異世界でもうちの娘が最強カワイイ!

皇 雪火

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第7章:エルフ王国 救出編

第217話 『その日、再会を喜んだ』

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 アリシアとイチャイチャしてからベッドでぐっすり眠り、目覚めて外に出たところでアメリアちゃんと出くわした。

「おはようございます、シラユキ様」
「アメリアちゃんおはよー」
「ゆっくり出来た様で何よりです」
「解体は済んだの?」
「はい、あの場所もしっかり森に還すことが出来ました。これもシラユキ様のおかげです。エルフを代表し、感謝を」
「どういたしまして。お礼はハグの方が嬉しいかな」

 すっと腕を広げると、アメリアちゃんは困り顔だ。

「アメリア、言う通りに」
「……分かりました。では失礼して」
「ぎゅーっ! スリスリスリ」

 鎧がちょっとゴツゴツしてるけど、エルフ特有の香りが鼻腔をくすぐる。
 えへ。満足。

「森が言うには、もうエルフの森近郊に、敵の姿はないそうです。いくつかの部隊は砦の復旧を任せ、我々は女王様に報告しに帰りましょう」
「はーい」

 飛んで帰れるけど、今はアリシアとアメリアちゃんと一緒に、のんびり帰りたい気分ね。ゆーっくり帰りましょ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 そうしてお昼頃になって、ようやく王国へと到着した。

 歩いてたら日が暮れる距離だったので、アメリアちゃんの厚意でエルフが扱う牙獣に乗せてもらった。見た目としてはデカいカピバラみたいな感じでモコモコだった。デカい齧歯類のカワイさに癒されつつの帰城だったわ。

 お城に着くと同時に精霊達が歓迎に寄ってきてくれたので、戯れながら玉座の間へと向かう。
 ほとんどが下級の、もやもやした感じの精霊ちゃんだけど、昨日中級へと進化した子達も混ざっていた。私の魔力の気配を感じ取ったのね。

 そんな精霊達に囲まれる情景に、周囲の子達から様々な意味合いの視線が飛んできたけれど、もはや慣れっこだったのでスルーした。

「よくぞ帰った。報告は既に聞き及んでおる。砦に先行し、魔物化した司令官や騎士達のみならず、魔人すら討伐してみせたと」
「あ、ついでに魔人が呼び出した邪竜と屍竜も討伐しました。森が穢される心配はありませんのでご安心下さい」
『おお……』

 私の報告に、周囲のエルフ達から感嘆の声が漏れる。

「其方には感謝してもしきれん。シラユキ殿は我らエルフの大恩人である。願いがあれば言って欲しい。出来うる限り其方の願いは叶えたいと思う。無論、以前言っておったように『精霊の森』への入場も許可しよう」
「ありがとうございます。家族も連れて行って良いですか?」
「其方の家族なら歓迎しよう。それと今度こそ、祝勝会を開こうと思う。開催は明日を予定している。是非とも参加してくれ」
「はーい」

 簡単な挨拶と共に謁見の間を後にする。
 さーて、どうしようかな。そんな風に考えていると、女王様の隣にいた、高官らしき人がやってきた。

「シラユキ様、女王様から伝言です。「其方の友人である同胞が、目を覚ましたと報告が入っている。顔を見せてやってほしい」との事です」
「すぐ行きます!!」

 案内を申し出る彼女をすり抜け、彼女の元へと駆け出す。
 この城の間取りは完全に熟知していたし、何より帰城してからずーっと、ミーシャの位置はマップで把握していた。同じ部屋の中から動いていなかったから、まだ眠っているものだと思っていたけど……。

 大丈夫なのかな。
 目が覚めたとしても後遺症とか残ってないかな。
 私の事とか、覚えてるのかな。

 そんな心配を続けながら、彼女が待つ部屋を押し開けた。

「ミーシャ!!」
「……騒ぎすぎよ、ばかね」

 彼女は私の顔を見るなり、マップを閉じるように腕を動かした。恐らく、私が来る事を予期して待っていてくれたんだろう。だけどそんな事をおくびにも出さず、いつもみたいにツンツンな態度を取りながらも、楽しそうに微笑む親友の姿があった。

「ここは女王様のお城で、アンタも私もお客さんなんだから。少しは落ち着いて行動しなさいな。呆れられたらどうするつもり?」
「ミーシャ……ミーシャだぁ」
「そうよ、久しぶりね。シラユキ」

 数ヶ月ぶりに会えたミーシャの姿が、ひどく懐かしくて。
 あんな別れ方をしたのにこうやって会うことが出来た嬉しさと、嫌われていないかという後ろめたい気持ちでモヤモヤして、喜びと不安が交互に溢れて視界が滲んでいく。

「うえぇ、ぐす。ミーシャぁ……」
「あーもう。そんなとこで泣いてないで、こっちにいらっしゃいな」
「うん……」

 ミーシャに手招きされ、頭がぐちゃぐちゃになりながらも、ゆっくりと近付く。ベッドの側まで近付いたところで、ミーシャに腕を掴まれ抱き寄せられた。

「もう、私だって泣きたい気持ちなのよ。なのにアンタばっか泣いて、私の分まで泣かないでよね」
「ミーシャぁ」
「はいはい、そんなに私と会いたかったの?」
「だって、お別れしたから、もう2度と会えないって……。この世界で色んな子と仲良くなっても、やっぱりミーシャがいないのは寂しかったもん」
「……私だって、寂しかったんだから」

 顔を上げると、滲む視界の向こうに、涙を必死にためたミーシャと目が合う。

「ミーシャー!」
「ばかっ」

 そのあと、喉が枯れるくらい互いに泣き続けた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 お互いに散々泣いたあと、ミーシャが気まずそうにそっぽを向いてしまった。

「ミーシャ?」
「……」

 何度呼びかけてもこっちを向いてくれない。けど、彼女の分かりやすいところは変わっていないみたいで、呼び掛ける度に耳がピクリと動いた。
 カワイイ……。ミーシャも耳、敏感だったりするのかな。
 気になるけど……。嫌われたくないから、我慢しよう。

 でも頬擦りはしちゃう。

「スリスリ」
「ひゃうっ!」
「すべすべー」
「ちょ、だめ。くすぐったいから!」
「きゅうきゅう」
「みゃおみゃお」

 私とミーシャが戯れている姿に我慢出来なくなったのか、神獣達が擦り寄ってきた。ああ、ミーシャに夢中になりすぎて存在を忘れてたわね。
 よく見れば、カーバンクルは仄かに身体の周辺にぽわぽわ燐光が浮かんでいるし、ケットシーもキラキラして見える。
 これもリアル化した影響かしら。

 カワイイから撫でてあげよう。

「きゅう~」
「ごろごろ」
「あの時の傷は大丈夫?」
「きゅ?」
「にゃんコロには攻撃しなかったけど、カーくんには暗黒属性で迎え撃ったからね」
「きゅきゅー、きゅきゅ!」
「大丈夫? そうー、良かったわ」
「にゃおにゃおー」
「はいはい、あなたのことも忘れてないわよー」

 カーバンクルって、自分から甘えにきたりはしないのに珍しいわね。撫でられたら喜ぶけど、こんなにグイグイきたかしら?
 ケットシーは相変わらずだけど。

「ねえ、シラユキ……?」
「なんで疑問系?」
「だって……。確かに姿はシラユキだし、私の事も覚えてるけど、お別れしたあの時と比べて、今の貴女は色々と違いすぎるもの。本当にシラユキなのよね?」
「失礼しちゃうわ。こんなにカワイイシラユキちゃんが世界に何人もいるとでも?」
「あはは、この言い回しは間違いなくシラユキなんだけど……」

 むぅ。確かにあの頃とは違うかもしれないけど、疑問に思われるのは癪ね。

「具体的に何が違うの。カワイくなくなった……?」
「そんな事はないわ、むしろずっと可愛くなったわよ。昔は……どっちかっていうと綺麗寄りだったじゃない? いつもピシッとしていて、大人の女というか、女王様風だったと言うか」
「ええー?」
「でも今は、普通に女の子してるわ。むしろ子供っぽくなってるかも」
「そっかぁ。私としては何も変わってないつもりだけど、小雪と合体したせいかな……」
「小雪? 誰よそれ」
「あっ。今のは……」

 しまった。つい気が緩んで小雪の名前が出ちゃったわ。
 ミーシャは昔の私も、リアルの私も知ってる昔からの友人だから、油断した。

「この世界のことも気になるし、合体……? 私は、もう遠慮なんてして置いていかれるのは嫌なの。だから白状なさい、その子は誰?」
「あうあう」

 ああ、どうしようどうしよう! どうやって誤魔化そう!
 そんな折、澄んだような聞き覚えのある声というか、感情の波が、頭に響いた。

 ー伝えても、いいよー

「ほぇ……」

 今まで、起きてる時に小雪と会話した事はないけれど、突然今考えている事と正反対の感情が溢れてきた事はなかった。こんな不思議な感覚、初めてだけど……。これって小雪の感情なの?

「うう、そんなに悩む事なの? シラユキが本気で言いたくないなら、その……。言わなくても、いい、けど……」

 ……うん、小雪がそれでいいなら、伝えよう。

「ううん、小雪が良いって言ってるから、伝えるね。でもこれだけは約束して。本当にこれは誰にも話していない内緒ごとだから、ミーシャの心の内に留めておいて。誰にも言っちゃダメだよ?」
「分かった、絶対言わない。名前も出さない。教えて、あんたに何があったのか」

 そうして、私は結界を展開したあと、ミーシャにこの世界に来た経緯と、小雪の事を教えた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 シラユキから聞かされたのは途方もない話だった。
 ここはWOEの正式リリースの1年前の時間軸で、不幸な未来を回避するために各地で暴れ回っていると。そして、シラユキの中に、もう1人いることも。

「それじゃ、シラユキの体に宿った、もう1人のシラユキ。その子と、元のアンタとが混じり合って、今のアンタになった、と」
「うん。信じられないかもしれないけど、私の中にはシラユキに宿った大事な子がいるの。聞いた話によると、私がログインしてない時に時々ゲームの中で遊んでいたらしいんだけど……。その時ミーシャともお話ししたらしいのよね……」
「となると、今の少女らしいシラユキから、元の大人っぽいシラユキを引いた姿か。となると幼女っぽいシラユキ……?」

 なんだか頭がこんがらがるわね。

「あ、それと……ミーシャと最初にキスしたのは私だから。って、小雪がドヤ顔で言ってたかな」

 シラユキがモジモジしながらそう言った。
 ああもう、本当に可愛くなったわね。前まではポージングだとしても信じられないくらいの完成度だったけど、今はコレが素面で出せてるんでしょ? こんなの反則よ。ときめかない方がおかしいでしょ!

「シラユキとの……」

 シラユキとキス……。
 回数としては決して多くはなかったけれど、どれも色褪せずに思い出せてしまう。その初めての記憶となれば……。

「……あっ」
「何か浮かんだ?」
「シラユキ、ぬいぐるみデートは覚えてる?」
「……なにそれ?」

 シラユキが、本当に身に覚えがなさそうに言ってのけた。
 あの時のシラユキは、確かこう言っていたわね。

『普段の私には内緒にしてね』

 あれは、いつもの設定か何かだと思っていた。
 私はシラユキと知り合ってすぐの頃から、彼女は作り上げた存在だと知った。容姿も、言葉遣いも、性格も、考え方も。
 シラユキの本気度までは理解出来なかったけれど、そういうロールプレイもある事は知っていたし、理解しているつもりだったから、これも遊びの一環なんだなって思うことにした。

 だから、あの時のシラユキの雰囲気が、今までとは180度違うことも、気分転換か何かだと思ってしまっていた。「」外を走り回れる事に感動して、涙を流すあの子を……。私は、遊びだと思っていた。

「そう……あれが小雪ちゃんなのね」
「記憶にあるの?」
「ええ。あの子は普段のアンタと違って、色んな事に興味津々で、ぬいぐるみをよく欲していたわ。いくつか一緒に買いに行ったりもしたのよ」
「ええー、そうなんだ……って、ぬいぐるみ!?」

 シラユキは慌てたようにベッドから飛び降りて、マジックバッグからマジックテントを取り出した。それには見覚えがあった。

「あれ、それアンタの特製テントじゃないの?」
「うん、これだけはあっちから持ってこれたんだ。それよりも、中に来て!」

 シラユキに手を引かれて、マジックテントの中へと入る。
 そこはあの頃のまま、可愛らしい雰囲気はそのままに、生活感溢れる空気が感じられた。

 数ヶ月ぶりに見た懐かしい部屋に、ちょっと視界が潤む。そんな私に気付いていないのか、シラユキがベッドの上を指して慌てたように言う。

「あの中に、ミーシャの言うぬいぐるみはある!?」
「どれどれ」

 シラユキの言うぬいぐるみ達を見ると、幾つかは私がシラユキ……いえ、あの子に買ってあげたものがあった。
 あの子にプレゼントした時、心から喜んでいたのを、今でも鮮明に思い出せる。

「ああ、懐かしいわね。この子とこの子。あとはそこにいる子達が買ってあげたものよ。そっか、連れてくるくらいに気に入ってくれていたのね」

 何かよくわからないアイテムを抱えた、ラッコのような生物のぬいぐるみを抱える。そうね、この子が最初にプレゼントしたもので間違いないわ。

「そっかー。じゃあミーシャに覚えのない子達は、ハルトとかにお願いしたものかもね」
「そうなの?」
「うん……。何人かにキスしたとか言ってたもん」
「ふ、ふーん??」

 なんだかちょっとムッとなった。
 理由を考えたら恥ずかしくなってきたので、話題を変える。

「と、ところで今後はどうするわけ? シナリオ逆転した後とかさ」
「そのあとー? そうね、私のカワイさを世界に認めさせたいところだけど、それよりも小雪が最優先ね」
「え、最優先って?」
「うん。ホムンクルスを作って、小雪の容れ物にしようと考えてるの。ホムンクルスって魂を作り上げるのが至難ではあるけど、既に魂がある状態だからね。そんなに難しい事じゃないわ。……素材を除けば」
「素材……ああ。まともな戦力がいなきゃ、太刀打ちできないのがいるわね」
「そうなの。だから頑張ってレベル上げをしてるわ」

 何気なく言ったシラユキの言葉に引っかかった。

「……そう言えば、不思議に思ってたの。記憶の中でシラユキと私、割とガチ目に戦ってたけど、その時『破天』を使ってたわよね。けど、職業を変えずに強烈な『浄化』と『魔法解除ディスペル』も使ってたでしょ」
「あ、うん……」
「最初は刀に『技封珠ギフウジュ』でも使って『巫女』で戦ってるのかと思ったけど、改めてその刀を見たら普通の……。いえ、脳筋仕様のハイスペック物理特化仕様であることしか分からなかったわ。どう言うことか説明して」
「えへ」

 シラユキは、あざと可愛く舌を出してみせた。
 ちゃんと教えてくれるんだろうけど、なんだか誤魔化されそうな気にもなっちゃうわね。

「んーとね、この世界に来た時に、何でも出来る隠し職業に就けたのよ。まだレベルは低いけど、そのレベルに応じた全ての職業のアビリティとスキルが行使出来るわ」
「なにそのチート」
「えへー」
「ちなみにステータスは?」
「基礎値400。成長倍率1.25倍」
「……は?」
「あと全職業カンストしてるから補正値2.11倍」
「うっわ……」

 私はシラユキみたいに、全職業全スキルカンストなんて特殊な極めプレイはしていなかったけど、それでも一応は上位プレイヤーの1人のつもりだ。だから、その異常性はよくわかった。
 とんだ化け物じゃない。その数値だとしたら……。

「今のステータス、2万超えてる?」
「装備と称号で3万超えてる」
「なにあんた、新手の魔王でも始めるつもり?」
「世界をカワイイで満たしたい野望はあるわよ?」
「ふふ、平和そうね」
「えへ」

 そんな感じで、ベッドで横になりながら、シラユキと色んなことを語り合った。シラユキがいなくなった後のこと。シラユキが過ごしてきたこの世界のこと。
 ちょっと聞き捨てならないことも言われたけど、それでも楽しくこの世界を謳歌してきた事は、顔を見ればすぐに分かった。

 でも1つだけ言わせて。

「婚約者が9人いるってなに!?」
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