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第三幕【古き魔女の復活】
3-7【迷宮の作り手たち】
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帽子を目深に被りながら、沈んだ表情を見せるフィーちゃん。
そんな彼女の隣、窓側の席に座るリーンシェッテが呆れた様子でその横顔を見つめていた。
「早まるなと申されましても……もう、私以外に」
「その結論が性急と申してるのだ」
うつむくフィーちゃんに対しため息をつくリーンシェッテ。
声が周囲に届かないとはいうものの、こういった話題をファミレスでやるのはどうにも落ち着かない。
何度か横目で周囲を確認してみるが、客の入れ替わりはあれど俺たちに関心を向ける人はいないようだ。
俺は改めて二人と向き合う。
二人の様子は険悪とまではいかないが、明らかにフィーちゃんの方がリーンシェッテから距離を取っている。
座席の横に立てかけられたフィーちゃんの杖がわずかに傾く。
「あえてもう一度言わせてもらうが、ワガハイに全てを任せてしまえばそれで終いだ。若いお前が犠牲になる必要もないだろう」
「できません。それだけは、絶対に……」
「即答か。いやはや頑固なものだね」
やれやれと言いたげにリーンシェッテが首を振る。
フィーちゃんが頑なであること自体は理解できる。きっと勇者に対して少なからず思いを募らせているのだから。
しかし俺個人としては、フィーちゃんよりもリーンシェッテの方が確実に事態を収めることが出来るという印象もある。
頼る力の違うフィーちゃんでは不確定な要素が多いし、何より危険なことをしてほしくはない。
この場合の最善といえば、フィーちゃんとリーンシェッテがどうにか協力できる流れになることだ。
難しいのは承知の上だが、どれだけ考えてもこれが一番安全な落としどころだろう。
何より、これならば俺にも何かできる可能性があるのだ。
純粋な力はなくとも、お互いの間を取り持つ立ち回りというのがきっとどこかにあるはず。
(それがすぐ思いつくほどコミュ強ではないんだけどな)
自分の交友関係を思い出し、自然と苦笑が浮かぶ。
別にコミュ障という訳ではない。趣味を通じて知り合った友人も多いし、話題さえあればという感じだ。
だが今目の前にいるのは異世界に住んでいた人物達。
しかも片方は千年前にこちらに飛ばされてきた悪の魔女といった具合だ。
普通に生活していてそんな相手と鉢合わせる可能性がどれほどあろうか。
うん、普通に考えて有り得ない。というかそんな状況の真っ只中にいるんだよな俺。
「おい、坊」
「えっ?」
まさかここで呼ばれるとは思っていなかったせいで、口から間抜けな声が漏れる。
案の定呼びかけてきたリーンシェッテはジト目で睨んできた。
「何腑抜けた顔してる。お前も何か言ってやれ」
「な、何かって?」
「こんな娘が自らを犠牲にしようというのだ。思うところの一つでもあろうに」
そりゃああるよ。ありますとも。
でもそいつを伝えるにしても言い方というものがある。できることならフィーちゃんやリーンシェッテが納得するような形で。
だが年不相応に覚悟決めてるフィーちゃんや千年以上生きてるリーンシェッテに言って聞かせられる言葉が早々出てくるものでは……。
「……あ」
いや、ある。
というより、唯一の妥協点となるものが一つ。
それでフィーちゃんが納得してくれるかは分からないし、リーンシェッテが不必要と思えば全く通用しないことだ。
しかし、今回の事情に俺が関わるきっかけとなったもの。
それについてだけは、この場で俺だけが持つものなのだ。
「それじゃあ聞くけど、リーンシェッテは例の巨人というよりは、巨人が放つ力が欲しいんだよな?」
「んー、極端に言えばそうだな。もちろん力を得る以上管理はするが」
「なるほど。それでフィーちゃんは俺の模型をあの場所で実物に変換して、巨人を収めておきたいんだよね?」
「え、ええ。その通りです」
うむ、やはり二人の主目的はそこに落ち着いている。これは俺の思った通りだ。
「それとフィーちゃん。迷宮を実物に変換する場合の魔力って体が危険になるほどのものなの?」
「それは大丈夫です。一度に大量の魔力を消耗しなければ、体に瘴気を取り込むことはないので」
それはつまり、迷宮づくりは俺とフィーちゃんだけで可能ということだ。
こうなると残された課題は巨人となった勇者の確保と固定であり、これがフィーちゃんに犠牲を強いることになるのは明らか。
逆にそういったことについては、リーンシェッテが解決できる問題とみて間違いない。
俺は改めてリーンシェッテの方を見る。
向こうは俺の言葉をどこか退屈そうにしながら待っていた。
「リーンシェッテ」
「何だい?」
早く話せと言わんばかりに、言葉を吐き捨てるリーンシェッテ。
敵意や悪意を向けられてはいないものの、こちらの提案を受け入れてくれるのかという不安が頭をよぎる。
しかしだ、俺にだってフィーちゃんに対し思うところはある。
できることなら自分の身を犠牲にするような真似はしてほしくない。
そんな中で、模型作りが趣味の俺にできる交渉材料なんてこれくらいしか思いつかなかった。
「フィーちゃんは絶対に勇者のことを譲らない。それは分かってくれるよな」
「ああ。だがこちらも早々引き下がるつもりはないぞ」
「それでいい。そこでなんだけどさ」
俺はテーブルに両手を置き、少しだけ身を乗り出す。
「俺たちが作った迷宮の管理をリーンシェッテに全て任せる……ってのはどう?」
俺が放った一言に、フィーちゃんが目を丸くする。
対するリーンシェッテは眉をわずかに動かしただけで、表情を変える様子はない。
「俺はこれからフィーちゃんの指示に従って、勇者が静かに暮らせる迷宮を作る。リーンシェッテは、その迷宮で自由にしてくれていい」
「ほう? なかなか思い切った妥協だな」
そう言いつつ、リーンシェッテが横目でフィーちゃんの様子を見る。
案の定フィーちゃんは戸惑っている。何と言っていいのか分からない様子だ。
そんな彼女を助けるため、俺は言葉を続ける。
「フィーちゃんはあくまで勇者が誰かの所有物になるのが嫌なんだよね?」
「え……はい。それだけは許せません」
「うん。でもあれだけの巨人が過ごせる迷宮なんて相当な規模だ。できたとしても管理が難しいよね」
果たしてフィーちゃんがその辺りを考えていたのか。
それは俺にも分からないが、少なくとも口をつぐんだままフィーちゃんはうなずく。
「リーンシェッテは今の勇者が放つ瘴気が欲しい。でも今みたいに漂われては手間が増えるよな?」
「そりゃあそうだ。まあ多少の面倒はワガハイがどうにでも」
「その面倒の肩代わりを、迷宮を作るって形で俺たちが受け持つ。ついでにリーンシェッテが過ごせるようなスペースも用意できるぞ」
途中の言葉にリーンシェッテは興味を示さなかった。
しかし彼女のスペースについて口にした瞬間、わずかに目を見開いたように感じた。
俺がここまで言い切れるのは、フィーちゃんが実際に見せてくれたあの家のおかげだ。
自分では満足できるレベルのものは作れるとしても、それが現実のものと言い切るにはまだ程遠い。
それをフィーちゃんの補正で本物のそれまで作り込めるのならば、俺はリーンシェッテが満足できるプライベートスペースを作る自信がある。
自信……というより、現状これだけは意地でも押し通したいといったところか。
そうでなければ、俺はフィーちゃんのために何もできない木偶で終わってしまうのだから。
さて、俺の提案をリーンシェッテはどう思ったのか。
しばらく俺の顔を見つめた後、小さくため息をついた。
「つまり力は利用していいが勇者は渡せないと言いたいわけか?」
「リーンシェッテの言ってること、俺にはそれ以外求めていないように聞こえたんだけどな」
鼻で笑うリーンシェッテ。
生意気なことを言っているとか、そんなことを考えたに違いない。
だがそれは承知の上だし、自分が間違ったことを言ったとは思っていない。
果たして彼女がどれほどのことを要求しているのか。
俺の考えが思い違いでないことを、今はただ祈るしかない。
「……ははっ」
その笑いはどういう意味なのか。
わずかに身構えつつ、俺はリーンシェッテの顔色をうかがう。
その笑顔は、まるで楽しい遠足を明日に控えた子供のようだった。
「そうか、勇者ではなく迷宮をワガハイにくれてやると。そいつは面白いっ」
「お、面白い?」
「そりゃあそうだろう。世間体で言えば悪の魔女に住処を与える奴など聞いたことないぞっ」
リーンシェッテはしばらく笑った後、コップに半分ほど入った水を一気にあおった。
「元々お前たちの計画には興味があったが、こいつはいい。そういうことならワガハイにも一枚噛ませろ」
「えっ? そ、それって……」
おずおずと尋ねるフィーちゃんの頭に手を伸ばし、帽子越しに撫でまわすリーンシェッテ。
彼女の見せる笑顔に悪意は見られず、本当にこれからのことを楽しみにしているように見えた。
「お前の思い描く迷宮というやつに興味が湧いたのさ。だから手伝ってやるよ」
今の彼女を見て、伝承の悪しき魔女などと誰が思うだろうか。
それに頼る者もなかったフィーちゃんにとって、自ら協力を申し出る相手に出会えたのは嬉しかったに違いない。
違いないのだが、やはりわずかに警戒はしているようで。
「ほ、ほどほどでお願いします」
「はぁ!? なんだいなんだいそのそっけない返事はっ! ワガハイが手伝ってやろうというのに!」
「ですがあなたが力を取り戻すと色々怖いですから」
「ええいっ、それは若気の至りだ! 昔みたいな無茶はせんからもっと喜ばんかい!!」
怪訝そうな表情を見せるフィーちゃんに対し、あれこれ言葉を並べ始めるリーンシェッテ。
出会ったばかりのいがみ合っていた様子はそこにはなく、何とも微笑ましい光景だ。
だが、その様子を眺めていると自然と笑顔を浮かべてしまう。
まだ何もかも始まったばかりで、更に言えば出会ったばかりの俺たちだ。
この先フィーちゃんの計画がどのように進んでいくのかは分からない。
少なくとも、これで一人思い詰めるようなことがなくなればいいんだけどな。
「坊、お前からも言ってやれっ。ワガハイがおとなしく猫をやってた時のことをだな!」
「偉大な魔女が飼い猫やってた時の話とかされていいの?」
「あー……じゃあせめて何かフォローしろフォロー!」
……本当に頼って大丈夫なんだよな、この魔女を。
そんな彼女の隣、窓側の席に座るリーンシェッテが呆れた様子でその横顔を見つめていた。
「早まるなと申されましても……もう、私以外に」
「その結論が性急と申してるのだ」
うつむくフィーちゃんに対しため息をつくリーンシェッテ。
声が周囲に届かないとはいうものの、こういった話題をファミレスでやるのはどうにも落ち着かない。
何度か横目で周囲を確認してみるが、客の入れ替わりはあれど俺たちに関心を向ける人はいないようだ。
俺は改めて二人と向き合う。
二人の様子は険悪とまではいかないが、明らかにフィーちゃんの方がリーンシェッテから距離を取っている。
座席の横に立てかけられたフィーちゃんの杖がわずかに傾く。
「あえてもう一度言わせてもらうが、ワガハイに全てを任せてしまえばそれで終いだ。若いお前が犠牲になる必要もないだろう」
「できません。それだけは、絶対に……」
「即答か。いやはや頑固なものだね」
やれやれと言いたげにリーンシェッテが首を振る。
フィーちゃんが頑なであること自体は理解できる。きっと勇者に対して少なからず思いを募らせているのだから。
しかし俺個人としては、フィーちゃんよりもリーンシェッテの方が確実に事態を収めることが出来るという印象もある。
頼る力の違うフィーちゃんでは不確定な要素が多いし、何より危険なことをしてほしくはない。
この場合の最善といえば、フィーちゃんとリーンシェッテがどうにか協力できる流れになることだ。
難しいのは承知の上だが、どれだけ考えてもこれが一番安全な落としどころだろう。
何より、これならば俺にも何かできる可能性があるのだ。
純粋な力はなくとも、お互いの間を取り持つ立ち回りというのがきっとどこかにあるはず。
(それがすぐ思いつくほどコミュ強ではないんだけどな)
自分の交友関係を思い出し、自然と苦笑が浮かぶ。
別にコミュ障という訳ではない。趣味を通じて知り合った友人も多いし、話題さえあればという感じだ。
だが今目の前にいるのは異世界に住んでいた人物達。
しかも片方は千年前にこちらに飛ばされてきた悪の魔女といった具合だ。
普通に生活していてそんな相手と鉢合わせる可能性がどれほどあろうか。
うん、普通に考えて有り得ない。というかそんな状況の真っ只中にいるんだよな俺。
「おい、坊」
「えっ?」
まさかここで呼ばれるとは思っていなかったせいで、口から間抜けな声が漏れる。
案の定呼びかけてきたリーンシェッテはジト目で睨んできた。
「何腑抜けた顔してる。お前も何か言ってやれ」
「な、何かって?」
「こんな娘が自らを犠牲にしようというのだ。思うところの一つでもあろうに」
そりゃああるよ。ありますとも。
でもそいつを伝えるにしても言い方というものがある。できることならフィーちゃんやリーンシェッテが納得するような形で。
だが年不相応に覚悟決めてるフィーちゃんや千年以上生きてるリーンシェッテに言って聞かせられる言葉が早々出てくるものでは……。
「……あ」
いや、ある。
というより、唯一の妥協点となるものが一つ。
それでフィーちゃんが納得してくれるかは分からないし、リーンシェッテが不必要と思えば全く通用しないことだ。
しかし、今回の事情に俺が関わるきっかけとなったもの。
それについてだけは、この場で俺だけが持つものなのだ。
「それじゃあ聞くけど、リーンシェッテは例の巨人というよりは、巨人が放つ力が欲しいんだよな?」
「んー、極端に言えばそうだな。もちろん力を得る以上管理はするが」
「なるほど。それでフィーちゃんは俺の模型をあの場所で実物に変換して、巨人を収めておきたいんだよね?」
「え、ええ。その通りです」
うむ、やはり二人の主目的はそこに落ち着いている。これは俺の思った通りだ。
「それとフィーちゃん。迷宮を実物に変換する場合の魔力って体が危険になるほどのものなの?」
「それは大丈夫です。一度に大量の魔力を消耗しなければ、体に瘴気を取り込むことはないので」
それはつまり、迷宮づくりは俺とフィーちゃんだけで可能ということだ。
こうなると残された課題は巨人となった勇者の確保と固定であり、これがフィーちゃんに犠牲を強いることになるのは明らか。
逆にそういったことについては、リーンシェッテが解決できる問題とみて間違いない。
俺は改めてリーンシェッテの方を見る。
向こうは俺の言葉をどこか退屈そうにしながら待っていた。
「リーンシェッテ」
「何だい?」
早く話せと言わんばかりに、言葉を吐き捨てるリーンシェッテ。
敵意や悪意を向けられてはいないものの、こちらの提案を受け入れてくれるのかという不安が頭をよぎる。
しかしだ、俺にだってフィーちゃんに対し思うところはある。
できることなら自分の身を犠牲にするような真似はしてほしくない。
そんな中で、模型作りが趣味の俺にできる交渉材料なんてこれくらいしか思いつかなかった。
「フィーちゃんは絶対に勇者のことを譲らない。それは分かってくれるよな」
「ああ。だがこちらも早々引き下がるつもりはないぞ」
「それでいい。そこでなんだけどさ」
俺はテーブルに両手を置き、少しだけ身を乗り出す。
「俺たちが作った迷宮の管理をリーンシェッテに全て任せる……ってのはどう?」
俺が放った一言に、フィーちゃんが目を丸くする。
対するリーンシェッテは眉をわずかに動かしただけで、表情を変える様子はない。
「俺はこれからフィーちゃんの指示に従って、勇者が静かに暮らせる迷宮を作る。リーンシェッテは、その迷宮で自由にしてくれていい」
「ほう? なかなか思い切った妥協だな」
そう言いつつ、リーンシェッテが横目でフィーちゃんの様子を見る。
案の定フィーちゃんは戸惑っている。何と言っていいのか分からない様子だ。
そんな彼女を助けるため、俺は言葉を続ける。
「フィーちゃんはあくまで勇者が誰かの所有物になるのが嫌なんだよね?」
「え……はい。それだけは許せません」
「うん。でもあれだけの巨人が過ごせる迷宮なんて相当な規模だ。できたとしても管理が難しいよね」
果たしてフィーちゃんがその辺りを考えていたのか。
それは俺にも分からないが、少なくとも口をつぐんだままフィーちゃんはうなずく。
「リーンシェッテは今の勇者が放つ瘴気が欲しい。でも今みたいに漂われては手間が増えるよな?」
「そりゃあそうだ。まあ多少の面倒はワガハイがどうにでも」
「その面倒の肩代わりを、迷宮を作るって形で俺たちが受け持つ。ついでにリーンシェッテが過ごせるようなスペースも用意できるぞ」
途中の言葉にリーンシェッテは興味を示さなかった。
しかし彼女のスペースについて口にした瞬間、わずかに目を見開いたように感じた。
俺がここまで言い切れるのは、フィーちゃんが実際に見せてくれたあの家のおかげだ。
自分では満足できるレベルのものは作れるとしても、それが現実のものと言い切るにはまだ程遠い。
それをフィーちゃんの補正で本物のそれまで作り込めるのならば、俺はリーンシェッテが満足できるプライベートスペースを作る自信がある。
自信……というより、現状これだけは意地でも押し通したいといったところか。
そうでなければ、俺はフィーちゃんのために何もできない木偶で終わってしまうのだから。
さて、俺の提案をリーンシェッテはどう思ったのか。
しばらく俺の顔を見つめた後、小さくため息をついた。
「つまり力は利用していいが勇者は渡せないと言いたいわけか?」
「リーンシェッテの言ってること、俺にはそれ以外求めていないように聞こえたんだけどな」
鼻で笑うリーンシェッテ。
生意気なことを言っているとか、そんなことを考えたに違いない。
だがそれは承知の上だし、自分が間違ったことを言ったとは思っていない。
果たして彼女がどれほどのことを要求しているのか。
俺の考えが思い違いでないことを、今はただ祈るしかない。
「……ははっ」
その笑いはどういう意味なのか。
わずかに身構えつつ、俺はリーンシェッテの顔色をうかがう。
その笑顔は、まるで楽しい遠足を明日に控えた子供のようだった。
「そうか、勇者ではなく迷宮をワガハイにくれてやると。そいつは面白いっ」
「お、面白い?」
「そりゃあそうだろう。世間体で言えば悪の魔女に住処を与える奴など聞いたことないぞっ」
リーンシェッテはしばらく笑った後、コップに半分ほど入った水を一気にあおった。
「元々お前たちの計画には興味があったが、こいつはいい。そういうことならワガハイにも一枚噛ませろ」
「えっ? そ、それって……」
おずおずと尋ねるフィーちゃんの頭に手を伸ばし、帽子越しに撫でまわすリーンシェッテ。
彼女の見せる笑顔に悪意は見られず、本当にこれからのことを楽しみにしているように見えた。
「お前の思い描く迷宮というやつに興味が湧いたのさ。だから手伝ってやるよ」
今の彼女を見て、伝承の悪しき魔女などと誰が思うだろうか。
それに頼る者もなかったフィーちゃんにとって、自ら協力を申し出る相手に出会えたのは嬉しかったに違いない。
違いないのだが、やはりわずかに警戒はしているようで。
「ほ、ほどほどでお願いします」
「はぁ!? なんだいなんだいそのそっけない返事はっ! ワガハイが手伝ってやろうというのに!」
「ですがあなたが力を取り戻すと色々怖いですから」
「ええいっ、それは若気の至りだ! 昔みたいな無茶はせんからもっと喜ばんかい!!」
怪訝そうな表情を見せるフィーちゃんに対し、あれこれ言葉を並べ始めるリーンシェッテ。
出会ったばかりのいがみ合っていた様子はそこにはなく、何とも微笑ましい光景だ。
だが、その様子を眺めていると自然と笑顔を浮かべてしまう。
まだ何もかも始まったばかりで、更に言えば出会ったばかりの俺たちだ。
この先フィーちゃんの計画がどのように進んでいくのかは分からない。
少なくとも、これで一人思い詰めるようなことがなくなればいいんだけどな。
「坊、お前からも言ってやれっ。ワガハイがおとなしく猫をやってた時のことをだな!」
「偉大な魔女が飼い猫やってた時の話とかされていいの?」
「あー……じゃあせめて何かフォローしろフォロー!」
……本当に頼って大丈夫なんだよな、この魔女を。
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