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#01 交差する運命線【クロスレンジ】
第1話
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『魔学』
それは万物の根幹を成す『魔力』というエネルギーを媒介に、森羅万象《世界のルール》を捻じ曲げる秘術たる『魔術』を発動させる技術の総称であり、2030年今世の人々の生活には科学と同じくらい切り離すことのできない密接な存在だ。
ここ地上四階の窓外に映るのは、天を覆う薄霞のような無形壁。天から降り注ぐ不純物を遮断することで気候を調節する天候操作《ウェザーコントロール》から、ビル群の隙間を縫うように漂っていく魔学式投影型広告《オルタナティブビジョン》、最近では次世代エネルギーとしてコンロや水道といったライフラインにまで波及している素晴らしい技術、というのが世間一般的《あたりまえ》の考え方だろう。
現に生徒一人一人に用意されているこの机にも魔学技術が組み込まれ、教壇で講義を振るう教師の板書がリアルタイムに投影されており、その有り難い魔術の公式やら解説やらをクラス中の皆は何不自由なく勉学に勤しんでいる。
ただ一人を除いて。
「……すー……すー」
その恩恵に預ろうともせず、気分良さげに一番後ろの席で安らかな吐息を立てる青年。
およそ数十万は下らないクソッタレな技術を詰め合わせた投影技術《それ》よりも、副産物として生じているこの人肌のような微熱の方がよっぽど重要だ。
正午過ぎの斜陽《かけぶとん》と合わさって、転寝《うたたね》の質を格段に上げてくれる。今日は最高の昼寝陽気だった。
俺こと『狛戌一縷』は『東京クロノス魔学学院』一-三組に置ける何気ない日常を謳歌していた。
いや、正確には謳歌せざる得なかった。
────隣に腰掛けるきまぐれ猫のせいで。
「い……ッ!?」
堕ちかけていた意識を半強制的に覚醒させる鋭痛。
思わず席を立ち上がりかけて右往左往する俺のことを見て、隣席で頬杖を付いていた少女は鈴が鳴るような声音で嗤う。
「相変わらず居眠りとは、関心しないわね……イチル」
銀灰のロングヘアがロシアンブルーの子猫を彷彿させる小柄な総身と、ゴシック調に近い学院の制服姿がよく似合うお人形のように整った容姿。
学年一位の実力と頭脳を持ち合わせる、文武両道の天才少女『ミーア・獅子峰・ラグナージ』その人物だ。
先の激痛も、彼女が保有する影を自在に操る魔学によるもので、立体化した彼女の影が横腹を抓ったのだ。
俺はそんな狂暴な隣人に向けて渋い表情を浮かべる。
「いやお前も大概だろミーア。先日俺が大変だったことはもうミーアも知っていることだろ?だから少しくらいこうして授業をサボってもバチは当たらないと思うけど……」
「あら、それは私にとっても同じことだと思ったけど?」
「いや、だけどなぁ」
「それ以上口答えするようなら、貴方のことを皆にバラしてもいいけど?」
「うぐ……」
完全に論破されて押し黙るしかない不甲斐なき俺。
秘密を共有せざる得なくなったミーアを前にして、何一つとして逆らうことを赦されないその姿に、彼女は関心するように鼻を鳴らした。
「いいわ、素直でよろしい。流石は私の下僕犬」
まるで聞き分けの良い犬でも愛でるような、ミーアの微笑み。
思わず魅入ってしまう、淑女の蠱惑的な表情なそれに騙されかけ、ぶるぶると顔を振るう。
畜生、一体どうしてこうなてしまったのか……
悔恨に浸るには惜しい春昼の最中、この状況を作りだしてしまったあの事件が脳裏に浮かび上がる。
どうして狛犬一縷がミーア・獅子峰・ラグナージの下僕犬となったのか。
そして、この眉目麗しい天才腹黒幼女と、命と同格の秘密を握り合うこととなったのか。
始まりはそう、ちょうど二週間ほど前に遡る────
それは万物の根幹を成す『魔力』というエネルギーを媒介に、森羅万象《世界のルール》を捻じ曲げる秘術たる『魔術』を発動させる技術の総称であり、2030年今世の人々の生活には科学と同じくらい切り離すことのできない密接な存在だ。
ここ地上四階の窓外に映るのは、天を覆う薄霞のような無形壁。天から降り注ぐ不純物を遮断することで気候を調節する天候操作《ウェザーコントロール》から、ビル群の隙間を縫うように漂っていく魔学式投影型広告《オルタナティブビジョン》、最近では次世代エネルギーとしてコンロや水道といったライフラインにまで波及している素晴らしい技術、というのが世間一般的《あたりまえ》の考え方だろう。
現に生徒一人一人に用意されているこの机にも魔学技術が組み込まれ、教壇で講義を振るう教師の板書がリアルタイムに投影されており、その有り難い魔術の公式やら解説やらをクラス中の皆は何不自由なく勉学に勤しんでいる。
ただ一人を除いて。
「……すー……すー」
その恩恵に預ろうともせず、気分良さげに一番後ろの席で安らかな吐息を立てる青年。
およそ数十万は下らないクソッタレな技術を詰め合わせた投影技術《それ》よりも、副産物として生じているこの人肌のような微熱の方がよっぽど重要だ。
正午過ぎの斜陽《かけぶとん》と合わさって、転寝《うたたね》の質を格段に上げてくれる。今日は最高の昼寝陽気だった。
俺こと『狛戌一縷』は『東京クロノス魔学学院』一-三組に置ける何気ない日常を謳歌していた。
いや、正確には謳歌せざる得なかった。
────隣に腰掛けるきまぐれ猫のせいで。
「い……ッ!?」
堕ちかけていた意識を半強制的に覚醒させる鋭痛。
思わず席を立ち上がりかけて右往左往する俺のことを見て、隣席で頬杖を付いていた少女は鈴が鳴るような声音で嗤う。
「相変わらず居眠りとは、関心しないわね……イチル」
銀灰のロングヘアがロシアンブルーの子猫を彷彿させる小柄な総身と、ゴシック調に近い学院の制服姿がよく似合うお人形のように整った容姿。
学年一位の実力と頭脳を持ち合わせる、文武両道の天才少女『ミーア・獅子峰・ラグナージ』その人物だ。
先の激痛も、彼女が保有する影を自在に操る魔学によるもので、立体化した彼女の影が横腹を抓ったのだ。
俺はそんな狂暴な隣人に向けて渋い表情を浮かべる。
「いやお前も大概だろミーア。先日俺が大変だったことはもうミーアも知っていることだろ?だから少しくらいこうして授業をサボってもバチは当たらないと思うけど……」
「あら、それは私にとっても同じことだと思ったけど?」
「いや、だけどなぁ」
「それ以上口答えするようなら、貴方のことを皆にバラしてもいいけど?」
「うぐ……」
完全に論破されて押し黙るしかない不甲斐なき俺。
秘密を共有せざる得なくなったミーアを前にして、何一つとして逆らうことを赦されないその姿に、彼女は関心するように鼻を鳴らした。
「いいわ、素直でよろしい。流石は私の下僕犬」
まるで聞き分けの良い犬でも愛でるような、ミーアの微笑み。
思わず魅入ってしまう、淑女の蠱惑的な表情なそれに騙されかけ、ぶるぶると顔を振るう。
畜生、一体どうしてこうなてしまったのか……
悔恨に浸るには惜しい春昼の最中、この状況を作りだしてしまったあの事件が脳裏に浮かび上がる。
どうして狛犬一縷がミーア・獅子峰・ラグナージの下僕犬となったのか。
そして、この眉目麗しい天才腹黒幼女と、命と同格の秘密を握り合うこととなったのか。
始まりはそう、ちょうど二週間ほど前に遡る────
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