ストレガドッグー気まぐれキャットに駄犬は逆らえないー

匿名BB

文字の大きさ
10 / 42
#02 虚ろなる学院生活

第10話

しおりを挟む
「────魔力は人の体内を介することによって蓄積魔力となり担保される。これらには上限が設けられており、体調、精神状態によって増減する。もちろん訓練することで上限を上げることはできるが、過度な蓄積魔力を抱えようとすれば「魔力過多状態オーバーヒート」となり、逆に不足すれば「魔力枯渇状態クランチ」となってしまう。中には経験した者も居ると思うが、これは肉体にとって非常に危険な状態であり────」

 カクンッ、カクンッ……
 頬杖を突いた頭が何度も上下に揺れる。
 もう何時間経っただろうか。
 折り返し前の春陽が心地よい暖かさを届けてくれているなか、ぼんやりとそんなことを考えていた。
 正確に言うならば、このはいつまで続くのか、だ。

「────からして、それら状態を回復しようと一度自身の体内に蓄積された魔力を無理矢理他者に引き渡す譲魔行為フェルメントをしたとしても、血液と同じく拒絶反応リジェクションを引き起こしてしまうケースがあり、魔力枯渇状態クランチの者はおろか、譲魔行為フェルメントした者も相手の魔力が交じり合ってしまい、最悪の場合は死に至るケースもある……」

 鉛のように圧し掛かる両瞼。
 いつもなら寝ているだ。混濁する意識、理性の狭間。
 気持ちはマラソンランナーのランナーズハイ。
 もう……良いよな?

 グイッ!!

「いッッッ────?!」

 昼時前の四時限目、魔工学による前提条件を書き出していた初老男性の教師が振り返る。
 視界に映るのはいつもと変わらぬ授業風景、何か感じた違和感に辺りを見渡すが、結局いつも通りと判断して再び記載途中だった術式投影板に立ち返る。

「これで四十二回目、真面に授業を受ける気があるのかしら。イチル」

 着座した隣の少女、ミーアは、言の端に苛立ちを滲ませる。
 講義室の机の下には彼女が影絵シャドーエフェクトで生成した『手』が伸びており、容赦無用に居眠りしそうになった俺の太腿を目一杯の力で握りしめていた。

「ただでさえ編入生という立場にあって周りよりも学力が劣っているのだから、少しでも勉強しようと思わないのかしら、この駄犬は」

 痛みで背筋が伸びたら再び説教が始まる。
 くどくどとまるで小姑のように、俺の所作姿勢の数々をミーアは指摘してくるのだ。それをかれこれ四時間もの間、永遠と聞かされている。
 最初こそ反論していたものの、次第にそのドが付くほどの正論に言い返せなくなり、今ではこうしてただただ時間が過ぎることばかりを願って黙り込むことしかできなかった。

「……佑聖ゆうせい。イチルは大丈夫なのです?」

「ほっとけリア、なんか知らんが不真面目たアイツを学年トップのミーアが観てくれるってんだ。それに俺達が助けない方がもおもろ────いや、有意義にイチルも授業を受けることができるから一石二鳥だろ、ぶぶッ……」

「そ、そうなのです……?」

 他人の不幸に嗤いを堪える伊嶋バカの言葉に、首を傾げる無垢なクマの少女リア
 よし、逃げたアイツはあとで絶対に締める。
 しかし、目下の課題はいま俺が置かれているこの状況だ。
 銀灰の髪を流した見目麗しいご令嬢が突然編入してきて隣の席に居座り、あまつさえそんな彼女が俺に対して(余計な)世話を焼いている。
 普通なら浮足立つほど嬉しい出来事だが、相手は先日二度も俺を殺そうとした張本人。

(なんであんな安っぽい男がミーア様なんかと……っ)

(羨まし……けしからんっ!)

 おまけにミーアに心酔する周りのクラスメイト達からは、般若の如き白い眼で睨まれている。
 誰一人として味方のいない四面楚歌、崖っぷち、どれだけ俺が身の潔白を示そうともこの場で彼女の正当性を疑うものはいない。
 そして何度も言うけど、今の俺は死ぬほど眠い。眠いんだ。
 昨日も含めここ最近の仕事は忙しかった、最後にまともに寝たのを思い出せないくらいには。
 そんな極限状態の人間にとって、興味のない座学など夢見心地な子守唄にしか聞こえない。
 予定では四時間眠るつもりだったのに、この女のせいで真面目に授業を受けざる得なくなった。そんな、沸き上がるさえも睡魔によってぼやけていく。

 グイッ!!

「いッッッ────」

「四十三回目」

 背筋も凍るような冷たい指摘を向けられたと同時、何度も待ちわびた昼時を示すチャペルの鐘がようやく鳴り響いたのだった。



◇ ◇ ◇



「一体何が目的だ……?」

 学生にとっては喜ばしい昼休み開始早々、溜息と共に俺は呟いた。勿論相手は、隣で黙々と電子教科書を片付けている学年随一の優等生に向けてだ。

「一体俺が何をしたって言うんだ。嫌がらせにしては少々ねちっこすぎるんじゃないか?」

「別に嫌がらせじゃないわ。ただの気まぐれよ」

「……その気まぐれで、俺のことを殺そうっていうのか?」

「殺し?何の話しをしているのかしら?」

 机に座ったまま毅然と振る舞うミーアが、その流麗な一筆書きを思わせる眉を怪訝に歪めた。

「ふざけるな、折角の四時間睡眠を全て無駄にしやがって、おかげでこっちは死ぬほど眠いんだよ。お前がどこで何しようと知らないけど、俺の睡眠の邪魔だけはすんな」

「貴方が寄り掛っているそれはベッドではなくて机。そしてここは講義室であって寝室じゃないわ。それを正してわざわざ四十三回起こしてあげたのに文句を言われる筋合いなんてないわ。寧ろ感謝して欲しいくらい。わたくしに起こしてもらえる人物なんてこの世界で貴方が初めてよ」

「四十三回もやっておいて何が初めてだ。俺が飛び起きる反応をみて楽しんでたくせに」

「えぇ、芋虫のように藻掻く様は非常に滑稽だったわ」

「悪趣味だな」

「何ですって?」

 ヒートアップした末に両者立ち上がって睨み合う。
 睡眠不足で苛立った俺の視線と、ミーアの凛とした高貴に満ち溢れる視線が交錯し、その一触即発の殺気へクラス中の視線が集中する。
 こうなってしまったら最後、両者意地の張り合いとばかりに一ミリとて視線を逸らさない。
 生憎と握った拳を開くなんて器量を俺は持ち合わせていない。そしてそれはプライドの高いミーアも同じことだろう。

「────待ちなさい、狛戌一縷!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...