主人を殺された傀儡は地の女王と復讐の旅に出る

タカヒラ 桜楽

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第36話

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ラインズの家系は有名な騎士一家、その家を出ても尚、騎士としての誇りはあった。
感情任せに抜刀してしまったが、決闘の礼儀を重んじるラインズは懐から普段使っている革製の指抜きグローブ取り出そうとするが、

「何故貴方と形式ばって戦わないといけないの?」

「あ?」

刹那、レイラが卓上に乗り上げ片手を横一線に薙ぐ。
ラインズの身体に触れてその手は一回り大きいラインズの体躯を店内と外を繋ぐ扉へと吹き飛ばすのであった。

「・・ガッ!?」

ラインズはそのままの勢いで外へと転がり出て行き、体勢を整えようとするが、身体が思うように動かずに地べたに這いずる形となる。
たったの一撃、それもただの腕の振りだけの攻撃に深傷を負っていることにラインズはレイラの底知れぬ恐ろしさを痛感する。
どんな巨大な魔物の攻撃をも防ぐ鉄壁のラインズの肉体が牽制程度の攻撃で怯んでいることに本人自身の常識が瓦解する。

「全く呆れるね。近接を得意とする職業の男が軽々と飛ばされるなんて、戦場だったら君の仲間全員死んでいるよ・・。」

一瞬で数十メートルの距離を詰めたレイラが欠伸混じりに馬鹿にした言葉をラインズに浴びせる。

「お前も近接職だろうがッ!」

「おおっ、怖いなー。目がガチじゃん」

そう軽口をたたくレイラ。

ラインズは咆哮するように怒鳴ると、身体の回復を待たずに長剣をレイラ目がけて振り抜く。
だが、ラインズ自身の狙いが定まらず軽々と避けられる。

「今ならコレで手打ちにしてあげてもいいよ。私と君との力量差は明らかだってことがわかったよね?」

レイラは血走った目で睨みつけてくるラインズに肩をすくめる。
その様子に、ラインズは歯軋りをし、長剣を両手で握りしめ突進する。

「決闘に水をさすつもりか、レイラぁ!」

肩から袈裟にかけて見事な弧を描いて放たれたラインズの渾身の一撃。
ラインズの鬼気迫る声と空気を裂く長剣の薙ぐ音がレイラに襲いかかる。

「ラインズ、私は決闘なんてした覚えはないよ。これは手を噛もうとするペットを躾けているだけにすぎないんだ」

ため息混じりのレイラの一言がラインズの耳に入ると同時にラインズの視界がプツリと途切れる。


「・・・ッ!!があああぁぁ!」

視界が正常に戻ったときには、焼かれたような痛みが走り、ラインズは顔を手で覆いながら苦悶の表情のまま地面に膝を着く。
レイラは蔑んだ目をラインズに向けると、何かをラインズに向けて投げ捨てるのであった。

カランカランと、金属音が響きラインズは絶句する。


そこにあったのは、ラインズが握りしめていた長剣であった・・。


レイラはラインズが斬りかかったあの瞬間に剣を奪い取り、身を引きながらあろうことかラインズを逆に斬りつけたのである。
コンマ何秒の間の異次元な動作は並外れた身体能力を持った彼女にしか成し得ないことだろう。

「あがあああぁぁ!」

顔面を斬られたラインズは湯水のように溢れ出てくる激痛からうめき声が止まらず出てくる。

「騎士道に身を置きすぎたね。いくら速くても、馬鹿正直に真っ直ぐ斬ろうとするなんて、私が対処出来ないとでも思ったの?」

苦痛のあまりまともに喋れないラインズであったが、見下ろすレイラにわずかな笑みを向ける。

(人前で仲間に手を上げたな・・。)

ラインズは、端から彼女に勝てるなんて考えてもいなかったのである。

彼の狙いは、レイラを仲間に手を上げる非道な人間であるということを民衆に知らしめることであった。
ここ数日で、ラインズはレイラの行動に身の危険を感じ、彼女とのパーティーを解消しようと考えていたのである。
もともとはリナンと情報を共有し、危機を回避し穏便にパーティーを去ろうとしたのだが、レイラにバレた以上自分の力ではどうすることも出来ない・・。

だったら他人の力を使うまでだ。

ラインズはパーティー離脱を民衆に推してもらい、無理矢理でもレイラから離れる手段をとったのである。

だが・・。

「ラインズ、君はまだ異変に気づいていないのかい?」

「・・・・?」

ラインズは内心で自らの勝利を確信し、咄嗟に思いついた作戦が上手くいったことに笑いが止まらずにいたのだが、レイラの言葉に眉をひそめる。

「こんだけ派手に斬ったのに、悲鳴の一つも上がらないなんてどういうことなんだろうね?」

「・・っ!!」

ラインズはレイラの言葉に戦慄し、辺りを見渡す。
ラインズたちがいた店は大通りの中に点在しており、しかも今は夕刻。
人通りは多く見受けられるのに、誰一人ラインズたちのことに目を向けていなかったのである。

「な、何故誰も俺たちを見ていなんだ・・?」

ラインズは、ありえない現象を目にしておそるおそるレイラの方に視線を戻す。

「あああぁぁあ!」

ラインズは情けなく悲鳴をあげる。
レイラはただただ微笑を浮かべ佇んでいただけなのに・・。

しかし、ラインズには命を刈り取る死神にしか見えなかった。そして自分の身に起きたことを理解してしまったのである。

「認識阻害の結界魔術だよ。この前の騒ぎのときもこれを使っていたんだけど、気づかなかった?あのとき君は周りを見回していたようだけど、誰一人私たちの方を見ていなかったというのに・・。」

ラインズの身体から血の気がみるみるうちに引いていく。

ラインズは先日の騒動のときの客の視線を思い出し絶望する。
客が自分たちと視線を合わせなかったのではなく、合わせられなかったのだ。
何故なら彼らに自分たちが映っていなかったのだから・・。

「あの時、君たちに私のことをより恐怖づけようとしただけだったけど、まさかこんなところでも効いてくるなんて意外だったね」

埃を払いながらゆっくりと距離を詰めてくるレイラに本能が叫び声を上げる。
咄嗟にラインズは地面に落ちていた自身長剣を拾いレイラに向けてしまっていた。

「それはどういう意味だい?」

ラインズは自分の未来を悟ってしまったのだ。
このまま降伏しても、ただでは逃してもえらえないということに・・。
おそらくミールナと同様に幻覚魔法をかけられ、彼女の都合のいい人形にされるのだろうと・・。
そう思った彼の本能が、手を上げて降参することを拒んでしまったのだ。

「あ・・ああ・・。」

と、情けない声が出る。
ラインズには最早レイラが人間には見えずにいた。
地上に遊びに来た悪魔だ。

「どうやらもう壊れてしまったようだね」

レイラは見限った目をラインズに向けてそう言う。
するとレイラは、口角を上げラインズに手をかざす。
その手を中心とし、魔力が螺旋を描き凝縮していく。

「ラインズ、

その言葉を皮切りにレイラは玉のよう凝縮した魔力の塊をラインズに放つ。
眩い光を放つ魔力の玉に恐怖し、ラインズは目を瞑る。

ラインズは空気が爆ぜる轟音に、容赦のないレイラに思わず苦笑する。

つくづく自分は彼女から仲間だと思われていないのだと・・。

「何を目を瞑っているんだ?」

虚しい人生だったとそう思いに更けていたラインズだったが、後ろからそう声が聞こえ目を疑う。

「な、何で貴方がここに・・!?」

目を丸くし、驚くラインズの後ろに現れたのは、自分たちが殺したはずのパーティーメンバーであった、ノウトが立っていたからである。
いや、それだけではない、レイラの前では先日倒したはずの四天王の一人、センサザールがレイラの攻撃を受け止めていた。

状況が飲み込めずにいたラインズであったが、かつてのパーティーメンバーを前にして安堵してしまっている自分に歯噛みをしてしまうのであった。









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