SEVEN TRIGGER

匿名BB

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紫電の王《バイオレットブリッツ》

紫電の王《バイオレットブリッツ》31

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「フォルテッ!?しっかりしなさい!!」
 腕の中で糸の切れた人形のようにフォルテの身体がもたれかかってきた。
 まずいわね……
 アタシは意識の途切れたフォルテを手当てしながら内心で舌打ちした。
 全身傷だらけの重体。その中でも防刃性を持っていたロングコートごと貫かれた右肩と交錯時にやられた右の脇腹からの出血が酷かった。
 心臓の音も小さい、フォルテは最早虫の息だった。
 今は傷口を無理矢理包帯で抑えてはいるけど────
 足りない、医療器具が足らなすぎる…
 そもそもアタシは衛生兵ではない。
 こんな重度の負傷兵を直せるほど知識も技術も持ち合わせていない。
 ここは廃工場、辺りを見渡しても医療器具になりそうなものは何一つない。
 今から担いで港町の医者に連れて行ったところでおそらく間に合わないだろう。
 どうしたらいいのか…?
 Excellent Medicine Lightning Spead.電光石火こそ最良の医療
 訓練で習ったTEMS事態対処医療にある Tactical Medicine Essentials のモットーである言葉を思い出したアタシは履いていたコンバットブーツとニーソックスを太腿からずらして脱いだ。
 片方のニーソックスを腹部に巻き付けた包帯とロングコートの上から巻き付けて固定し、右肩もリレー選手のタスキのような形で腹部と同じように巻き付けた。
 衛生面が心配だけど、包帯とコートの上からなら大丈夫よね…?
 即席の止血帯で傷を抑えたアタシは。
「よし…!」
 再びコンバットブーツを履きなおしてフォルテを担ごうとした。
「クッ!」
 重さで身体が少しぐらついた。
 身長差でどうしてもフォルテの足を引きづってしまうがこればかりは我慢してもらうしかない。
 本当は今すぐベルゼを捕まえて神器のことや情報を吐かせたいところだが今は仕方ない。
 そんなことはあとでいくらでもできる。今はそんなことより────
「アタシは、諦めないわよ、フォルテ……あなたが最後まで、諦めなかったようにッ!」
 一歩一歩を踏みしめながらゆっくりと歩き出したアタシが廃工場の出口に向かって歩き出した。

「どこに……行くつもりだ……?」

 アタシはその声に驚いてフォルテを落としそうになってしまったが、直ぐに態勢を立て直してからその声の主の方を見た。
 そこにはフォルテと同じくらいズタボロになったベルゼが廃材に身を預けた姿勢で天井を眺めたままこちらに声を掛けていた。
「病院よ!一刻も早くフォルテを助けるために…」
「そんな重症の奴をか?」
「そうよ!」
「ヨルムンガンドや神器の情報を手に入れる絶好のチャンスをだぞ?」
「それよりも、アタシ救ってくれたフォルテの命の方が大切だわ」
「パートナーでもないのに?」
「そんなこと関係ないわ、それに今は時間が惜しいの、アンタとここで無駄話をしている暇はないわ。精々そこで大人しく待っていなさい!」
 正直言ってそれは無理な話しだろう。フォルテの治療が奇跡的に間に合ったとして、それからここに戻ってきたとしても多分その時にはベルゼは逃げ出しているだろう。
 でも、そんなこと今はどうでもいい。
 早く、早く病院に連れて行かないと…
 そう思ってフォルテがさっき切り裂いた廃工場の扉の前まで来たところで────
「待ちな……」
 ベルゼが再び声を掛けてきてから何かを地面に這わせながらこっちに投げてきた。
「これは?」
 一瞬爆弾か何かかと思って身構えたが、軽いプラスチックのような音を立てながら転がってきたのは手榴弾ではなく眼鏡ケース程のサイズのプラスチック容器に入った医療用の注射器3本だった。
「持ってきな、俺様専用のブースタードラッグとダウンドラッグ、あとエピネフリンだ。ブースタードラッグの中身は今更聞くんじゃねーぞ、それを抑えるためのダウンだからな。エピネフリンは心臓が止まった時に適当に打て、上手くやれば病院まで持つだろう。あと、そいつを治療したら必ず月の光が当たる場所で寝かしておけ、そうすれば傷の治りも早いだろう」
「……」
「おいおい、今更ウソなんざ言わねーよ。まあ間違ってダウンなんて打ったら一発で心臓が止まるけどな」
 疑いの目でプラスチックケースを見ていたアタシにベルゼはケラケラと笑いながらそう答えた。
 その力のない笑いはさっきのような邪悪や不気味さはすっかり薄れ、フォルテと同じで病院の末期患者のように静かなものだった。
「アンタがそこまでする理由が分からないわ……それになんでこれを使わなかったの?」
 アタシの質問にベルゼは天井を見上げたまま一呼吸置いてから。
「俺はフォルテに負けたからよ…勝った奴が負けた奴の前で死ぬってのは寝覚めが悪い。そいつを戦闘中に仮に使ってもいたとしても差して戦況は変わらなかっただろうしな、それに今使ったところで俺はお嬢ちゃんに勝てねーよ。奥の手を出して勝てなかったんだ、完全に電池切れだよ俺は…」
 アタシは天井を見上げたままのベルゼの方を見た。
 どうやら嘘を言っているようではないみたいね…
 迷っている暇は無いと思い、アタシは担いでいたフォルテを地面に寝かせてからプラスチックケースを拾い、中から一本のブースタードラッグを右腕に打ち込んだ。
 目覚めはしなかったが、フォルテの心臓の辺りに耳を押し当ててアタシが音を聞くと、さっきよりも心臓の鼓動が大きくなっていることを感じて少しだけ安心した。
「礼は言わないわよ」
「礼なんかいらねーよ」
 背を向けたベルゼにアタシがそう言ってから再びフォルテを抱えようとしているとベルゼは思い出したように呟いた。
「あとそうだった、コイツを渡さねーとな」
 そう言ってライダースジャケットのポケットから一本の茶色の細い帯を取り出した。
 それを見たアタシは目を見開いた。あれはアタシも知っている。
「それは、メギンギョルズッ!?」
「ああ、コイツを約束通り渡さねーとな…」
 雷神トールが使っていたという神器、数か月間前にはバッキンガム宮殿に保管されていた神器の一つだ。
 電話でベルゼがこの神器を持っていると聞いてアタシは最初ここに取りに来たことを思い出し、差し出してきたそれを受取ろうとした。その瞬間。

 カラン―――カラン────

「ッ!?」
 割れた廃工場の窓、丁度ベルゼが寄りかかっていた廃材の上から二つのスモークグレネードが投げ込まれた。致死性の無いその煙がベルゼの姿を隠したあとに三つの気配が割れた窓から侵入してくるのをアタシは察知した。
「よしッ!アニキは確保した!ケルベルスクローもあるぞ!」
「じゃあ、さっさとずらかるぞ!」
「車も回してあるッ!早くしろ!」
「ま、まてお前らッ!?」
 この声は、名前は忘れたけどベルゼの三人の部下の声だ…!
 どうやらベルゼを連れて逃げるらしい。
「ま、待ちなさいッ!」
 アタシは少し集中してから神の加護を発動させて右手にグングニルを引き寄せた。
 恐らく三人の部下の誰かが持っていたのだろう。煙の向こうから飛んできたグングニルを素手でキャッチしたアタシは胸の前で構えた。
「あッ!?神器取られちまったぞ!?」
「今は仕方ない!それよりもアニキの方が大切だ!」
「バカ野郎下ろしやがれ!俺様に恥をかかせるつもりか!?」
 ノッポとチビのやり取りにベルゼが怒鳴る声が聞こえてくる煙の中にアタシは突っ込んでいった。
「はぁ!!」
 横なぎに一閃したグングニルが辺りの煙を吹き飛ばしたが。
 逃げられた……!
 四人の姿は何処にも無かった。
 当たり前だけど、メギンギョルズもそこには無かった。
 唇を少し噛んだアタシを廃工場に残して、夜中の静寂をかき乱すようなけたたましいエンジン音が山道を下っていく音だけが耳に届いていた。
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