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8最終話.四年後の真実
しおりを挟む【隼.大学3年】
海外生活、1人暮らしにも慣れた。
母親が日本に戻って、ご飯が適当になったり部屋が汚くなったりはしてるけど、毎日大学へ行き…
夜はミュージカルの舞台に上がり、仕事とまでは言えないけど脇役でもありがたい、自分が好きな事が出来ていた。
華やかな事をしてるせいもあって女の子には不自由しないし、何なら男もそっち系は身近に沢山いる。
けど、真剣に付き合いたいとは思えない。
どんなに愛情を受けても、いつも自分の好きな事をしたい、って理由で適当な関係のままで理解して貰う。
理解してくれなきゃ終わりなだけ。
誰か本命がいるの?って聞かれた事もあった。
…本命って言えるのかな…
…宗兄がどうして僕を汚すとか…
あんなに恐れたのか未だによく分からないけど…
愛のないsexを繰り返したら心が汚れてしまうって事なら…
こっちにいる僕は、かなり汚れたはずだよ。
日本にいた方が、宗兄と過ごしてた方が…
純粋だったんじゃないかってくらい。
……あの時、ゴムはつけたくなかった。
宗兄が病気の心配してたから…
宗兄と一緒になら、死んでもいいって思えたんだ。
若気の至りってやつかな。
11月の下旬、今年も感謝祭休暇の短期間、日本に帰る為鞄に少しの荷物を詰めていると横から話しかけられる。
「…去年も帰ったよね?誰かと会うの?
4日間だけの休みなのに…」
「……何にもないけど、
この時期に少し日本にいたいんだ…」
「……やっぱり日本に恋人がいるのね」
「恋人に、とてつもなくなりたかった人、
っていうのが正解だね」
「あー、叶わなかった恋だから
余計引きずってるのよ。
思い出はキレイなままだしね」
確かに叶わなかった恋だ。
けど…思い出がキレイな訳じゃない。
…4年もたったのに…
毎日思い出す。
宗兄が苦労してた時に僕は何も出来なかったくせに、キスを繰り返して、浮かれてたっていう事実…バカみたいな子供…
何か…違う事、してあげれたんじゃないかって。
今更考えてもしょうがない事、それでも1日1日繰り返して考えてしまう。
僕の気持ちは、どれだけ彼に支配されたままなんだろ…
今年も意味の無い帰国になるはず。
別に何も期待はしていない。
空港から真っ直ぐ実家へ向かう。
まだ日が暮れる前、両親はまだ仕事で、誰もいないリビングに荷物だけ置いて、すぐ外へ出た。
この道を1人、歩く為に帰ってきた。
物心ついた時からずっと歩き慣れた道。
けど、彼と4歳差の時、一緒に歩いた道。
あの日、初雪が降った。
初雪の時、宗兄の幸せを願った。
初雪の時、大切な人と過ごすとその人と幸せになれると知った。
もし今、初雪が降ったら…
会いに行ってもいいよって誰かが言ってくれてるような気がして。
「なんで、帰国するってわかってたくせに、
今日の今日呼び出しなの?!」
尊と屋台でおでんを食べながら焼酎を軽く飲み始めた時、改めてさっき突然帰って来て連絡された事に文句を言い出した。
「尊が無理なら誰にも会わずに
戻ってもいいかと…」
「さみしいやつだなーー
今日の予定キャンセルして
来てあげたんだから感謝しろよーー」
「え?もともと無かったでしょ?」
「あったよ!隼にはなかなか会えないから、
ホントにドタキャンしてまで来たんだよ!」
「あ、ごめん…でも、来年から
こっちのダンスミュージカルの劇団で
仕事が決まったから、
日本に戻る事にしたんだ。
…沢山会えるようになるね…」
「え?あのダンスミュージカルやってる劇団?
すごいじゃん!
来年?それなら宗兄にも早く言って…
あ……何でもない……」
わざとらしく口を押さえてる。
「…宗兄が何?連絡とってるの?」
尊は僕達がどんな関係だったかや、宗兄が当時大変だった事も何もかも知らないはず。
「…宗兄と最近仕事でよく会うし、
隼の事聞かれるんだ。
けど、自分が探ってる事は絶対言わないでって言われたけど……今言っちゃった…」
…思い出したく無い恥の一部である僕の事は、年月が過ぎたら自分から聞き出す程になったのか?逆に避ける為に…とか?
「…隼、宗兄と何かあったの?
僕より長く家庭教師して貰ってたじゃん。」
「…何も無いけど…僕が嫌われたからさ……」
「……何、お互い、そんなになる程何があったの。
…宗兄酔っ払って
"隼のお母さんに見られた、約束した、誠意が"
どうとか繰り返してたよ。
お母さんとも何かあったんじゃないの?」
「僕の母さん……?別に何も無いはずだけど…」
宗兄が今更言う程、僕の母に………何か見られた?
約束…?
ケータイを取って、呼出音を耳元で聞き、母が出るのを待つ。
「え?何?お母さんに掛けてるの?…今?」
4年前の事、ようやく少し分かった。
母は教えてくれた。
電話だから母の顔を見ないで済んで…
余計僕も素直に聞けたかも。
あの日、玄関で僕が宗兄にキスをしていた所を見て、僕から宗兄を離そうとしたの母。
母は宗兄にだけ話して、留学に至った。
なるほどね。
僕は宗兄を余計に傷付けてたんだね。
僕が子供だったから。
何も助けれなかった事…
…古傷をよく見たら、前より大きくなってるんじゃないかと思う。
「…お母さんなんだって?」
「……うん……まぁ、昔の事。
宗兄に悪い事してたってのが、更に分かった」
「…なんで、そんなに2人して
暗く暗くなっちゃうかねー……
隼、向こうで来月すぐの講演出るんだろ?
…よく客席見ろよ。答えが出るかもしれないから」
尊と来年は沢山会う約束をして帰った。
次の日は、1人で近所の街をブラブラした。
やっぱり今年も僕がいる時に初雪は降ってくれそうもない。
母と家でゆっくり話す時間も持てた。
あの時僕は宗兄が好きだったし、この先どんな人を好きになれるかわからないけど、僕の選択を信じて欲しいと伝えた。
母は、その通り僕を受け入れる、と言ってくれた。
…母とこんな話が出来て、少し大人になれた気もする。
母は手料理を持たせたがったけど来年いっぱい食べれるからと断り、来た時と同じ荷物を持って自分のアパートへ戻ってきた。
明日からは学校も、近々やる講演の練習もある。
また…ダンス一色の生活。
「ありがとー!ありがとー!
はーい、この後すぐカーテンコールー!
おーけーーい?!」
スタッフの声と同時に、
「またあのアジアンビューティー来てる」
「俳優じゃない?雰囲気ありすぎ」
「知ってる!あの彼、
楽屋の前にいたの見た事ある!
誰かの知り合いよきっと…」
俳優達がお客さんの話をしてる。
舞台の上から見たのか… ?
余程目立つんだな…男女のキャストがアジアンビューティーと言うから女の人かと思ったら…男なのか…
「ねぇ、ジュンー!もし楽屋に来たら
アジアンビューティーに日本語で
話しかけてみてよ!誰かの知り合いか?って!」
「オッケー、けど、
日本語通じなくても知らないよ?」
その、何度も来てるっていうアジアンビューティーな男を見てやるか…
尊が客席見ろって言ったのも、お客様の前で仕事出来て自分がどれだけ恵まれてるのかを実感しろ的な事だと思って深く考えなかったけど…
カーテンコール、脇役の僕は端の方から客席を見渡した。
…アジアンビューティーの場所は2階席の右寄り2.3列目……
目を疑う。
宗兄がこっちを見てた。
4年も経ってるのに、何も変わってない宗兄がいる。
びっくりしすぎて…舞台の上でただ立ち竦む。
舞台でもこんなに胸は高鳴らない。
楽屋で待っても来ないと思った。
舞台の衣装のまま、お客さんに見られても気にならない。
このお客さんの中にいるはずの、宗兄を探すのに必死だった。
「宗兄!!!!!」
人混みの中、後ろ姿を見つけた。
「宗兄!!!!!」
聞こえた?振り返った宗兄が見えて…
僕の膝は崩れて…
床にしゃがみこんでしまった。
息も整わない程、必死だった。
「………大丈夫?」
宗兄の声だ。
なんとなく逃げられないように、コートを掴む。
まだ苦しくて、大丈夫じゃない。
「………ダンス、上手じゃん。
昔、踊ってって頼んでも
見せてくれなかったくせに…」
「……その為に……
……ダンスが気になってきたの?」
「…ダメ…かな…」
「宗兄、何回来てる??……何回も来てるでしょ?
何て呼ばれてるか知ってる?
僕もさっき知ったけど……
アジアンビューティーって…」
「は?何それ…っていうか…何回も来てるって…
なんでバレちゃうかな……」
「宗兄日本戻るの、いつ?」
「明日の午前中…」
「1泊予定なのね、ホテルは?どこ?
あ、とりあえず僕の部屋に一緒に来て」
4年ぶりなのに、普通に話せてる事実と、宗兄が何度も渡米してまで僕の舞台を観に来ていた事実。
事実を頭が受け入れたら、多少強引にでも、2人きりになりたかった。
舞台衣装から自分の服へ急いで着替えて、宗兄を待たせている劇場の入口へ向かう。
消えずに待ってた姿を見つけて、すごくホッとしたけど、宗兄は…泣いてた。
「…宗兄……」
身体をそっと、吸い寄せられるように近づき、より近くで宗兄を見つめる。
「…どうしたの……?」
「隼と、話せるとは思ってなくて……
隼は、僕を嫌いになってると思った」
「それは、そっちでしょ…?僕を見たら、
思い出したくない事思いだすから嫌って…」
「…ゴメン、ホントは、
隼がいたから、あの時頑張れて…
僕、ギリギリの状態だったけど…
隼のおかげで、どうにか過ごせてたのに…
感謝するのが今になって…っ…ホントごめん……」
泣きながら話す宗兄を抱きしめる。
僕まで泣きそうになる。
「感謝も謝罪もいらない……僕は、ずっと…
宗兄を助けられない子供だったから
後悔してた…何か他に出来たんじゃないかって」
「だから、それが間違いで…
違うのに…後悔とか思わせてホントゴメン…」
「じゃあ…僕もゴメン、4年前のキス、
母に見られてて、宗兄だけつらかったでしょ」
「……知ってたの?」
「ううん、1週間くらい前に
ようやく知った。…ゴメン」
4年前に無くしたと思っていたパズルのピースが見つかったかのように、それぞれのピースが埋まっていく。
…あの時では絶対完成しなかったし、今もまだ完成では無いと思う。
「早く宗兄と2人きりになりたい」
「うん…僕も。ホテルと隼の家どっちが近い?」
「多分同じくらい。タクシー乗って僕の家に行こ」
劇場近くに停まってるタクシーまで宗兄の手を引いて急ぐ。
さっきからの胸の高鳴りはまだ治らない。
ずっと間違いだと思っていた事が、正解だったらしい。
答えは見つかったようでまだ解けてないかもしれない。
それでもいい。
僕は、これからまた問題が出来ても新しい答えを探して…
繰り返して…
宗兄の近くで宗兄に愛を伝えながら、
前へ
進んでいくんだ。
宗兄とタクシーの後部座席。
お互いキス出来そうな距離…
ゆっくり、そっとキスをする。
外にはまだ誰も気付いてない、初雪が空の上から落ちているところ。
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