13 / 43
第13話
しおりを挟む
洞穴のような薄暗い空間に、裸電球が一つ点滅しながら真下の机を照らしていた。
環境としては粗末なものだったが、机だけはこだわり抜かれており、金箔や宝石が埋め込まれた円卓が設置されていた。
小鬼は呼吸することも忘れ、その円卓に座る三人に頭を垂れていた。今から自分の身に起こることを悟っていたからである。
「センサザールがやられるとは思いませんでしたわ」
玉を転がすような声でそう言ったのは、光を束ねたような美しい金髪に天使を彷彿とさせる毛並みの整った翼を持つ天翼族のビュティニアであった。
魔族でありがなら神の使いと言われている希少種族であり、二つ名は、天孤の将
、彼女は単独もしくは少数精鋭で動くことからそう言われている。
「ふん、恵まれた種族の血を受け継いでいるにも関わらず、魔術なんてものに勤しんでいるから寝首をかかれるのだ!」
大地を揺らすような声でそう叱咤するのは、皮膚を分厚い鱗で覆い爬虫類のような見た目が特徴的な海竜人種のダルガニオであった。
ダルガニオは海竜人種の中でも、海魔竜と呼ばれる種族であり、竜の独特な長い髭とノコギリの歯のよう刻み目状の尖った角を持つ、高位の魔族である。
海のような深青の身体が赤みがかるほど怒り狂ったダルガニオの感情を表すように彼の尻尾が暴れ大地を削る。
「まあでも実際には生きていますし・・。どうやってあの勇者パーティーの傀儡師から引き離すかを考えないと・・。」
オロオロと二人の顔を伺うように話すのは、立体感のない真っ黒な影であった。長身痩躯の人型のソレは四天王補佐である、ミルミユであった。
正体も能力も不明なミルミユは、功績がないにも関わらず四天王補佐をしている、姿だけではなく実力も謎である。
「一度負けた者に四天王の名を語る資格はない!私兵の練度も中途半端とあっては四天王の名に泥を塗っているも同然であろう・・。」
ダルガニオはそう憤り、ゴブリンを蔑んだ目で見下ろす。
おそらくゴオズのことを揶揄しているのだろう。
だが、ゴブリンには微塵も関係ない。力の強い者に媚びへつらっているだけであり、ゴオズに尊敬の意などありはしないからであるからだ。
「ヘヘッ、ダルガニオ様の言う通りでございます」
「何がおかしいんだ?俺はお前の上司を馬鹿にしたんだぞ?」
瞬きをする間もなくダルガニオがゴブリンの元まで移動し、片手でゴブリンの頭を掴み持ち上げる。
「な、何をするんですかーーっ!?」
グシャッ!
果実を握り潰すかのように、ゴブリンの頭が爆ぜる。
ビュティニアは自身に返り血がかからないように翼を丸め、ミルミユはさも自身が受けたように身震いをしていた。
「プライドも忠誠心もない者に生きる価値なし!」
口から蒸気を吹き出すダルガニオのその様は、鬱憤を放出している肉食獣のようであった。
「ダルガニオ、そんな小物よりも会議の方が大事ですわ」
呆れた物言いのビュティニアは、爪をイジリながらミリミユを一瞥する。
「私は貴方の意見の方が正しいと思いますわ。彼女ほど魔王軍の参謀もとい防衛指揮は務まりませんわ。魔術に勤しんだからこその彼女の知識量は計り知れないのではなくて?」
その言葉にダルガニオは眉を顰める。
「お前たちは、俺の意見が間違っていると言いたいのか?」
勢いよく席に着いたダルガニオの組んだ腕は怒りで震えていた。
「あら、頭が悪いだけじゃなくて随分と鈍いんですのね。四天王の器は武力だけじゃなくて?」
ダルガニオに目もくれずほくそ笑むビュティニア。
ダルガニオが円卓を力強く叩き立ち上がる。
「貴様アァァ!」
「僕もダルガニオ様の意見に賛成だなぁ。結局力がないと下は育たないよ」
そう言い放ったのは、突如ダルガニオとビュティニアの睨み合う間に現れた、短パンスーツにつばの広いハットを身につけたブロンドの髪と兎耳の少年であった。
円卓の上に立ち、笑いの反動でぴょこぴょこと動くブロンドの兎耳がこの場の雰囲気に似つかわしく動く。
「デルスター、貴方が何故ここにいるんですの?」
ビュティニアは不審な目を兎耳の少年に向けるがその問に答えたのはダルガニオであった。
「呼んだのは俺とココにはいねぇ馬鹿だよ。コイツをセンサザールの席に座る新しい四天王にするためだ」
ダルガニオのその言葉にビュティニアは目を開き、ダルガニオを睨む。
「何の冗談かしら?デルスターは私の部下よ、私の断りなく勝手に話を進めないでくださらない?」
「ビュティニアさんの部下の前に僕は魔王様に忠誠を誓っている身、あなたの命令よりも優先しなければいけなんですよ」
「魔王様が貴方を四天王に?」
「何を今さら、ここにいる時点で薄々わかっているでしょ?それともあなたも鈍いんですか?」
兎耳の少年、デルスターの言葉にビュティニアは舌打ちをする。
「まあ、そういうことだ、俺と馬鹿と、魔王様の三人が認めたのだ、お前に拒否権はない。デルスターは今日をもって四天王の座をつくことになったのだ」
「そういうことなら文句はないわ」
平静を装い座り直すビュティニアをデルスターは面白おかしく眺める。
「何か?」
「いえ、先程の話・・ビュティニア様は仲間想いなのだと思いましてね、あなたの下にいて、そう感じたことはなかったもので・・。」
デルスターは円卓から降りビュティニアに耳打ちをする。
「ミスを犯した同僚には優しいのですね。同族にはあれほど酷い仕打ちをしたというのに・・。」
デルスターはそう言うと、本来センサザールが座るべき椅子に我が者顔で着席する。
ビュティニアは、そんな含みのある言い方をしたデルスターに鋭い眼光を向けるのであった。
環境としては粗末なものだったが、机だけはこだわり抜かれており、金箔や宝石が埋め込まれた円卓が設置されていた。
小鬼は呼吸することも忘れ、その円卓に座る三人に頭を垂れていた。今から自分の身に起こることを悟っていたからである。
「センサザールがやられるとは思いませんでしたわ」
玉を転がすような声でそう言ったのは、光を束ねたような美しい金髪に天使を彷彿とさせる毛並みの整った翼を持つ天翼族のビュティニアであった。
魔族でありがなら神の使いと言われている希少種族であり、二つ名は、天孤の将
、彼女は単独もしくは少数精鋭で動くことからそう言われている。
「ふん、恵まれた種族の血を受け継いでいるにも関わらず、魔術なんてものに勤しんでいるから寝首をかかれるのだ!」
大地を揺らすような声でそう叱咤するのは、皮膚を分厚い鱗で覆い爬虫類のような見た目が特徴的な海竜人種のダルガニオであった。
ダルガニオは海竜人種の中でも、海魔竜と呼ばれる種族であり、竜の独特な長い髭とノコギリの歯のよう刻み目状の尖った角を持つ、高位の魔族である。
海のような深青の身体が赤みがかるほど怒り狂ったダルガニオの感情を表すように彼の尻尾が暴れ大地を削る。
「まあでも実際には生きていますし・・。どうやってあの勇者パーティーの傀儡師から引き離すかを考えないと・・。」
オロオロと二人の顔を伺うように話すのは、立体感のない真っ黒な影であった。長身痩躯の人型のソレは四天王補佐である、ミルミユであった。
正体も能力も不明なミルミユは、功績がないにも関わらず四天王補佐をしている、姿だけではなく実力も謎である。
「一度負けた者に四天王の名を語る資格はない!私兵の練度も中途半端とあっては四天王の名に泥を塗っているも同然であろう・・。」
ダルガニオはそう憤り、ゴブリンを蔑んだ目で見下ろす。
おそらくゴオズのことを揶揄しているのだろう。
だが、ゴブリンには微塵も関係ない。力の強い者に媚びへつらっているだけであり、ゴオズに尊敬の意などありはしないからであるからだ。
「ヘヘッ、ダルガニオ様の言う通りでございます」
「何がおかしいんだ?俺はお前の上司を馬鹿にしたんだぞ?」
瞬きをする間もなくダルガニオがゴブリンの元まで移動し、片手でゴブリンの頭を掴み持ち上げる。
「な、何をするんですかーーっ!?」
グシャッ!
果実を握り潰すかのように、ゴブリンの頭が爆ぜる。
ビュティニアは自身に返り血がかからないように翼を丸め、ミルミユはさも自身が受けたように身震いをしていた。
「プライドも忠誠心もない者に生きる価値なし!」
口から蒸気を吹き出すダルガニオのその様は、鬱憤を放出している肉食獣のようであった。
「ダルガニオ、そんな小物よりも会議の方が大事ですわ」
呆れた物言いのビュティニアは、爪をイジリながらミリミユを一瞥する。
「私は貴方の意見の方が正しいと思いますわ。彼女ほど魔王軍の参謀もとい防衛指揮は務まりませんわ。魔術に勤しんだからこその彼女の知識量は計り知れないのではなくて?」
その言葉にダルガニオは眉を顰める。
「お前たちは、俺の意見が間違っていると言いたいのか?」
勢いよく席に着いたダルガニオの組んだ腕は怒りで震えていた。
「あら、頭が悪いだけじゃなくて随分と鈍いんですのね。四天王の器は武力だけじゃなくて?」
ダルガニオに目もくれずほくそ笑むビュティニア。
ダルガニオが円卓を力強く叩き立ち上がる。
「貴様アァァ!」
「僕もダルガニオ様の意見に賛成だなぁ。結局力がないと下は育たないよ」
そう言い放ったのは、突如ダルガニオとビュティニアの睨み合う間に現れた、短パンスーツにつばの広いハットを身につけたブロンドの髪と兎耳の少年であった。
円卓の上に立ち、笑いの反動でぴょこぴょこと動くブロンドの兎耳がこの場の雰囲気に似つかわしく動く。
「デルスター、貴方が何故ここにいるんですの?」
ビュティニアは不審な目を兎耳の少年に向けるがその問に答えたのはダルガニオであった。
「呼んだのは俺とココにはいねぇ馬鹿だよ。コイツをセンサザールの席に座る新しい四天王にするためだ」
ダルガニオのその言葉にビュティニアは目を開き、ダルガニオを睨む。
「何の冗談かしら?デルスターは私の部下よ、私の断りなく勝手に話を進めないでくださらない?」
「ビュティニアさんの部下の前に僕は魔王様に忠誠を誓っている身、あなたの命令よりも優先しなければいけなんですよ」
「魔王様が貴方を四天王に?」
「何を今さら、ここにいる時点で薄々わかっているでしょ?それともあなたも鈍いんですか?」
兎耳の少年、デルスターの言葉にビュティニアは舌打ちをする。
「まあ、そういうことだ、俺と馬鹿と、魔王様の三人が認めたのだ、お前に拒否権はない。デルスターは今日をもって四天王の座をつくことになったのだ」
「そういうことなら文句はないわ」
平静を装い座り直すビュティニアをデルスターは面白おかしく眺める。
「何か?」
「いえ、先程の話・・ビュティニア様は仲間想いなのだと思いましてね、あなたの下にいて、そう感じたことはなかったもので・・。」
デルスターは円卓から降りビュティニアに耳打ちをする。
「ミスを犯した同僚には優しいのですね。同族にはあれほど酷い仕打ちをしたというのに・・。」
デルスターはそう言うと、本来センサザールが座るべき椅子に我が者顔で着席する。
ビュティニアは、そんな含みのある言い方をしたデルスターに鋭い眼光を向けるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる