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第19話
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リーネは息を切らしながら雑木林を走っていた。
舗装もロクにされていないその道は体力の消耗を早めていた・・。
しかし目の前を走る二人には全くそのような気配がない。
無駄のない移動動作に加えて、視覚情報の処理能力の速さがリーネと明らかに違っていた。
リーネは獣道のような足場から、腰の高さまである、大きな岩などもなんなく飛び越えていくその二人を追うのにやっとであった。
「ハア、ハア、速すぎです・・。」
しばらくして、目の前にいる二人の足がピタリと止まり、リーネはようやく心に抱いていた感情を吐露する。
「そろそろ土粒探知で見つけた、複数人が集まった場所に着くわね」
手を団扇のようにパタパタと動かし、汗ばんだ身体を冷やしながらそう言ったのはハーフエルフのセンサザールであった。
てっきりもう着いたと思っていたリーネは小首を傾げる。
「まだ着いてないです?何故ここで止まったです?」
「一つだけお前に聞きたいことがあったからだ」
「聞きたいことです?」
「ああ」と、ゼンは首を縦に振り、リーネの方を振り向く。
「お前は自分の手で、復讐を果たしたいか?」
ーーーーー
「や、やめてください!私たちがやったことは謝りますからどうか命だけはっ!?」
マイヤの悲痛な叫び声が辺り一体に反響する。
「その頼みは聞けねーな。お前らは一番の取引材料を逃しちまったからな・・。」
筋骨隆々の男、ドルゴは衰弱した少女マイヤを木に縛りつけながらそう言う。
「ま、マイヤは何も悪くないんです!リーネを逃すように指示したのは私なんです!」
ミランダの言葉にドルゴは微笑を浮かべミランダの方に近づき、じっとその顔を覗き込むように見つめる。
恐怖からミランダの息が上がる。
「どうした?目が泳いで息も荒くなっているぞ?涙目ぐましいね、他人を助けるために自分を犠牲にしようとするその精神感服するね」
「マイヤは私の姉なんです・・ガッ!?」
「そういうことを聞いてるんじゃねえんだよ!どう落とし前をつけてくれるんだぁ!?お前の姉貴のせいで一体どんだけの損失を被ってるのか理解してんのか!」
マイヤの頬を打ちながら怒鳴り散らすドルゴ。
青筋を浮き出しながら、ミランダを睨みつける。
「まあまあ、ドルゴさんそんなに気を荒げないで下さいよ。それにこの子は大事な商品ですから顔に傷をつけられたら値段が下がってしまいますよ」
馴れ馴れしくドルゴの肩を叩きそう発言したのは、紺のローブに節を削った真珠木の枝で作られた魔武器の11インチほどの杖を携えた糸目の青年であった。
中距離、支援を得意とする灰魔術士の出で立ちのその青年にドルゴは鼻を鳴らし、ミランダの前で屈み訊ねてくる。
「俺は元々冒険者をやっていてな、上から四番目のB級冒険者までいったんだがな、何故俺は今、奴隷商人の護衛をしていると思う?」
「え・・・ンンッーー!?」
ミランダがその質問に答える前にドルゴはミランダの首を絞め持ち上げる。
「命張って必死こいてやってた冒険者よりも楽に大金が貰えるからだよ!なのにお前らのせいでせっかくの大物が逃げちまったんだよ、天翼族の長の娘なんてお前ら十人分よりも値が付くのによぉ!」
そう怒鳴りつけるドルゴに首を絞められたミランダはなす術なく、空中で足をバタつかせもがく。
「ちょっと殺さないで下さいよ?」
「うるせえなゴーイッグ。コイツらには寒い仲間意識が根づいちまっているんだよ、この二人は見せしめだ。もう二度と逃げようなどと馬鹿なことを考えさせないためのな」
「お、お願いします・・。ど、どうか命だけは・・」
苦悶の表情でそう懇願するミランダを見てゴーイッグと言われた青年はドルゴに歩み寄る。
「まあまあ、ドルゴさんの気持ちもわかりますけどここは一つ彼女の意思を汲んでチャンスを与えてあげたらどうですか?」
「チャンス?」
そう聞き返すドルゴに口角を吊り上げ不気味な笑顔をするゴーイッグ。
「ええ、彼女たちに長の娘を呼び戻させましょう。あの魔呪式がありますからそう遠くには行ってないはずですよ?」
ゴーイッグの言葉を聞いたドルゴは不敵に笑い、ゴーイッグに話の続きを促す。
その内容を聞いたミランダは絶望感に顔を歪める。
(ごめんなさい・・マイヤ、リーネ私が弱いばっかりに・・。)
ミランダは後悔の念から、両の眼から一筋の涙を流すのであった。
舗装もロクにされていないその道は体力の消耗を早めていた・・。
しかし目の前を走る二人には全くそのような気配がない。
無駄のない移動動作に加えて、視覚情報の処理能力の速さがリーネと明らかに違っていた。
リーネは獣道のような足場から、腰の高さまである、大きな岩などもなんなく飛び越えていくその二人を追うのにやっとであった。
「ハア、ハア、速すぎです・・。」
しばらくして、目の前にいる二人の足がピタリと止まり、リーネはようやく心に抱いていた感情を吐露する。
「そろそろ土粒探知で見つけた、複数人が集まった場所に着くわね」
手を団扇のようにパタパタと動かし、汗ばんだ身体を冷やしながらそう言ったのはハーフエルフのセンサザールであった。
てっきりもう着いたと思っていたリーネは小首を傾げる。
「まだ着いてないです?何故ここで止まったです?」
「一つだけお前に聞きたいことがあったからだ」
「聞きたいことです?」
「ああ」と、ゼンは首を縦に振り、リーネの方を振り向く。
「お前は自分の手で、復讐を果たしたいか?」
ーーーーー
「や、やめてください!私たちがやったことは謝りますからどうか命だけはっ!?」
マイヤの悲痛な叫び声が辺り一体に反響する。
「その頼みは聞けねーな。お前らは一番の取引材料を逃しちまったからな・・。」
筋骨隆々の男、ドルゴは衰弱した少女マイヤを木に縛りつけながらそう言う。
「ま、マイヤは何も悪くないんです!リーネを逃すように指示したのは私なんです!」
ミランダの言葉にドルゴは微笑を浮かべミランダの方に近づき、じっとその顔を覗き込むように見つめる。
恐怖からミランダの息が上がる。
「どうした?目が泳いで息も荒くなっているぞ?涙目ぐましいね、他人を助けるために自分を犠牲にしようとするその精神感服するね」
「マイヤは私の姉なんです・・ガッ!?」
「そういうことを聞いてるんじゃねえんだよ!どう落とし前をつけてくれるんだぁ!?お前の姉貴のせいで一体どんだけの損失を被ってるのか理解してんのか!」
マイヤの頬を打ちながら怒鳴り散らすドルゴ。
青筋を浮き出しながら、ミランダを睨みつける。
「まあまあ、ドルゴさんそんなに気を荒げないで下さいよ。それにこの子は大事な商品ですから顔に傷をつけられたら値段が下がってしまいますよ」
馴れ馴れしくドルゴの肩を叩きそう発言したのは、紺のローブに節を削った真珠木の枝で作られた魔武器の11インチほどの杖を携えた糸目の青年であった。
中距離、支援を得意とする灰魔術士の出で立ちのその青年にドルゴは鼻を鳴らし、ミランダの前で屈み訊ねてくる。
「俺は元々冒険者をやっていてな、上から四番目のB級冒険者までいったんだがな、何故俺は今、奴隷商人の護衛をしていると思う?」
「え・・・ンンッーー!?」
ミランダがその質問に答える前にドルゴはミランダの首を絞め持ち上げる。
「命張って必死こいてやってた冒険者よりも楽に大金が貰えるからだよ!なのにお前らのせいでせっかくの大物が逃げちまったんだよ、天翼族の長の娘なんてお前ら十人分よりも値が付くのによぉ!」
そう怒鳴りつけるドルゴに首を絞められたミランダはなす術なく、空中で足をバタつかせもがく。
「ちょっと殺さないで下さいよ?」
「うるせえなゴーイッグ。コイツらには寒い仲間意識が根づいちまっているんだよ、この二人は見せしめだ。もう二度と逃げようなどと馬鹿なことを考えさせないためのな」
「お、お願いします・・。ど、どうか命だけは・・」
苦悶の表情でそう懇願するミランダを見てゴーイッグと言われた青年はドルゴに歩み寄る。
「まあまあ、ドルゴさんの気持ちもわかりますけどここは一つ彼女の意思を汲んでチャンスを与えてあげたらどうですか?」
「チャンス?」
そう聞き返すドルゴに口角を吊り上げ不気味な笑顔をするゴーイッグ。
「ええ、彼女たちに長の娘を呼び戻させましょう。あの魔呪式がありますからそう遠くには行ってないはずですよ?」
ゴーイッグの言葉を聞いたドルゴは不敵に笑い、ゴーイッグに話の続きを促す。
その内容を聞いたミランダは絶望感に顔を歪める。
(ごめんなさい・・マイヤ、リーネ私が弱いばっかりに・・。)
ミランダは後悔の念から、両の眼から一筋の涙を流すのであった。
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