SEVEN TRIGGER

匿名BB

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Prologue

Prologue4

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「一騎打ち……だと?」
「そうよ、貴方が勝ったらアタシを煮るなり焼くなり好きにして構わない。でもアタシが勝ったら一緒に来てもらう。これでいいわね?」
 なるほど、そうきたか。
 仕切り直し、ガスマスクの女は俺をいま撃たない代わりに、自分の仲間を解放して欲しいと提案してきたのだ。だが、これは仲間想いな提案と言えば聞こえはいいが、裏を返せばこの女は俺と1対1なら勝てるって言っているようなものだ。
 上等じゃねえか……
「いいだろう、その勝負受けて立ってやる」
 それを聞いた女は持っていたアタッシュケースを下に置き、俺に向けていた銃を下ろした。すると俺に銃口を向けられていた隊員達が叫んだ。
「隊長ッ!!何言ってるんですか!?俺らのことなんか構わずに、早くこいつを撃ってください!」
「隊長撃ってください!僕たちはあなたの為なら死ぬ覚悟はできています!」
 女の隊員を隊長呼びしながら、男達は俺に銃を向けられていることなど構わずに叫ぶ。
「あなた達は黙ってなさい!これは元々アタシだけの問題なのよ…やっぱりあなた達まで巻き込むべきじゃなかったわ…」
 アタシだけの問題?国家の任務ではなく、なにか複雑な事情があるのだろうか?
 だけど今はそんなことどうでもいい、俺がこいつを倒して任務の内容を聞き出せばいいだけのこと。
 ガスマスク部隊のそんな会話を聞きながら、一騎打ちに備えて俺は装備を頭の中で確認する。
 ハンドガンの弾薬が銃に8発+10発ずつ入ったスペアマガジンが2つ、小太刀「村正改」が1本。フラッシュバンは無し、他に使えそうな装備も全部坂下にぶん投げたバックパックの中に入っている。
 相手の装備も同時に確認しておく。見る限りでは今持っているDesertデザート Eagleイーグルと持ってきたアタッシュケースのみ。中身は何かわからないが、あれはおそらく近接戦闘で使える武器だろう。
(あとは魔術の類だな)
 今の時代、札などに起動式を書いて発動する簡易魔術から、自分で術式を組んで使用する魔術など、幅広い魔術が使用されている。それは一般生活以外に軍隊でも導入されている技術の1つであり、戦闘で魔術を使うやつがいるのも今時珍しくない。魔術の使用限度は人によって限られていたり、天候や周りの状況によっても変化するが、一番厄介なところは、そいつがどんな魔術を持っていて使えるかが目では分からないということだ。
(とにかく、やつの持っている銃以外にも、あのアタッシュケースの中身と魔術には要注意だな)
「アタシは銃口を下ろしたし、そろそろ仲間を開放してくれないかしら?」
 相手の装備を予想している中、隊員との話を終えたガスマスクの女隊長が俺に言ってきた。
「ああ、解放するのは構わないが、こいつらにここから離れるように指示しろ。もちろん武装をすべてここで破棄してな」
 俺は銃口を下げる前に女隊長に言う。
 一騎打ちの最中に横やりを入れられては面倒だからな。
「分かったわ…総員、装備を捨て、ここから離れなさい」
 女隊長は俺に指示された通り隊員に命令を出した。
 隊員達は渋々命令に従い、装備を捨てて女隊長の横を通り過ぎていく。
「ジェームス、ロバート、坂下でアーノルドが倒れているわ。彼を保護し、下に止めてあるランドローラーウルフで待機せよ」
「了解です…隊長、力及ばず申し訳ありません」
「隊長、ご武運を」
 そう短く言いながら2人の隊員は家の正面の坂下にゆっくりと消えていった。
「じゃあ、早速始めましょうか」
 隊員達が離れたことを確認した女隊長が俺の方に向き帰って言う。
「ああ、いつでもいいぜ……」
 俺はHK45を左手に持って戦闘態勢に入る。
 女隊長もDesertデザート Eagleイーグルを右手に持って戦闘態勢に入り、こちらの動きを伺う。
 集中しているせいか、木々が風で揺れる音や鳥などの動物の鳴き声がいつもより大きく聞こえ、周りの時間が普段よりも長く感じる。
 お互いに睨み合いながら時間が過ぎていく────
 俺は心の中で深呼吸する。
(すうぅぅ……はぁぁぁ……ッ!!)
 そして────意を決して動き出す。
 バンッ!!
 7メートル程離れた女隊長の左肩を狙って1発放つ。
「ンッ!」
 早撃ちで放った銃弾を女隊長はサイドステップでかわす。
(速い!)
 俺が女隊長の避けたところに2発目を撃ち込む前に今度は向こうが撃ち返してきた。
 ダンッ!!ダンッ!!
「クッ!」
 サイドステップ中に放たれた弾丸2発が俺の顔を目掛けて飛んでくる。
 俺はそれを前転で避け、相手に向かって全力ダッシュして距離を詰める。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
「チッ!」
 女隊長は舌打ちをしながら、俺の足を止めるために右太ももを狙って1発放つ。
 50口径など食らったら風穴どころじゃ済まない、しかし俺はその銃弾を避けないでそのまま真っ直ぐ走る。そして────
 ギィン!!
「なっ!?」
 左腕義手で銃弾を弾くことで弾道を変化させる。被弾を防ぐとともに驚愕している女隊長との距離を詰める。
 近接攻撃が届く間合いまで詰めた俺は走った勢いをそのまま乗せ、女隊長の顔を狙った左上段回し蹴りを繰り出す。
「ッツ!」
 辛うじて頭を下げて女隊長がそれを避けたので、右足を軸に一回転した俺は、すかさず銃を持った左手を右腕の下から出して左肩を狙うが、女隊長は俺の右側に転がることで回避し、そのまま俺の背後に回って銃口を向ける。俺は銃弾が出る前にそれを右手で弾き、左手の銃を前に持ってこようとする。
「このっ!」
 俺が左手を出す前に女隊長が弾かれた手の勢いを生かして右脚で足払いを繰り出してきた。
「がはっ!」
 俺は左肩から倒れて体勢を崩す。
 受け身もろくに取れず、肩に激痛が走る。
 俺が顔を歪めた瞬間を女隊長は見逃さずに銃口を向けて発砲しようとする。
「おらぁ!!」
 俺は全身の力を込めて左肩を軸して右脚で相手と同じ足払いを繰り出す。さっき狙撃された傷口が開いて着ているTシャツに血が滲んでくるのが分かる、だが、戦闘の興奮で出たアドレナリンのおかげか痛みはあまり感じない。
「くっ!」
 足払いを食らった女隊長は、俺と全く同じように左肩から倒れる。
 それを見て俺は右手で体勢を立て直しながら後方にバックステップして、倒れた女隊長目掛けて銃を撃つ。
「ッツ!」
 女隊長は後方に左手1本でバク転しながら避けたが、地面に当たった銃弾が跳弾して、着けていたガスマスクに当たって顔から外れた。
「クソ!」
 ガスマスクが取れた瞬間、毛先の整ったストレートの長い黄金色の髪がぱさぁ……と腰まで垂れ、透き通った色白な肌とキリッとしたツリ目のブルーサファイアの瞳、そしてかわいく整った顔立ちが露わになる。
 身長も目測155㎝位なのでとても特殊部隊の隊長には見えない少女に俺は一瞬言葉を失う。
(若いな……)
 想像してたよりも遥かに若い、声を聞いた時から若いとは思っていたが、実際に顔を見るとまだ幼さが少し残っている可憐な少女という印象を受ける。
(そこらの高校生と大して歳は変わらないんじゃないか?)
 おそらく15歳前後くらいの幼い少女に俺が唖然としていると、少女はさっき地面に置いたアタッシュケースに手をかける。
「流石だわ……話に聞いてただけのことはあるわね」
 そう言いながら少女はアタッシュケースを開けて、中身を取り出す。
「悪いけど、本気でいかせてもらうわ」
 ガチン!!という音と共に少女がアタッシュケースから取り出したのは、少女の背と同じ程の長さの槍だった。しかし、槍と言ってもこれは一般的な槍とは違う、両頭に両刃の着いた双頭槍を出してきたのだ。
(やはりあれは近接用の武器が入っていたのか……それにしてもまた随分と変わった槍を出してきたな)
 手慣れたように双頭槍を両手で回して構えた女隊長を見た俺も、近接戦に備えて腰から小太刀「村正改」を右手で抜き、さっきリロードした銃を左手で持って構える。
「はぁっ!!」
 今度は少女の方から仕掛けてきた。持っていた槍を上段から俺の頭上に向けて振り下ろす。
 俺はそれを右手に持った村正改で受け止め、左手の銃で反撃する。
 バンッ!!
「ッツ!」
 少女はそれを右肩を引いて半身で避けながら、切りつけた方とは反対の刃で下段から上段に俺の身体を狙う。
「クッ!」
 それを右肩を引いて半身でそれを避けた俺を、少女は下段の空振りした勢いを載せ、回転しながら横薙ぎで追撃してくる。
「チイッ!」
 村正改で何とか斬撃を防ぎ、俺は間髪入れず銃を撃つ。
 しかし、少女は斬撃を防いだ村正改ごと俺を押し飛ばして銃口の軌道を逸らし、バランスを崩した俺の背後に周りながらさらに斬撃を繰り出す。
「こいつッ!!」
 後ろに身体の向き変えながら斬撃をなんとか小太刀で防いだが、迫り合いに持ち込まれる。俺は左手も使って耐えるが、向こうの槍のリーチ差と、狙撃された左肩の負傷のせいで徐々に押し返えされだす。
(コイツ、見た目は華奢なのに馬鹿力過ぎだろッ!)
 このままでは、向こうに槍を引かれて前のめりになったところをやられるか、押し倒されるかの2択しかない。しかも左肩の傷がかなり開いてきて、溢れ出た血を吸いきれなくなったTシャツの裾からぽたぽたと垂れてきているのが分かる。黒いTシャツのおかげで相手にはバレてないようだが。
(このままじゃ埒が明かない…を使うしかないか…)
 俺は右眼を閉じ、意識を集中させてもう一度開く。
「はぁぁぁ!!」
 俺は溢れてきた力を両腕に込めて槍を押し返し、さらに右脚で中段の蹴りを繰り出す。
「なっ!!」
 少女はなんとか槍の柄で防いだが、蹴りの強さに耐えきれず、ズズズ…と足を引きずりながら後方に吹っ飛ばされる。
 さっきまでの攻撃とは比べ物にならない力に少女は、大きなブルーサファイアの瞳をより一層大きく見開き驚愕の表情をしている。
「悪いな…ちょっと奥の手を使わせてもらうぜ」
 、俺は少女の方に向き直りながら言う。
「やっぱり、その眼…狙撃した時と同じ瞳。なんなのその能力は…」
 少女は槍を地面に突き刺し、息を整えながら問いかけてくる。
「これか?これは悪魔の紅い瞳レッドデーモンアイだ」
悪魔の紅い瞳レッドデーモンアイ!?」
「そうだ、こいつは魔眼の一種でな…こっちも本気を出させてもらうぜッ」
 悪魔の紅い瞳レッドデーモンアイ、こいつを開眼している時の俺は、自分の肉体を何倍にも強化することができる。強化できる範囲には制限が無く、やろうと思えば10倍でも100倍でも強化することできるのだが、デメリットとして強化する力が強ければ強いほど高い集中力が必要なのと、使った能力の分だけその負荷が後日にやってくる、また眼が見えている状態でないと発動しないなど、使いどころがちょっと難しい魔眼である。そのためスタングレネードで眼を閉じてしまうと能力が切れてしまったり、強化する量が2倍3倍くらいなら筋肉痛程度で済むが、強化し過ぎると寝たきりなどの意識不明や最悪の場合、過労で死ぬ可能性もある。
 俺は3倍強化の状態で少女の方に武器を構えて突っ込んでいく。
「……ッ!」
 少女は俺の強化されたスピードに一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに右手で抜いた銃で俺を牽制しようとしてきた。
 だが、俺は走りながらその向けられたDesertデザート Eagleイーグルよりも早く左手の銃で少女の銃本体をを撃ち落とすように銃弾を放つ。
 バン!!バンッ!!
 放たれた2発の銃弾がDesertデザート Eagleイーグルに命中し少女の手から落ちる。
「あっ!」
 Desertデザート Eagleイーグルは地面に落ちて、少女は短く悲鳴上げて右手を抑える。俺はその隙に少女との距離を詰めて接近戦インファイトに持ち込む。
「調子になるな!!」
 少女は左手に持っていた槍を両手に持ち替えて俺の右側に横薙ぎに振るう。左側なら義手で防いだりできたが、おそらく少女はさっきの義手による銃弾弾きを見て防御の薄い生身の右腕側を切り付けてきたのだろう。右手に持った村正改で少女の斬撃を受ける手段もあるのだが、強化状態の俺は敢えてそうせず突っ込んでいく。
「なッ!!」
 少女の斬撃を村正改を持った状態で右手の親指と人差し指、中指の3本で槍の刃を掴んで止める。
 通常の俺ならできない、3倍強化の状態ならではの荒業に少女は驚いて目を見開く。
 俺はその隙を見逃さず、素早く右足で中段の前蹴りを少女のみぞおち辺りに叩き込む。
「がはッツ!!」
 少女は槍を離さずにその場に膝を着く。
 交感神経の大量に走っているみぞおちは他の部位よりも痛覚が敏感な誰もが知っている人間の急所の1つ。そんなところに完璧な蹴りが入ったのだ、無理もない。
「勝負あり、だな」
「ま……だ……」
 俺は膝を着いて頭を下げた少女に上から声をかける。少女は顔をこちらに上げることなく、荒い息をしながら小さく言った。
「まだッ……!」
 少女は槍の半分より下の柄の部分を持って左手で捻るようにして手前に引く。
 すると、双頭槍が半分のところでしたのだ!
「ッツ!?」
 俺が持っていた槍の刃とは反対の刃を左手で逆手に持った少女はそのまま下段から上段にかけて切り上げた。
(こいつッ!あれだけの攻撃を食らってまだ動けるのかよッ!?)
 俺は不意の一発を上半身を無理矢理後ろに反らせながらギリギリのところで躱す。
「ぐはッ!!」
 槍は当たらなかったが、顎下にから激痛が走り、俺の顔が跳ね上げられる。少女は寸でのところで斬撃を躱した俺の顎に、片膝からのサマーソルトを繰り出し命中させる。右手で掴んでいた双頭槍の片方が手から落ちる。
(意識が……)
 予期せぬ一撃に俺の脳は揺れ、意識が飛びそうになる。
 青い空が目に映り、一瞬思考が真っ白になる。
 タッタッタッ!
 耳から何かが近づいてくる音が聞こえて八ツと我に返る。俺が2、3歩、後ずさったところに追撃しようと、少女は落ちた槍の片割れを拾って再び双頭槍に状態を戻して切りかかろうとしていた。
(すうぅぅ……はぁぁぁ……ッツ!!)
 心の中で深く呼吸をしながら右手の村正改を逆手に持ち、俺は能力で3倍に高めた力で渾身の斬撃を繰り出す。上段の少女の斬撃を受け止めるのではなくあえて俺の右側に受け流し、そのまま少女の左側に振り抜いた村正改を逆手から普通の持ち方に戻して少女の胴を狙った一閃を繰り出す。
月影つきかげ一刀流、一ノ型いちのかたッ!)
睦月むつきッ!!」
「クッ!きゃぁッ!!」
 少女は槍の柄の真ん中の部分でそれを弾こうとするが、俺の斬撃を受け止めきれずに小さく悲鳴をあげながら後ろに3m程吹っ飛ばされながら倒れる。
 月影つきかげ一刀流、こいつは俺が使っている剣術の1つで、そのうちの技の1つがこの一ノ型いちのかた睦月むつき」、逆手に持った刃で相手の攻撃を受け流しながら持ち替えた刃で相手の懐に高速カウンターを入れる技だ。
(これで……とどめッ!!)
 俺は倒れた少女にマウントを取ろうと走って近づこうとした瞬間、少女は倒れながら最後の抵抗で俺に向かって双頭槍を投げてきた。
「グッッ!!」
 俺は投擲された双頭槍を右手の村正改で弾いて少女に飛び掛かった。
「クッ!?離れなさいこの変態!!」
「誰が変態だ!暴れんな!!」
 俺は抵抗する少女の上に馬乗りになって反撃できないよう押さえつける。
 はたから見たら完全に少女を襲う変質者だが、命の危険がある中そんなことは言ってられない。
 とりあえず、小太刀を首に近づけて動けないようにした。
「降参しな、お前の負けだ」
「まだアタシは負けてないわ!!」
 往生際が悪いな……どんだけ負けず嫌いなんだよ。
 流石に今ここで少女を切りつけるつもりは無いのでなんとか説得しようと俺は試みる。
「別に俺はお前の命は取る気はない、だから諦めな」
「じゃあ、あんた私をどうするつもりよ?」
 どうするのって言われてもなぁ……と一瞬考えた表情を見せた俺に少女は。
「どうせアタシに…その……エッ…チ…なことするつもりなんでしょ…」
「へっ?」
 あまりにも突拍子もないことを言われて変な声が出てしまった。
「アタシは最初に負けた方が相手を好きにできるっていってあんたはそれを了承したじゃない…てことは、男の人はやっぱりそういうのが…し、し、したいんじゃないの?」
 少女は白い肌を真っ赤に染めながらとんでもないことを言ってきた。最初のそんな条件、聞いているようで全く聞いてなかったし、正直こいつは普通に強かったから、俺はこの少女を「女」という眼で見ていなかった。つーかこんな幼い子にそんなんことしたらそれこそ犯罪だろッ!
「するか!そ、そんなこと!!」
 俺は大声で反論した。
 まあ確かにぶっちゃけよく見ると見た目はめちゃくちゃかわいい。例えるならゲームの世界のキャラクターがそのまま出てきたような可憐な少女かな。しかも戦闘で汗ばんだせいで、少女の身体からは女性特有のフェロモンのような香りが鼻を刺激する。普通の男ならそういうことをするかもしれないが、俺はそ、そ、そ、そんなんじゃないし?こんなとこでそんなんするかッ!
「じゃ、じゃあ、負けたんだから俺の質問に答えて貰おうか?」
 動揺で若干噛みながら、なんで襲撃されたのか真実が知りたくて少女に聞いた。
 だが────
「嫌よ、私は負けたって思ってないから」
 ぷいっと少女は俺から顔を逸らす。
「あんまり往生際が悪いと怪我するぞ…」
 小太刀の刃の腹を少女の首筋に当てて脅す。
「あなたこそ、アタシにこんなことしてただで済むと思わない事ね」
 と強がってきたので本気でちょっと痛めつけるないとダメかな、と思った瞬間
 ザァン!!!!という音が少女の方から聞こえ、凄まじい痛みと衝撃が襲いかかった。
(ッッ?!)
 なん……だ?何が起こった……
 理解できないまま俺の意識が飛んだ。


(なんとかなったわね……)
 アタシは、この男と同じように隠していたあるを使ってマウントを取られた状態から脱出しようとしていた。だがこれをやるには2つ条件があり、1つは相手に触れていること、そしてもう1つは時間を稼ぐことが必要だった。
 片方は相手がマウントを取ってくれたおかげで大丈夫だったが、もう片方は喋りで時間を稼ぐことでなんとか能力使用の条件を整えた。
 そして────
 ザァン!!と大きな音を鳴らしながら力を解放する。
 マウントを取った状態で油断してくれたこともあり、なんとか相手を気絶させることができた。意識を失ったこの男を横にどかして服を払いながら立ち上がり「はぁ…」とため息をついた。
 アタシの能力はある事が原因で身体から電撃を放つことができる。
 ただ、まだ完全にこの能力を扱うことができず、力加減が難しいのだが、それでも電撃は電撃、流すことさえできれば簡単に相手を無力化できる。
(卑怯な手を使ってごめんなさい。私には負けるわけにいかない理由があるの)
 と心の中でアタシは謝って、男をある場所に連れていくため左手で男の身体に触れようとした瞬間…
 ガシッ!
 男に左手首を掴まれた。
「ッ!?」
(あれだけの電撃を与えたのにまだ意識があるの!?)
 引き離そうと空いてる右手を使って手首の拘束を逃れようとする。
 だが────
(なんて馬鹿力なの!?)
 右手の拘束から逃れることができない。
「このッ!!」
 アタシはまた能力を使うために右手に集中し力を込める。
(さっきよりも出力は低いけど、これなら────)
 ザァン!!と男の右手に電撃を流す。
(よし!!これで……)
 再び拘束から逃れるため、右手で掴まれた手を外そうとしたが……
「なッ!?」
 男の手は離れるどころかどんどん力が強くなっていく。
(このままだと腕を引きちぎられる……)
 苦悶の表情を浮かべ必死に抵抗するアタシは男の方を見る。
(わら……って……いる?)
 男はさっきまでの雰囲気とはまるで別人となっていた。レーザーのように光る紅い瞳などは変わっていないが、口角はつり上がり、アタシの手首を掴みながら男は笑っていたのだ。アタシが苦しむ表情を見ながら笑うさまはまさにそのものだった。
(このままじゃホントにヤバい…)
 腕を引きちぎられる前になんとか脱出しないと、そう思ったアタシは男の頭に右手を置いてさらに電撃を流す。だがそれでも男は拘束を止めない。
(でも、これならッ!!)
 男の後頭部に地面に落ちていた双頭槍の柄の部分が激突する。そう、アタシが頭に電撃を流した本当の狙いはこれだったのだ。電撃を発することで落ちている槍を電磁石の要領で手元まで引き寄せて男の頭にぶつけたのだ。
 流石にこれは効いたらしく、男はプツンと糸が切れたかのようにアタシの方に前のめりに倒れた。拘束も弱まったので、男の右手を外して自分の左手首を抑えながらも安堵の息をつく。
(今度こそ大丈夫よね……?)
 アタシは再び男の方を覗き込み様子を確認する。
 さっきのように動く様子もなく、男は完全に気絶しているのを確認してから、仲間を呼ぼうと無線に手を伸ばしたがすぐにやめる。
(そうだ、今日は能力使っちゃったから無線使えないんだった)
 アタシの電撃は、使うと近くにある電子機器をすぐにダメにしてしまうので普段はあまり使わないのだが、今回は使用せざる得ない状況まで追い込まれていたので仕方ない。とりあえずまた男を運ぶため、両手で掴んで引き摺りながら丘の下で待機してるであろう隊員達のところまで運ぶことにした。
(でも、さっきのあれはなんだったのかしら……?)
 男が見せた悪魔のような表情……あれは明らかに別人のものだった。
 上手く言えないが、まるで別の人格に乗ってられているようなそんな感じだったのだ。
(詳しい話しはまた後日聞くことにしましょう。)
 アタシは疲れから細かいことを考える気になれず、思考するのを止めて男を運ぶ。
 両足を持って運んでいると左肩の辺りから出血しているのか、男を引き摺った道には血痕がついていた。
(はぁ……)
 アタシは心の中でため息をつきながら、折角生け捕りにできたのに殺してしまわないよう、応急処置をするために男の左肩を見ようとする。
(ッッ!これは!?)
 アタシは唖然とした。左肩にはデカい傷があり、それを無理やり抑えこんでいたような処置しかしてなかったせいで、傷が大きく開いてそこから大量の血が溢れ出していた。傷口を抑えていた包帯は真っ赤に変色し、抑えきれなかった血は着ていたTシャツにまで染みてべちゃべちゃになっていた。
(この男、よくこんな状態で戦っていたわね……)
 フォルテ・S・エルフィー…手強い相手だったわね。
 アタシは改めてそう実感するのであった。
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