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第9話
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サイクロプスのゴオズは、部下を自分の前に集め、肉壁を築き目の前のローブの男を警戒する。
ゴオズには、自己再生のスキルがあるため、腕を斬り落とされてもさほど問題はないが、自分の皮膚の硬さは誰よりも知っているはずだ・・。
ローブの男は鋼鉄よりも硬い外皮を、ゴオズの動体視力を持ってしても視認出来ない速さで斬り落としたのである。
「何かカラクリがあるはずだ・・。じゃなきゃあんなガリガリの男が俺の身体を斬れるはずがねぇ・・。」
ゴオズは再び、余裕の笑みを見せたのであった・・。
ーーーーー
ローブの男、もとい傀儡は青年のことの発端を無表情で聞く。
青年は、途中の相槌もないので、本当に話を聞いているか不安になる。
「だいたいの事情はわかった・・。」
傀儡はそう言いなが、自身のローブに付いた埃を払う。
呑気に身なりを整える傀儡に痺れを切らしたのか、ゴブリンが数体雄叫びを上げながら傀儡に襲いかかる。
「グガアアァ!!」
「あ、危ない!」
と、ベイクがそう言い終わるころには、小鬼たちがダイス状の肉塊と変わり果て空中に舞う。
ダイス状に分解した肉塊は叫び声のように血飛沫を上げる。
赤黒い血液が、吹き出しながら地面に落ちる。
何が起こったのか、ベイクには見えなかったが、傀儡に底知れぬ強さがあるということだけはこの一瞬で理解する。
「本当に・・人間技じゃないわね・・」
「き、気がついたのか・・!よ、良かった・・。」
苦痛に顔を歪めながらセンサザールが目を覚ます。
この数分でもう傷が塞がりだしている。
その様子を見てベイクは安堵する。
「私はこう見えてもタフなのよ・・。」
ベイクの心境を察したセンサザールがそう言い微笑を向ける。
「何なんだお前は!」
ゴオズが狼狽えながら傀儡を指差しながら慄く。
「俺の名はゼン・・。お前に恨みはないが、この名をくれた少女の村を襲うとしたお前を許してはおけない」
傀儡は自分の名を名乗り、両手の指先から魔力を放出させる。ワイヤー程の太さのソレを見てセンサザールは苦笑する。
「何よあの高密度の魔力は・・」
「〝魔力糸〟ノウト様の編み出したオリジナルの魔力操作をもってお前を殺す」
ゴオズは傀儡のその言葉を聞き眉をピクリと動かす。
「魔力操作で俺を殺すだぁぁ!?舐めたこと言ってんじゃねえぞ!」
ゴオズは咆哮に近い声を上げ、肉壁となっている部下の鬼たちを薙ぎ倒しながら傀儡に向かって突進する。
魔力操作とは魔導を司る者の覚えなければいけない基礎中の基礎のことである。
魔力の源、魔素を魔力に変換し、魔術式や詠唱魔法の媒体にし、制御することを意味し、ゴオズにとってはその基礎だけで殺すと挑発を受けたも同然である。
「加速付与!!」
センサザールのときと違いゴオズは身体強化を使い先手必勝を狙い、傀儡の顔面目掛け渾身の一撃を放つーーッ!
はずであったが、耳を叩かれたと錯覚するほどの強烈な風切り音と共に自身の身体が雪崩れのように崩れ落ちる。
「な、何でおで・・のがらだ・がぁぁ・・。」
ゴオズの視界が格子状に分かれ始めて、自分が傀儡に切り刻まれたことを理解する。
敗因も痛みも感じぬまま、微睡の中のように身体の力が抜けるーーー。
ーーーーー
「た、倒したのか・・?」
ベイクは黒煙を纏いながら、身体が朽ちていくゴオズを眺めながらそう言う。
「核は潰したはずだ。お前にコレをやる」
傀儡は地面に落ちている魔石をベイクの麻袋に詰めながらそう言う。
「い、いいのかよ?俺はあんた達に何もしてないぞ?」
「俺はハミーとライナ達にゼンという名前をもらった、話し方も教わった。平等な対価だろ?」
ベイクは傀儡の言葉に首を横に振る。
「いやいや、魔石にどれだけの価値があると思っているんだ・・」
魔石は全部で二十個ほどあった。あのあとゴオズの弔いのために襲いかかった鬼たちを傀儡が倒したためだ。
サイクロプスの討伐クラスはB級相当であり、さらに今回のサイクロプスは突然変異亜種であろう。
魔石の色は鬼たちであれば、赤や紫といった赤みがかった色をしているのだが、このサイクロプスは翠玉のように強い緑色であった。
戦闘経験がないベイクでも、その強さは歴然としていた。
(これだけあったら家が一軒立っちまうかも・・。)
「くれるっていうんだから貰っときなさいよ。ついでにゴオズの宝とかも売り払ったら?」
センサザールは、そう言う。
傀儡の手を借り、「気が利くじゃない」と、皮肉めいたことを言いながら立ち上がる。
「で、でもよ・・。」
「別にお前だけのものじゃない、これで冒険者や警備兵でも雇え」
ベイクはその言葉を聞きハッとする。
「もう誰かが傷付かぬように、そのために守れるだけの力がないとダメだ。」
村から出て街に移住することを勧めるのではなく、村に住み続けるための提案。
その真意を理解したベイクの眼から一筋の涙が流れる。
「あ、ありがとう・・ございます・・。」
センサザールはその二人のやりとりを見ながら、うるむ眼を腕で拭い手を叩いて、合図する。
「それじゃ一件落着ってことで村に戻るわよ!ベイク、貴方達を助けってやったんだからご馳走ぐらいしてよね!」
すっかり元気になったセンサザールがそんなことを口にしながら先頭を歩き出す。
「お前は無闇に突っ込んでやられていただろ・・。」
傀儡の言葉に腹をかいたセンサザールが言い訳をしながら、二人で先を行く姿を追いかけながらベイクはその場を後にする・・。
ゴオズには、自己再生のスキルがあるため、腕を斬り落とされてもさほど問題はないが、自分の皮膚の硬さは誰よりも知っているはずだ・・。
ローブの男は鋼鉄よりも硬い外皮を、ゴオズの動体視力を持ってしても視認出来ない速さで斬り落としたのである。
「何かカラクリがあるはずだ・・。じゃなきゃあんなガリガリの男が俺の身体を斬れるはずがねぇ・・。」
ゴオズは再び、余裕の笑みを見せたのであった・・。
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ローブの男、もとい傀儡は青年のことの発端を無表情で聞く。
青年は、途中の相槌もないので、本当に話を聞いているか不安になる。
「だいたいの事情はわかった・・。」
傀儡はそう言いなが、自身のローブに付いた埃を払う。
呑気に身なりを整える傀儡に痺れを切らしたのか、ゴブリンが数体雄叫びを上げながら傀儡に襲いかかる。
「グガアアァ!!」
「あ、危ない!」
と、ベイクがそう言い終わるころには、小鬼たちがダイス状の肉塊と変わり果て空中に舞う。
ダイス状に分解した肉塊は叫び声のように血飛沫を上げる。
赤黒い血液が、吹き出しながら地面に落ちる。
何が起こったのか、ベイクには見えなかったが、傀儡に底知れぬ強さがあるということだけはこの一瞬で理解する。
「本当に・・人間技じゃないわね・・」
「き、気がついたのか・・!よ、良かった・・。」
苦痛に顔を歪めながらセンサザールが目を覚ます。
この数分でもう傷が塞がりだしている。
その様子を見てベイクは安堵する。
「私はこう見えてもタフなのよ・・。」
ベイクの心境を察したセンサザールがそう言い微笑を向ける。
「何なんだお前は!」
ゴオズが狼狽えながら傀儡を指差しながら慄く。
「俺の名はゼン・・。お前に恨みはないが、この名をくれた少女の村を襲うとしたお前を許してはおけない」
傀儡は自分の名を名乗り、両手の指先から魔力を放出させる。ワイヤー程の太さのソレを見てセンサザールは苦笑する。
「何よあの高密度の魔力は・・」
「〝魔力糸〟ノウト様の編み出したオリジナルの魔力操作をもってお前を殺す」
ゴオズは傀儡のその言葉を聞き眉をピクリと動かす。
「魔力操作で俺を殺すだぁぁ!?舐めたこと言ってんじゃねえぞ!」
ゴオズは咆哮に近い声を上げ、肉壁となっている部下の鬼たちを薙ぎ倒しながら傀儡に向かって突進する。
魔力操作とは魔導を司る者の覚えなければいけない基礎中の基礎のことである。
魔力の源、魔素を魔力に変換し、魔術式や詠唱魔法の媒体にし、制御することを意味し、ゴオズにとってはその基礎だけで殺すと挑発を受けたも同然である。
「加速付与!!」
センサザールのときと違いゴオズは身体強化を使い先手必勝を狙い、傀儡の顔面目掛け渾身の一撃を放つーーッ!
はずであったが、耳を叩かれたと錯覚するほどの強烈な風切り音と共に自身の身体が雪崩れのように崩れ落ちる。
「な、何でおで・・のがらだ・がぁぁ・・。」
ゴオズの視界が格子状に分かれ始めて、自分が傀儡に切り刻まれたことを理解する。
敗因も痛みも感じぬまま、微睡の中のように身体の力が抜けるーーー。
ーーーーー
「た、倒したのか・・?」
ベイクは黒煙を纏いながら、身体が朽ちていくゴオズを眺めながらそう言う。
「核は潰したはずだ。お前にコレをやる」
傀儡は地面に落ちている魔石をベイクの麻袋に詰めながらそう言う。
「い、いいのかよ?俺はあんた達に何もしてないぞ?」
「俺はハミーとライナ達にゼンという名前をもらった、話し方も教わった。平等な対価だろ?」
ベイクは傀儡の言葉に首を横に振る。
「いやいや、魔石にどれだけの価値があると思っているんだ・・」
魔石は全部で二十個ほどあった。あのあとゴオズの弔いのために襲いかかった鬼たちを傀儡が倒したためだ。
サイクロプスの討伐クラスはB級相当であり、さらに今回のサイクロプスは突然変異亜種であろう。
魔石の色は鬼たちであれば、赤や紫といった赤みがかった色をしているのだが、このサイクロプスは翠玉のように強い緑色であった。
戦闘経験がないベイクでも、その強さは歴然としていた。
(これだけあったら家が一軒立っちまうかも・・。)
「くれるっていうんだから貰っときなさいよ。ついでにゴオズの宝とかも売り払ったら?」
センサザールは、そう言う。
傀儡の手を借り、「気が利くじゃない」と、皮肉めいたことを言いながら立ち上がる。
「で、でもよ・・。」
「別にお前だけのものじゃない、これで冒険者や警備兵でも雇え」
ベイクはその言葉を聞きハッとする。
「もう誰かが傷付かぬように、そのために守れるだけの力がないとダメだ。」
村から出て街に移住することを勧めるのではなく、村に住み続けるための提案。
その真意を理解したベイクの眼から一筋の涙が流れる。
「あ、ありがとう・・ございます・・。」
センサザールはその二人のやりとりを見ながら、うるむ眼を腕で拭い手を叩いて、合図する。
「それじゃ一件落着ってことで村に戻るわよ!ベイク、貴方達を助けってやったんだからご馳走ぐらいしてよね!」
すっかり元気になったセンサザールがそんなことを口にしながら先頭を歩き出す。
「お前は無闇に突っ込んでやられていただろ・・。」
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