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#03 Mission for Dating
第28話
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「なんでよりにもよってここなんだよ?!」
時刻は零時を回って少し、寝静まったご近所さんへの配慮を忘れて俺は激昂した。
眼前で家猫のようにごろごろと寛ぐ少女に向けて。
「さぁ、ちょっと気になったからよ。別に他意はないわ」
「だからってどうして俺の家になるんだよ?!」
「どこでも良いって言ったのは貴方でしょ?」
「うぐ……それはそうだけど、にしたってもう少し、危機感みたいなものは無いのか?」
「なにが……?」
人の家に上がり込むなり勝手に風呂へ入り、髪を乾かしながらソファーで見鏡を見つめていたミーアが顔を上げる。
「仮にも、その……男の家だぞ?年頃の女がそんな気軽に訪れていいものじゃない」
「何を今更、私がお風呂に入っていてもイチルは何もしなかった。それが全てでしょ?」
「いや、だからって……」
「くどい、じゃああれは何?」
指差された方角にはミーアが脱ぎ散らかしていた制服等が綺麗に洗われ、干された状態となっていた。
流石に血みどろとなったそれらを放っておくこともできず、本当に、断じて本当に仕方なくそうしたのだが……勿論そこには彼女が身に着けていた際どい物も含まれている。
「さっきは殺されそうになった相手に衣類を洗ってもらって、おまけに扇風機まで用意して乾かして貰っている。私が身に着けていたハイソックスも、ガーターベルトも、そしてランジェリー類も全部ね。おまけにイチルが趣味で持っていたこの服まで着させられてる。これ以上何に危機感を持てばいいのよ」
「ちょっと待て、断じて趣味じゃない!それは妹のパジャマだ!」
なんで俺がコスプレさせたみたいに言ってんだこの女は。
ミーアがいま着ているピンクのネグリジェや下着類は全て妹から拝借したものであり、決してそういう如何わしい目的の為に持ち合わせている品ではなかった。
「そういえば、その妹さんはどこに居るのよ?どこにも姿が見えないようだけど?」
「……別室で寝ているよ。ぐっすりな」
「そう、一度くらい挨拶をと思ったけど」
「要らない、お前みたいな奴だけは絶対に合わせられないんだ、アイツは。あとこの部屋以外は勝手に行こうとするなよ。いいな?絶対だからな」
部屋に居るとはいえ、顔を合わせたりなんてしたら俺もどうなるか分からないからな。
「なにそれ?、って、ちょっと待ちなさい、何処へ行くのよ?」
「風呂だよ風呂!全身汗だくなのに、ずっとお前の世話ばかり焼いてたからまだ入ってないんだよ。話しはその後だ」
「────好きで世話している癖に……」
ボソリと何か聞こえた気がしたが、いちいち相手にするのも疲れていた俺は気にせず脱衣所へ。
昨日からの疲れを取り払うように衣類を脱ぎ捨て、そのままシャワーを浴びる。
春夜の風に冷え切っていた身体が心地よいお湯により温められていく。
それにしても今日一日色々なことがあった。
学院での模擬戦闘、ミーアとのデート、そして例のマフィアとの戦闘。
爪に入り込んでいた血の欠片が湯に溶け込んでいく。
そうだった、俺はまた殺したんだった。それも、ミーアの目の前で。
また同じことを繰り返すのか、俺は……
後悔の懺悔はシャワーでは流せない。
折角さっぱりしたというのに気分は台無し、今日はもう早く寝よう。
細かいことはクリシスを通じて全て報告済、あとの裁量は全て組織が決定する以上、俺一人でもやもやしていても仕方ない。
「あれ、アイツどこ行った?」
バスタオルで頭を拭きながらリビングに戻ってくると、さっきまでそこに居たはずのミーアが神隠しのように姿を眩ませていた。
ったく、この部屋から出るなって言ったのに……
「おいミーア、どこに行った?」
廊下に出ても彼女の姿は無い。
トイレもキッチンも、行きそうな場所は全て見た。
見つからない時間が長引けば長引くほど、鼓動が早鐘のように脈を打ち始める。
まさか────ッ!
二階へ上がる階段、その側面に備わっている収納スペースが開かれていた。
誰にも明かしたことの無い、地下室への階段が隠れたその場所が。
「あの、バカッ────」
状況を理解して取りつかれたように入口へ飛び込む。
最初こそ狭いが、その後は立ったまま走れる石階段一本道だ。
止まることを考えない、半ば落ちるようなスピードで駆け下りた先、突き当りにあるそのガラス張りの部屋へ入ろうとしていたミーアに飛び掛かった。
冷たい石畳調の地面に小さな身体を引き吊り倒し、その小さな双肩を無理矢理両手で抑えつける。
「何やってんだ……てめぇ……ッ」
酸欠気味な喉が掠れた叫びを上げる。
本当に幸いなことにドアは開かれる寸前で止まっていた。
「あれほど何処にも行くんじゃねえって言ったよな?おいッ!!」
迂闊だった、これからはしっかり鍵を施さなくては、階段の途中にも罠を仕掛けよう。そうした冷静な分析に走る思考を全てシャットアウトして、ただただ感情的な怒りをミーアにぶつける。
チラチラと点滅を繰り返す裸電球に映るのは、ただただ怯えを噛み殺した少女の歪な表情だった。
「……最初はただ、トイレに行こうと思っただけよ。ただその途中である魔力の香りに惹かれて、それで……」
「何だよそれ……ここに魔力の香りなんてある訳がねーだろッ!」
「あの娘よ!」
ミーアがガラス張りの一室に指を指す。
「あの娘から微かに貴方と同じ魔力の香りがしたのよ、だからつい気になってしまって、まさか……こんな……本物のバーンアウトの子がいるなんて……」
指し示した先、そこには地下とは思えない白を基調にしたクリーンルームと、静かに横たわったまま目を閉じている少女の姿が映る。
三年間の昏睡状態によって削げ落ちた肉と皮膚は骨に張り付き、魔力を遮断する空調の中でか細い息をしている姿は、まるで小さな水槽で生かされている観賞魚のようだ。
「そうだよ……ッ、アイツこそが世間様が勘違いしてる俺のような軽度症状な嘘偽りじゃない、魔力に対して一切の耐性を失くした本物のバーンアウトだよ。昔は元気いっぱいで可愛げがあったのに、三年前からずっとあの瞼は閉じたままで、今はああやって魔力を浄化した空気を吸うくらいの体力しか残されていない。髪の毛だって綺麗な色してたのにババアみたいに真っ白になっちまって。もう、この世界自体が妹の、『狛戌楓花』が存在することを許さないんだよ」
特注の耐地震を兼ね備えたものとはいえ、たった一枚のガラスに隔たれた先が妹にとっての世界の全て。そこに魔力が介在しようものなら、彼女の身体を焼き焦がしていくのだろう。『バーンアウト』とは枯渇した魔力を指す言葉じゃない、本当に燃えカスとなって塵となることから名づけられた、末期癌や心臓病よりも恐ろしい致死率百パーセントの難病なのだ。
「三年前って、それじゃあイチルの言っている復讐って……」
「あぁそうだよ。三年前、ある人物によって母親は殺され、俺と妹はこんな身体になっちまった。幸い俺は魔力が使えないだけの軽度症状で留まってはいるものの、妹に関しては生死のラインを跨いでいるに等しい瀬戸際だ。この莫大なコストを要する生命維持装置が無ければとっく身も骨も灰となって消え失せているだろうな。だから俺もああなる前に俺達家族を引き剥した『奴』を、殺さなければならないんだ……」
「学院に来たのも、実力を隠してたのも、」
「『奴』を殺すためだ。三年経ってようやく掴んだ組織の情報だ。資金繰りのために学院の生徒に違法薬物の『天使の施し』を捌かせているってな」
聞かれたことを包み隠すことなく吐露していく。
妹の存在を脅かされたことが余程堪えたらしい。恐ろしく冷静な思考とは裏腹の、ミーアを抑え付けている興奮状態の思考とがグルグルと混ざり合い、正常な判断が死んでいた。
でもだからこそだ。俺は今この瞬間だけは彼女に嘘を吐くことなく話しをすることが出来ている。孤高の存在として崇め奉られてきた緋色の双眸とも対等の立場で物事を申せる。
「ここまで洗いざらい話させたからには、お前も判っているだろうな」
「そうね。覚悟はもう……さっき済ませたわ」
血に飢えた獣に抑えつけられたような状態のミーアは、またしても全てを受け入れたかのように両眼を閉じる。
「殺るなら、一思いに殺ってちょうだい」
このまま殺ってしまっても外まで声が響くことはないし、死体だって容易に隠せる。けれど、
「なに勘違いしてやがる」
俺は両手両足で抑えつけていた身体を解放した。
「一年だろ」
「え?」
白くて華奢な手首が鬱血したことも放って驚きに満ちた表情を浮かべるミーア、そんな状態の彼女に、ずっと思い悩んでいた心の丈をぶつける。
「一年はお前の復讐を手伝う。その代わりに俺の復讐に加担しろ。これは対等な契約だ。俺とミーア、どちらの復讐も成し遂げるためのな」
「本当に、良いのかしら?」
立ち上がらせたミーアは、彼女らしからぬ判然としない様子で呟く。
あぁじれったいッ、どうしてお前はいつも俺の心を惑わす態度ばかり取るのか。
「俺に本当のことなんて聞くんじゃねぇよ。まだ解決していない障害だって山ほどある中で出した結論だ。決心が鈍る」
「そうね、でも最後に一つだけ聞かせて欲しい。イチルの復讐は誰のため?殺された母親のため?それとも苦しんでいる妹のため?」
「そんなもん、一つだけに決まっているだろ」
三年前のあの日から、生きる気力を失くしたあの日から、ずっと苦悩し続けてきた名目。
俺にとっては人生の意義、義務、宿命と言っても過言ではない題目。
残された生命が燃え尽きるまでの全てを費やすと決めた理由。
「俺はこの世界に復讐をする。魔学が普遍とされ、妹の存在を認めようとしないこの世界に……」
この日、俺達は嘘吐き同士、それぞれの目的のために互いを利用する存在となった。
しかしこの時はまだ想像もしていなかった。
組織が下した残酷な指令を。
『ミーア・獅子峰・ラグナージを殺害せよ』
クリシスに送られてきたその指令を読んだのは、彼女が家を出たあとだった。
時刻は零時を回って少し、寝静まったご近所さんへの配慮を忘れて俺は激昂した。
眼前で家猫のようにごろごろと寛ぐ少女に向けて。
「さぁ、ちょっと気になったからよ。別に他意はないわ」
「だからってどうして俺の家になるんだよ?!」
「どこでも良いって言ったのは貴方でしょ?」
「うぐ……それはそうだけど、にしたってもう少し、危機感みたいなものは無いのか?」
「なにが……?」
人の家に上がり込むなり勝手に風呂へ入り、髪を乾かしながらソファーで見鏡を見つめていたミーアが顔を上げる。
「仮にも、その……男の家だぞ?年頃の女がそんな気軽に訪れていいものじゃない」
「何を今更、私がお風呂に入っていてもイチルは何もしなかった。それが全てでしょ?」
「いや、だからって……」
「くどい、じゃああれは何?」
指差された方角にはミーアが脱ぎ散らかしていた制服等が綺麗に洗われ、干された状態となっていた。
流石に血みどろとなったそれらを放っておくこともできず、本当に、断じて本当に仕方なくそうしたのだが……勿論そこには彼女が身に着けていた際どい物も含まれている。
「さっきは殺されそうになった相手に衣類を洗ってもらって、おまけに扇風機まで用意して乾かして貰っている。私が身に着けていたハイソックスも、ガーターベルトも、そしてランジェリー類も全部ね。おまけにイチルが趣味で持っていたこの服まで着させられてる。これ以上何に危機感を持てばいいのよ」
「ちょっと待て、断じて趣味じゃない!それは妹のパジャマだ!」
なんで俺がコスプレさせたみたいに言ってんだこの女は。
ミーアがいま着ているピンクのネグリジェや下着類は全て妹から拝借したものであり、決してそういう如何わしい目的の為に持ち合わせている品ではなかった。
「そういえば、その妹さんはどこに居るのよ?どこにも姿が見えないようだけど?」
「……別室で寝ているよ。ぐっすりな」
「そう、一度くらい挨拶をと思ったけど」
「要らない、お前みたいな奴だけは絶対に合わせられないんだ、アイツは。あとこの部屋以外は勝手に行こうとするなよ。いいな?絶対だからな」
部屋に居るとはいえ、顔を合わせたりなんてしたら俺もどうなるか分からないからな。
「なにそれ?、って、ちょっと待ちなさい、何処へ行くのよ?」
「風呂だよ風呂!全身汗だくなのに、ずっとお前の世話ばかり焼いてたからまだ入ってないんだよ。話しはその後だ」
「────好きで世話している癖に……」
ボソリと何か聞こえた気がしたが、いちいち相手にするのも疲れていた俺は気にせず脱衣所へ。
昨日からの疲れを取り払うように衣類を脱ぎ捨て、そのままシャワーを浴びる。
春夜の風に冷え切っていた身体が心地よいお湯により温められていく。
それにしても今日一日色々なことがあった。
学院での模擬戦闘、ミーアとのデート、そして例のマフィアとの戦闘。
爪に入り込んでいた血の欠片が湯に溶け込んでいく。
そうだった、俺はまた殺したんだった。それも、ミーアの目の前で。
また同じことを繰り返すのか、俺は……
後悔の懺悔はシャワーでは流せない。
折角さっぱりしたというのに気分は台無し、今日はもう早く寝よう。
細かいことはクリシスを通じて全て報告済、あとの裁量は全て組織が決定する以上、俺一人でもやもやしていても仕方ない。
「あれ、アイツどこ行った?」
バスタオルで頭を拭きながらリビングに戻ってくると、さっきまでそこに居たはずのミーアが神隠しのように姿を眩ませていた。
ったく、この部屋から出るなって言ったのに……
「おいミーア、どこに行った?」
廊下に出ても彼女の姿は無い。
トイレもキッチンも、行きそうな場所は全て見た。
見つからない時間が長引けば長引くほど、鼓動が早鐘のように脈を打ち始める。
まさか────ッ!
二階へ上がる階段、その側面に備わっている収納スペースが開かれていた。
誰にも明かしたことの無い、地下室への階段が隠れたその場所が。
「あの、バカッ────」
状況を理解して取りつかれたように入口へ飛び込む。
最初こそ狭いが、その後は立ったまま走れる石階段一本道だ。
止まることを考えない、半ば落ちるようなスピードで駆け下りた先、突き当りにあるそのガラス張りの部屋へ入ろうとしていたミーアに飛び掛かった。
冷たい石畳調の地面に小さな身体を引き吊り倒し、その小さな双肩を無理矢理両手で抑えつける。
「何やってんだ……てめぇ……ッ」
酸欠気味な喉が掠れた叫びを上げる。
本当に幸いなことにドアは開かれる寸前で止まっていた。
「あれほど何処にも行くんじゃねえって言ったよな?おいッ!!」
迂闊だった、これからはしっかり鍵を施さなくては、階段の途中にも罠を仕掛けよう。そうした冷静な分析に走る思考を全てシャットアウトして、ただただ感情的な怒りをミーアにぶつける。
チラチラと点滅を繰り返す裸電球に映るのは、ただただ怯えを噛み殺した少女の歪な表情だった。
「……最初はただ、トイレに行こうと思っただけよ。ただその途中である魔力の香りに惹かれて、それで……」
「何だよそれ……ここに魔力の香りなんてある訳がねーだろッ!」
「あの娘よ!」
ミーアがガラス張りの一室に指を指す。
「あの娘から微かに貴方と同じ魔力の香りがしたのよ、だからつい気になってしまって、まさか……こんな……本物のバーンアウトの子がいるなんて……」
指し示した先、そこには地下とは思えない白を基調にしたクリーンルームと、静かに横たわったまま目を閉じている少女の姿が映る。
三年間の昏睡状態によって削げ落ちた肉と皮膚は骨に張り付き、魔力を遮断する空調の中でか細い息をしている姿は、まるで小さな水槽で生かされている観賞魚のようだ。
「そうだよ……ッ、アイツこそが世間様が勘違いしてる俺のような軽度症状な嘘偽りじゃない、魔力に対して一切の耐性を失くした本物のバーンアウトだよ。昔は元気いっぱいで可愛げがあったのに、三年前からずっとあの瞼は閉じたままで、今はああやって魔力を浄化した空気を吸うくらいの体力しか残されていない。髪の毛だって綺麗な色してたのにババアみたいに真っ白になっちまって。もう、この世界自体が妹の、『狛戌楓花』が存在することを許さないんだよ」
特注の耐地震を兼ね備えたものとはいえ、たった一枚のガラスに隔たれた先が妹にとっての世界の全て。そこに魔力が介在しようものなら、彼女の身体を焼き焦がしていくのだろう。『バーンアウト』とは枯渇した魔力を指す言葉じゃない、本当に燃えカスとなって塵となることから名づけられた、末期癌や心臓病よりも恐ろしい致死率百パーセントの難病なのだ。
「三年前って、それじゃあイチルの言っている復讐って……」
「あぁそうだよ。三年前、ある人物によって母親は殺され、俺と妹はこんな身体になっちまった。幸い俺は魔力が使えないだけの軽度症状で留まってはいるものの、妹に関しては生死のラインを跨いでいるに等しい瀬戸際だ。この莫大なコストを要する生命維持装置が無ければとっく身も骨も灰となって消え失せているだろうな。だから俺もああなる前に俺達家族を引き剥した『奴』を、殺さなければならないんだ……」
「学院に来たのも、実力を隠してたのも、」
「『奴』を殺すためだ。三年経ってようやく掴んだ組織の情報だ。資金繰りのために学院の生徒に違法薬物の『天使の施し』を捌かせているってな」
聞かれたことを包み隠すことなく吐露していく。
妹の存在を脅かされたことが余程堪えたらしい。恐ろしく冷静な思考とは裏腹の、ミーアを抑え付けている興奮状態の思考とがグルグルと混ざり合い、正常な判断が死んでいた。
でもだからこそだ。俺は今この瞬間だけは彼女に嘘を吐くことなく話しをすることが出来ている。孤高の存在として崇め奉られてきた緋色の双眸とも対等の立場で物事を申せる。
「ここまで洗いざらい話させたからには、お前も判っているだろうな」
「そうね。覚悟はもう……さっき済ませたわ」
血に飢えた獣に抑えつけられたような状態のミーアは、またしても全てを受け入れたかのように両眼を閉じる。
「殺るなら、一思いに殺ってちょうだい」
このまま殺ってしまっても外まで声が響くことはないし、死体だって容易に隠せる。けれど、
「なに勘違いしてやがる」
俺は両手両足で抑えつけていた身体を解放した。
「一年だろ」
「え?」
白くて華奢な手首が鬱血したことも放って驚きに満ちた表情を浮かべるミーア、そんな状態の彼女に、ずっと思い悩んでいた心の丈をぶつける。
「一年はお前の復讐を手伝う。その代わりに俺の復讐に加担しろ。これは対等な契約だ。俺とミーア、どちらの復讐も成し遂げるためのな」
「本当に、良いのかしら?」
立ち上がらせたミーアは、彼女らしからぬ判然としない様子で呟く。
あぁじれったいッ、どうしてお前はいつも俺の心を惑わす態度ばかり取るのか。
「俺に本当のことなんて聞くんじゃねぇよ。まだ解決していない障害だって山ほどある中で出した結論だ。決心が鈍る」
「そうね、でも最後に一つだけ聞かせて欲しい。イチルの復讐は誰のため?殺された母親のため?それとも苦しんでいる妹のため?」
「そんなもん、一つだけに決まっているだろ」
三年前のあの日から、生きる気力を失くしたあの日から、ずっと苦悩し続けてきた名目。
俺にとっては人生の意義、義務、宿命と言っても過言ではない題目。
残された生命が燃え尽きるまでの全てを費やすと決めた理由。
「俺はこの世界に復讐をする。魔学が普遍とされ、妹の存在を認めようとしないこの世界に……」
この日、俺達は嘘吐き同士、それぞれの目的のために互いを利用する存在となった。
しかしこの時はまだ想像もしていなかった。
組織が下した残酷な指令を。
『ミーア・獅子峰・ラグナージを殺害せよ』
クリシスに送られてきたその指令を読んだのは、彼女が家を出たあとだった。
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