異世界でもうちの娘が最強カワイイ!

皇 雪火

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第4章:魔法学園 入学準備編

閑話4-2 『双璧へのとある依頼』

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「御二方を護れる栄誉に預かれる事、誠に光栄であります!」
「我が誇りと名誉に懸けて、御二方の身の安全は保証致しましょう!」

 4人の騎士が、各々の信条と剣を掲げながら、誓いを立てる。それを受けるは2人の女性。

 片や、王国の西側地域を統治し、陛下からも絶大の信頼を受ける名家。そしてその娘である彼女もまた、圧倒的魔法の才を持つ才女。
 『蒼の双璧』の名と共に国内では知らぬものは居ないとされるランベルト公爵家長女、フェリスフィア・ランベルト。

 片や、ランベルト公爵家と対をなし、王国東部を統治する武闘派。ヨーゼフ陛下と共に魔物退治で武勲を稼ぎ、一代でその地位まで上り詰めた、成り上がりのヒルベルト侯爵家。
 そんな勇猛果敢な猛者である父に負けず、その子供もまた『赤の双璧』の称号を持つほどに、炎魔法の才を持ち、政治的手腕も持ち合わせたヒルベルト家の才女、モニカ・ヒルベルト。

 そんな美と才を併せ持つ2人の至宝を守護出来るというのは、未だ成長途中にあるには、これ以上ないほどに名誉な事なのだろう。
 瞳を輝かせて見上げる彼らに、フェリスフィアは内心を悟られないよう笑顔で応えた。

「ありがとうございます。今回の件はヨーゼフ陛下、そして学園長の連名による依頼です。あの方達のご期待に添える様、しっかりと役目を果たして行きましょうね」
「「「「はっ!!」」」」

 テキパキと準備を始める彼らから少し距離を置き、『双璧』の2人は今度こそため息をつく。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――数刻前

「ワシも行きたい」
「なりません陛下」
「そうです。今回は生徒達に任せるつもりですから、大人が出しゃばってはなりませんよ」

 一体この応酬は何度繰り返されたのだろうか。3人のやりとりはずっと平行線だった。

「しかしな、新発見なんじゃぞ! あのダンジョンに、まだ隠された価値があったと言うのに、それを直接みたいと言うのはおかしな事か?」
「おかしくはありませんが、やはりダメでしょう。今は子供の頃の様に、遊んで回れる学生ではないのですぞ」
「今回の発見が本当かどうかも分からないのです。そんな事に陛下の貴重な時間を使わせるわけには行きません」
「うっ……!」

 宰相閣下であり昔ながらの友人でもあるザナック様と、恩師であり学園長という2人に注意されては、陛下もタジタジのようね。

「いや、あのシラユキちゃんがわざわざ嘘を書く訳がなかろう。きっと意味があるに違いない。それにアレがあるのは初級ダンジョンだ。危険なんてあるわけがない」
「確かにそうかもしれません。が、そのシラユキ様が原因でやることが山積みなのです。なので遊んでいる暇はありません」
「ぐぬぬぅ!」

 悔しそうにする陛下を前に、学園長はヤレヤレと溜息を零す。そして入り口に控えていた2人に声をかけた。

「さて、ここに呼んだのはそう言う訳なのです。フェリスフィア君、モニカ君。お願い出来るかね?」
「畏まりました、学園長先生」
「お任せ下さい。必ずや吉報をお届けします」

 国王陛下のこの様な情けない姿、一般生徒が見ればショックで卒倒してしまう事だろう。なぜなら世間一般での陛下に対する評価は、竜を倒し、剣聖の高みに至った事で知られる、完全無欠な英雄なのだから。
 しかし、親族のフェリスフィアだけでなく、その親友であるモニカもまた、非常に見慣れた光景だった。

 戦友の子は、彼にとっても孫に等しい存在であり、モニカはフェリスフィア同様、非常に可愛がられてきたのだ。
 そんな陛下が、そして愛する親友が信頼する少女、シラユキ。先日一度目が合ったが、まさかこれほどまでに周囲の人達を振り回していただなんて。

 モニカはそんな彼女に強い興味を持っていた。

「改めて確認なのですが、初級ダンジョンの最奥にあった謎の魔法陣。今まであれがどういった存在なのか、何のために存在しているものなのか、誰にも解き明かされることは無かった物を、例の少女が答えた。という事で良いのですね?」
「ええ、そうです。その答案には、魔法陣に用意するアイテム。そして起動の仕方を正確に記載しておりました。ですので、今回の依頼はその通りに試したら、どの様な効果が現れるのか。それの検証となります。……私も実際に会っていないので、彼女がどう言う子なのか見当もつきません。ただ、ヨーゼフ君だけでなく、あのザナック君まで心を許していると言うのですから。私も早く会ってみたいですね」

 そう言って微笑む学園長先生を見遣り、ふと、モニカは思ったことを口にする。

「学園長先生。今回の依頼は、その魔法陣がどの様な効果を齎す物なのかを確認する。それが目的なのですよね」
「ええ、そうですね」
「でしたら、その例の少女に直接聞けば良いのではありませんか?」

 その言葉に、部屋の全員が静まり返った。そしてその視線は、陛下へと注がれる。
 何故なら彼こそが、この質問を1番聞きやすい立場にいるのだから。

「……そ、それでは面白くないからじゃ! 未知の領域が見えた時、それに挑戦する事が美しいのじゃ。先んじて答えだけを聞いては、せっかくの冒険も色褪せてしまうぞ!」
「……だそうです。お二人とも、頑張って下さいね」
「それから、『魔術士』である2人だけで行かせるのはやっぱり心配じゃ! じゃから騎士科の生徒を何人か連れて行くべきじゃろう。学園長、手配を頼むぞ」
「承知しました、陛下」

 むぅ。
 せっかく2人っきりなのに、外野が増えるなんて嫌だわ。

 モニカは内心で嫌な顔をしたが、それが表面に現れる事はなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「まさか4人も来るだなんて。陛下も心配性ね」
「仕方が無いわ。『魔法使い』は1対1は苦手。と言うのが常識なんだから」
「それは一般の話じゃない。私達がどうして異名付きで呼ばれてるのか、考えて欲しいわ」
「仕方がないわ。伯父様にしてみれば、私達はまだまだ子供なんだもの」
「ぶー。普段私達が初心者ダンジョンを、ストレス解消の為に利用してるだなんて陛下が知ったら、卒倒しちゃうかしら?」
「うーん、お父様はご存知のはずだし、伯父様も耳にしていると思うけどね。たぶん、自分が直接行けなかったから、その当てつけもあるわね」
「陛下の駄々にも困っちゃうわね」

 せっかく2人っきりだったのに……。
 そう小さくボヤいたモニカに、フェリスは笑みを深める。

「もし私が危なくなったら、守ってくれる?」
「勿論よ。私に任せて!」

 そうしている内に、見習い騎士達から準備が出来たと声が掛かる。2人は互いの存在を確かめ合う様に手を握りながら、ダンジョンへと向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「グゲッ!」

 袈裟斬りに切り裂かれたゴブリンは、悲鳴を上げながら粒子へと変わって行く。

「お見事です、モニカ様!」

 見習い騎士の1人が賛辞を上げる。
 4人の見習い騎士達の間をすり抜け、1匹のゴブリンが後衛の陣地へと入ってきたのだ。そんな事も忘れて賞賛をする彼に、モニカは冷たい目で見る。

「このくらいは当然よ。だから、任せろと言うのなら、最後までしっかりと責任を持ちなさい」
「はっ! し、失礼しました!」

 見習い騎士は、慌てた様に前線へと戻って行く。

 初心者ダンジョンに徘徊する魔物は、大きく分けて2種類いる。
 1つは徘徊型だ。人が居ない場所に湧き出し、同じ階層内をぐるぐると回り続ける。
 そしてもう1つは待機型。宝箱と共に出現したり、ボスとして行手を阻んだりと特徴は様々だが、基本的に出現した場所から動かない。

 今回遭遇したゴブリンは徘徊型だった。それも、初心者ダンジョンの中では最大数である5匹。見習い騎士では1人1体が限界だったのか、余ったゴブリンが後列へとやってきたのだ。

「モニカ、あまりイジメてはダメよ?」
「でもリスフィー。彼らは仮にも騎士なのよ。彼らが任せろと言ったんだから、ちゃんと前で留めておいて欲しいわ。それに彼らとは初めて会ったんだし、混戦した時の連携も出来ていないんだもの」

 モニカは手に持ったナイフを、まるでゴブリンの群れと戦っているかの様に振るう。そのナイフの軌跡は、赤いラインを描き、大気に花を咲かせた。

「ゴブリン5体となると多少忙しいけど、私とリスフィーなら、捌けない事はないわ。それだってのに彼らは、1人1匹で手一杯みたいだし。はぁ、今からでも彼ら、追い返せないかしら」
「モニカ、そんなことを言うものじゃないわ。彼らは必死に私達を守ろうとしてくれているじゃない。その努力を踏み躙ってはいけないわ」
「……リスフィーを守るのは私だけで十分なのに」
「ええ、信頼しているわ。私が安心してダンジョンに挑めるのは、貴女がこうして隣にいてくれるからよ。貴女ならきっとどんな魔物が襲いかかってきても守ってくれる。だから、彼らの些細なミスを怒らないであげて」
「……! そ、そう。リスフィーがそこまで言うなら、許してあげるわ」
「ふふ、ありがとう」

『カラン』

 再びダンジョンの奥へと進もうとしたところ、ふと何かを蹴り上げてしまった。
 訝しげにソレを拾い上げたモニカは、またしても不機嫌そうな顔をして、前方を進む彼らを睨みつける。

「これ、さっきのゴブリンの魔石じゃない。魔石を落とすこと自体珍しいものだけど、ドロップを見落とすだなんて……」
「もうモニカ、怒らないの。誰だって何かに集中していたら、見落としたりもするわ。それにモニカだって、たまにドロップを見落としてたりしてるでしょ?」
「うっ、そうだったわね……。ねぇリスフィー、今回のドロップなんだけど……」
「ええ、勿論よ。貴女の望む通りに使ってちょうだい」
「ありがとう! 愛してるわ、リスフィー!」
「ふふ、大袈裟ね」

 モニカはダンジョンで得た物を売っては、孤児院に寄付している。
 孤児院は教会が運営しているのだが、教会の財政状況は、決して悪いわけではない。表向き清貧を尊ぶとされている彼らも、子供達にその教えを強要しているわけではない。
 だが、とある理由から、孤児院にお金を回す余裕がないのであった。

 それは怪我人の治療を行う際、金銭を多く取ることがないのもあるが、教会がお金を持てない一番の理由は、ダンジョンで産出される『リカバリー』の魔法書のせいだろう。
 『リカバリー』の魔法は、『神官』を続ける上で必須の魔法だ。にも関わらず、ダンジョンで得られる魔法の中でも極めて希少な存在であり、希少属性の雷や氷魔法以上に排出率が悪い。
 『ハイリカバリー』に至っては数年に一度出るか出ないかと言われる程だった。

 もしも『リカバリー』の魔法書が手に入れば、教会は高額で買ってくれる。その為冒険者にとっては、『リカバリー』の魔法書は一攫千金の夢ともされていた。

 シラユキに言わせれば、そもそも排出率の悪いダンジョンに挑んでいるからであり、もっと確率の高いダンジョンに行けばこの情勢も大きく変わるだろう。
 だが、それだけダンジョンの難易度も上がってしまう為、この世界の戦力では厳しい事もまた事実。

 今、教会が抱える金銭の問題は、シラユキが向かえば、諸々の問題を一発で解決出来てしまうのだった。

 しかし、シラユキは教会がそこまで切羽詰まっている状態だとは知らないため、まだまだ足を運ぶ予定はなかったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「フェリスフィア様、モニカ様! スライムが5体現れました!」

 ダンジョン攻略は後半へと差し掛かり、出現する魔物も一変した。
 最初はゴブリン、次にコボルト、ウルフと来て、終盤にはスライムが出る。それがここ、初級ダンジョンの魔物構成だった。

「やっと出番ね。ねぇリスフィー、シラユキちゃんに教えてもらった貴女が、どんなふうに成長したのか。私に見せてよ」
「ええ、勿論よ。モニカ」

 フェリスは手を前に突き出し、騎士達に指示を出す。

「皆さん、スライムを1箇所に集め次第、すぐに離れてください!」
「「「「はいっ!」」」」

 スライムは物理攻撃が効き難いが、その分移動速度が鈍い。その為、今までは前衛職が魔法詠唱の時間を稼ぎ、各個撃破で討伐してきた。
 討伐速度は魔法使いの腕に左右され、どんなに凄腕の魔法使いでも討伐には時間もかかってしまう。その上ドロップするのは格安で買い叩かれている『スライムオイル』のみと言うこともあり、このダンジョンでは嫌われ者として存在していた。

 騎士見習いの彼らは、慣れた手つきで剣を下から差し込み、掬い上げるようにスライムを投げ飛ばし、1箇所へと集めてみせた。
 彼らが仕事を終え、此方へと退避してきたのを確認し、フェリスは微笑んだ。

「ありがとう。『アイストルネード』」

 いくつもの氷の礫が、竜巻の中で荒れ狂い、スライムをズタズタに切り裂いた。半液体であるスライムは本来なら凍りつくはずだが、ここはダンジョン。
 死亡した魔物はすぐさま魔力粒子へと変わり、いくつかのドロップアイテムを置いて消え去った。

「詠唱破棄の『アイストルネード』……! 凄い、凄いですフェリスフィア様!」
「流石は青の双璧、フェリスフィア様! まだまだ成長なさっているのですね! 私たちも精進致しますわ!」
「ふふ、ありがとう」

 騎士達はまるで小間使いのようにドロップアイテムを拾い集めてはフェリスに献上する。ニッコリと微笑み受け取る彼女にまた、彼らは見惚れるのだった。

「腕を上げたわね。以前とは、比べ物にならないほどに……」
「ありがとう、モニカには分かっちゃうのね」

 先行し、ダンジョンを進む彼らに追従しながらも、モニカは自身が感じた感想を口にする。

「変わったのは詠唱破棄や展開速度だけじゃないわ。威力も、精密性も、安定性も。何もかもが段違いだったわ。……そんなに凄いのね、そのシラユキちゃんって子の知識は。……嫉妬しちゃうわ」
「暴力はダメよ」
「分かってる、しないわ」
「喧嘩もダメ」
「大丈夫よ」
「付き纏うのもダメよ」
「大丈夫だってば。もう、リスフィーは私のことなんだと思ってるの?」
「私が仲良くなった子に付き纏ったり勝負を仕掛けたりする、困った親友ね」
「……」

 モニカは私のことを心配して、私に近づく人が現れると、どんな人なのかチェックしないと気が済まない性分らしい。
 それが女の子なら遠くから見守ったり噂を聞いて回ったり、男の子なら実力を見せろと突撃したり。本当に困った子だわ。

 実際、シラユキちゃんだけじゃなくて、その妹のリリちゃんや、お母様のリーリエさん。私達にとっては姉であり、彼女にとっては家族でもありメイドでもあるアリシア姉さん。
 そんな3人の存在もあるんだけど……。それは内緒にしておこう。きっと彼女は突撃するし、その行動はシラユキちゃんの逆鱗に触れる可能性が高い。
 きっと良くないことが起こるだろうから、このまま内緒にしておくべきね。

「彼女は私達家族にとって、命の恩人なの。変なことをして彼女を怒らせたら、いくらモニカであろうと絶対に許さないわ」
「!? ……わ、わかったわ。リスフィーに嫌われたくはないもの。彼女には何もしないわ、約束する」

 ほっ。
 ここまで言えばモニカも変なことはしないでしょう。

「それにしても……。さっき、聞き捨てならないことを言ったわね。命の恩人、ですって? リスフィー達は私と違って一度も王都からは出ていないわよね。それでどうして命の危険に晒されるわけ? 貴女達の身に何が起きたの!?」
「それなら、数日以内にヒルベルト夫人から説明があると思うわ。近々会議をするって伯父様達が仰っていたもの」
「いや! リスフィーの口から聞きたいの! お願い、誰にも言ったりしないから」
「モニカの口の堅さは信頼出来るけど……。そうね、分かったわ。ただ、ここから出てからね」

 そう言ってチラリと前を向くと、耳をそば立てていた騎士達が一斉に前を向いた。

「あっ……ごめん。声、大きかったわね」
「良いわ。だから、これが終わるまでは我慢しててね」
「ええ。……となれば、さっさと終わらせましょ! 貴方達、私も前に出るわ! ペースを上げて攻略し切るわよ!」
「「「「は、はい!」」」」

 急にやる気を出したモニカに、フェリスはため息をつくしか無かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「……それで、結果はどうだったんじゃ?」

 ここは学園長室。ダンジョン探索を終えたその足で部屋を訪れると、先ほどと変わらぬ面々が待ち構えていた。

 ……伯父様たち、やっぱりお暇なのかしら? いえ、決済用の書類がそこかしこに積み上がっているし、ここで仕事をしながら待っていたのね。学園長先生のご迷惑になっていなければ良いんだけど……。

 私は内心呆れながら、ダンジョン内で書き連ねた検証結果を提出する。まだ推察や予想が多くて、報告書としては落第ものだけれど、伯父様はこう言う試行錯誤の形が見える書類の方がお好きらしい。
 一応見られると思って書いたから、変なことは書いていないはずだけど……やっぱり恥ずかしいわね。
 検証結果を夢中になって見ている伯父様達に所感を伝える。

「あの魔法陣はダンジョンで得られる素材を元に、同品質の何か。もしくは1段階上の品質の素材を出現させる物のようです。検証はまだまだ不十分ですが、今のところ危険性はなく、場合によっては珍しいものが出てくるかもしれません」

 あの魔法陣は、シラユキちゃんが書いた通り、ダンジョンで得られる素材『リト草』、『緑牡丹』、『弦月花』を設置して魔力を込めると起動する。元にした素材はどれも品質は普通ノーマルだったけど、出てきた素材は普通《ノーマル》か《高品質》だったわ。もしかしたら、3つとも《高品質》の素材を用意すれば、《最高品質》の素材に生まれ変わるのかしら?
 クールタイムは1分。その間は何をしても起動しなかったし、他の素材でも反応は無かった。

「出現した素材と試行回数は2枚目に記載した通りとなります。今回はお試しということもあり、事前に持ち込んだ素材と探索中に得られた素材のみを使い、34回となりました」

 出現物は以下。
 リト草・高品質3個
 緑牡丹・高品質2個
 弦月花・高品質4個
 ゲドク草・普通7個
 ゲドク草・高品質1個
 モラフ草・普通5個
 モラク草・普通1個
 ガラギの枝・普通2個
 トレントの枝・普通1個
 名もなき草・8個

「また、今回得られた素材でさらに上位の素材が出現する可能性がありましたが……。数が少なすぎるのと、本当に出現したか疑われたく無かった為、出現した素材はそのまま持ち帰らせて頂きました」
「良い、2人ともご苦労だったな。ワシは錬金術には疎いせいか、どの素材が良いものかは判断がつかぬが……このトレントに関しては間違いなく良いものじゃな」
「そうですね。まずトレントの出現が確認されているのは、一般生徒達には秘匿している上級ダンジョンです。それが初心者ダンジョンで気軽に得られるとなると、市場が賑わいますね」

 伯父様達は楽しそうに、結果報告を話し合っている。これは長くなりそうね。

「ふむ。この手法であれば、高品質の素材に関して、産出量は多くないが確実に得られるということ。薬学の授業で生徒達に触れさせる機会が増すでしょう。モニカ君、今回の実験結果の素材は全て学園で買い取りましょう。支払いはいつもの方法で良いかね?」
「はい、感謝しますわ。学園長先生!」
「ほっほっほ、モニカ君は変わらず良い子ですね」

 学園長先生が計算し、それぞれの素材の買取額を記載する。それにモニカが頷いて買取が成立した。
 しかし、そのリストには『名もなき草』の名は、入っていない。なぜならこの素材は、ダンジョンの至る所に生えている雑草だからだ。

「あの、学園長先生」
「何かね、フェリスフィア君」
「この名もなき草、私が頂いても構いませんか?」
「構わんが……どうするのかね?」
「ふふ、内緒ですわ」

 これはただの思いつきだ。実際に有用となるのかも、今の段階ではわからない。
 でも、もしかしたら、この国の誰からも必要とされていないこの雑草も、彼女の手にかかれば何か変化が起きるかもしれない。
 そう思って、実は今回の探索中にずっと集めていたのだ。モニカは不思議そうな顔をしていたけど、を知っているからか、深く聞いてくる事はなかった。

 私は以前、シラユキちゃんの錬金術を見て、とても感動したわ。昔から新たなアイテムを生み出せる錬金術には興味があったし、勉強もしてきた。
 けれどこの学園に入って、先生や先輩方が教えてくれた内容には、少しばかり失望させられた。夢に見ていた、物語のようなアイテムを作り上げる事は不可能に近いんだって。

 だけど彼女は、私が思い描いていた以上の事をやってのけた。誰も知らないアイテムを、誰も知らない手法で大量生産してのけた。
 彼女の手際の良さは、まるで長年錬金術に生涯を捧げてきた職人のようですらあった。

 その姿に、私は憧れた。
 私は由緒ある公爵家の長女。ゆくゆくは他国の王族や名のある貴族に嫁ぎ、この魔法力を遺伝させ、子に引き継がせるだけの存在。生産職に手を出したくても、家の環境上、そんな我儘は言えないものだと思っていた。
 でも、彼女は違う。錬金術師でもないのにあれだけの技術を持ち、自由気ままに人生を謳歌している。そしてそれを行えるだけの強さと、魅力を併せ持っている。錬金術だけじゃない。調合も、鍛治も、裁縫や狩猟もお手の物らしい。そして魔法も極めて、近接戦闘も出来る。
 そのどれもが、付け焼き刃ではなく、誰にも届かない高みにいる。そんな彼女に、憧れない人なんていないわ。

 私は彼女が羨ましい。きっとこれが、嫉妬というものね。

 今はまだ、あんなに大量のアイテムを作り出せるのは、彼女以外にはいないだろう。けれど、いつか私も同じ境地に立ってみたい。
 アリシア姉さんは調合の技術をシラユキちゃんから手解きを受けたという。そして今まで以上の高品質な薬を生み出せるようになったとか。
 それを聞いた時、思ったわ。私もシラユキちゃんに弟子入りをして、錬金術を習いたいって。

 代々錬金術部は狭き門として有名だった。 
 シラユキちゃんにのは、入部試験も兼ねていた。結果は言うまでもなく合格。と言うか、入学したらすぐにでも部長の地位を差し上げてしまいたいわ。
 でも彼女、色んなことをやりたそうだし、兼部を条件にお願いしてみようかな。あの時は咄嗟に私の友人がって嘘を吐いちゃったけど、許してくれるかしら?

「リスフィーが楽しそうで私も嬉しいわ」
「あら? 私、そんな顔をしてた?」
「ええ、とってもニコニコしていたわ。錬金術の事になると、貴女ったらいつもそうだもの」
「ふふ、そうね。もしかしたら、今まで以上に熱が入っちゃうかも」
「ふぅん?」

 危ないわ、顔に出ていたなんて。この件にもシラユキちゃんが関わっているだなんて知られたら、きっとモニカは拗ねちゃうもの。
 ふふ、それにしても楽しみだわ。彼女ならこの雑草を、どんな風に有効活用できるのかしら。
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