異世界でもうちの娘が最強カワイイ!

皇 雪火

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第2章:鉱山の街シェルリックス編

第055話 『その日、廃鉱山から脱出した』

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 3人はまだ岩の結合を解して砂利に変換するという工程が難しいらしいので、ゆっくりと手本を見せながら掘り進めた。今日一日は急ぐ必要もない。
 時間はかかったが、3人の手で無事にアダマンタイト鉱石の塊を掘り出した。この行為は知識量が増えるみたいで、凄い速度で土属性の魔法スキルが上昇したみたい。アリシアは元々30はあったみたいだけど33になったようだし、ママは11、リリちゃんは14まで成長していた。
 そして現れたアダマンタイト鉱石の塊は、リリちゃんとママ2人が抱き合ったくらいの大きさをしていた。

「おっきいね!」
「そうね、このくらいあれば全員の装備をアダマンタイト製に一新する事も出来ちゃうわね」
「お嬢様は、この鉱石の加工方法もご存知なのですか?」
「シラユキちゃんは本当に色んなことを知っていて凄いのね……」
「でも、硬くて重い上に魔力の通りが悪いから、どちらかというとタンク役向きの装備になる鉱石ね。だから作る気はないわ」

 まあどうせ作るなら、身体用の装備よりも取り回しの効く盾にした方がいいわね。私も前衛をするなら、小楯くらいあった方がいいかな? 刀に小楯……うーん、せめて小手かな? ああ、でも叩き潰すためのメイスとしてはアリかもしれないわね。アリシアに使わせようかしら?
 そしてママは私の言葉に、明らかに『ほっ』とした顔をしていた。

「良かったわ。想像したけど、きっとママは重すぎて動けないわ」

 それは重量的な重さだろうか。ステータスが上がればその辺りはどうにでもなると思うけど。あとは金額的な重さかしら?
 ママはいつまでも庶民感覚が抜けなさそうね。全然良いけど。

「そうですね。それにお嬢様の教えは、防ぐより避ける方に重点を置いていますし、そういった装備はスタンスに合わないかと」
「それもそうね」

 テントでの一幕から、ママとアリシアの間にあった距離感が無くなっている気がする。やっぱり話し合いは大事ね!

「それじゃあ、コレは仕舞っちゃうねー」
「あっ、お嬢様!」

 アリシアが何かを思い出したかのような顔をした。

「お嬢様、恐らくお嬢様が失念しているかと思う事がありましたのでお伝えしたいと思います」

 何かしら? また私、何か伝え忘れていたの??
 首を傾げるも失念したことが思い浮かばない。とりあえずアダマンタイト鉱石の事ではなさそうなので収納はしちゃう。うーん、なんだろう。スキルの事はアリシアに許してもらったばかりだし、そういうのではないと思うわ。……うん、思いたいわ。
 あと思い浮かぶとしたらカワイイお洋服とか? でもこの街にカワイイ服は売っていそうにないと思う。偏見だけど。

「お嬢様はこの度、伝説上の怪物を討伐しました。また、アダマンタイト鉱石も発見し、遺棄された鉱山の安全を確保しました。ここまでは良いですね?」
「ええ。その通りね。そう並べられると、割と私頑張ったわね」
「それであの化け物の死骸ですが、持って帰ってどうされる予定ですか?」
「ピシャーチャが死んだことを伝えないと、皆いつアレが襲い掛かってくるか不安だと思うから、メルクとかに報告するわ」
「そうすると、ランクが上がりますね」
「え? ランク……?」

 ランクって何? 何だか分かんないけど嫌な単語だわ。
 うん、シラユキちゃんわかんない。

「やはり忘れていましたか。ギルドランクの事です。それもこんな功績を残されては、AAAランクどころか、Sランクに上がってしまう可能性がありますね」
「……ガーン!」

 完全に忘れていた。そうだった、テラーコング程度でもランクAの話が出ていたのに、ピシャーチャなんて化け物、報告したらSランクは余裕で上げられてしまうかも!?
 でも、報告しないわけにもいかないし、鉱山内にピシャーチャの声が響いていたなら街にも聞こえていただろうし、安心させなきゃいけないし、でも上がりたくないし……。
 膝を抱え考え込むけど、打開策が浮かばない。

「……やだ」
「しかしどれ1つとっても、お嬢様が成したことは偉業です。断ることは出来ないのでは……?」
「やだやだ! あげたくないもん!」

 悲しみが押し寄せてきて涙が溢れてくる。ママに抱きつくと、優しく頭を撫でてくれるけど、涙が止まらない。

「ああ、シラユキちゃん。よしよし、いい子いい子」
「びええん」
「お姉ちゃん、いい子いい子」

 リリちゃんが横から撫でてくるけど、涙は止まらない。

「はぅ……!」

 アリシアが顔を真っ赤にして身もだえするが、私の視界は涙とママの胸でいっぱいだ。

「ア、アリシアちゃん。鼻血出てるわよ」
「お嬢様……おいたわしや」
「聞こえてないみたいね……」

 しかし、いつまで経っても私は泣き止まなかった。次第にママもリリちゃんもオロオロし始める。

「うえええん!」
「ど、どうしよう……」
「ア、アリシアちゃん、どうにか出来ない?」
「そうですね……お、お嬢様。妙案がございます! Bランクです! Bランクで納得させましょう!」
「えぐっ……ぐすん。なんで、B……?」
「私と同じランクだからです!」
「……アリシアと、いっしょなら、いいよ」

 アリシアとママが「ほっ……」とした。そのあと落ち着くまで、3人がかりで慰めてもらった。
 今は、ベッドの上でママにひざまくらをしてもらいながら、リリちゃんを抱き枕にしている。アリシアは添い寝という手厚い介護だ。

「……」

 冷静になって改めて思った。私、なんで泣いてんの?

 うーん、なんでか知らないけど、異常な程に情緒が不安定だったわ。確かにランクが上がるのは忘れていたし、上げられるのは嫌だけど、泣くほど……? いや、思い出したらちょっと涙出そうになるわ。考えないようにしましょう。
 何だか以前にも似たような事があった気がする。感情の流れに逆らえなかったというか、大波に呑まれたというか……。

「……ああ、なるほど!」

 急に1人納得したような声を上げて、3人とも『きょとん』としていた。いや、そりゃそうよね。

「お嬢様、何に納得されたのです?」
「えっとね、多分私、レベルが急上昇した関係でステータスに体がついていかなくなってたというか、心が不安定になってたみたい」
「ふむ……なるほど。確かにそういう事なら、似た経験はあります。急激に成長すると力の加減や感覚がズレたりしますから。……ただ、感情まで不安定になるのは聞いたことがありませんが」
「シラユキちゃんはすっごく強いから、レベルの上昇による影響も普通より強いのかもしれないわ。それで感情も引っ張られるんじゃないかしら。……となれば尚更、今日はゆっくりした方がいいわね」
「うん、そうするね」

 ママの言う通りゴロゴロすることに決めた私は、ここから動かないことに決めた。そうなると必然的にママは動けないが、リリちゃんとアリシアはフリーになる。
 うとうとし始めていた所で、アリシアが提案をしてきた。

「お嬢様。外の広場にあるミスリルですが、外周部には砕けた物が散らばっておりました。アレは回収した方が良いでしょうか?」
「多分それは、私の戦闘に巻き込まれた物ね。勿体無いから回収してもらえる?」
「畏まりました。リリも来ますか?」
「うん、行く!」
「「いってらっしゃーい」」

 その後、どうやら寝落ちしてしまったらしく、起こしてもらった時には夕食が出来上がっていた。想像以上に疲れていたらしい。いっぱい泣いた事がそんなに疲れたのね。

 リリちゃんが嬉しそうにマジックバッグを渡してきたので中を見ると、パンパンに詰め込まれたミスリルの破片が入っていた。50キロはあるわね。コレだけあればある程度スキルを上げられそうね。成長限界には全然届かないけれど。
 リリちゃんとアリシアを全力で褒めると、もう2個マジックバッグを出してきた。まさかと思ったが、そのまさかだった。
 なんでも、剥き出しになって砕けたミスリルの結晶は、コレだけとってもまだまだあるらしい。なので見た目が綺麗なものから手当たり次第に詰め込んだみたい。
 恐らく、元々地上にあった結晶に加え、地中に埋まっていた物も出てきたからいっぱいあるのかも知れないわね。
 タダ働きなんて悪いし、私のために頑張ってくれた彼女達に、せめてものお礼として、地上に戻ったらアクセサリーを作る事を約束した。
 勿論ママの分もだ。私の事を嫌がる事なくずっとそばにいてくれたみたいだし、家族なんだからプレゼントは惜しまないわ!


◇◇◇◇◇◇◇◇


 その後は、シラユキにも甘やかされて、翌朝。元気満タン! 朝食を摂り、テントと結界石を片付ける。今日は戦闘に参加するので、ポニテ版シラユキちゃんだ!

「シラユキちゃん、もっと休んでいてもいいのよ?」

 ママが手を握って上目遣いで見てくる。ママは私をダメ人間にするつもりだろうか? その誘惑は非常に強いけど、いつまでもここにいるわけにもいかない。

「そういうわけにもいかないわ。皆に癒してもらったもの。もう平気よ」
「そうね、昨日よりは顔色も良いみたい。でも、キツくなったらいつでも言ってね?」
「うん」

 ごめんママ。やっぱりシラユキに甘えれたのが一番大きいかもしれない。

「それじゃ、全員の職業を変えましょうか。『職業神殿』、ぽちっとな」

 アリシアは『神官』、ママは『レンジャー』、リリちゃんは『魔術士』へと変えておく。

「でもお姉ちゃん、試練は?」
「簡単よ。魔法を使って一撃で倒す、よ」
「あら、『魔法使い』と同じなの?」
「違うわママ。『魔法使い』はトドメを刺せれば何発撃っても構わないの。リリちゃんは1発成功させたけど今度は『一撃』が必要なのよ」
「そうなのね……」

 リリちゃん達はまだ気付いていないみたいだけど、ここの敵は素のレベルが高い。本来なら一撃系の試練相手に選ぶなんてもってのほかだが、雷魔法は威力特化魔法だ。
 多少のレベル差は関係ないし、ここには雷属性が弱点の魔物もいる。レベル差に気が付いて不安がるより、いつも通り撃ってもらった方が成功確率も高まるというものだ。

「『探査』」

 狙いの敵は……いたわ。付近の通路に3匹固まっている。
 道中に雑魚は居ないし……釣ってきましょうか。

「皆はここで待っていて。連れてくるから。ママとアリシアは手出ししちゃだめよ」

 『ライトボール』を出し、単身通路へと飛び込んだ。
 『釣り』とは、MMO用語で離れた場所にいる敵を、安全を確保しているパーティ陣地に連れてくる事だ。
 正直感情のブレもステータス上昇による感覚のズレも、寝転がっているだけですべてが解決するわけがない。なので戦闘で動き回って発散させなければ。

 目的の通路までたどり着くと、天井にぶら下がる『ブラックバット』を発見した。
 こいつは接近すると独特の分泌液を出す。それは物理攻撃による耐性を得られるが、逆に雷属性の浸透率が高めさせる諸刃の剣だ。ピシャーチャの油みたいなものね。
 武器しか振るえない人には難敵だが、少しでも魔法に心得があれば途端に対処が楽になる。
 
「さあこっちよ、いらっしゃい」

 手を叩き、音によって注意を惹く。あとはこいつらがこちらを見失わないよう、付かず離れず音を出しながら連れて行こう。
 試練が『一撃系』の場合、スキルを使ったりして対象に何らかのアクションを起こしただけでも、試練の対象外にされてしまう事が多い。スキル使用者が他人でも本人でもだ。
 その為試練用の敵の釣り役は、その敵に対してスキル使用不可、被弾不可、攻撃不可の3重苦に見舞われる。
 これがゴブリンやオークのような、色香に惑わされて視覚と聴覚の2感覚で追ってくる相手ならよかったのだが、今回の相手は音を頼りに追ってくるコウモリだ。離れすぎるのは良くない。

『ギギッ!』

 魔力を籠めた翼が大きく羽ばたき、不可視の風の刃がこちらへと飛んでくる。これに対して防御も、攻撃による相殺も許されない。
 ただまあ、『魔力視』で攻撃は見えるので、体を慣らすための回避練習にはもってこいだ。壁や地面、天井を駆使して飛び回り、避けながらパーティが待つ洞窟へと連れていった。

「おまたせー」

 『ブラックバット』3体による猛攻を退けつつ笑顔で皆に手を振る。道中まででこいつらの速さも攻撃パターンも見切ってしまったので、もう余裕があった。
 ママはオロオロしているのがここからでもよくわかった。

「リリちゃん、どの相手でも、いいから。いつでも、撃って、いいよー」

 喋りつつ避けると、どうしても言葉がぶつ切りになる。

「あと、私の事は、気にしないでー。避けるから」

 リリちゃんのレベルは0。スキルもマックスの3。そんなあの子から放たれる『サンダーボール』なら、目視からの回避は余裕だろう。
 実際、私の言葉を聞いて放たれた『サンダーボール』は、避けるのは十分な速さだった。

『ギギィ!?』

 被弾したブラックバットは『プスプス』と煙を上げながら墜落し、『探査』からも表示が消えた。

「お姉ちゃん、試練突破したよ!」
「良し!」

 腰に差していた『始まりの剣』を抜き放ち、近くの2体を切りつける。同じく絶命した2体も『探査』から消え去った。

『リリのレベルが1になりました。各種上限が上昇しました。超過経験値発生。リリのレベルが2になりました。各種上限が上昇しました』

「それじゃ、出発しましょうか。次の戦闘は私が暴れるわ。リリちゃんのレベルが上がってからは、いつもの戦法に戻しましょう」
「「「了解!」」」


◇◇◇◇◇◇◇◇


 そうして私たちは、廃鉱山を攻略していった。道中にあった鉄鉱石の鉱脈や、白金鉱、金鉱は回収し、銅や錫に関しては剥き出しになっていなければスルーした。
 ミスリルもあったけど……昨日の分で正直お腹いっぱいだった。もう十分でしょ。でも綺麗だから掘っちゃう。

 昨日の内に、ママと協力して『探査』を使い、脱出までの道は見つけてある。あとはそれをなぞっていくだけだ。
 念のためアリシアには、地図を描くマッピングの作業をお願いしている。一番奥までの最短ルートは、今後必要になると思うからだ。

 そうして鉱石掘りの寄り道や、敵の掃除と素材回収をしつつ、5時間ほどかけて廃鉱山の出口へと辿り着いた。
 その時点で全員のレベルはこうなっていた。私ことシラユキの『グランドマスター』レベル13。アリシアの『神官』レベル15。ママの『レンジャー』レベル17。リリちゃんの『魔術士』レベル11だ。
 レベルだけを見ればバランスよく見えるわ。レベルだけを見れば。

 廃鉱山の出入口は、簡易的な注意書きがされている程度で、出入りは自由だった。

「あーっ、太陽が眩しいー!」
「お日様なのー!」
「太陽を見ると、より戻ってきたという感慨がございます」
「2日しか経ってないのに、顔が緩んじゃうわ」

 大きく伸びをすると、皆顔が綻んでいた。やっぱり慣れない地中にずっといるのは、少し疲れちゃうのよね。

「予想通り、寂れてるどころか、草木の侵食で街までの道が埋もれてるわね」
「そのようですね。『探査』結果からでしたら、この方向にまっすぐ進めば、シェルリックスですね」

 アリシアが森のある方向を指さした。まあ数百年も人が通らなければ、道なんて痕跡すらなくなっちゃうか。

「しょうがない。道を作りながら戻るわ。私は土魔法と風魔法で、草木を伐採しながら道を均していくわ。皆は『探査』上で素材になりそうなものがあったら回収していって」
「「「了解!」」」

 草木を切り飛ばし、根っこは地面ごとひっくり返す。雑多な全てを両脇にどかして地面を固めて、幅を5メートルほどに広げたら、端は土壁で覆う。
 それをただひたすら繰り返し、土魔法スキルの上昇を狙う。風魔法スキルはこのやり方だと、ただ切り飛ばすだけなのでスキルは変わらない。上げるならもっと工夫した使い方をしなければ。
 膨大なステータスと尽きる事のない魔力で、作業を繰り返す事30分。シェルリックス直通の道が出来上がってしまった。

「お嬢様、道の整備というのはお金がかかるものです。それを魔法だけで成してしまったら、凄まじい功績になってしまいますよ」
「……」

 私は聞こえないフリをした。

『久々の太陽ね!』
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