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#03 Mission for Dating
第25話
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「クソ……ッ!!」
初めからそのつもりだったってことかよ!
のんびりエレベーターを待っている暇はない。人混みを描き分けて下りの階段に飛び込む。
連中がミーアに何かしらの私怨があることは判っていた。それを逆手にとって彼女はワザと捕まったのだ。
『このまま放っておくと、誤って貴方の秘密を口外してしまうかもしれない』
という趣旨の言葉を添えて。
おまけにこんな事件が身近に起きたなんて誰かに知られてみろ。一緒に居た俺まで周りからの注目を集めかねない。そうなったら学院内での俺の行動はかなり制限されてしまう。
そうならないための方法はただ一つ。たった一人で俺はミーアを連中から救わなければならないってことだ。
階段の踊り場から踊り場へと交互に跳びつつ、あっと言う間に一階へ辿り着く。
それよりも一足先に辿り付いていたエレベーターと、すぐ近くの出入り口に停車していた黒のバンが眼に留まる。黒い頭陀袋を被せた少女を放り込み、一目散にアクセルの轟音をかき鳴らす。
俺が入り口から飛び出した時にはもう、東京の夜闇へ消えゆく紅いテールランプの余韻しか残されていなかった。
「クソッ、クソ、クソ、クソォ!!」
近くにあった縁石を蹴りつける。
数時間前までは何もかも予定以上に順調だったってのに、ちょっと気を緩めればこのザマだ。
何を浮かれていたんだお前は。もう忘れたのか、あの日に誓った執念を。
仕事用のスマホを取り出してアプリを起動させる。
指紋と心音認証。ログイン完了。AI音声、通称『境界線の観測者』が魔学を用いた暗号通信として脳内へと響く。
『ようこそファンタズマ所属、六階位様』
視界に映し出されるあらゆる情報、計器類、文字が陳列する。
先程ミーアが使用していたVRデバイスの最新鋭、コンタクトレンズ型の魔学式ウェアラブルビジョンを展開させた。
瞼の内に溜まる微量魔力に細工を施すという、そこに在りながら存在しない画面情報を脳内処理させながら、俺は次々に必要な情報だけをピックアップしてクリシスへ指示を飛ばす。
「状況ランクD、戦術データコネクト接続。監視カメラから追跡対象捜索を申請。対象情報連携」
『権限確認、承認されました。位置をリアルタイムで反映させます』
街の監視カメラを経由して映し出されたのは、先ほどの黒いバンだ。
ここから距離にして約数百メートル。まだ追いつけない距離じゃない。
近くの駐車場からスポーツカーを見つけ、ドアノブに手を当てる。
『緊急事態に付きロック解除。オーナーIDを六階位様へ変更』
「────お前、俺の車に何してんだ!!」
車に乗り込もうとした俺の背後から、高級スーツと両手に女を侍らせた青年が眼を丸くしていた。チッ、間が悪いな。
懐からバッと手帳を取り出しながらエンジンに火を入れる。
「失礼、いま眼の前で誘拐事件が発生した。犯人逮捕の為にこの車両をお借りしたい」
「それは警察手帳か?だとしてもこんな捜査は聞いたことないぞッ!」
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ……」
運転席のドアガラスを下げ、激昂する青年の額に銃を突きつける。
傍らの女達の悲鳴が上がった。
「使ったあとは千代田区の警視庁に返しておくから、チンパンジーみたいに喚くなクソ一般市民。あとこれ、代わりのタクシー代」
腰を抜かした青年に一万円を放り捨て、そのままフルスロットルでアクセルを回す。
ドロドロと渦巻く怒りの感情を表すよう、けたたましい重低音を響かせながらスポーツカーは走り出していった。
◇ ◇ ◇
首都高環状線の追い越し車線を爆速で走る赤いスポーツカー。
ルーレット族のような荒い運転でハンドルを操作しながら、俺は応援を呼ぶべくアクティブユーザーを検索する。
「一階位は任務継続、二階位は海外任務従事中で三階位も二階位と同じく海外任務従事中。四階位は……あぁ、数日前から開始している監視任務中か。確か五階位は一年の休暇だったよな。七階位は今月から首相護衛担当だし、あとは残っているのは八階位と新入りの九階位くらいか……クリシス、八階位に連絡は取れるか」
『不可能、八階位様は次任務に備えて大阪にて潜伏中。そのため関東方面からの連絡途絶となっております』
相変わらずマニュアルに背かない生真面目な野郎だ。
苛立ちに任せて邪魔な前方車両に思いっきりクラクションを鳴らす。
少々気は乗らないが仕方ない。流石の俺も一人で未知数の敵とやり合うリスクは避けたい。
「クリシス、九階位に連絡は取れるか?」
『九階位様、ですか……?』
黒のバンが下りた向かった先、台場行のジャンクション降りる最中、まるで人間のようにクリシスが口籠った。
「なんだよ、なんか問題でもあるのか?」
『いえ、あの……人工衛星の極秘スーパーコンピューターたるこの私が演算した結果では……その……六階位様がお怒りになるのではと……』
「余計な枕言葉は要らない、結論だけ言え」
『……副業中です』
「は?」
『だからその……九階位様は、副業中……です』
振りかざした拳が再度クラクションを大きく、そしてさっきよりも甲高く響せた。
初めからそのつもりだったってことかよ!
のんびりエレベーターを待っている暇はない。人混みを描き分けて下りの階段に飛び込む。
連中がミーアに何かしらの私怨があることは判っていた。それを逆手にとって彼女はワザと捕まったのだ。
『このまま放っておくと、誤って貴方の秘密を口外してしまうかもしれない』
という趣旨の言葉を添えて。
おまけにこんな事件が身近に起きたなんて誰かに知られてみろ。一緒に居た俺まで周りからの注目を集めかねない。そうなったら学院内での俺の行動はかなり制限されてしまう。
そうならないための方法はただ一つ。たった一人で俺はミーアを連中から救わなければならないってことだ。
階段の踊り場から踊り場へと交互に跳びつつ、あっと言う間に一階へ辿り着く。
それよりも一足先に辿り付いていたエレベーターと、すぐ近くの出入り口に停車していた黒のバンが眼に留まる。黒い頭陀袋を被せた少女を放り込み、一目散にアクセルの轟音をかき鳴らす。
俺が入り口から飛び出した時にはもう、東京の夜闇へ消えゆく紅いテールランプの余韻しか残されていなかった。
「クソッ、クソ、クソ、クソォ!!」
近くにあった縁石を蹴りつける。
数時間前までは何もかも予定以上に順調だったってのに、ちょっと気を緩めればこのザマだ。
何を浮かれていたんだお前は。もう忘れたのか、あの日に誓った執念を。
仕事用のスマホを取り出してアプリを起動させる。
指紋と心音認証。ログイン完了。AI音声、通称『境界線の観測者』が魔学を用いた暗号通信として脳内へと響く。
『ようこそファンタズマ所属、六階位様』
視界に映し出されるあらゆる情報、計器類、文字が陳列する。
先程ミーアが使用していたVRデバイスの最新鋭、コンタクトレンズ型の魔学式ウェアラブルビジョンを展開させた。
瞼の内に溜まる微量魔力に細工を施すという、そこに在りながら存在しない画面情報を脳内処理させながら、俺は次々に必要な情報だけをピックアップしてクリシスへ指示を飛ばす。
「状況ランクD、戦術データコネクト接続。監視カメラから追跡対象捜索を申請。対象情報連携」
『権限確認、承認されました。位置をリアルタイムで反映させます』
街の監視カメラを経由して映し出されたのは、先ほどの黒いバンだ。
ここから距離にして約数百メートル。まだ追いつけない距離じゃない。
近くの駐車場からスポーツカーを見つけ、ドアノブに手を当てる。
『緊急事態に付きロック解除。オーナーIDを六階位様へ変更』
「────お前、俺の車に何してんだ!!」
車に乗り込もうとした俺の背後から、高級スーツと両手に女を侍らせた青年が眼を丸くしていた。チッ、間が悪いな。
懐からバッと手帳を取り出しながらエンジンに火を入れる。
「失礼、いま眼の前で誘拐事件が発生した。犯人逮捕の為にこの車両をお借りしたい」
「それは警察手帳か?だとしてもこんな捜査は聞いたことないぞッ!」
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ……」
運転席のドアガラスを下げ、激昂する青年の額に銃を突きつける。
傍らの女達の悲鳴が上がった。
「使ったあとは千代田区の警視庁に返しておくから、チンパンジーみたいに喚くなクソ一般市民。あとこれ、代わりのタクシー代」
腰を抜かした青年に一万円を放り捨て、そのままフルスロットルでアクセルを回す。
ドロドロと渦巻く怒りの感情を表すよう、けたたましい重低音を響かせながらスポーツカーは走り出していった。
◇ ◇ ◇
首都高環状線の追い越し車線を爆速で走る赤いスポーツカー。
ルーレット族のような荒い運転でハンドルを操作しながら、俺は応援を呼ぶべくアクティブユーザーを検索する。
「一階位は任務継続、二階位は海外任務従事中で三階位も二階位と同じく海外任務従事中。四階位は……あぁ、数日前から開始している監視任務中か。確か五階位は一年の休暇だったよな。七階位は今月から首相護衛担当だし、あとは残っているのは八階位と新入りの九階位くらいか……クリシス、八階位に連絡は取れるか」
『不可能、八階位様は次任務に備えて大阪にて潜伏中。そのため関東方面からの連絡途絶となっております』
相変わらずマニュアルに背かない生真面目な野郎だ。
苛立ちに任せて邪魔な前方車両に思いっきりクラクションを鳴らす。
少々気は乗らないが仕方ない。流石の俺も一人で未知数の敵とやり合うリスクは避けたい。
「クリシス、九階位に連絡は取れるか?」
『九階位様、ですか……?』
黒のバンが下りた向かった先、台場行のジャンクション降りる最中、まるで人間のようにクリシスが口籠った。
「なんだよ、なんか問題でもあるのか?」
『いえ、あの……人工衛星の極秘スーパーコンピューターたるこの私が演算した結果では……その……六階位様がお怒りになるのではと……』
「余計な枕言葉は要らない、結論だけ言え」
『……副業中です』
「は?」
『だからその……九階位様は、副業中……です』
振りかざした拳が再度クラクションを大きく、そしてさっきよりも甲高く響せた。
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