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Prologue
Prologue6
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「正体を隠していてごめんなさいね」
エリザベス3世は俺に頭を下げながら謝罪してきた。
「陛下が頭を下げただと?!」
「一体、あいつは何者なのだ?!」
後ろにいたセイナ以外の兵士達が、女王陛下の行動に驚いてざわざわとしている。
それもそのはず、イギリストップの人間が、誰だかよくわからない男に簡単に頭を下げたのだ、驚かないはずはない。
「おいおい、女王陛下が臣下の前で頭下げるもんじゃないぜ。頭を上げてくれよ」
俺は敵ではなく知り合いだと分かって悪魔の紅い瞳を解除しながらそう返す。
エリザベス3世、現イギリス女王陛下である彼女は、1年前に病気で亡くなられた女王陛下エリザベス2世に変わって即位したばかりの若い女王陛下で、訳あって俺は彼女とは何度も顔を合わせたことがある、俺の信頼できる数少ない人物である。
「いえ、これは私の失態でもあるのです。そしてあなたにお願いがあってここに連れて来ました」
女王陛下は頭を上げないで真剣な口調でそう続けてきた。
「お願いって……こんな手荒なことしないと頼めないお願いごとってなんだよ?電話でも伝えられたんじゃないか?」
「電話でも頼めたことでしたが……フォルテ、あなた昔から自分が面倒だと感じたことは絶対やってくれないじゃないですか!」
「そ、そんなことねえよ…ちょっと後回しにするくらいで……」
そこそこ長い付き合いなので俺の性格を知っているエリザベス3世が痛いところをついてきたので、俺は頬を右手で掻きながら目を逸らす。
「じゃあ前に頼んだアレはどうなっているのですか?」
「アレ?アレってなんかあったっけ?」
「はぁ……私が日本の和菓子を食べたいから送ってくれって言ってた話ですよ!忘れてるならもういいです、別に大したことじゃないですから」
エリザベス3世は腕組をしながら、プイッと俺から顔を背けて拗ねてみせた。
「あーそんなこと言ってたね…めん、忙しくて忘れてた」
「今、完全に面倒くさいって言いかけましたわよね?」
とっさに取り取り繕うとしてボロが出てしまった俺に、エリザベス3世は背けていた顔をこっちに戻して睨む。
ヤバい……面倒くさいスイッチ踏んだかも……
「ゴホンッ、フォルテ様、エリザベス様、そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」
だいぶ話しが脱線してしまったところで、エリザベス3世の横にいた執事のセバスチャンが軽く咳払いをしながらそう切り出してきた。よかった、危うく本題とは関係ない和菓子の文句を永遠と聞かされるところだったぜ。
ナイスフォローセバス……
「あっあぁ……すまないセバス。話しが脱線しちゃったな。で、なんでわざわざこんな回りくどいことをしたんだ?」
「その前にこちらの都合で申し訳ないのですが少々お待ちいただけますか?」
「?ああ、構わないが」
「失礼します」
セバスは右手を腰の横まで持っていきながら深く頭を下げてお辞儀したあと、後ろでまだ状況が理解出来ていない兵士たちの方に歩み寄って話しを始めた。
「兵士諸君、任務ご苦労。君たちに今回の任務について幾つか訂正と謝罪をしなければならない。ターゲットである彼は極悪非道の諜報員と言っていたがアレは嘘だ。本当は腕の立つ女王陛下の友人でね、君たちには内緒で実戦を想定した訓練という事で今回の作戦を決行してもらったのだ」
あれ?あれれ?俺の聞き間違いかな……なんかセバスさんなんかとんでもないこと言っている気がするんですけど…
「今回の任務はこれにて終了とする。セイナ大尉以外は全員装備を武器庫に返却後、君たち用に2階の1室を確保してある、指示があるまでそこで待機せよ」
「「「は!」」」
さっきまでざわざわしていた兵士達は、セバスの説明を聞いて納得したのか。落ち着きを取り戻して隊長であるセイナを除いて全員エレベーターでいなくなってしまった。
「ふう……さて、これでようやく本題に入れますね♪」
「ちょっと待ておい、さっきの説明はどういうことだ?」
一仕事終えたぜ☆みたいな感じで明るい表情をしながら軽く流そうとしたセバスの肩を、俺は右手で捕まえて左頬を引きつらせながら問いただす。
「まあまあ、そんなに怒らないで下さい。それも含めてこれから説明しますから」
セバスは両手で俺に抑えてのジェスチャーをしながら、さっきいた女王陛下の後ろまで戻り「では陛下、お願いします」とエリザベス3世に頭を下げながらお願いする。
「うん、ありがとうセバス」とエリザベス3世は返し、軽く咳払いをした後に今回の件について話し始めた。
「ゴホンッ、まず今回の件にあたって幾つかフォルテに知っていて貰いたいことがあります」
「知っていて貰いたいこと?」
「はい、まず1つは今回の任務に着いた部隊についてです。彼女達は第22SAS連隊の訓練小隊所属の4人によって構成されたチームです」
「SASの訓練小隊?」
第22SAS連隊、特殊空挺部隊とも言われるイギリス陸軍の特殊部隊の1つである。世界最初の特殊部隊とも言われるSASは、第二次世界大戦中に当時イギリス陸軍将校デビット・スターリング少佐の構想の元に作られ、ドイツとの戦争時の北アフリカ戦線やヨーロッパ西武戦線などで導入されてその有効性が証明された部隊である。
(なるほど、どうりで……)
俺自身、SASと関わったケースは少ないが、基本、国の特殊部隊をやっている連中ってのはバケモノ中のバケモノが集まっているということはよく知っている。
しかし、襲撃してきた部隊は、予想していたどこかの国の特殊部隊にしては全体的に弱く、セイナ以外はそこまで強くなかったところに俺は疑問を抱いていたのである。なるほど、訓練小隊だったという事でその疑問は解消された。
だが、それと同時に2つの疑問が生まれる。
まず1つは────
「なんで訓練小隊なんかよこしたんだ?本気で俺をここに連れてきたいならSASの本隊員に頼めばよかったんじゃないのか?」
電話で頼むとか他に方法があるだろというのはとりあえず置いといて、無理矢理ここに連れてくるにしても、訓練小隊を使う意図が分からなかった。
「はい、本来であればそうしていたでしょう…ただ今回はあなたへの頼み事以外に訓練小隊の実力いや、そこにいるセイナの実力を測るために私が頼んだ任務だったのです」
「実力?なんでまたそんなことを?」
「アタシがSASの本隊員になる為の試験として陛下が用意したのよ」
後ろで話しを聞いていたセイナが俺の横まで歩いてきてそう答える。
「本隊員?」
そうよ、日本にいるあなたを訓練小隊4人で生死を問わずに身柄を拘束できれば、アタシの本隊員加入を考えてくれると陛下が仰ったの」
えぇ……?無茶苦茶だろ女王陛下……
せめて俺に何か伝えてくれれば良かったのに……
任務の理由にため息が出そうだぜ。
「なんでまたそんな……他に幾らでも試験なんてあるだろ……」
俺は項垂れながらエリザベス3世に言う。
「本当の実力を測るにはこれが1番良いと思ったよ。あと、あなたにセイナの実力を見極めて欲しかったのよ」
ニコッと笑いながら言うエリザベス3世に呆れて思考停止しそうに一瞬なったが、なんとか気持ちを保ちつつ俺は2つ目の疑問を聞く。
「だいたい、なんでコイツは本隊員じゃないんだ?実力も充分あって階級も大尉なんだろ?充分SASの本隊員としてやれるんじゃないか?」
2つ目に疑問に思ったのはセイナがSASの本隊員ではなく訓練小隊であるということ。実際に戦ってみて訓練小隊の中では1人だけ群を抜いていたと思う。そして若いのに階級も大尉と高い。十分本隊員としてやっていける素質があると俺は感じた。
「……そうですか、フォルテがそう感じましたか……」
女王陛下は少し俯いて何か悩むような表情をしたあとゆっくりと答える。
「セイナは確かに実力はあります。問題なのは、他の隊員に比べて連携能力が低いのです」
「そ、そんなことありません!今回だって問題なく任務を遂行することができました。いい加減、アタシを本隊員として認めて下さい!女王陛下!」
言葉を選んで絞り出すように言った女王陛下の言葉を、俺の横で聞いていたセイナは右手で自分の胸に手を当て、身体が前のめりにさせながら食い気味に反論する。
そうまでしてどうして本隊員になりたいのだろうか……?
必死な少女に俺がそんなことを考えているとエリザベス3世は口を開いた。
「では、何故あなたはターゲットに対して一騎打ちを申し込んだのですか?」
「そ、それは仲間が人質に取られて仕方なく…」
「いいえ、あなたは自分の能力で仲間を巻き込まないために……遠ざけるためにそうしたのです。報告書をさっき見ましたが、この状況ならあなたが銃口を彼に向けた時点で既に優位にたっているのにも関わらず1対1を申し込んでいる。私ならターゲットの眼を隊員から逸らさせて3対1に持ち込めていたわ」
女王陛下は報告書からのセイナの行動についての問題点を説明しだした。無理そうなことを言っているようだが、理にかなっている内容にセイナは顔を伏せながら歯を食いしばって小さく反論した。
「ですが……それでは隊員にリスクが……」
あの時、セイナが一騎打ちを申し込んだ時に隊員達は俺に銃口を向けられていた。下手な行動をして隊員達が撃たれるリスクを取るより、そうした方が良いと恐らくセイナは思ったのだろう。
だが────
「そこよ、そこがあなたのダメなところよ」
女王陛下はその考えをばっさりと否定する。その素っ気ない否定のされ方に流石にセイナもイラッとしたのか、伏せていた顔を上げてキッと睨むように女王陛下を見てから
「では、私に隊員を見殺しにしろということですか?」
と、食ってかかった。すると座っていた女王陛下は立ち上がり、セイナの方をしっかりと見ながら口を開いた。
「そうじゃないわ、私はあなたに他の隊員をもっと信頼して欲しいと言っているのです。助けるだけが仲間じゃないのです。時には味方を信じて頼ることも大切なのです。銃を彼に向けた時、あなたは自分の失敗で仲間が死ぬことを恐れて仲間のリスクを取らずに自分のリスクだけを取ってしまった。そうしたくなる気持ちは分かります。でも、これから先は自分1人だけがリスクを取れば済むという世界ではないのです」
SASの本隊員になれば今まで以上に危険な現場で任務をする機会が増えてくるであろう。それをこなす為には確かに仲間との信頼関係は重要になってくる。
なるほどね……女王陛下はセイナにそれを分かって貰うために、今回の任務を本隊員ではなく、訓練小隊の4人で編成させたのだろう。本隊員であれば自分があまり意図していなくとも連携は取れてしまうだろし、訓練小隊であれば連携の質が高くなければ任務に失敗する可能性がある。それを踏まえてのセイナの行動力を見たかったのだろう。
(それでも俺がここに連れてこられた理由が分からないな……)
「お母さんはあまり戦場に行ったことないからそんな簡単に言えるんだ」
女王陛下の言葉に、隣にいたセイナは女王陛下と俺に聞き取れないか取れないぐらいの小さな声でぼそっと呟く。
ん?今なんて言ったんだ?お母さんって聞こえたけど誰が?
多分、戦闘+長距離移動の疲れと、ここ1年日本語で生活していて久々に聞いた英語を多分聞き間違えたんだなと勝手に解釈していると女王陛下が声を張り上げた。
「セイナ!今は親子の話しは関係ないです!私はあなたのことを思って指摘しているのです!」
へっ?…親子?誰と誰が?
「もう、結構です…どうせお母さんは国のことばっかでアタシなんて戦闘のお飾りにしか思ってないんですから。失礼させて頂きます」
えっ?えっ?ちょちょちょどういうこと?言っている意味が全然理解できないんだけど……
2人の会話に俺が混乱している中、セイナは軽く頭を下げて部屋を出ていってしまった。
「待ちなさい!まだ話しは終わってないわ!」
部屋を出ていったセイナに女王陛下は右手を伸ばしながら呼びかけたが、返事は帰ってこなかった。
「はあ…」
女王陛下は着ていたドレスをパサァと広げながら後ろの椅子に倒れるように座ってため息をついた。
「ごめんなさいねフォルテ、見苦しいとこを見せたわね…」
状況が全然理解できてなくてポケーとしていた俺に女王陛下はまた頭を下げてきた。
「あっああ……それはいいんだけどさ……」
俺は今の会話内容を確かめるべく恐る恐る聞いた。
「親子ってどういうこと?」
すると女王陛下はキョトンとした顔をして耳を疑うようなとんでもないことを口にした。
「あら、てっきりあの子から聞いていると思っていたんだけど、まだ知らなかったのね。セイナは私の娘よ」
え?
ええええええええええええええええええええ!!
エリザベス3世は俺に頭を下げながら謝罪してきた。
「陛下が頭を下げただと?!」
「一体、あいつは何者なのだ?!」
後ろにいたセイナ以外の兵士達が、女王陛下の行動に驚いてざわざわとしている。
それもそのはず、イギリストップの人間が、誰だかよくわからない男に簡単に頭を下げたのだ、驚かないはずはない。
「おいおい、女王陛下が臣下の前で頭下げるもんじゃないぜ。頭を上げてくれよ」
俺は敵ではなく知り合いだと分かって悪魔の紅い瞳を解除しながらそう返す。
エリザベス3世、現イギリス女王陛下である彼女は、1年前に病気で亡くなられた女王陛下エリザベス2世に変わって即位したばかりの若い女王陛下で、訳あって俺は彼女とは何度も顔を合わせたことがある、俺の信頼できる数少ない人物である。
「いえ、これは私の失態でもあるのです。そしてあなたにお願いがあってここに連れて来ました」
女王陛下は頭を上げないで真剣な口調でそう続けてきた。
「お願いって……こんな手荒なことしないと頼めないお願いごとってなんだよ?電話でも伝えられたんじゃないか?」
「電話でも頼めたことでしたが……フォルテ、あなた昔から自分が面倒だと感じたことは絶対やってくれないじゃないですか!」
「そ、そんなことねえよ…ちょっと後回しにするくらいで……」
そこそこ長い付き合いなので俺の性格を知っているエリザベス3世が痛いところをついてきたので、俺は頬を右手で掻きながら目を逸らす。
「じゃあ前に頼んだアレはどうなっているのですか?」
「アレ?アレってなんかあったっけ?」
「はぁ……私が日本の和菓子を食べたいから送ってくれって言ってた話ですよ!忘れてるならもういいです、別に大したことじゃないですから」
エリザベス3世は腕組をしながら、プイッと俺から顔を背けて拗ねてみせた。
「あーそんなこと言ってたね…めん、忙しくて忘れてた」
「今、完全に面倒くさいって言いかけましたわよね?」
とっさに取り取り繕うとしてボロが出てしまった俺に、エリザベス3世は背けていた顔をこっちに戻して睨む。
ヤバい……面倒くさいスイッチ踏んだかも……
「ゴホンッ、フォルテ様、エリザベス様、そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」
だいぶ話しが脱線してしまったところで、エリザベス3世の横にいた執事のセバスチャンが軽く咳払いをしながらそう切り出してきた。よかった、危うく本題とは関係ない和菓子の文句を永遠と聞かされるところだったぜ。
ナイスフォローセバス……
「あっあぁ……すまないセバス。話しが脱線しちゃったな。で、なんでわざわざこんな回りくどいことをしたんだ?」
「その前にこちらの都合で申し訳ないのですが少々お待ちいただけますか?」
「?ああ、構わないが」
「失礼します」
セバスは右手を腰の横まで持っていきながら深く頭を下げてお辞儀したあと、後ろでまだ状況が理解出来ていない兵士たちの方に歩み寄って話しを始めた。
「兵士諸君、任務ご苦労。君たちに今回の任務について幾つか訂正と謝罪をしなければならない。ターゲットである彼は極悪非道の諜報員と言っていたがアレは嘘だ。本当は腕の立つ女王陛下の友人でね、君たちには内緒で実戦を想定した訓練という事で今回の作戦を決行してもらったのだ」
あれ?あれれ?俺の聞き間違いかな……なんかセバスさんなんかとんでもないこと言っている気がするんですけど…
「今回の任務はこれにて終了とする。セイナ大尉以外は全員装備を武器庫に返却後、君たち用に2階の1室を確保してある、指示があるまでそこで待機せよ」
「「「は!」」」
さっきまでざわざわしていた兵士達は、セバスの説明を聞いて納得したのか。落ち着きを取り戻して隊長であるセイナを除いて全員エレベーターでいなくなってしまった。
「ふう……さて、これでようやく本題に入れますね♪」
「ちょっと待ておい、さっきの説明はどういうことだ?」
一仕事終えたぜ☆みたいな感じで明るい表情をしながら軽く流そうとしたセバスの肩を、俺は右手で捕まえて左頬を引きつらせながら問いただす。
「まあまあ、そんなに怒らないで下さい。それも含めてこれから説明しますから」
セバスは両手で俺に抑えてのジェスチャーをしながら、さっきいた女王陛下の後ろまで戻り「では陛下、お願いします」とエリザベス3世に頭を下げながらお願いする。
「うん、ありがとうセバス」とエリザベス3世は返し、軽く咳払いをした後に今回の件について話し始めた。
「ゴホンッ、まず今回の件にあたって幾つかフォルテに知っていて貰いたいことがあります」
「知っていて貰いたいこと?」
「はい、まず1つは今回の任務に着いた部隊についてです。彼女達は第22SAS連隊の訓練小隊所属の4人によって構成されたチームです」
「SASの訓練小隊?」
第22SAS連隊、特殊空挺部隊とも言われるイギリス陸軍の特殊部隊の1つである。世界最初の特殊部隊とも言われるSASは、第二次世界大戦中に当時イギリス陸軍将校デビット・スターリング少佐の構想の元に作られ、ドイツとの戦争時の北アフリカ戦線やヨーロッパ西武戦線などで導入されてその有効性が証明された部隊である。
(なるほど、どうりで……)
俺自身、SASと関わったケースは少ないが、基本、国の特殊部隊をやっている連中ってのはバケモノ中のバケモノが集まっているということはよく知っている。
しかし、襲撃してきた部隊は、予想していたどこかの国の特殊部隊にしては全体的に弱く、セイナ以外はそこまで強くなかったところに俺は疑問を抱いていたのである。なるほど、訓練小隊だったという事でその疑問は解消された。
だが、それと同時に2つの疑問が生まれる。
まず1つは────
「なんで訓練小隊なんかよこしたんだ?本気で俺をここに連れてきたいならSASの本隊員に頼めばよかったんじゃないのか?」
電話で頼むとか他に方法があるだろというのはとりあえず置いといて、無理矢理ここに連れてくるにしても、訓練小隊を使う意図が分からなかった。
「はい、本来であればそうしていたでしょう…ただ今回はあなたへの頼み事以外に訓練小隊の実力いや、そこにいるセイナの実力を測るために私が頼んだ任務だったのです」
「実力?なんでまたそんなことを?」
「アタシがSASの本隊員になる為の試験として陛下が用意したのよ」
後ろで話しを聞いていたセイナが俺の横まで歩いてきてそう答える。
「本隊員?」
そうよ、日本にいるあなたを訓練小隊4人で生死を問わずに身柄を拘束できれば、アタシの本隊員加入を考えてくれると陛下が仰ったの」
えぇ……?無茶苦茶だろ女王陛下……
せめて俺に何か伝えてくれれば良かったのに……
任務の理由にため息が出そうだぜ。
「なんでまたそんな……他に幾らでも試験なんてあるだろ……」
俺は項垂れながらエリザベス3世に言う。
「本当の実力を測るにはこれが1番良いと思ったよ。あと、あなたにセイナの実力を見極めて欲しかったのよ」
ニコッと笑いながら言うエリザベス3世に呆れて思考停止しそうに一瞬なったが、なんとか気持ちを保ちつつ俺は2つ目の疑問を聞く。
「だいたい、なんでコイツは本隊員じゃないんだ?実力も充分あって階級も大尉なんだろ?充分SASの本隊員としてやれるんじゃないか?」
2つ目に疑問に思ったのはセイナがSASの本隊員ではなく訓練小隊であるということ。実際に戦ってみて訓練小隊の中では1人だけ群を抜いていたと思う。そして若いのに階級も大尉と高い。十分本隊員としてやっていける素質があると俺は感じた。
「……そうですか、フォルテがそう感じましたか……」
女王陛下は少し俯いて何か悩むような表情をしたあとゆっくりと答える。
「セイナは確かに実力はあります。問題なのは、他の隊員に比べて連携能力が低いのです」
「そ、そんなことありません!今回だって問題なく任務を遂行することができました。いい加減、アタシを本隊員として認めて下さい!女王陛下!」
言葉を選んで絞り出すように言った女王陛下の言葉を、俺の横で聞いていたセイナは右手で自分の胸に手を当て、身体が前のめりにさせながら食い気味に反論する。
そうまでしてどうして本隊員になりたいのだろうか……?
必死な少女に俺がそんなことを考えているとエリザベス3世は口を開いた。
「では、何故あなたはターゲットに対して一騎打ちを申し込んだのですか?」
「そ、それは仲間が人質に取られて仕方なく…」
「いいえ、あなたは自分の能力で仲間を巻き込まないために……遠ざけるためにそうしたのです。報告書をさっき見ましたが、この状況ならあなたが銃口を彼に向けた時点で既に優位にたっているのにも関わらず1対1を申し込んでいる。私ならターゲットの眼を隊員から逸らさせて3対1に持ち込めていたわ」
女王陛下は報告書からのセイナの行動についての問題点を説明しだした。無理そうなことを言っているようだが、理にかなっている内容にセイナは顔を伏せながら歯を食いしばって小さく反論した。
「ですが……それでは隊員にリスクが……」
あの時、セイナが一騎打ちを申し込んだ時に隊員達は俺に銃口を向けられていた。下手な行動をして隊員達が撃たれるリスクを取るより、そうした方が良いと恐らくセイナは思ったのだろう。
だが────
「そこよ、そこがあなたのダメなところよ」
女王陛下はその考えをばっさりと否定する。その素っ気ない否定のされ方に流石にセイナもイラッとしたのか、伏せていた顔を上げてキッと睨むように女王陛下を見てから
「では、私に隊員を見殺しにしろということですか?」
と、食ってかかった。すると座っていた女王陛下は立ち上がり、セイナの方をしっかりと見ながら口を開いた。
「そうじゃないわ、私はあなたに他の隊員をもっと信頼して欲しいと言っているのです。助けるだけが仲間じゃないのです。時には味方を信じて頼ることも大切なのです。銃を彼に向けた時、あなたは自分の失敗で仲間が死ぬことを恐れて仲間のリスクを取らずに自分のリスクだけを取ってしまった。そうしたくなる気持ちは分かります。でも、これから先は自分1人だけがリスクを取れば済むという世界ではないのです」
SASの本隊員になれば今まで以上に危険な現場で任務をする機会が増えてくるであろう。それをこなす為には確かに仲間との信頼関係は重要になってくる。
なるほどね……女王陛下はセイナにそれを分かって貰うために、今回の任務を本隊員ではなく、訓練小隊の4人で編成させたのだろう。本隊員であれば自分があまり意図していなくとも連携は取れてしまうだろし、訓練小隊であれば連携の質が高くなければ任務に失敗する可能性がある。それを踏まえてのセイナの行動力を見たかったのだろう。
(それでも俺がここに連れてこられた理由が分からないな……)
「お母さんはあまり戦場に行ったことないからそんな簡単に言えるんだ」
女王陛下の言葉に、隣にいたセイナは女王陛下と俺に聞き取れないか取れないぐらいの小さな声でぼそっと呟く。
ん?今なんて言ったんだ?お母さんって聞こえたけど誰が?
多分、戦闘+長距離移動の疲れと、ここ1年日本語で生活していて久々に聞いた英語を多分聞き間違えたんだなと勝手に解釈していると女王陛下が声を張り上げた。
「セイナ!今は親子の話しは関係ないです!私はあなたのことを思って指摘しているのです!」
へっ?…親子?誰と誰が?
「もう、結構です…どうせお母さんは国のことばっかでアタシなんて戦闘のお飾りにしか思ってないんですから。失礼させて頂きます」
えっ?えっ?ちょちょちょどういうこと?言っている意味が全然理解できないんだけど……
2人の会話に俺が混乱している中、セイナは軽く頭を下げて部屋を出ていってしまった。
「待ちなさい!まだ話しは終わってないわ!」
部屋を出ていったセイナに女王陛下は右手を伸ばしながら呼びかけたが、返事は帰ってこなかった。
「はあ…」
女王陛下は着ていたドレスをパサァと広げながら後ろの椅子に倒れるように座ってため息をついた。
「ごめんなさいねフォルテ、見苦しいとこを見せたわね…」
状況が全然理解できてなくてポケーとしていた俺に女王陛下はまた頭を下げてきた。
「あっああ……それはいいんだけどさ……」
俺は今の会話内容を確かめるべく恐る恐る聞いた。
「親子ってどういうこと?」
すると女王陛下はキョトンとした顔をして耳を疑うようなとんでもないことを口にした。
「あら、てっきりあの子から聞いていると思っていたんだけど、まだ知らなかったのね。セイナは私の娘よ」
え?
ええええええええええええええええええええ!!
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