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第4話
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「あ~クソッ!全然イライラが収まらないじゃない!」
レイラはドンッ!と勢いよく木樽型のジョッキをテーブルに叩きつけながら苛立ちを表に出す。
酒の酔いに任せて憤慨するレイラに重戦士のラインズは呆れて頭に手をやる。
「こんな屈辱初めてよ!勇者で、絶世の美女の私の告白を断るなんて、あの男の頭はイカれているわ!」
レイラは人目も憚らず噯気を出し、文句を垂れる。
そんな彼女の言葉を射手のミールナが同調し笑う。
「でも実際イカれていたでしょ。毎日毎日あの木偶人形を磨いたり、話しかけたり、しまいにはあの人形の服まで変えたりしだして、一緒にいるだけでも嫌だった~」
ミールナの愚痴は止まらなかった。それほど、ノウトに不満があったのだろう。
「しかもさ、あの人形の顔やけにレイラに似ているくせに、告られたら振るって童貞こじらせすぎでしょ!アハハハ!」
ミールナが、下卑た笑い声を上げていると、レイラが机を強く叩く。
その音に客で賑わっていた居酒屋が静まりかえる。
「レ、レイラ・・。」
ミールナが引き攣った笑みをレイラに向ける。
その顔は恐怖で埋め尽くされていた。
ミールナの手の甲には、レイラのフォークが突き刺さっていたのだ・・。
「おい!何をしているんだレイラ、その手を離すんだ・・。」
怒鳴り声を上げ、レイラの手を退かそうと立ち上がったのはラインズである。
だが、ラインズの力を持ってしてもレイラの手はびくともしなかった。
「大丈夫よラインズ、痛みがないようにこのフォークに、麻痺魔術を掛けているから」
レイラは笑顔をラインズに向けるが、その瞳は笑っていなかった。
口角だけを吊り上げて象られた笑顔が、今のレイラの不気味さを強くさせる。
ラインズは早くここから立ち去りたいと思いながらも、人の目を気にしてレイラに強く出る。
「そういうことではない、勇者の自覚を持って行動しろ、こんなことをする者が英雄だと思うか?」
ラインズはそう言いながら辺りを見渡す。客がどのくらいいるのか、どんな特徴かを覚え、悪い噂を流されないようにするためである。
一刻も早く手を打たなければならないというのに、聖職者のリナンは酔ったフリをして、狸寝入りをしてラインズにどうにかしろと目配せをする。
当事者のミールナはレイラから洩れる殺気にあてられパニック状態に陥っている様子だ。
ラインズは深く息をし、気持ちを落ち着かせ、レイラに耳打ちをする。
「レイラ、ノウトさんを殺すときに約束したことを忘れたのか?俺はお前に手を貸すかわりに勇者の右腕としての名声が欲しいと言ったはずだ。お前のような気性の荒い者が勇者なんて国民は認めるか?最後の忠告だ、目立つ行動はやめろ」
あまり効果がないことだと理解しているが、ラインズは普段よりも声音を低くし威圧する。
「ご、ごめんなさいレイラ。レイラの気に障ったのら何でもするから・・。どうかゆ、許して、ね?」
引き攣った笑みをレイラに向け情けなく謝罪するミールナ。
レイラは、感情を無理矢理抑え込んでいるかのようにブルブルと身体を震わせ俯く。
「全然気にしていないわ!ミールナの言い分も分かるもの。むしろ私の方がミールナを傷つけてしまって申し訳ないわ!」
やがて、レイラが顔を上げると、面のような満面の笑顔を貼り付けて謝意を述べる。
頭を下げて謝罪したレイラは次にラインズの方に向き直る。
「ラインズ、あなたにも謝らせて欲しいの!いっときの感情とはいえ、あなたの約束を破ってしまうなんて、本当にごめんなさい・・」
「あ、ああ・・。反省しているのなら、これ以上言うこともない、次からは気をつけろよ」
ラインズは歯切れの悪い返事をし、ミールナはコクコクと頷くだけだった。
「でもね」と、レイラはその後に真顔になる。
「ノウトのことを馬鹿にしたり、罵ったりすることはあなたたちでも許さないわよ?ノウトに何か思ったり、言ったりしていいのは私だけなの。今後ノウトに関しての話は一切しない、それが、私たち新パーティーのルールにしましょう」
メンバーの返答を待たずにレイラは立ち上がり机に宿のルームキーを三つ置く。
「後始末は私がしておくわ。三人は先に宿で休んでおいて。ラインズ、いえ、勇者パーティの評判は下げたりしないわ。それがパーティリーダーの務めだから」
レイラは思い出したかのように、ミールナの手の甲に刺さったフォークを乱雑に抜き取る。
レイラはミールナに蔑んだ目を向け、後方の店主の元へと向かって行った。
怯えて顔を蒼白にしていたミールナの手の傷はもう塞がっていた。
おそらく、レイラはフォークを抜く際に回復魔術を使ってミールナの傷を治したのであろう。
ラインズはこれ以上の関わりを避けたい一心で二人の手を引き宿を出るのであった。
レイラはドンッ!と勢いよく木樽型のジョッキをテーブルに叩きつけながら苛立ちを表に出す。
酒の酔いに任せて憤慨するレイラに重戦士のラインズは呆れて頭に手をやる。
「こんな屈辱初めてよ!勇者で、絶世の美女の私の告白を断るなんて、あの男の頭はイカれているわ!」
レイラは人目も憚らず噯気を出し、文句を垂れる。
そんな彼女の言葉を射手のミールナが同調し笑う。
「でも実際イカれていたでしょ。毎日毎日あの木偶人形を磨いたり、話しかけたり、しまいにはあの人形の服まで変えたりしだして、一緒にいるだけでも嫌だった~」
ミールナの愚痴は止まらなかった。それほど、ノウトに不満があったのだろう。
「しかもさ、あの人形の顔やけにレイラに似ているくせに、告られたら振るって童貞こじらせすぎでしょ!アハハハ!」
ミールナが、下卑た笑い声を上げていると、レイラが机を強く叩く。
その音に客で賑わっていた居酒屋が静まりかえる。
「レ、レイラ・・。」
ミールナが引き攣った笑みをレイラに向ける。
その顔は恐怖で埋め尽くされていた。
ミールナの手の甲には、レイラのフォークが突き刺さっていたのだ・・。
「おい!何をしているんだレイラ、その手を離すんだ・・。」
怒鳴り声を上げ、レイラの手を退かそうと立ち上がったのはラインズである。
だが、ラインズの力を持ってしてもレイラの手はびくともしなかった。
「大丈夫よラインズ、痛みがないようにこのフォークに、麻痺魔術を掛けているから」
レイラは笑顔をラインズに向けるが、その瞳は笑っていなかった。
口角だけを吊り上げて象られた笑顔が、今のレイラの不気味さを強くさせる。
ラインズは早くここから立ち去りたいと思いながらも、人の目を気にしてレイラに強く出る。
「そういうことではない、勇者の自覚を持って行動しろ、こんなことをする者が英雄だと思うか?」
ラインズはそう言いながら辺りを見渡す。客がどのくらいいるのか、どんな特徴かを覚え、悪い噂を流されないようにするためである。
一刻も早く手を打たなければならないというのに、聖職者のリナンは酔ったフリをして、狸寝入りをしてラインズにどうにかしろと目配せをする。
当事者のミールナはレイラから洩れる殺気にあてられパニック状態に陥っている様子だ。
ラインズは深く息をし、気持ちを落ち着かせ、レイラに耳打ちをする。
「レイラ、ノウトさんを殺すときに約束したことを忘れたのか?俺はお前に手を貸すかわりに勇者の右腕としての名声が欲しいと言ったはずだ。お前のような気性の荒い者が勇者なんて国民は認めるか?最後の忠告だ、目立つ行動はやめろ」
あまり効果がないことだと理解しているが、ラインズは普段よりも声音を低くし威圧する。
「ご、ごめんなさいレイラ。レイラの気に障ったのら何でもするから・・。どうかゆ、許して、ね?」
引き攣った笑みをレイラに向け情けなく謝罪するミールナ。
レイラは、感情を無理矢理抑え込んでいるかのようにブルブルと身体を震わせ俯く。
「全然気にしていないわ!ミールナの言い分も分かるもの。むしろ私の方がミールナを傷つけてしまって申し訳ないわ!」
やがて、レイラが顔を上げると、面のような満面の笑顔を貼り付けて謝意を述べる。
頭を下げて謝罪したレイラは次にラインズの方に向き直る。
「ラインズ、あなたにも謝らせて欲しいの!いっときの感情とはいえ、あなたの約束を破ってしまうなんて、本当にごめんなさい・・」
「あ、ああ・・。反省しているのなら、これ以上言うこともない、次からは気をつけろよ」
ラインズは歯切れの悪い返事をし、ミールナはコクコクと頷くだけだった。
「でもね」と、レイラはその後に真顔になる。
「ノウトのことを馬鹿にしたり、罵ったりすることはあなたたちでも許さないわよ?ノウトに何か思ったり、言ったりしていいのは私だけなの。今後ノウトに関しての話は一切しない、それが、私たち新パーティーのルールにしましょう」
メンバーの返答を待たずにレイラは立ち上がり机に宿のルームキーを三つ置く。
「後始末は私がしておくわ。三人は先に宿で休んでおいて。ラインズ、いえ、勇者パーティの評判は下げたりしないわ。それがパーティリーダーの務めだから」
レイラは思い出したかのように、ミールナの手の甲に刺さったフォークを乱雑に抜き取る。
レイラはミールナに蔑んだ目を向け、後方の店主の元へと向かって行った。
怯えて顔を蒼白にしていたミールナの手の傷はもう塞がっていた。
おそらく、レイラはフォークを抜く際に回復魔術を使ってミールナの傷を治したのであろう。
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