慣れていない。
部屋を勝手に模様替えした犯人、いや、お歳暮のお返しとか言ってはいたが、工藤とはクリスマスの朝別れて以来、ろくに顔も合わせていないのだ。
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