プラスチック・ファンタジア ~デザインナイフで作る異界のダンジョン~

蕪菁

文字の大きさ
26 / 44
第五幕【聖女と魔女が集うとき】

5-3【三人寄れば?】

しおりを挟む
 勇者を一ヵ所に留めておく迷宮という構造。

 それが持つ潜在的な危険性を聞かされた俺は、改めてモニター上のテキストエディタと向き合っていた。

 だが今更そんなことを言われたところでアイディアが浮かぶものでもない。

 あくまで迷宮という器をプラ板とパテを駆使し組み立て、装飾や塗装を施すのが俺にできることだ。

 いずれモンスターの温床になる問題への対処など、果たしてできるものなのだろうか。


「おー、随分と悩んでいるなぁ」
「そりゃあそうだよ。はぁ……」


 ため息をつきつつ、床に寝そべるリーンシェッテを見る。

 俺がこうして頭を悩ませている間も、この魔女はのんきなものだ。

 ちなみにフィーちゃんは台所で食器を洗っている最中である。


「というか、地の魔力はリーンシェッテの力の源なんだろ。なら片っ端から使ってしまえばいいんじゃないか?」
「バカ言え、あんな膨大な魔力使いきれんわ。坊は琵琶湖の水を全て飲み干せるとでもいうのか?」
「そういうレベルなのかよ」


 これで溜まった分を使用して処理する方法は使えないということが分かった。

 当然これは地の魔力が体質に合わないフィーちゃんにも手を付けられるものではない。

 だがこういった場合、何らかの形で利用してしまうってのは間違った考えじゃないと思うんだよな。


 魔力というのが具体的にどういう特徴を持つものなのかは分からない。

 とりあえず魔素というものが関わっていることは教えてくれたが、そいつが何らかの特性を持つエネルギーになっているということなのだろう。

 それならこいつを利用した機械なんかを作れれば……。


「なあ、リーンシェッテ」
「んー?」


 俺の呼びかけに応え、体を起こすリーンシェッテ。


「魔力ってのは、電気とかガソリンみたいに機械の動力にするってのは可能なのか?」
「動力か。できないことはないが、坊は機械工学に明るいのか?」
「ははっ、バリバリの文系だよ俺は」
「ならばできないことに頭を悩ませても無駄だろうさ」


 自覚はしてるとはいえ、こうもきっぱり言われると軽く傷つくな。

 俺は軽く肩を落としつつ、再びノートパソコンのモニターと向き合う。


 しかし、勝手に放出される魔力を何らかの動力に転用するってのは間違った考えじゃないと思う。

 それを可能とするには色々と時間が掛かるだろうし、ここにいる三人では実現が難しいというだけで。

 とりあえずのアイディアとしてだけは残しておいてもいいだろう。


 俺は思いついたことをテキストエディタに打ち込んでいく。

 新たに増えたアイディアと、その上に並ぶいくつもの迷宮案。

 果たしてこの中のどれほどが俺の手で実現させられるだろうか。


 俺が画面と向き合い頭を悩ませていたその時、隣に誰かが座る気配を感じる。

 直後目の前のテーブルに氷の入ったコップが置かれ、そこに麦茶が注がれる。


「お疲れ様です、康介様」


 顔を気配の方に向けてみると、ペットボトルを手に微笑みを浮かべるフィーちゃんと目が合った。

 いつの間にか皿洗いを終え、わざわざ飲み物を用意してくれたということか。


「ああ、ありがとうフィーちゃん」


 俺が礼を告げると、フィーちゃんは笑顔を見せた後ペットボトルを冷蔵庫に戻すため立ち上がる。

 そのままパソコンの横に置いたスマホを手に取り画面を見てみると、時刻はもうすぐ日付を跨ごうとしているところだった。

 明日はみんな大好き月曜日。さすがに夜更かしは寝坊が怖い。


 俺はスマホをテーブルに置き、ノートパソコンを閉じる。

 その様子を見ていたリーンシェッテが、興味ありげにこちらを見つめてきた。


「ん、今日はもうやめにするのかい?」
「まあな。明日も早いし」


 俺の言葉に納得した様子でうなずくリーンシェッテ。

 さて、我が家としてはリーンシェッテにお帰り願いたいのだが、何故か向こうは動く気配がない。

 俺が麦茶を飲み干す姿を特に何も考えていない様子で眺めつつ、指先でテーブルをリズミカルに叩いている。


「……帰らないのか?」
「帰る? ワガハイがか?」
「いやリーンシェッテ以外に誰がいるって言うんだよっ」


 なぜ俺の問いに対し、そんな不思議そうに首をかしげるのか。

 まずここは俺の家であり、居候を許しているのはフィーちゃんだけだ。

 そして目の前の魔女は猫の姿になることが出来、しかもそれは飼い猫なわけで。


 だというのに、どうして自分はここにいるのが当然と言わんばかりの顔をしていられるんだ。

 これではまるで居座る気満々である。


「居座る気だぞ、余裕で」
「って、勝手に人の頭の中覗くな! てか魔法は俺には通用しないんじゃないのかよっ!?」
「手間はかかるがこちらの物理法則に作用するよう変化させてるのさ。詳しいことは坊が聞いても分からんだろうがな」


 けらけらと笑うリーンシェッテ。相変わらずその様子に悪気は見出せない。

 というか問題はそこじゃない。一体いつまでこの魔女はうちに居座るのかということだ。

 既に俺のベッドはフィーちゃんに譲っているし、狭小住宅にさらに追加で一人寝るようなスペースはない。

 まさか俺に玄関前で寝ろとでもいうのではないだろうな。


「おいおい、さすがのワガハイもそこまで外道じゃないぞ?」
「だぁから人の考えてることを読むなっての」


 にやけ顔のリーンシェッテを見て分かる。これ絶対わざとやってるだろ。

 そんな俺たちのやり取りを、戻ってきたフィーちゃんが苦笑交じりに見つめていた。


「リーンシェッテさん、そろそろ戻らないとおうちの方が心配なさるのでは?」
「安心せい。今頃あやつは酔っぱらって居眠りでもしておろうよ」
「いや神主さん奥さんいるじゃん。奥さんの方がタケルがいないって気付くだろ」
「そうとも言えるな」


 俺の言葉を真面目に聞き入れているのだろうか。

 そんな疑問をくつろぐリーンシェッテに抱きつつ、俺は改めてパソコンを開く。

 この魔女のことだ。俺がどう言おうと自分のタイミングでしか帰る気はないのだろう。

 ならば俺も夜更かし覚悟でパソコンに向き合う方がまだ時間の使い方として建設的だ。


 何より、俺やフィーちゃんだけでは知り得ない知識をこの魔女は有している。

 それが迷宮を作り出すうえで貴重な情報になることは間違いない。


 そんな覚悟を決めた俺の様子を、これ何事かといった様子でリーンシェッテが眺めている。


「何だ、寝るのはやめか?」
「誰のせいでやめたと思ってるんだよ」
「そりゃあワガハイだろ」


 うん、この悪気のない態度にいい加減腹が立ってきたぞ。

 そんな思いを込め、俺は大げさなため息をつく。

 ただフィーちゃんが心配そうに俺を見ていることに、どうにも罪悪感を覚えてしまうわけで。


「ていうか、居座るなら少しは役立ってくれよ。偉大なる魔女なんだろ?」


 俺の冷めきった視線を受けつつ、「その通り」とリーンシェッテが胸を張る。

 そこでフィーちゃんも覚悟を決めたのか、俺の隣に腰を下ろした。


 いずれはこうして集まったうえでの話し合いをしたいとは思っていた。

 タイミングとしてはあんまりよろしくないとはいえ、その機会が得られたと思えばこれ幸いだ。

 余裕はあるとはいえ、俺たちに与えられた時間には限りが設けられているのだから。


 俺が改めてパソコンと向き合ったところで、リーンシェッテは壁に寄りかかりつつ俺たち二人を見つめる。


「それでは話し合おうじゃないか。主らが生み出す迷宮の草案を」


 明日は月曜日だというのに、これは長い夜になりそうだ。

 そんな予感を覚えつつ、俺はここまで思いついたアイディアを一つずつ説明していくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...